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激流の中で  作者: 清水京太郎
第8章 神の島
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74 動き出すハザード

 「兄上!」

 

 「うわぉ!」

 

 ハザードは、自室の椅子から転げ落ちた。

 

 「わはっは、相変わらずだな」

 

 「シアン・・・お前いい加減にその登場の仕方、やめたらどうなんだ!」

 

 シアンは、お腹を押さえて笑いを堪えていた。

 ハザードはぶつぶつ言いながら、椅子を起こして座り直した。

 

 「俺が若死にしたら、お前のせいだからな、」

 

 ったく、これじゃ俺の寿命が縮まる一方だよ。

 里の中で、ハイドスキルを使う変態はこいつだけだ。

 しかもトップクラスのハイドスキルがゆえ、一族の中で誰も見破ることが出来ない始末の悪さ。

 

 ん、待てよ・・・

 影に隠れて、俺のあんなことや、こんなことも・・・

 まさか、こいつ俺の隠された秘密を握るために!

 

 「兄上、何一人言を言ってるんだ」

 

 ハザードは我に返り、コホンと咳払いをして、

 

 「戻って来たということは、何かつかめたのか?」

 

 「ああ、ついにわかったよ。ドラゴンオーブの在処がね」

 

 「なんだと!」

 

 ハザードは、あわててヤンブルを呼んだ。

 ボーっとしているようだが、ヤンブルはいつの間にか、ハザードの正式な側近にまで出世していたのだ。

 すぐ部屋がノックされ、ヤンブルが入ってきた。

 

 「さあ、教えろ。ドラゴンオーブはどこにある!」

 

 「兄上、世界地図はあるのか?」

 

 ヤンブルは立ち上がり、書棚の引き出しから世界地図をテーブルに広げた。

 シアンはある一点を指さして、兄の顔を見た。

 

 「この辺りだよ」

 

 「シアン、ドラゴンオーブは神の島にあると言われているのをお前も知っているだろう。ここは大陸じゃないか」

 

 「だけど、奴らが集めた本の地図からして、ここに間違いないぜ」

 

 「本?ドラゴンオーブの場所が描かれた本があるのか?」

 

 

 

 

 シアンはソリッドの町で、あやうくアレンに発見されそうになった。

 なんとかその場は逃げたが、このままハイドスキルを使って影から監視しても、

 アレンに発見されてしまうのは時間の問題だろう。

 

 そのことを踏まえ、シアンは決断した。

 そう、堂々とアレンの前にその姿を見せることを。

 

 アレン達がソリッドの町からテンプ村に向かったときに、

 次は南の大陸に行くことを予想したシアンは、小舟に乗って単身南の大陸に向かった。

 実は海竜神と遭遇せずに、南の大陸に行くルートがあったのだ。

 しかし、それは小舟でしか無理で、一人で南の大陸に行く場合の専用ルートだろう。

 

 そして、アレン達が砂の城を攻略している頃には、シアンはディスペアの町に到着していた。

 その町の住人として、溶け込むために。

 

 やがて、ディスペアに到着したアレン達がグレアとにらみ合っている時に、

 シアンは、そこにいた群衆に紛れ込んでいた。

 

 

 

 

 「あいつらは、古文書と呼ばれる本を集めてたよ」

 

 「古文書か。それにドラゴンオーブの場所が記されているんだな」

 

 シアンはヤンブルが出した茶を飲み、菓子を頬張った。

 久しぶりの里の緑茶は、独特のいつもの風味があり、菓子も食べなれた味で美味しかった。

 

 「古文書は全部で5冊。奴らは、そのうちの3冊を集めた」

 

 「5冊?じゃ、ドラゴンオーブの在処は、バラバラに描かれているのか?」

 

 「その通りだ、兄上」

 

 「3冊しかないのに、お前よくわかったな」

 

 「フフフ、」

 

 自分は偉いだろうと、言わんばかりの視線を送ってくる妹。

 ハザードは、今褒める言葉を言うべきか迷った。

 シアンは、さっきから何も言わないヤンブルに視線を移した。

 いきなり飛んできた視線に、空気を読んだヤンブルは、

 

 「さっ、さすがはシアン様!」

 

 この言葉が、鼻が高くなった妹を更に調子づかせるのは間違いない。

 シアンは、自分の前のカップを指さした。

 ヤンブルは、すかさずお代わりのお茶を入れに立ち上がった。

 こいつが里の重職についたら、ヤンブルは間違いなく小間使いされるだろうな。

 

 ハザードは小さくため息をつき、

 

 「で、どうして3冊でドラゴンオーブの在処がわかったんだ?」

 

 「答えは簡単。3冊でわかるようになっていたってこと」

 

 なんだよ、それは!

 独自の解析とか分析で場所を特定できました!的なことじゃ無かったのか。

 さっきの高くなった鼻は一体・・・

 

 「待てよ、ってことは奴らはもう向かっているってことか!」

 

 そう叫んだハザードは、思わず立ち上がった。

 

 「兄上、落ち着けよ」

 

 「これが落ち着いてなどいられるか!我らより先に奴らが見つけたらどうするんだ!」

 

 「その心配はないぜ」

 

 「なぜだ、」

 

 「あいつらは仲間割れしたよ」

 

 その言葉を言って、プッっとシアンは噴き出した。

 

 「なに!仲間割れだと?」

 

 「アレンの仲間で、一番身体のデカいアクロスと呼ばれる奴が、

 大陸のボスであるサランとの戦いで、行方不明になった。

 まあ、体力だけはありそうなので、どこかでしぶとく生きているかも知れないけどな。

 それが原因かわかんねえけど、奴らはその後仲間割れして、

 アレンだけ、どこかへ旅立ったってわけ」

 

 「戦いで行方不明って、なんだそれは?」

 

 シアンはニヤリと笑った。

 

 「俺が落としてやったんだよ、海に通じる穴にな」

 

 「穴?」

 

 話が見えないとばかりに、眉をひそめる兄にシアンは説明した。

 

 戦いの場所であるサラン城の覇王の間には、サランの非常用の脱出口があった。

 シアンは部屋の中の脱出口がある場所と、それを開けるスイッチがある所を知っていた。

 サラン城に忍び込んで、いろいろ探っているうちに、

 魔物の会話で偶然その存在を知ったのだ。

 アレンが脱出口の真上にいるチャンスを狙って、シアンはそのスイッチを押した。

 

 「アレンを落として、仲間をバラバラにしたかったんだが、

 アクロスとかいうおっさんが、アレンの身代わりになって落ちやがったんだ」

 

 「そういうことか、」

 

 「脱出口が開いたせいか知らないが、サランの城は崩れちまったぜ」

 

 おいおい、それってお前が城を壊したってことだよな。

 高笑いするシアンを見て、恐ろしさを感じたハザードであった。

 

 「じゃ、残ったのはサリヤとギルだな」

 

 「そうだ。二人は、すぐにアレンを追いかけるでもなく、町に残って何やらコソコソしてた」

 

 (コソコソ・・・)

 

 「俺は奴らが宿屋を留守にしてる隙に、荷物から本を取り出して中を見たってわけ」

 

 「なるほど、」

 

 ハザードは再び立ち上がり、顎に手を当てながらウロウロと部屋を歩き回った。

 

 「3冊で在処がわかるようになってるのに、なぜ5冊あるんだ?」

 

 「それだよ、兄上。これを見てくれ」

 

 シアンは懐から、文字が書かれた紙を取り出した。

 

 「こいつが、地図と一緒に書かれてあった文字だ」

 

 「これは古代文字だな」

 

 ハザードは、ヤンブルに研究所にいるバルブを呼んでくるように指示した。

 

 

 「族長、お呼びですかな」

 

 「バルブ、これを読んでほしい」

 

 テーブルには、シアンが古文書から書き写した3行の文字が書かれた紙があった。

 部屋に入ったバルブは、ソファーに座った。

 

 「これは古代文字ですな」

 

 「なんと書かれてある?」

 

 バルブは声に出して読んだ。

 

  ・統べる者はそこにいる

  ・神への道は開かれるであろう

  ・古来(コライ)より、すべての姿を現したとき

  

 「神への道は開かれる、か」

 

 「兄上、古来コライとはなんだ?」

 

 ハザードは、手を広げて首を横に振った。

 

 「しかし、統べる者はそこにいる、と言うのが気になりますな。これは、ドラゴンオーブを守護する者が存在するやも」

 

 「簡単には手に入らないってことか・・・」

 

 バルブは少し考え、

 

 「族長、統べる者というは、もしかしてドラゴンオーブそのもののことではないですかな」

 

 「なるほど!ボス的な何かがいると言うより、そこにドラゴンオーブが置いてあるってことか」

 

 「そうとも考えられますな」

 

 「ふむ・・・」

  

 ハザードは、窓から見える見慣れた景色を見た。

 今日も一族の攻撃隊は、汗を流しながら特訓に励んでいる。

 遠くに見える畑から、作物を採取する者がいる。

 研究所の前で立ち話しをする者がいる。

 母親と手をつないでいる子供は、窓から見えるハザードを見つけて手を振っている。

 

 いつもの見慣れた風景、いつもの日常。

 だが黒龍が復活することになれば、里は蹂躙され、この日常は簡単に失われるだろう。

 

 「よし、決めたぞ。ドラゴンオーブがある地点へ向かう!」

 

 その号令に、シアン、ヤンブル、そしてバルブは立ち上がった。

 

 「我ら銀狼一族が、ドラゴンオーブを奪取するときがきた」

 

 「ついにですな、族長」

 

 ハザードは力強く頷いた。

 

 「奴らが仲間割れしている今が千載一遇のチャンスだ。ヤンブル、一族の精鋭を集めろ!」

 

 「はは!」

 

 「バルブ、科学部隊からも何名か連れて行くぞ」

 

 「もちろんでございます。そして族長、朗報がございますぞ」

 

 「なんだ?」

 

 「例の装置、完成しております」

 

 「なに!それは朗報だな!」

 

 「あとは、アレンとかいう小僧だけですな」

 

 「フフ、それは俺に秘策がある。任せておけ」

 

 「おお、さすがは族長」

 

 「いいか、必ず、奴らより先にドラゴンオーブを手に入れるぞ!」

 

 「ははっ!」

 

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