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激流の中で  作者: 清水京太郎
第8章 神の島
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77 ヴェルテクスの大渦

 「お前ら、このカネで久しぶりにディスペアでも行って大騒ぎするか!」

 

 「おぉー!」

 

 「まじか!やったぜ!」

 

 ペシャルの豪気な発言に、ライの村酒場は盛り上がった。

 娯楽といえば、賭け事ぐらいしかない彼らにとって、ディスペアは刺激的な町だ。

 村とは大違いの都会であり、今や南大陸で一番賑わっている。

 そこにタダで行けて、飲み食いまで出来るとなれば、

 大はしゃぎするのも無理はない。

 

 「ペシャル様、いいんですかい?これだけの人数で行けば、そのカネ全部無くなりますぜ」

 

 「構うもんか、どうせ泡ゼニだ。バカな若造から、タダ同然でせしめたカネだからな」

 

 「でも、あいつらが船の代金として渡したカネでしょ?」

 

 「心配すんな。くれてやった船は、村で一番のボロ船だよ。ガッハッハ、」

 

 ペシャルは、大笑いした。

 

 「アレンとかいうガキは、このカネの一部を教会に寄付しろとかほざいてたが、そんな事この俺がするわけねぇだろ、なあ皆!」

  

 大爆笑が起こった。

 「ボスが寄付なんかするわけねえよ」、「バカな奴らだ」、「かわいそうに同情するぜ」、

 大勢の嘲笑う声が、村の酒場に響いた。

 

 「神の武器かなんか知らねえが、全く生意気な若造だったぜ」

 

 「神の武器って、まさか、神器ですかい!」

 

 「奴らはそう言ってたが、そんな訳ねえさ、」

 

 「すげー、あいつら神様に選ばれた奴らだったんだ!」

 

 「アホか!違うってんだろ!だいたいな、そんなすげー奴らが、なんでこんな田舎の漁師町に来るんだ」

 

 「仲間を追いかけて、海を流れてきたって聞きやしたけど、」

 

 「だから、神に選ばれるような奴がそんな事するわけねえって。仲間がどうなろうと、どこかの城で贅沢に暮らしてるはずさ」

 

 「そう言われりゃ、そうですね」

 

 「偽物だよ、奴らは。どうせ、あの剣も何かのトリックに決まってる」

 

 「そうなんですかい、」

 

 「あの小僧も魔法を撃つような勢いだったが、本当は魔法なんて使えないのさ。俺が止めて、逆にほっとしたんじゃねえのか」

 

 ペシャルは、嫌味な笑いを浮かべた。

 

 「あ、でもペシャル様の傷を一瞬で治したんですってね?」

 

 

 その問いに、ペシャルは答えなかった。

 急に静かになったペシャルは、ジョッキの酒を喉に流し込んだ。

 最後まで一気に飲むと、テーブルに乱暴に叩きつけた。

 

 (あんな危ねえ連中、生かしておくわけにはいかねえな・・・悪いが、死んでもらうぜ)

 

 

 皆が酒でテンションが上がる中、その場に一人、苦虫を噛んだ顔の男がいた。

 その男は自分のボスながら、アレン達を騙した汚いやり方に怒りがわいていた。

 男は怒りに任せて酒をあおった。

 しかし、いくら酒を飲んでも、周りの連中が酔えば酔う程にその男は酔えないでいた。

 

 男は、ふと目の前を通り過ぎる男の腕をつかんだ。

 

 「ん、なんだ?」

 

 「あの金を渡した連中に船を手配したの、お前だよな」

 

 「ああ、そうだけど」

 

 「どの船を渡した?」

 

 「次の漁で廃船にしようかって言ってた船だ。ペシャル様にそう言われてたからな。何かあるのか?」

 

 「・・・やっぱりそうか」

 

 男はつかまれた腕を振り払い、立ち去ろうとした。

 しかし、追いかけられ今度は肩をつかまれた。

 

 「おい、なんだよ!まだ何か用か、」

 

 「奴らは船でどこへ向かった?」

 

 「北大陸だ。海流のことは、ちゃんと教えてやったぜ」

 

 「北大陸・・・」

 

 男は去ろうとした。

 

 「待て!お前、ヴェルテクスの大渦のことは教えたのか!」

 

 「いや、それは言わなかった」

 

 ガッシャーン!

 

 男はアレン達に船を渡した男の胸ぐらをつかみ、テーブルを倒しながら酒場の壁に押し付けた。

 食事が入った皿が割れる大きな音がしたが、周りの連中はチラリと見るだけで無関心だった。

 

 「なんだよ!」

 

 「なぜだ、なぜ言わなかった!あれに巻き込まれて、生きて帰った奴はいない!お前も知ってるだろ!」

 

 「ああ、知ってるとも、」

 

 「じゃ、なんで奴らに教えなかったんだ!」

 

 「教えるなって、言われたんだよ」

 

 「誰に!」

 

 「ペシャル様だ」

 

 

 

 

 アレン達は、順調に航海を続けていた。

 あの船を渡した男が言った通り、穏やかな晴天が続き、海が荒れることは一度もなかった。

 朝晩はかなり冷えてきたが、昼間はまだ暖かい。

 

 ギルは舵を取りながら、あの日の夜のことを思い出していた・・・

 

 

 

 夜食を食べ終わり、船室のドアを開けるとアレンとサリヤがいた。

 船室の窓明かりが、船尾にいる4人を照らした。

 アレンとサリヤの目は、赤くなっている。

 

 「ギル、」

 

 「アレンさん、元気になりましたか?」

 

 「心配かけて悪かったな。もう大丈夫だ」

 

 「良かった、」

 

 ギルは、ニッコリ微笑んだ。

 

 舵を握っていたアクロスは、少し間をあけてアレンに言った。

 

 「アレン、教えてくれないか。ライの村で何があったのか」

 

 「ああ、お前達にも話さないとな」

 

 「ぜひ教えてくれ」

 

 アレンは頷いた。

 

 

 「あの村には、俺の母親の墓があったんだ」

 

 「なっ!」

 

 「アッ、アレンさんの・・・お母さんのお墓・・・ですか・・・」

 

 アレンの衝撃発言に、ギルとアクロスは動けなくなった。

 

 「墓には何と彫ってあったんだ?」

 

 「見てない・・・」

 

 「・・・」

 

 と言うか、アレンは見れなかった。

 自分の事が明らかになれば、今までの自分が自分で無くなるような、

 そんな危機感を、あの時とっさに感じたからだ。

 

 「10年前に船で来て、その後すぐ村の教会で死んだみたいだ」

 

 「どうして、お母さんだとわかったんです?」

 

 アレンは首飾りを触った。

 

 「俺と同じ首飾りをしていたらしい・・・」

  

 ギルとアクロスは、顔を見合わせた。

 

 「これは、じっちゃんにもらったものだ。滅多に無いものだから大切にするように言われてた」

 

 アクロスは、申し訳なさそうな顔でアレンに尋ねた。

 

 「アレン、こう言うのはなんだが、たまたま同じ首飾りだったってこともあるんじゃないのか?」

 

 アレンは首飾りを外し、アクロスに渡した。

 

 「その首飾りについてる小さな金属の裏に、紋章みたいなのが彫ってあるだろ」

 

 「確かに。これは、何の紋章だろう?」

 

 ギルは覗き込むように見た。

 丸の中に三角形と、下向きの三角形を重ねたものが刻まれてある。

 

 「これは紋章というより、記号というか、照合のようなものじゃないでしょうか」

 

 「俺は見たんだよ、それと同じ形を」

 

 「どこでですか?」

 

 「ウォルタ城の中」

 

 「ウォルタ城の?」

 

 「お城の中のどこで見ましたか、アレンさん」

 

 「壁に彫ってあった。階段に飾ってある絵の上の壁だ」

 

 「その絵は、どんな絵ですか?」

 

 アレンは顔を上げた。夜空は満天の星だ。

 そのダイヤモンドの輝きに照らされて、4人を乗せた船は静かに北へ進んでいた。

 音が無い、静寂の夜。

 

 「髭を生やして、王冠を付けた男の絵だ」

 

 

 こんな深い夜の空を、あの墓の中の人もどこかで見ていたのだろうか。

 もしかしたら、同じ時に同じ空を見ていたかも知れない。

 聞けるなら、聞いてみたい。

 どんな思いで、世界を旅していたのか・・・

 

 「アクロス、その首飾りは特別なんだよ。それが、たまたま同じだったなんて・・・そんな事、あり得ると思うか」

 

 「そうだな・・・」

 

 アクロスは、アレンに首飾りを返した。

 アレンは受け取ると、そっと首飾りを握りしめた。

 

 「腹減ったな。メシでも食ってくる」

 

 アレンは、船室の中に入っていった。

 バタンとドアが閉まった。

 

 

 サリヤはアレンが話しをしている間、ずっと黒い海を見ていた。

 

 あたしは、アレンの事を何も知らない。

 それはアレンが言わないから、って思ってた。

 けど、アレンは自分のことを知らなかったんだ。

 自分が何者であるのかさえも・・・

 

 「アクロスさん、もしかしてアレンさんは、ウォルタの王子・・・ですかね」

 

 「どうかな。少なくとも俺が城勤めをしている時には、そんな話し聞いたことがない」

 

 「ですよね。僕も全然知らないですし、」

 

 「ウォルタにはアクタという王子がいたはずだ。病死したと聞いているがな」

 

 サリヤが、ポツリとつぶやいた。

 

 「アレン言ってた。小さい頃からずっと、おじいさんと旅してたんだって」

 

 「アレンさんがもし王子なら、お城で贅沢な暮らしが出来たはずですけどね、」

 

 「もしかして、城の中でアレンが王子だと都合の悪い事でもあったのかもな」

 

 「それで、お城を追い出されたってことですか?」

 

 「いや、あくまで想像だ」

 

 「・・・」

 

 ギルは軽くため息をついた。

 

 「もう、何が何だか分かんなくなってきましたね」

 

 「でも、アレンがお母さんだって言うのは、間違いないと思うわ」

 

 「どうしてそう言えるんだ?」

 

 「親子の血って、そういうもんだよ。自分の親のこと、絶対間違えない」

 

 

 「まあ、確かにそうだな」

 


 「ねぇ、」

 

 サリヤはクルりと向きを変え、ギルとアクロスに向かって言った。

 

 「なんだ?」

 

 「アレンがどんな人であっても、あたし達これまでと同じだよね?」

 

 

 アクロスは、ギルの肩をポンと叩いて言った。

 

 「アレンが何者であろうと、そんなこと関係ない。なあギル」

 

 「ええ、そうです。心配しなでください、サリヤさん。何も変わりませんから」

 

 サリヤは、ニコっと微笑んだ。

 

 「この旅が終わったらさ、皆でお墓参りに行こうよ」

 

 「ああ、そうだな」

 

 「ぜひ行きましょう!」

 

 「さぁて、あたしもゴハン食べてこよっと、」

 

 サリヤは、船室に入った。

 

 

 「ギル、」

 

 「なんですか、アクロスさん」

 

 「もしアレンがウォルタの王子だとすると、気になることがあるな、」

 

 

 

 ギルはビクっとなり、目が覚めた。

 あまりの穏やかな天気に、瞬間的に寝ていたようだ。

 ブルブルと顔を横に何度か振った。

 

 「気になることか、」

 

 舵から手を離し、身体を動かした。

 まだ眠気の残る身体に刺激を与えた。

 うーんと背伸びをしたとき、船が斜めに加速した。

 

 「おっと、」

 

 よろけたが、反射的に舵を持った。

 

 (潮の流れが変わった?おかしいな、まだ北へ流れているはずだけど・・・)

 

 顔にあたる風が、さっきより強くなっている。船はスピードを上げていた。

 アクロスが船室から出てきた。

 

 「今揺れたが、何かあったのか?」

 

 「アクロスさん、ちょっと舵を持ってもらえますか」

 

 「わかった、」

 

 ギルは船首に出て海の様子を見に行こうとした、その時、

 耳にゴォーっという音が聞こえた。

 

 「あっ、あれは!」

 

 それは夢でも見ているのかと思えるほど、信じられない光景だった。

 まるで海の中に発生した竜巻だ!

 巨大な大渦が、物凄い回転をしながら渦の中心へと海水を巻き込んでいた!

 

 「これはヤバい!」

 

 ギギギーッ

 

 木が軋む音を発して、船は大渦へと引き込まれていく!

 ギルは転ぶように甲板を走り、船室のドアを開けた!

 

 「アッ、アレンさん!大変です!」

 

 ギルの凄い声にアレンは飛び起きた。

 

 「どうした、ギル!」

 

 「渦です!大渦に船が巻き込まれています!」

 

 「なんだと!」

 

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