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激流の中で  作者: 清水京太郎
第8章 神の島
79/94

78 頭中の秒針

 アレンは急いで甲板に出て海を見た。

 巨大な渦が海水を巻き込んで、ゴーっという唸り声を上げている。

 あちこちで波と波がぶつかり合い、激しい水しぶきを上げていた。

 

 「なっ・・・なんだ、これは・・・」

 

 サリヤも船室から飛び出して、渦を見ていた。

 信じられない光景に、息を飲んだ。

 

 「なんなの、これ!」

 

 船は、もう渦の中に入り込んでいた。

 ザーっという大量の水が流れる音で、隣にいても声が聞こえ難い。

 アクロスは思わず大声で言った。

 

 「アレン!このまま渦の中心にいけば、船はバラバラになるぞ!」

 

 ギギギギー、

 

 船がきしむ音が、激しくなってきた。

 バタバタという音を立て、強い風がサリヤの髪を激しく揺らす。

 上空は晴れているのに、ここだけまるで嵐だ。

 

 (中心に行く前に、バラバラになりそうだぜ・・・)

 

 ザバーン!

 

 「うわぁー、」

 

 突如波が船を越えて、アレン達を直撃した!

 水の勢いで、4人とも船の中央まで押し流される。

 

 ガガガー、

 

 船が大きく上下に揺れ、悲鳴を上げている!

 流れが速くなったのか、また一段と加速した!

 

 「キャー、」

 

 まだ起き上がれていないサリヤは、回転しながら船の外へ飛び出しそうになった!

 

 「助けてっ!」

 

 「サリヤ!」

 

 アレンはサリヤに向かって飛び込み、腕をつかんで船から飛び出すのを防いだ。

 船体は渦の中心に向けて傾いていたが、坂を上がるようにサリヤの身体が転がったのだ。

 

 (いっ、今のは!)

 

 ギルは立ち上がり、船の端から渦の中心を見た。

 

 ザバーン!

 

 大きな波に乗り上げたのか、今度は船は上へ突き上げられた。

 4人の身体が宙に浮く!

 

 「うわぁー!」

 

 ギルの身体が、船の外に飛び出た!

 

 「ギール!」

 

 海に落ちる寸前のところで、アクロスはギルの足首をつかんだ。

 逆さ吊りになって、首から上が海につかっている。

 アクロスはギルを引き上げた。

 

 「大丈夫か!」

 

 「ウゲッ、ゲホゲホ、」

 

 ギルは、口から海水を吐き出した。

 かなり飲み込んだようだ。


 「皆何かにつかまれ!海に投げ出されるぞ!」

 

 「アッ、アレンさん・・・ゲホゲホ、」

 

 「なんだ、ギル!」

 

 「かっ、可能性は低いですが・・・脱出できる方法を見つけました・・・」

 

 「なに!まじか!」

 

 「てっ、手漕ぎのボートをここに、・・・」

 

 「わかった!」

 

 

 アレンとアクロスは、ボートを持ってきた。

 

 「どうやるんだ、ギル!」

 

 「こっ、この船は、渦の中心に向けてグルグル回っています・・・中心に行けば行くほど速くなり、船にかかる遠心力も強くなります・・・」

 

 アレンは、サリヤが船から飛び出しそうになったのを思い出した。

 

 「そいつを利用するんだな!」

 

 「ええ、そうです」

 

 ギルは頷いた。

 

 「脱出の時に、ボートを渦の外に向けて押し出します。ですが、」


 「なんだ、」

 

 「これはタイミングが極端に難しい・・・早くても遅くてもダメです」

 

 「どのくらい難しいんだ!」

 

 「一瞬でも間違えると脱出は無理かと、」

 

 4人は沈黙した。

 船は速度を増して、渦の中心へと向かっている。

 

 「そんなこと出来るのか?飛んでる鳥の足の間に、弓矢を通すようなもんだぞ!」

 

 ギルはアクロスの問いには答えず、渦の中心をにらんでいた。

 

 (考えろ、計算するんだ・・・どの位置が最適なのか・・・

  位置・・・

  いや違う、場所じゃない、)

 

 「アレン、どうする!もう時間がないぞ!一か八か、今ここでボートで脱出するのもアリなんじゃないか!」

 

 (時間・・・そうだ、時間だ!)

 

 「ギルに任せよう」

 

 「アレン!」

 

 「アクロス。ここまで巻き込まれたら、運任せじゃ俺達は助からないぜ」

 

 強い風がマストにあたり、ヒューと甲高い音を発していた。

 

 「・・・そうか、わかった。だが、このボートはどう見ても二人乗りだぞ」

 

 アレンは、ボートをチラリと見た。

 

 「サリヤ、アクロス。お前らは、船室から全員の荷物を取ってきてくれ」

 

 サリヤとアクロスは、船室へ急いだ。

 アレンは木の手すりを足で破壊し、ボートが飛び出せるように脱出口を作った。

 

 「荷物を持ってきたわ、」

 

 3人は、波を被りながら荷物をボートに入れた。

 

 「よし。アクロス、お前はボートが渦に飛び出したら、全力で漕いでくれ」

 

 「わかった、」

 

 ギルは相変わらず、渦をにらんでいる。

 

 「俺が支えてるから、アクロスとサリヤはボートに乗ってくれ」

 

 アクロスはボートに乗り込んだ。そして、オールを握りしめる。

 

 「アレン、あたし達助かるかな・・・」

 

 「心配すんな、サリヤ。ギルを信じるんだ」

 

 アレンは微笑んだ。

 それを見て、サリヤは頷いた。

 サリヤは、アクロスと向い合せにボートに座った。

 

 「俺はギルの合図でボートを押す。ギルは合図を出したら、すぐボートに飛び込め、いいな!」

 

 ギルは返事しなかった。

 アレンの言葉は耳に入っていない。

 頭をフル回転させ、脱出の可能性が最も高いドンピシャの時間を計算していた。

 

 そして、答えが出る。

 

 ザバーン!

 

 大きな波が船を直撃した!

 

 バキバキバキッ!

 

 船の船尾が、波で破壊された。

 船はバランスを崩し、なんと回転し始めた!

 

 「アレン!これじゃギルが合図するなんて、とても無理だぞ!」

 

 「いや、アクロスさん。これだ、これでいいんです」

 

 「なんだと!」

 

 (渦に巻き込まれる遠心力に、船が回転するチカラが加わった!

  そうだ、これでいい

  正直、渦だけでは脱出は無理だと思ってたけど、これで脱出が現実的になった

  だけど・・・

  いや、もうここまできたら考えるな!

  

  マーラー様、どうか僕達を見守ってください!)

  

 ギルは目を閉じた。

  

 「アレン、ギルが合図を出したときに、船がどっちを向いているかわからんぞ」

 

 「そうだな、」

 

 「もし渦の中心に向いていたら、終わりだな」

 

 「アクロス、俺達はこういうの、何回も経験してきただろ」

 

 「今生きているのが不思議だよ」

 

 「今回もそうだ。ここまできたら、賭けるしかないのさ」

 

 「なんだ、結局運任せじゃないか」

 

 「やれること全部やった上での話しだ。何もせず、運だけに頼るのとは違うぜ」

 

 「まあ、それもそうだな」

 

 「心配すんなアクロス。俺は持ってる男だ」

 

 「フフッ、こんな極限状態の中で、よく言えるな」

 

 「アレンさん、もうすぐです!準備はいいですか!」

 

 「いつでもいいぜ!」

 


 目を閉じたギルは、頭に響く秒針の音を数えていた。

 

 カチ、カチ、カチ、

 

 青い水を巻き込む渦の中心は、もうすぐそこだ!

 

 バキバキバキッ!


 船はどんどん破壊され、、もう船室も無くなっていた。

 船体は軽くなり、さらに回転力が増した。

 サリヤはギュっと目を閉じ、両手でボートの端を握りしめている。

 激しく回転する船では、とても目を開けていられない。

 全員が目を閉じていた。

 

 アレンはギルの声、その一点に集中していた。

 荒れ狂う渦の真っ只中にいながら、アレンも音の無い世界にいた。

 

 

 ギルの声は、まだ聞こえない。

 きっとこの船は、もう分解寸前だろう。

 

 アレンは飛び出ようとするボートを必死に押さえていた。

 

 まだか、ギル・・・もうヤバいぜ、

  

 「今だあぁー!」

 

 素早く反応し、カッっと見開いたアレンの両目に、太陽の光が煌めいた!

 

 「はあぁ!」

 

 アレンは片手でボートを押し出し、もう片方でギルの背中を叩きボートに飛び込ませた!

 

 パシュー!

 

 ボートはロケットのように、凄い勢いで渦の外側に向け飛び出した!

 大渦に水の線を描く!

 

 「よし!やったぞー!」

 

 あと、もう少しで渦の外側だ、

 その時!

 

 ザバーン!

 

 大きな波がボートにぶつかり、脱出までもう少しのところでボートは止められた!

 アクロスはそれを待っていたように、全力でボートを漕いだ!

 

 「うおおぉー!」

 

 

 

 

 

 「はあはあ、・・・なんとか助かったな」

 

 さっきまでの嵐が、まるで嘘のように静かで穏やかな海になっていた。

 

 「アレン、アレンは!」

 

 「なに!」

 

 「アレンさん!」

 

 サリヤは立ち上がり、振り返ってボートの後ろを見た。

 アレンの姿は見えない。

 グラッとボートが揺れる。

 サリヤは、とっさに座り込んだ。

 

 「アレーーーン!」

 

 

 ザバーッ、

 

 海中から、浮上してきたアレンの頭が出てきた!

 

 「アレン!」

 

 「サリヤ、お前の叫び声は凄いな。水の中でも聞こえたぞ」

 

 サリヤは海に飛び込み、アレンに抱きついた。

 

 「よかった、」

 

 「サリヤ、お前がボートに乗らないのなら、俺が乗るぞ」

 

 「アレン、よくボートにつかまってられたな。凄いスピードだったはずだぞ」

 

 「このボート、オンボロでさ。後ろに手が入る穴が開いてたんだよ」

 

 「なるほど、」

 

 「でもアクロスが目一杯漕いだとき、折れてボートから離れちまった」

 

 「お前よくそれで、渦に巻き込まれなかったな」

 

 「ああ、凄い水流だったが、なんとか泳ぎきったぜ」

 

 「相変わらず凄い奴だ」

 

 「良かったです、ほっとしましたよ」

 

 「サリヤ、ボートに乗れ」

 

 ギルは、サリヤに手を伸ばした。

 

 「あ、ギル、お前は海の中だ」

 

 「えーっ!アレンさん、僕泳げないですって、」

 

 「アクロスが漕いでくれるから、ボートにつかまってるだけでいいんだよ」

 

 「あ、でも、ボートの上がいいな。テヘヘ」

 

 アクロスは、ゴホンと咳払いをして言った。

 

 「ギル、このボートは二人乗りだ。お前がいると、邪魔で漕げないんだよ」

 

 「ちょ、アクロスさんまで。なんか酷いなー、」

 

 「そういうわけで、すまんな」

 

 「うわぁ!」

 

 ザバーン、

 

 アクロスはギルの背中を押した。

 ギルは海の中で、バタバタもがいている。

 

 「たっ、助けて!」

 

 アクロスは、サリヤに向けて手を伸ばした。

 

 「さ、お嬢さん、どうぞ」

 

 サリヤがボートに乗ると、大きめの板が流れてきた。

 

 「お、これは船の残骸だな。アクロス、そこにロープあるか?」

 

 アクロスは、ボートに置いてあったロープをアレンに投げた。

 

 「ギル、この板に上がれ。これなら水の中にいなくて済むぞ」

 

 暴れていたギルは、板につかまった。

 

 「はあはあ、よかった・・・これも、きっと神の思し召しですね」

 

 アレンとギルは板の上に乗った。

 ギルは顔についた海水を、何度も手でぬぐっている。

 

 「しかし、ひでぇ目に遭ったな」

 

 「アレン、あんな大渦、あの村の漁師が知らないわけないぞ。俺達は、あのペシャルって男に一杯食わされたんじゃないのか」

 

 「そうかもな、」

 

 「あたし達を騙したのね。あの男、許せない!」

 

 「サリヤ、気にすんなって」

 

 「ええ、なんでよ!あたし達死にかけたんだよ。って言うか、ギルがいなかったら死んでた!許せるわけないじゃん!」

 

 「サリヤ、ギルがあの村で魔法を撃とうと立ち上がった時のこと、覚えているか?」

 

 「えっ?あぁ、確か、『俺達のチカラを見せてやる!』みたいな?」

 

 「あの時、ギルがマジで魔法を撃ってたら、どうなったと思う?」

 

 「たぶん、いや、間違いなく村は吹き飛んでますね」

 

 すかさず、ギルが答えた。

 

 「あの男からすれば、俺達はサランと同じなんだよ」

 

 アレンは板の上であぐらをかいて、渦があった方を見ていた。

 船の残骸と思われる木々が、海を漂っている。

 

 「・・・そうね」

 

 「サリヤ。怒るんなら、俺達にドラゴンオーブを探させた奴を怒れよ。こんな酷い旅に、俺達を仕向けた奴をな」

 

 「それって、ウォルタ城の大臣だっけ?」

 

 「いや、違う」

 

 「えっ?」

 

 「きっと、あいつだ」

 

 アレンは、人差し指を立て空を差した。

 皆顔を上げ、太陽が輝く青い空を見上げた。雲が全くない晴天だ。

 アクロスは、苦笑ぎみに言った。

 

 「神か、」

 

 「そうだ。俺はな、アクロス。ドラゴンオーブを手にしたとき、もし神って奴が出てきたら一発ぶん殴ってやるつもりだよ」

 

 「アレン、」

 

 「なんだ?」

 

 「思いっきり殴ってくれよ。吹っ飛ぶくらいにな」

 

 「ああ、任せとけ」

 

 アクロスは、ギルを見た。

 

 「ギル、アレンが神を殴るとか言ってるが、お前それでいいのか?」

 

 「ええ、もちろん。アレンさんの敵は僕の敵。例えそれが神であろうと、アレンさんの前に立ちはだかるのであれば、僕は容赦なく叩きのめします」

 

 ギルは笑顔で答えた。

 

 「お前、変わったな」

 

 「なに言ってるんですか、アクロスさん。僕はずっと同じですよ。これまでも、そして、これからもね、」

 

 「そうか。じゃ俺は、アレンの前に立つのだけは止めるよ」

 

 「えー、そういうつもりで言ったんじゃないですって、」

 

 4人の笑い声が、青い空に響いた。

 

 

 手漕ぎボートとロープで繋がれた一枚の板が、青い大海原をゆっくり進む。

 静かになった海には、オールのパシャ、パシャという音だけが聞こえた。

 

 「ねえギル、これって後どのくらいで着くの?」

 

 「さあー、どのくらいでしょうか。さっき頭使い過ぎちゃって、全然頭回ってません」

 

 「サリヤ、細かいことは気にすんな。そのうち見えてくるさ、俺達の目指す大陸がな」

 

 「・・・」

 

 

 だっ、大丈夫か、アレン!北大陸目指して、進め!

 

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