82 満月のシュバージ
「待て、アレン」
「命乞いか。だが、もう手遅れだぜ」
「お前は黒龍が全大陸を蹂躙し、人々を殺しまくっても平気なのか!」
「適当なこと言ってんじゃねえよ」
「我が一族は、千年前の天魔大戦の探求に気が遠くなる程の年月と財を費やしている。ドラゴンオーブの研究もそのうちの一つだ。そして出た答えが、ドラゴンオーブは黒龍を復活させるものだということだ。アレン頼む、この俺を信じてくれ!」
アレンは真剣な眼差しのハザードを見た。
互いに見つめ合ったまま、少しの時間が流れた。
うつむいたアレンは、戦闘態勢を解いた。
「確かに、お前の目は嘘をついている目じゃねえな」
「アレン、やっとわかってくれたか」
「アレンさん!ダメです!騙されないでください!」
アレンはチラリと後ろを向き、ギルを目で制した。
「ハザード、ドラゴンオーブは神が作ったものなんだろう」
「だから何だ、」
「わかんねえのか。つまり、神が世界を滅ぼすってことだよ」
ハザードは苦笑した。
「何を言い出すかと思えば。なぜ、神が人間を滅ぼすのだ。バカげたことを言うな」
「フフフッ、」
「何を笑っている」
「まったく、お前らのご都合主義にはあきれるぜ。神が人間の味方だなんて、いつ誰が決めたんだよ」
「なに、」
「神は人間を滅ぼさない?そんな保障どこにあんだ?」
「人々は神々を信仰し崇めている。なぜ、その神に滅ぼされるんだ」
「それは人間の勝手だろ?守ってほしいからって、崇めているだけじゃないのか?」
「なんだと、」
「自分達にとって都合がよけりゃ感謝して崇めるが、都合が悪くなりゃ、批判して文句を言ってるんじゃないのか」
「それは一部の人間だろう」
「じゃ、崇めている神が人間を滅ぼすと言っても、お前ら受け入れるんだよな?」
「それは・・・」
「どうした、ハザード」
「・・・」
「神は人を見捨てたのかもな」
ハザードは少し考えた。
「百歩譲って、そうだとしよう。だが、」
「なんだ、」
「だからと言って、何もしないわけにはいかないだろう。やはり、お前には、ここで諦めてもらうしかないな」
「それしか言えねえのか」
「アレン、お前なぜそうドラゴンオーブにこだわるんだ。お前にとって何の利益にもならないだろう」
アレンは、小さくため息をつきながら言った。
「俺のじっちゃんが言ってたんだよ。武闘大会で優勝したら、ウォルタ王の願いを聞けってな」
「お前のじいさん?何の話しだ」
「そのウォルタ王の願いってのが、ドラゴンオーブを探し出すことさ」
「そうか。だったら、お前はウォルタ王に利用されているだけだ」
「そうかも知んねえ」
「わかったか。もう一度だけ言う、ここで大人しく諦めるんだ」
「ハザード、俺のじっちゃんは間違ったことを言ったことがねえんだよ」
「なんだと、」
「じっちゃんのいう事は全て正しい。ずっとそうだった。だから俺はドラゴンオーブを探し出す」
ふぅーっと、ハザードは大きく息を吐いた。
「これ以上言っても無駄だな」
「お前とはぶつかり合う運命だったのかもな」
「アレン、正直に言おう。お前は圧倒的に強い。我が精鋭部隊をもってしても、おそらく勝てないだろう」
「どうした、やり合う前から降参か。だが、村の人間を斬ったお前は許すわけにはいかねえな」
「フフフッ、」
ハザードは不気味な笑みを浮かべた。
その笑みにアレンは違和感を感じた。
「お前、まだ何か隠してやがるな」
ハザードの後ろにいた男は、ハザードの手に何か渡した。
「これは、我が一族が使う信号弾だ。打ち上げ花火の一種と思ってくれていい」
ハザードが手に持っているのは、黒い筒のようなものだ。
「アレン、俺達はテンプ村20箇所に爆薬をセットした」
「なっ、なに!」
「俺の合図で、その爆薬が一斉に爆発する」
「お前!どこまで卑怯なマネを!」
「テンプ村の人口は、ざっと5000。20箇所にセットした爆薬で、村全てが吹き飛ぶように仕掛けてある」
「気でも狂ったか、ハザード!」
「さあ、アレン、どうする。お前の返答次第で、テンプ村の5000人全員が死ぬぞ」
「クソ野郎が!」
「アレンさん、大丈夫ハッタリです!ここからテンプ村への合図なんて出来っこないですよ」
後ろからギルが叫んだ。
「ここは広大な森。そして周辺は高い山脈に囲まれています。こんなところで信号弾を放ったところで、テンプ村から見えるはずもありません」
「そう言われりゃ、そうだな、」
「フフフッ、失望したよギル君。もっと頭がいいと思ったんだけどな」
「バレたからって、負け惜しみか」
「我らは故郷の遠い地から、ここまで来た。そんな我らがハッタリを言うために、わざわざ来たというのか」
「ハッタリも戦略のひとつだ。オーベルさんを人質にし、連れてきた村人を殺すことでアレンさんが諦めると思ったんだろ。それが見事に失敗してお前は焦った。だからとんでもないハッタリで、一発逆転を狙っている」
「なるほど。だが、君の読みは甘いと言わざるを得ない。我らを知らなさ過ぎるんだよ。君達は本格的に戦闘する人間の集団と、これまで戦ったことがないだろう?」
「・・・」
「フフ、図星か」
ギルは唇を噛みしめた。
「我らは戦闘のプロだ。相手を研究し、その弱点を突く。そんな戦いを経験したことがない君達の負けだよ」
「くっ、」
「教えてやろう。遠地への合図が可能なのは、信号の中継するからだよ」
「信号の中継・・・まさか、海上に中継点を、」
「その通り。そして、信号弾が遠くからでも見えるように、わざわざ決戦に夜を選んだ。我らは君達よりずっと早く、ここに着いていたのさ」
やられた。
合図の中継をするなど、すぐ思い付く話しではない。
中継するならするで、中継点をどこに置くか事前に決めておかないといけない。
オーベルさんの人質でアレンさんが諦めないことも考えて、切り札を用意していたのか・・・
ギルの額に一筋の汗が流れた。
「理解いただけたかな、ギル君」
「アレンさん、先程の発言は取り消します・・・この男が言ってることは、おそらくハッタリじゃありません」
「気にすんなギル。こいつも相当の覚悟で、ここに来てるってことだろう」
「そう言うことだ、アレン。我らは神器を持つ君達に勝たねばならない。なんだってやるさ」
「やっかいな奴だぜ、全く」
「なんとでも言え。さあ、アレン、どうする、返答を聞かせてもらおうか。俺の三つの要求を飲む気になったか?それとも、テンプ村を全滅させ人々を皆殺しにするか!」
アレンは迷った。
テンプ村の住民を全員を殺されるとなれば、さすがに逆らえない
だが、ここで諦めたくはない
何のために、ここまで死ぬ思いで頑張ってきたのか・・・
あの祠の賢者は、クルルは、そして目の前で殺されたテンプ村の住人は、
皆ドラゴンオーブのために死んだんじゃないのか・・・
ここで諦めることは、死んでいった者達に許されることなのだろうか・・・
「くっ、くそー!」
アレンは叫んだ。
その声を聞いたオーベルは、すかさずアレンに向かって言った。
「アレン!こいつを信用するんじゃないよ!あたしやテンプ村のことはもういいから、こいつらを殺しておしまい!」
「村長、さすがにそれは無理だ」
「アレン!」
アレンは剣を背中に戻した。
カシャンと金属音がなり、剣は剣帯に閉じ込められた。
「アレンさん!ダメだ!」
アレンは、クルリと後ろを向いた。
「ギル・・・許してくれ、」
「アレン!ダメよ!あたし達、何のためにここまで来たの!」
「そうだアレン、諦めるな!テンプ村の人達には申し訳ないが、悪いのはあの男だ!」
「アレンさん・・・僕達は・・・僕達はほんとに死ぬ思いで、ここまで来たんですよ!・・・お願いです、どうかここで諦めないでください!」
ギルは膝から崩れ落ちた。
地面の土を握りしめ、身体を震わせている。
アレンは膝を折り、ギルに話かけた。
「ギル、この酸の水を越えることは出来ないんだろ?もう、ここで限界じゃないのか、俺達」
「アレンさん・・・ううっ・・・アレンさんー!」
ギルは泣きながら、アレンにしがみついた。
「アレン・・・あたし達、終わったの?」
「ああ、そうだ」
サリヤもチカラを失い、その場に座り込んだ。
<<ドラゴンオーブは片手で持てるくらいの大きさで、
透き通った青色をしていて、
中心に黒い傷のような模様があって、
見る角度によって、それがドラゴンのように見えるんですよ>>
ドラゴンオーブを手にするというアレン達の願いは、ついに実現しなかった。
アレンは立ちあがり、ハザードの方を向いて言った。
「ハザード、お前の勝ちだ」
うおおぉぉー!
その瞬間、大歓声が巻き起こった。
アレン達を取り囲んだハザードの精鋭部隊は姿を現し、喜びを爆発させた。
「族長!我らが神器を持つ奴らに勝ったのですね!」
「若!やりましたな!」
ハザードは、赤く染まった銀狼剣を夜空に突き上げた。
「皆の者、喜べ!我ら銀狼の一族の完全勝利だ!」
うおぉー!
ハザードの精鋭部隊は、肩をたたき合って喜んだ。
抱き合って泣いている者もいた。
ハザードが用意したテンプ村の全てを人質にするという作戦は、見事に的中したのだった。
ハザードは、うなだれているアレンに近寄った。
「さあ、アレン。三つの要求の一つ目だ。お前の持っている神器を渡せ」
「くそったれめ、」
「おっと、ここで俺を殺しても無駄だぞ。お前が妙な動きをしたら、俺の部下が即座に信号弾を撃つ」
ハザードの肩越しに、男が信号弾を空に向けて撃つ用意をしているのが見えた。
「わかったか?わかったなら、さっさと剣を渡せ」
アレンは胸のベルトをはずし、剣帯ごとハザードに渡した。
剣を受け取ったハザードは、思わず感嘆の声が漏れる。
細かな紋様が掘られた見事な剣帯の装飾、そして、しっくりとくる剣の重さ、
それは、これまで見たことのない美しい剣だった。
「これが神の剣か、」
「そいつは、お前には使えないぜ」
「フフ、そんなことわかってるさ。この剣は持ち主を選ぶ。選ばれた者以外、この剣を抜くことは出来ない、だろ?」
「知ってやがったか、」
「神器と言えば聞こえはいいが、これは破壊をもたらす危険な魔剣。ドラゴンオーブと同じように、封印しておくのが一番なんだよ」
「好きにしやがれ、」
その時、
ザザーッ、
その音に、アレン、サリヤ、ギル、そしてアクロスは反応した。
「なんの音だ?」
「今、ザザーって聞こえましたよね」
「なにかしら、」
「湖から聞こえたぞ」
同時にハザード側も反応した。
「族長!今変な音が、」
「あわてるな!4人は俺の目の前にいる。魔法も封じてある。何も出来っこないさ」
それでも危険を感じたか、素早くハザードの後ろにダザーとその手下が来た。
「何か嫌な予感がします」
「ダザー、お前は心配性だな」
ドン!
地面が縦に揺れた!
「うわぁ!」
ドン、ドン、ドン!
激しい振動で、立っていられない!
四つん這いになったハザードはギルの顔を見た。ギルは驚きの表情をしている。
(あいつも驚いてるということは、やはりこれは奴らの仕業じゃない・・・本物の地震?)
ドッパーン!
ザザザザーッ!
爆発のような音と滝が流れるような音が、湖から聞こえた!
アレン達とハザード、それにダザーと手下達は湖の方へ走った!
「なっ、なんだこれは!」
「こっ、これは一体・・・」
あり得ない光景に、一同は言葉を失った。
湖の水が二つに裂け、月の光に照らされた湖底から石の道が出現していた。
思わずギルが叫んだ。
「こっ、これは、神の島へ通じる道!」
ギルは空を見上げた。
二つの月は寸分の差も無く重なり合い、完全に一つの月になっている。
「まっ、満月のシュバージ!全ての姿!」
アレンはハザードから素早く剣を奪い取った!
「アレン!何をする気だ!」
「ギル!サリヤを背負って走れ!」
アレンはアクロスを強引に背負い、二つに割れた湖に入った!
「アレンさん!」
「ギル!なにしてる!急げ!」
ギルは素早くサリヤを背負い、アレンの後を追いかけた!
「逃がすか!」
「待て!行くなダザー!」
ダザーがギルの後を追いかけようとしたが、ハザードに止められた。
「族長!」
「ダザー、あの石をよく見てみろ」
石の表面のには酸の水が残っていた。
「この湖の水が酸であることを、奴らは知らないのか」
ダザーが見ると、走ってるアレンとギルの足元から白い煙が上がっていた。
「足が溶けてるぞ」
「これで奴らも終わりですね」
「我らが手を出すまでも無い。神が奴らをに罰を与えたのだ。終わったな、アレン」
酸の水は、まるで何かに引っ張られているように、ザザザーっという滝のような音をたてながら、両側に水の壁を作っていた。
「痛え!」
靴が溶けて、アレンとギルは裸足で走っていた。
足が湖底の石を踏む度に、ジューという音とともに激痛が走った。
サリヤはギルに背負われながらも、アレンとギルの足を治療し続けた。
即座に治療されるとはいえ、踏む度の痛みは避けられない。
アレンとギルは、酸の激痛に耐えながら全速で走った。
どれくらい走っただろうか、
いや時間にすれば、ほんの数分、
だが、ギルにはとてつもなく長い時間に感じた。
見えている島は、依然として遠いままだ。
ギルが見ているアクロスの背中は、走る程に小さくなっていった。
(まだか・・・まだなのか・・・早く島に着いてくれ!)
ドンドンドン!
また大きく縦に揺れた。
「うわぁ!」
ギルはバランスを崩しそうなりよろめいたが、なんとか耐えた。
その時、
ザッパーーン!
ザザザーッ!
後ろで、大きな波の音がした。
立ち止まったギルが後ろを見ると、なんと二つに割れていた酸の水が元に戻り始めていた。
壁になっていた両側の酸の水がぶつかり、波が高く上がっている!
「はあはあ・・・シュバージが・・・終わり・・・月がまた二つに分かれる・・・」
ギルは再び全力で走った。
しかし、足元はふらつき、息は苦しくて思うように走れない。
アクロスの背中は、見えなくなっていた。
サリヤは目を閉じていた。
次々と酸の壁が崩れ、ギルを飲み込むように凄い勢いで追いついてきている。
ギルの視界に見えている島が、いつしか大きくなってきた。
「はあはあはあ・・・、あと・・・少しだ・・・」
だけど、
きっと間に合わない
もう僕は走れない・・・
「・・・サッ、サリヤさん・・・すみません・・・僕の足では・・・ここを渡りきれない」
「ギル・・・」
ギルは立ち止まった。
サリヤを背中から空中に浮かし、クルっと素早く後ろを向いて、両手でサリヤの両方の手首をとった。
そして、自分を軸の中心として回転し、両腕を持ったままサリヤを振り回した!
「ギル!何を!」
(サリヤさん、さようなら・・・・・・どうかご無事で・・・今まで・・・ありがとうございました・・・)
「ギル!」
ギルは手を離した。
島へ向けて、サリヤを放り投げた。
空中に舞ったサリヤが見たギルの顔は、少し微笑んでいるように見えた。
たたずんでいるギルの背中には、酸の大波が今まさにギルを飲み込もうとしていた。
「ギーーール!」




