80 神の島
「あ、大陸だ!アレンさん、大陸が見えてきました!うわぁ!」
バシャーン、
急に立ち上がったギルは、バランスを崩して海に落ちた。
「助けて!」
「ギル、お前一人で何やってんだ」
アレンがギルを引っ張り上げると、ギルはゼイゼイ言いながら板に上がった。
息が荒れるギルを他所に、3人は小さく見える陸地を見ていた。
ベージュの砂浜に白い線を描く波。後ろには緑の木々がある。
「アレン、やっと着いたな」
「ああ、やっとだ」
「これで、ついに魚の食事から解放されるな」
サリヤは立ち上がり、両手を口にあて叫んだ!
「あたしは、動物のお肉が食べたいのよー!」
のよー、のよー、のよー
バシャーン、
あの大渦から10日あまり。
アレン達は、小さなボートで北大陸に到着した。
ギルのコンパスひとつを頼りに、漕ぎ手はアクロスとアレンで交代で。
四方を海で囲まれた景色を、もう4人は見飽きていた。
「ギルの古代魔法で海水を真水に変えて、水はなんとかなったが、さすがに食べ物はどうにもならなかったな」
「でも皆こうして元気でここまで来れたじゃないですか、アクロスさん」
「あたしは元気じゃないかも、」
「だがギル、4人分の魚の確保に大量の魚が海に浮かぶってのは、あとで問題になるかもだぞ」
「だって、あの海域は魚が多過ぎて・・・あれでも、かなり手加減して魔法を撃ったんですけど、」
「ざっと見て一回で3000匹くらいの魚が死んでたな」
「げっ、そんなに死んでましたっけ?」
「それを朝、昼、晩と何日も続けたら、そうだな、10万匹くらいは死んだんじゃないのか」
「・・・」
アレンは、ショボンとなっているギルの肩を叩いた。
「気にすんな。お前のお陰で、俺達は飢え死にせずに済んだんだからさ」
「だが、アレン。あの大量の魚の死骸は、海流にのってどこかの村へ流れ着くかもな」
「えっ、まじで?」
「何か思い出さないか?」
「何かって?」
「冬に起きた洪水」
「あっ、」
「神の祟りだよ」
「・・・」
チラリとギルを見るアクロスに、ギルは苦笑いするしかなかった。
確かに、10万匹の魚の死骸が流れ着けば、神の祟りと思うかもしれない、
いや、きっと思う!
間違いない!
・・・
ボートを降り、バシャバシャと浅い海を歩いて、4人はついに北大陸に上陸した。砂が細かいせいか、砂浜がとても柔らかい。
「あー、久しぶりの地面だー、」
アレンは大きく背伸びした。
「アレン、見てこれ!星の形してる!かわいい!」
サリヤの手のひらにある一粒の砂は、5つの突起があって星の形をしていた。
「おー、本当だ、初めて見たぜ」
少し冷たい風が吹いてた。
4人は、砂浜から続く木々の中を歩いた。
風がサーっという音を立てて通り過ぎる。
木が生えている間隔はそんなに密接ではなかったが、一本一本の木はしっかりとした太さがあった。
雑草の緑の中で、淡いピンクのコスモスの群生が風に揺れていた。
ここは人間が足を踏み入れていない未開の地、すなわち動物達の楽園だ。
野兎やリス、草を食べている鹿もいた。
「ここはお花も綺麗で、見てるだけでも楽しい」
「人の気配は全くしないな」
アレンは、ふとアクロスが一番最後になっていることを気にした。
「アクロス、足大丈夫か?」
「平気だよ、歩いているうちはな。遅いのは景色を楽しんでいるだけだ、気にするな」
「ならいいけど、」
アレンは歩きながら、後ろに続いているギルに言った。
「ギル、神の島まで後どのくらいありそうなんだ?」
「そうですねー、地図が紙に適当に描いたようなお粗末なものなので、なんともいえませんが、2、3日歩けば着くような気がします」
「そういえば、地図の他に言葉みたいなのがあったよな」
「ええ。古文書に書かれてあった言葉を、意味が通るように並べると、
古来より、すべての姿を現したとき
神への道は開かれるであろう
しかし選ばれし者よ、心するがよい
統べる者はそこにいる
だと思います。あと一冊残してますので、この並べ方が正しいかわかりませんが」
「古来って何だ?」
「うーん、なんでしょう。僕の知識の中には、古来というのはありませんね」
「俺は『選ばれし者よ、心するがよい』っていうのが気になるな。また、何か出てくるんじゃないのか?」
「統べる者っていうのが、そうだってことかもな」
「俺は足をやられてる。戦闘では役に立たないぞ」
アレンは、追いつてきたアクロスを見て苦笑いした。
「何言ってやがる、お前は十分強いじゃないか」
「お前にそれを言われても、全然嬉しくないのは気のせいか」
「いろいろと考え過ぎなんだよ、アクロス。もっとシンプルに行こうぜ」
「シンプルねぇ、」
「アレンはシンプル過ぎよね、」
「うるせーよ、」
日が落ちて、辺りは暗くなってきた。
「今日は、この辺で休もう」
枯れ木を集めて、火をつけた。
奥に進むにつれて木々の密度は高くなり、辺り一帯は森と呼ぶべき状態だ。
暗闇の中、遠くからフクロウの鳴く声が聞こえた。
「ねえ、このホーっていう声を聞くと、いかにも森って気がしない?」
「フクロウは森の番人と呼ばれてますからね、」
「森の演出には、欠かせない声だな」
サリヤはニッコリ微笑んだ。
パチッと音がして、火の粉が上がった。
「あ、アクロスさん、あれ!」
ギルがキラキラとした瞳で見ている先には、大きく丸く、そして白く輝く二つの月があった。あまりの大きさに、手を伸ばせば届きそうだ。
「シュバージだな」
「ええ、いよいよですよ!満月のシュバージ!あの感じだと、明日あたりじゃないかなー、」
「ギル、シュバージってなんだ?」
「二つの月がピッタリ重なって、一つのように見えるんですよ。しかも今回は満月でです!」
「180年に1度のことらしいぞ」
「へぇー。それって、何かいい事があるのか?」
「いっ、いえ、特には・・・」
「なんだ、ないのか」
「あ、でもアレンさん、シュバージは神聖で貴重な瞬間ですよ。これに出会えるだけでも、神に感謝しないといけません」
「俺は、お前に出会えた事を感謝してるぜ」
「アレンさん・・・」
4人は、明るく輝く二つの月を見上げた。
「明日も、お天気だといいわね」
アレン達が北大陸に上陸して3日が過ぎた。
草むらを歩くザザッという音は無くなり、歩きやすくなっていた。
相変わらず森は深いが、微かに湿り気のある空気が漂ってきた。
そして、ついに・・・
「あー!あれだ!」
ギルは走りだした。
駆けた先は、パアッと視界が開けた。
そこには木々はなく、砂の地面が広がる開けた場所になっていた。
笑顔が弾けたギルの目線の先には湖があり、その先には霧に霞む島があった。
「間違いない!神の島だ!やった、アレンさん!ついに到着しましたよ!」
ギルは、アレンに飛びついた。
「やったなギル!お前のおかげだよ」
「僕だけじゃない・・・皆の・・・皆頑張って・・・」
「おっ、おい、ギル、泣いてんのか?」
「泣いてません!」
ギルは大泣きした。
周りを気にすることなく、大きな声で叫ぶように泣いた。
「ギッ、ギルったら、バカね・・・泣くことないじゃん・・・」
アクロスは、アレンの肩をポンと叩いた。
「苦労したな、アレン」
「ああ、マジで苦労した」
アレンは湖の前に歩み出た。そして、霧に霞む島をじっと見る。
「俺達、ついにここまで来たんだな」
サリヤ、ギル、そしてアクロスが続いた。
湖の前に横に並んだ4人の頭の中は、これまでの出来事が走馬灯のように駆け巡っていた。
洞窟でサリヤと出会い、
町で首を括ったギルと出会った。
インドラの塔で神獣を倒し、
山脈を越えてアクロスと出会った。
船で大陸を渡り、
砂漠を越えて、炎の魔人と戦った。
南大陸に渡り、サランと戦った。
アクロスと別れ、村の教会で再び出会った。
大渦に巻き込まれ、
そして、目の前には神の島がある。
「サリヤ、ギル、アクロス。お前らのお陰だよ。俺には感謝しかない」
アクロスは、苦笑いしながら言った。
「そう言ってもらえるのは嬉しいが、その言葉はまだ早いんじゃないのか?」
「ああ、そうだな」
そう、あの島にもきっと何かが待っている、
アレンはそう感じていた。
だが、島には間違いなくドラゴンオーブがあるはずだ。
もう手が届くところまで、自分達は来たのだ。
あと、少し、
そう、あと少しで、この忌々しい旅ともサヨナラできる・・・
アクロスは、場の空気を断ち切るように言った。
「じゃ、イカダの製作に取り掛かるか」
「ボートから持ってきたオールとロープが役に立ちますね、」
「いい仕事しただろ?ロープは解いて、イカダを縛る紐にできるしな」
「アクロスさん、ナイス!」
ギルは、アクロスに向けて親指を立てた。
「あたしは久しぶりに水浴びでもしよっかな。身体ベトベトだし、」
「サリヤ、気を付けていけよ。何が出るかわかんないぜ、」
「ちょっとアレン。脅かさないでよね」
「忠告だよ、忠告」
「はいはい、ありがと」
サリヤは歩きだしたが、急に立ち止まり、
「誰も見にきちゃダメよ、」
「はいはーい、わかってますよー、」
アレンはサリヤに手の甲を向けて振り、早く行けと合図した。
「じゃ、俺はその辺の木を切ってくる」
「アクロス、俺も行こう」
「僕はロープを解いてますね」
「ああ、頼んだぜ」
アレンとアクロスは森に消えた。
ギルは額に手をあて、湖に浮かぶ島を見た。
太陽の光を受け、湖面はキラキラ輝いている。
「神の島か。あそこにドラゴンオーブがあるんだ、」
ギルは、ギュっと手を握りしめた。
「あと少しだ。あと少しでドラゴンオーブが手に入る」
ギギギギー、ドサッ!
大木が倒れる音が聞こえた。
「えっ、もう木を切ってる!仕事早っ!感傷に浸っている場合じゃない、僕も仕事しないと!」
ポチャン、
クルっと勢い良く反転して湖に背を向けたとき、腰につけていた革袋が腰からはずれ湖に落ちた。
「あちゃー、」
あわてて、湖にから拾おうとした、
その時!
ジュー、
「うわぁ!」
ギルは思わず手をひっこめた!
革袋は、一瞬で白い煙になり消えた!
「なっ!なんだって!」
ギルは、今起きた事が理解できない。
「こっ、これは・・・まさか・・・」
ギルは思わず湖から後退りした。
そして、足元にあった小枝を湖に投げた。
ジュー、
小枝は一瞬で煙になった!
「さっ、酸!」
ギルは、水浴びに行くと言ったサリヤのことを思い出した!
「ダメだ!サリヤさん!」




