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激流の中で  作者: 清水京太郎
第8章 神の島
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79 テンプ村襲撃

 「目標地点に到着しました」

 

 「よし、錨を降ろせ」

 

 「はっ、」

 

 ハザードは、階段を上りデッキに出た。

 夜の海風が吹いている。

 

 「テンプ村の人口は?」

 

 「5000人程です」

 

 「戦闘部隊はいるのか?」

 

 「戦闘に専属する者が100名程います。そのうち精鋭は5、6名かと」

 

 「ふむ、」

 

 軍隊がいるのか、これは普通の村ではないな。

 

 ハザードは、少し考えた。

 夜の暗い海、波の音が静かに聞こえていた。

 

 「ダザーはいるか、」

 

 「族長、ここに」

 

 ダザーと呼ばれた男、何も無い空間から姿を現した。

 

 「お前に任務を命ずる」

 

 「はっ、」

 

 「テンプ村の村長及び警備兵を何人か捕まえて、ここに連れて来い」

 

 「ははっ、」

 

 「気付かれずに村長の屋敷のみを襲撃しろ。おそらく精鋭もそこにいるはずだ。部下は最小限でいけ」

 

 「抵抗してきた場合、いかが致しましょうか」

 

 「最終的にどうするかは、お前に任せる。この任務は時間との勝負だ、短時間で終わらせろ」

 

 「かしこまりました」

 

 「よし、行け」

 

 ダザーは、フッと姿を消した。

 

 「ユエザ、」

 

 「お呼びでございますか、族長」

 

 「お前にも任務だ」

 

 「ははっ、ありがたき幸せでございます」

 

 「第一に、あの崖の上にロープで降ろせる滑車を設置しろ。ダザーが襲撃から戻るまでにだ。出来るか?」

 

 「容易いことでございます」

 

 「よし。第二に、テンプ村20箇所に爆薬を設置しろ。決行の合図があれば、爆破するんだ」

 

 「族長がここを離れてから合図があるまで、どのくらい期間がありますでしょうか」

 

 「今から30日後から40日の間には、合図を出せるはずだ」

 

 「ははっ、」

 

 「場所が遠地なので、合図は3点か4点連鎖だ。いつも通り決行は赤、中止は青だ。いいな」

 

 「承知しました」

 

 「爆破までかなり期間がある。それを考慮いれて、爆薬の調合及び起爆装置の選定をしろ。あと、住人には絶対気付かれるなよ」

 

 「お任せください」

 

 「よし、取り掛かれ」

 

 「はっ、」

 

 デッキに置かれたテーブルには、ティーセットが置いてあった。

 ハザードは椅子に座り、ポットからカップへお茶を注いだ。

 湯気の立つカップの緑茶の香りが、張り詰めた気持ちを和らげた。

 ハザードはカップを持ち、口に運んだ。

 

 「ひとまずは、これでいいな」

 

 「兄上!」

 

 「うわぁ!」

 

 ガチャーン!

 

 ハザードは椅子から転げ落ち、手に持ったカップを落とした。

 カップは落ちて砕けた。

 

 「シアン、お前って奴は・・・」

 

 「兄上、ヤンブルは連れて来てないのか?遊びたかったのに、姿が見えないぞ」

 

 「あいつは別動隊だ」

 

 「別動?どこへ?」

 

 「秘密だよ」

 

 シアンは、ほっぺを膨らませたが、すぐにハザードを見て言った。

 

 「兄上、俺もダザーと行かせてくれ!」

 

 「ダメだ」

 

 「頼むよ、俺も実戦経験がしたいんだ!訓練と監視ばっかじゃつまらないよ。これは俺に巡ってきたチャンスなんだ!」

 

 「お前は、おとなしくしてろ」

 

 「なんでだよ!」

 

 ハザードは、聞き分けのない妹の顔をまじまじと見た。

 シアンは少し赤くなった。

 そして、耳元でささやいた。

 

 「シアン、実はお前には重要な任務がある」

 

 「えっ?」

 

 「お前しか出来ないことだ」

 

 「なんだ!教えてくれ!」

 

 「後で話しするから、降りて部屋に入ってろ」

 

 「ちぇっ、」

 

 シアンは渋々ハザードのいう事を聞き入れ、船の階段を降りていった。




 テンプ村に行くには、アレン達が通った砂漠を渡る必要がある。

 しかし、ハザードは村の南西に位置する海上にいた。

 

 ここからテンプ村へ行くには、断崖絶壁を登る必要があった。

 切り立つ断崖は、垂直を越えて海側に反っている。湿気の多い海風で岩肌も滑りやすく、ここを登るなどまず不可能だ。

 

 しかし、ハザードの部隊は別次元であった。

 ダザーは4人の部下と共にボートで崖近くまで行き、垂直の壁を登り始めた。

 突起する石をつかみ、岩の窪みに足を入れ、あっという間に崖の上に到達した。

 登るというより、飛び跳ねているような感じだ。

 見事という他ない。

 

 ハザードは、船上から単眼の望遠鏡で崖を登るダザー達を見て苦笑した。

 

 「あいつら、人間じゃないな」

 

 「日頃の鍛錬の賜物でございます」

 

 「ふむ。ところで、アレン達の動きはどうなっている?」

 

 「イールドと呼ばれる村で3名が合流し、再びディスペアへ向かっていると報告がありました」

 

 「なんだ、結局復活したのか。しかし、なんでまた元の町へ戻るんだ?」

 

 「おそらく、不明の仲間を捜索するためかと思われます」

 

 「なるほど、アクロスの捜索か。じゃ、少し時間を稼げるな」

 

 ハザードがニヤリとしているところに、白い髭を伸ばした老人が現れた。

 

 「若、順調の様子ですな」

 

 「お、じい。どうだ船旅を楽しんでるか?」

 

 「わしが船が嫌いなのを知っててお聞きになってるのですかな?」

 

 「仕方ないじゃん。船しか移動手段が無いんだからさ、」

 

 「しかし、このじいを戦場へお連れになるとは、まさか老い先短い年寄りを、盾にするおつもりですかな?」

 

 「あれ、バレた?」

 

 「若、わしが死んだら化けて出ますぞ」

 

 「やめてよ。俺そういう話し超苦手だから、」

 

 「フォフォ。今宵は月が綺麗ですじゃ。もう少し夜風にあたるとしますかの」

 

 

 

 

 「ダザー様、この屋敷です」

 

 「ふむ、警備兵が20名ってところか、」

 

 「どのような作戦でいきましょうか」

 

 「速攻による電撃だ。俺が村長を確保する。お前達は様子を見て、抵抗する者は気絶させろ」

 

 「殺さないのですか?」

 

 「騒ぎになるとまずい。時間をかけるな。警備兵の確保も忘れるなよ」

 

 「はっ、」

 

 5人はフッと姿を消した。

 

 

 オーベルはお茶を飲みながら、くつろいでいた。

 そろそろ、寝ようかとパタンと本を閉じたとき、首筋に冷たい感触がした。

 

 「動くな」

 

 「誰だい。音も立てずに侵入するところ、只者じゃないね」

 

 ダザーは姿を現した。

 

 「我らは銀狼一族の者。大義により、お前を捕虜にする」

 

 「はっ、何だよいきなり!このわたしを誰だと思ってんだ!」

 

 オーベルの声を聞いて、警備兵が屋敷に突入してきた!

 

 「オーベル様!」

 

 「ぐはっ!」

 

 突撃してきた警備兵は、オーベルがいる部屋に入るなり、次々と床や壁に叩きつけられた。

 ダザーの部下4人も姿を現す。

 

 「ほー、これはプロの仕業か、」

 

 最後にゆっくりと部屋に入ってくる男がいた。

 ダザーの部下が、音も無く男の背後に回った。

 男は後ろを見ることなく、素早く剣を部下の脇腹に打ち込んだ!

 

 バシュ!

 

 「ぐはっ!」

 

 ダザーの部下は、血しぶきを上げながら後ろの壁に倒れ込んだ。

 

 「貴様!」

 

 仲間をやられたダザーの部下達は激怒した!

 武器を振り上げ、男に襲いかかろうろした。

 

 「待て!」

 

 ダザーの声で動きが止まる。

 

 「お前、名は?」

 

 「俺はフォルトナ。この村で一番強いぜ。いや、大陸一かもな」

 

 男は、薄笑みを浮かべた。

 

 「いい気分で夜風にあたってたのに、つまんねえ騒ぎ起こしやがって。お前ら、生きて帰れると思うなよ」

 

 「確かに強そうだが、頭は悪そうだな」

 

 「賊野郎が、誰に口きいてんだ」

 

 ダザーは部下に目線で合図した。部下はダザーの元に集まった。

 フォルトナの後ろで、騒ぎを聞きつけた村の警備兵が集まってきた。

 

 「おい、フォルトナ!何かあったのか!」

 

 「うるせー、お前らは黙ってそこで見てろ!こんな賊ども、俺一人で十分だぜ」

 

 「なに!賊だと!賊がいるのか!」

 

 フォルトナは警備兵の進路を塞ぎ、部屋に入れないようにした。

 オーベルは縄で縛られ、ソファーから立たされた。

 

 ダザーは前にあるソファー、テーブルを部屋の端に寄せた。

 

 「フォルトナとやら、お前がバカで助かったよ、」

 

 「なんだと!」

 

 「俺が相手しよう。お前みたいな勢いだけの若い奴を見ると、吐き気がするんでな」

 

 「そうか。じゃ、かかってこいよ、おっさん」

 

 フォルトナは剣を構えた。

 ダザーはフォルトナと対峙しながらも、後ろ手で部下にサインを出していた。

 

 「お前が賊の頭らしいな。俺がどのくらい強えか、身をもって知りやがれ!」

 

 フォルトナは、ダザーに突っ込んでいった!

 ダザーは短剣を両手で持ち、腰を低く構えた。

 

 ガキーン!

 

 長剣と短剣がぶつかった!

 激しい打ち込みだが、ダザーは落ち着いていた。

 フォルトナは腕力に任せて、刃を合わせたままグイグイと押し込んだ。

 ダザーは、じりじりと後ろへ押される。

 

 「ハッハッハッ、どうした、どうした!その程度か!」

 

 ダザーは、フッっと急にチカラを抜いた。

 フォルトナは自身の押すチカラで前のめりになり、バランスを崩した。

 ダザーはスルりと体制を入れ替え、十字の手裏剣を一瞬で3連投した。

 

 「死ね」

 

 ズカッ、ズカッ、ズカッ、

 

 全てフォルトナの背中に突き刺さったが、刺さり方が浅い。

 

 「貴様、服の下に鎧をつけていたのか」

 

 「知ってんだよ。お前らみたいな薄汚い奴は、背中を狙ってくるってな」

 

 「そうか。このままお前の息の根を止めたいところだが、残念なことに我らには時間がない」

 

 「ちょっと待てよ!逃げる気か!」

 

 ボン!

 

 ダザーは、煙幕弾を投げた!

 真っ黒な煙が一瞬で部屋に充満し、周りが見えない!

 

 「おい!こら!卑怯だぞ、てめー!」

 

 

 ダザーと部下は、村長と警備兵を縄で確保し、背負いながら登ってきた断崖へと走った。

 

 「ダザー様、斬られた仲間を置いていくのですか!」

 

 「我らは族長のご命令を確実に遂行するための部隊だ。助ける時間はない」

 

 「ですが!」

 

 「それ以上言うな!これは実戦なんだぞ!」

 

 ダザーには分かっていた。

 フォルトナに斬られた仲間は、急所を手で押えていた。

 おそらく助からない。

 

 (許せ・・・俺が必ずお前の仇を討つ)

 

 崖では既に滑車が設置されていた。

 オーベル達は、縄で縛られたまま滑車で崖を降ろされ、ボートに乗せられた。

 そして、ハザードが待つ船に向かう。

 あっという間の手際の良さ。

 ダザーは、電撃的な誘拐作戦を見事に成功させた。

 

 

 

 「お前がこいつらのボスかい」

 

 猿ぐつわを解かれたオーベルは、ハザードを睨みながら言った。

 

 「初めまして。私は銀狼一族の族長、ハザードです」

 

 「銀狼一族?聞いたことないね。それより、こんなマネしてタダで済むと思ってるのかい」

 

 縛られたままのオーベル達は、船上でハザードと向き合っていた。

 周りは武装したハザードの護衛が取り囲んでいる。

 

 「村長、あなたは何もわかってない」

 

 「わかるもなにも、有無言わさず連れてきたのはそっちだろ」

 

 「俺達は、村を占領するつもりはありませんよ」

 

 「狙いは鉱石じゃないって言うのかい、」

 

 「違います」

 

 じゃ、こいつの狙いは何なんだい

 銀狼一族なんて聞いたことがないね、かなり遠方から来たってのかい

 占領するつもりはないか・・・

 確かに占領するなら、この船にいる大人数で村人を殺しにくるはずだが、

 攻め込んだきたのは5人だけ

 しかも殺さず捕虜にしている

 

 一体何が目的なんだい・・・

 

 「御託はいいから、さっさとこの縄を解いて解放しとくれよ」

 

 「それは無理です」

 

 「・・・あんた、あたし達を何に使うつもりだ」

 

 「人質ですよ。ある男の暴走を止めるためのね」

 

 「暴走?何の話しだい」

 

 「アレンという男、ご存じですよね?」

 

 ハザードの口から出た名前に一瞬オーベルは戸惑ったが、

 誘拐された理由が見えた。

 そして人質を取った時点で、この男アレンの弱点を知っている。

 

 「なるほど。あんた、アレンの邪魔をするつもりだね。それに、あたしらを人質に使うってのかい」

 

 「その通り」

 

 「じゃ、今すぐ殺しとくれよ。そんな事になったら、あたしはアレンに顔向け出来ないからね」

 

 「大切な人質を殺すわけないでしょ、」

 

 「そうかい、」

 

 オーベルは後ろに立っていた男に体当たりし、そのまま海に飛び込もうとしたが、動きを読んでいたハザードに遮られた。


 「村長、アレンは闇の王、黒龍を復活させようとしている」

 

 「バカバカしい、でまかせ言うんじゃないよ、」

 

 「天界王がお隠れになっている今、奴を止めなければこの世界は破滅する。

 そして、アレンの暴挙に誰も気付いていない。

 気付いているのは、長年に渡り研究を続けてきた我らだけだ。

 ゆえに我ら銀狼一族が、世界を救うため奴を止める。

 これは全世界のための大義だ。理解していただけましたか?」

 

 「あんたの下手な作り話を聞かせるために、ここまで連れてきたってのかい!」

 

 ハザードは怖い顔になった。

  

 「牢屋に入れておけ」

 

 「はっ、」

 

 オーベル達は、船底にある牢屋へ連行された。

 

 「ふぅ、」

 

 ため息をついたハザードの近くに、ダザーが跪いていた。

 

 「ダザー、一人失ったか」

 

 「もっ、申し訳ございません・・・」

 

 ハザードは頭を下げているダザーに近づき、膝を折った。

 

 「お前のことだ。この戦が終わったら、一人で敵討ちに行くつもりだろ」

 

 「・・・」

 

 ハザードは、うなだれているダザーの肩の上に手を置いた。

 

 「ダザー、この戦、必ず我らが勝利する。そうだろ?」

 

 「・・・ははっ!」

 

 ハザードは、ダザーの肩をポンと叩いた。

 そして立ち上がり、暗い空に大声で叫んだ。

 

 「皆の者聞け!

  敵は神器を持つ者、強敵だ。

  だが、臆することはない!

  お前らは最強の部隊だ!

  日頃の厳しい鍛錬の成果を、このハザードに見せよ!」

 

 「うおおおー!」

 

 叫び声にも似た大きな唸り声が、沸き起こった。

 ハザードは、腰の銀狼剣(シルバーウルフ)を抜き、夜空に突き出した。

 

 「神の島へ向け出発だ!」

 

 「おおーっ!」

 

 男達は錨を上げ、白い帆を一斉に降ろした。

 そして、船はゆっくり動き出す。

 

 ハザードは腕を組み、夜空に浮かぶ2つの月を見ていた。

 

 「覚悟はいいか!アレン!」

 

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