83 五大極性魔法
ギルは、目を閉じた。
その時、
「なに死にそうな顔してんだよ」
「アッ、アレンさん!」
「ギル、お前も空を飛びたいだろ?」
「えっ?」
アレンはギルの腕をつかみ、そのまま島へ向け放り投げた。
「うわぁー!」
しかし、もう酸の波がギルとアレンの頭上にあった。
ギルは酸の波頭を突き抜けて、島へ飛んだ。
ギルを投げた直後、アレンは酸の波に飲み込まれた。
ザバーーン!
「アレン!」
バシュー!
なんと、酸の水からアレンが水しぶきを上げながら飛び出してきた!
一瞬で石の道を駆け抜け、ジャンプしたアレンは白い煙をまといながら島へ転がり落ちた!
ガハッ!
転がりながら岩の壁にぶつかり、ようやく止まったアレンは全身煙に包まれている!
サリヤはすぐに駆け寄り、アレンを回復させた。
その時、煙を上げながらギルが落下してきた。
アクロスは、サリヤの時と同じようにギルを受け止めた。
ギルは煙に包まれながら気を失っている。
「アレンの横に並べて!」
「わかった!」
アクロスは、意識の無いギルをアレンの横に並べた。
緑の光が二人を包んだ。
「うっ、」
アレンは目を開けた。
「思い切ったことをしたな、アレン」
「足がまともだったら、あんたも俺と同じことをしたんじゃねえのか?」
「フッ、お前といっしょにするなよ」
アレンは横にいるギルを見た。
まだ意識は戻っていないが、酸による火傷のキズは全くなかった。
「サリヤ、やっぱりお前は凄いよ。ありがとな」
サリヤは、微笑んで頷いた。
ハザードとダザーは、島から緑色の光が放たれているのを見ていた。
「族長、あの光は一体・・・」
「奴らに聖女がいることを忘れていたよ」
二つの月は横に並びながら、仲良く光を放っていた。
湖は元の姿に戻り、静かに小さな波を送り出している。
「しかし、あの状況で湖に飛び込むとは・・・あいつ、底なしのバカだな」
ダザーは、苦笑しているハザードを見ていた。
「奴らはこの水が、酸だと知っていたのでしょうか?」
「ダザー、湖の水が二つに割れるという異次元の状況で、お前は湖に飛び込めるか?」
「そっ、それは、」
「普通は躊躇するもんだよ。その先に何があるかもわからないのにさ」
「おっしゃる通りです」
「だが、あいつは即行動にでた。フフフ、これは笑うしかないよ」
「しかし、なぜ足が溶けずに走りきれたのでしょうか?」
「聖女が回復させながら走ったからさ」
「回復?走っている足をですか?しかも、二人いるのに・・・」
「そう、人間技じゃない」
島を見ていたハザードは、くるりと反転して歩き始めた。
「全速で走っている足を、次に着地するまでの極短時間で回復させる。しかも二人同時に・・・これを神技と言わずに何というのだ」
ダザーは、思わず息を飲んだ。
(アレンが降参したあのタイミングで、神の島への道が開いた・・・
神は我らではなく、アレンを選んだというのか・・・)
ダザーが改めて島を見た時には、もう緑の光は見えなくなっていた。
「あいつがドラゴンオーブを手にし、眠り姫を目覚めさしたとき、この世界は終わるな」
「では我らは、いや全大陸の人間は死を待つのみですか」
「それはどうかな、」
「と、言いいますと?」
「そう簡単にドラゴンオーブが手に入ると思うか?」
ハザードは立ち止まり、島を見た。
「あの神の島には、おそらく最後の試練が待っているはずだ」
「あんたの作戦とやらは、失敗に終わったようだね」
オーベルは、大きな声で叫んだ。
「ざまーないよ、」
「黙れ!」
ダザーは、ナイフをオーベルの首筋にあてた。
「やめろ、ダザー」
ダザーはナイフを降ろし、跪いた。
「ふん、どうしたのさ。さっさと殺しとくれよ」
「あなたの言う通り、我らの作戦は失敗に終わった。もはや、あなたに何の価値もない」
「そうかい。あたしは、幽霊になってあんたに憑りついてやるよ。死んだ奴らの怨念も合わせてね」
ハザードは、森に向かって叫んだ。
「皆の者、引き上げだ!」
「はっ!」
森から一斉に声があがり、ハザード達は撤収作業に入った。
「どうした、あたしを殺さないのか?」
「俺は無駄なことはしない主義でね」
ハザードは、近くにいる男に目で合図した。
「あたしを生かしたことを後悔させてやる!覚悟しとくんだね!」
オーベルは縄で縛られたまま、叫び声と共に森の中へ連れていかれた。
撤収作業が進む傍ら、ハザードは島を見ていた。
湖面は、キラキラと月明かりを反射している。
(アレン、お前の言うように人間は身勝手かも知れん。
だが、それもまた人間だ。
もし、神が我らを滅ぼすと言うのなら、
我らは神と戦うだろう。
見ていろ、一族の叡智を結集させ、必ず神器を超えてみせる・・・)
「撤収作業、完了しました」
「よし、船へ向けて出発だ」
「はっ!」
一族の精鋭部隊と共に、ハザードは月明かりの森に消えた。
「うっ、」
「おっ、気が付いたか、ギル」
「アレンさん・・・もしかして、ここは天国ですか?」
「残念ながら、そうじゃねえみたいだぜ」
アクロスは、気が付いたギルの顔を覗き込んだ。
「ギル、ここは酸に囲まれた地獄だよ」
ギョっとしたギルは、起き上がり周りを見渡した。
「ここは神の島?そうか、僕はアレンさんに投げられて・・・」
「そうさ、ギル。来たんだよ俺達、神の島にな」
「神の島・・・神の島!やったぁー!」
そう叫び、両手を突き上げて立ち上がったギルから、下半身にかけてあった布がヒラリと落ちた。
「ちょ、ちょっとギル、」
思わず顔をそらしたサリヤ。
「うわぁ!」
ギルは、あわてて両手で前を隠した。
「はっ、裸・・・」
「がっはっは!」
アレンは大笑いをした。
「こっ、これって、もしかして酸で・・・」
「そうだ。アレンが投げてお前が島に落ちてきたときは、ほとんど何も身に着けてなかったぞ」
ギルの顔は、真っ赤になった。
「心配すんな!俺も裸だぜ、わっはっは」
「アッ、アレンさん。そういう問題じゃ・・・」
その時、
「しっ!」
アレンは口の前に人差し指を立て、前方の島の暗がりに意識を集中させた。
アクロスは既に斧に手をかけている。
サリヤは、アレンに剣を渡した。
「俺達以外ってことは、この島に初めからいたってことか?」
「そうなるな・・・」
「サリヤさん、僕にも杖を!」
「わかった」
ガサ、ガサ
暗がりの草むらが揺れた。
アレンは剣の柄に手をかける。
月明かりに照らされ、現れたのは白い顎鬚を長く伸ばした老人だった。
「ついに来たのか。選ばれし者達よ」
「誰だ、あんたは」
「なんじゃ、酸にやられて裸ではないか」
老人はチラリとサリヤを見た。
「ふむー、お前さんが聖女か、」
老人は少しため息をついて、右手に持った杖を振った。
途端にアレンは皮の鎧に、ギルは法衣に包まれた。
「靴はサービスじゃ、」
アレンは立ち上がり、老人の前に出た。
老人の左手には、本があった。
「あんた、もしかして5人の賢者か」
「いかにも。わしは5賢者が一人、天空のパラジ」
「天空!」
ギルも立ち上がり、アレンに並んだ。
「では、その手にあるのは、天空の古文書ですか」
「そうじゃ」
アクロス、サリヤも立ち上がった。
「ここは神の島なんだろ?」
「うむ、」
「だったら、もう古文書はいらねえぜ」
「フフフッ」
パラジは軽く笑うと、右手にある岩の方を見た。
「お前さんらの求めておるドラゴンオーブは、あの岩の洞窟を抜けた先にある」
「そうか、じゃ遠慮なくいただくとしよう」
アレンは、歩き出そうとした。
「待て、」
パラジは、アレンの前に右手に持つ杖を突きだした。
「なんだ、邪魔する気か?」
「ここから先へ行けるのは、一人だけだ」
「なに?」
「この先にある岩の入り口は、一人中に入ると閉まる仕掛けになっておる」
「そうか。だが、そんなの関係ねえな。閉まるまでに全員入ればいいだけのことさ」
「構わぬぞ。そうすれば、ドラゴンオーブの道は閉ざされ、一生手に入らなくなるだけのこと」
「なんだと、」
「さあ、どうする。ズルして4人入るのか、それとも誰か一人選ぶのか」
「賢者様、」
ギルが、パラジに言った。
「この岩を抜けた先で、ドラゴンオーブ以外に何かあるのですか?」
「それは、入った者しかわからぬ」
「・・・」
「わしが言えるのは、ここには一人しか入れぬということだけだ」
アレンは後ろを向いた。
「決めるまでもねえな。行くのは俺だ」
「アレンさん、何があるかわかりませんよ!」
アレンは、ギルの肩をポンと叩いた。
「何かあるとすれば、これが最後の戦いだろう?俺が行かないでどうすんだよ」
「そっ、それは・・・」
「アクロス、後は頼んだぞ」
「わかった。アレン、気をつけてな」
「任せてくれ」
「アレン!」
サリヤは、アレンに抱きついた。
「行っちゃダメだよ!」
「何言ってんだ、サリヤ。行くのは俺しかいねえって、」
「わかってる!そんな事わかってる!・・・けど・・・なんだか嫌な予感がするの」
「お前はいつも心配性だな」
サリヤは抱き着いたまま、離れようとしなかった。
アレンは、サリヤの肩を持った。
アレンを見上げたサリヤの頬には、一筋の涙が流れている。
「アレンだけを行かせたくないよ」
「サリヤ、俺を信じろって。必ず戻ってくるから」
サリヤは、返事をせずに下を向いた。
「じいさん、ここに入るのは俺だ。それでいいな」
「・・・よかろう。では、進むがよい」
「じゃな、サクっとドラゴンオーブ取って戻ってくるぜ」
アレンは剣を背負い、片手を上げながら岩の中に入った。
ズズズー、ドシーーン
アレンが中に入ると、岩の扉が砂をこすりながら閉じた。
3人は閉じた岩を見つめながら、動こうとしなかった。
パラジは、ギルの横に並んだ。
「お前さん、魔導を誰に習った?」
「えっ、ああ、マーラー様ですけど、」
「ふむ、あやつか。なるほど、あやつめ、良い弟子を持ったのお」
「賢者様もマーラー様をご存じなのですか!」
「持っていけ」
パラジは、古文書をギルに突き出した。
「これを渡す日が来るとはな、」
「それを受け取ると、賢者様は消えてしまうのではありませんか?」
「わしも仲間のいる所に行かねばならんのだ」
「賢者様・・・」
「さあ、受け取れ」
「受け取れません。それに、さっきアレンさんも言ってましたが、もう僕達には必要ありませんよ」
「マーラーの弟子よ。これは、ただの古文書ではない。この本には、わしが付け加えた記述がある」
「記述?何についてですか?」
「五大極性魔法の奥義だ」
「なっ、なんですって!!」
ギルのあまりの大きな声に、サリヤとアクロスはギルの方を見た。
「ごっ、五大極性魔法って・・・あの禁忌中の禁忌魔法・・・実在したんだ・・・」
パラジは頷いた。
「詳しいことは言えんが、そのお陰でわしはこの島に幽閉されてしもうたのだ。ワッハッハッ」
パラジは笑うと、ギルに古文書を無理やり押し付けた。
ギルは思わず受け取ってしまった。
「その魔法は、魔法の中でも伝説の存在。究極にして超極大の破壊力。それがゆえ、誰も扱えぬのだ」
ギルは、思わず生唾を飲んだ。
「美しく気高く、そして力強く。誰も手が触れられない女王のような魔法の存在を、わしは知ってしまった」
パラジは暗い夜空を見上げ、微笑んだ。
「このまま埋もれさせておくことなど、わしには到底出来なんだ」
ギルはパラジの気持ちが、わかる気がした。
パラジは急に真剣な顔付になった。
「じゃが、決して使ってはならぬぞ。この魔法の存在だけを、お前が信頼できるただ一人の者に伝えてくれ」
「どうして、使っちゃだめなんですか?」
「読めばわかる。頼んだぞ、マーラーの若き弟子よ」
「あっ、待って、賢者様、」
パラジは現れた芝生の中へ戻り、やがて見えなくなった。
「あれが、最後の賢者か」
「ええ。もう二度と会うことは無いでしょうね」
ギルは、賢者が消えた方向を見ていた。
(長い間、本当にお疲れ様でした。どうか、安らかに眠ってください・・・)
「くそっ、真っ暗じゃねえか。やっぱギルも連れてくりゃ良かったぜ」
アレンは手探りで、洞窟のようになっている岩の中を慎重に進んでいた。
ジャリ、ジャリと、石を踏む音だけが響いた。
少し歩くと、月明かりが差していた。
「おっ、あそこが出口か」
岩の洞窟から出たそこは、月明かりが差すちょっとした広場になっていた。
「誰だ、」
気配を感じたアレンの視線の先には、一人の老人が立っている。
「よく来たな、アレン。いや、選ばれし者よ!」
「そっ、その声は・・・まっ、まさか・・・」




