74 動き出すハザード
「兄上!」
「うわぉ!」
ハザードは、自室の椅子から転げ落ちた。
「わはっは、相変わらずだな」
「シアン・・・お前いい加減にその登場の仕方、やめたらどうなんだ!」
シアンは、お腹を押さえて笑いを堪えていた。
ハザードはぶつぶつ言いながら、椅子を起こして座り直した。
「俺が若死にしたら、お前のせいだからな、」
ったく、これじゃ俺の寿命が縮まる一方だよ。
里の中で、ハイドスキルを使う変態はこいつだけだ。
しかもトップクラスのハイドスキルがゆえ、一族の中で誰も見破ることが出来ない始末の悪さ。
ん、待てよ・・・
影に隠れて、俺のあんなことや、こんなことも・・・
まさか、こいつ俺の隠された秘密を握るために!
「兄上、何一人言を言ってるんだ」
ハザードは我に返り、コホンと咳払いをして、
「戻って来たということは、何かつかめたのか?」
「ああ、ついにわかったよ。ドラゴンオーブの在処がね」
「なんだと!」
ハザードは、あわててヤンブルを呼んだ。
ボーっとしているようだが、ヤンブルはいつの間にか、ハザードの正式な側近にまで出世していたのだ。
すぐ部屋がノックされ、ヤンブルが入ってきた。
「さあ、教えろ。ドラゴンオーブはどこにある!」
「兄上、世界地図はあるのか?」
ヤンブルは立ち上がり、書棚の引き出しから世界地図をテーブルに広げた。
シアンはある一点を指さして、兄の顔を見た。
「この辺りだよ」
「シアン、ドラゴンオーブは神の島にあると言われているのをお前も知っているだろう。ここは大陸じゃないか」
「だけど、奴らが集めた本の地図からして、ここに間違いないぜ」
「本?ドラゴンオーブの場所が描かれた本があるのか?」
シアンはソリッドの町で、あやうくアレンに発見されそうになった。
なんとかその場は逃げたが、このままハイドスキルを使って影から監視しても、
アレンに発見されてしまうのは時間の問題だろう。
そのことを踏まえ、シアンは決断した。
そう、堂々とアレンの前にその姿を見せることを。
アレン達がソリッドの町からテンプ村に向かったときに、
次は南の大陸に行くことを予想したシアンは、小舟に乗って単身南の大陸に向かった。
実は海竜神と遭遇せずに、南の大陸に行くルートがあったのだ。
しかし、それは小舟でしか無理で、一人で南の大陸に行く場合の専用ルートだろう。
そして、アレン達が砂の城を攻略している頃には、シアンはディスペアの町に到着していた。
その町の住人として、溶け込むために。
やがて、ディスペアに到着したアレン達がグレアとにらみ合っている時に、
シアンは、そこにいた群衆に紛れ込んでいた。
「あいつらは、古文書と呼ばれる本を集めてたよ」
「古文書か。それにドラゴンオーブの場所が記されているんだな」
シアンはヤンブルが出した茶を飲み、菓子を頬張った。
久しぶりの里の緑茶は、独特のいつもの風味があり、菓子も食べなれた味で美味しかった。
「古文書は全部で5冊。奴らは、そのうちの3冊を集めた」
「5冊?じゃ、ドラゴンオーブの在処は、バラバラに描かれているのか?」
「その通りだ、兄上」
「3冊しかないのに、お前よくわかったな」
「フフフ、」
自分は偉いだろうと、言わんばかりの視線を送ってくる妹。
ハザードは、今褒める言葉を言うべきか迷った。
シアンは、さっきから何も言わないヤンブルに視線を移した。
いきなり飛んできた視線に、空気を読んだヤンブルは、
「さっ、さすがはシアン様!」
この言葉が、鼻が高くなった妹を更に調子づかせるのは間違いない。
シアンは、自分の前のカップを指さした。
ヤンブルは、すかさずお代わりのお茶を入れに立ち上がった。
こいつが里の重職についたら、ヤンブルは間違いなく小間使いされるだろうな。
ハザードは小さくため息をつき、
「で、どうして3冊でドラゴンオーブの在処がわかったんだ?」
「答えは簡単。3冊でわかるようになっていたってこと」
なんだよ、それは!
独自の解析とか分析で場所を特定できました!的なことじゃ無かったのか。
さっきの高くなった鼻は一体・・・
「待てよ、ってことは奴らはもう向かっているってことか!」
そう叫んだハザードは、思わず立ち上がった。
「兄上、落ち着けよ」
「これが落ち着いてなどいられるか!我らより先に奴らが見つけたらどうするんだ!」
「その心配はないぜ」
「なぜだ、」
「あいつらは仲間割れしたよ」
その言葉を言って、プッっとシアンは噴き出した。
「なに!仲間割れだと?」
「アレンの仲間で、一番身体のデカいアクロスと呼ばれる奴が、
大陸のボスであるサランとの戦いで、行方不明になった。
まあ、体力だけはありそうなので、どこかでしぶとく生きているかも知れないけどな。
それが原因かわかんねえけど、奴らはその後仲間割れして、
アレンだけ、どこかへ旅立ったってわけ」
「戦いで行方不明って、なんだそれは?」
シアンはニヤリと笑った。
「俺が落としてやったんだよ、海に通じる穴にな」
「穴?」
話が見えないとばかりに、眉をひそめる兄にシアンは説明した。
戦いの場所であるサラン城の覇王の間には、サランの非常用の脱出口があった。
シアンは部屋の中の脱出口がある場所と、それを開けるスイッチがある所を知っていた。
サラン城に忍び込んで、いろいろ探っているうちに、
魔物の会話で偶然その存在を知ったのだ。
アレンが脱出口の真上にいるチャンスを狙って、シアンはそのスイッチを押した。
「アレンを落として、仲間をバラバラにしたかったんだが、
アクロスとかいうおっさんが、アレンの身代わりになって落ちやがったんだ」
「そういうことか、」
「脱出口が開いたせいか知らないが、サランの城は崩れちまったぜ」
おいおい、それってお前が城を壊したってことだよな。
高笑いするシアンを見て、恐ろしさを感じたハザードであった。
「じゃ、残ったのはサリヤとギルだな」
「そうだ。二人は、すぐにアレンを追いかけるでもなく、町に残って何やらコソコソしてた」
(コソコソ・・・)
「俺は奴らが宿屋を留守にしてる隙に、荷物から本を取り出して中を見たってわけ」
「なるほど、」
ハザードは再び立ち上がり、顎に手を当てながらウロウロと部屋を歩き回った。
「3冊で在処がわかるようになってるのに、なぜ5冊あるんだ?」
「それだよ、兄上。これを見てくれ」
シアンは懐から、文字が書かれた紙を取り出した。
「こいつが、地図と一緒に書かれてあった文字だ」
「これは古代文字だな」
ハザードは、ヤンブルに研究所にいるバルブを呼んでくるように指示した。
「族長、お呼びですかな」
「バルブ、これを読んでほしい」
テーブルには、シアンが古文書から書き写した3行の文字が書かれた紙があった。
部屋に入ったバルブは、ソファーに座った。
「これは古代文字ですな」
「なんと書かれてある?」
バルブは声に出して読んだ。
・統べる者はそこにいる
・神への道は開かれるであろう
・古来より、すべての姿を現したとき
「神への道は開かれる、か」
「兄上、古来とはなんだ?」
ハザードは、手を広げて首を横に振った。
「しかし、統べる者はそこにいる、と言うのが気になりますな。これは、ドラゴンオーブを守護する者が存在するやも」
「簡単には手に入らないってことか・・・」
バルブは少し考え、
「族長、統べる者というは、もしかしてドラゴンオーブそのもののことではないですかな」
「なるほど!ボス的な何かがいると言うより、そこにドラゴンオーブが置いてあるってことか」
「そうとも考えられますな」
「ふむ・・・」
ハザードは、窓から見える見慣れた景色を見た。
今日も一族の攻撃隊は、汗を流しながら特訓に励んでいる。
遠くに見える畑から、作物を採取する者がいる。
研究所の前で立ち話しをする者がいる。
母親と手をつないでいる子供は、窓から見えるハザードを見つけて手を振っている。
いつもの見慣れた風景、いつもの日常。
だが黒龍が復活することになれば、里は蹂躙され、この日常は簡単に失われるだろう。
「よし、決めたぞ。ドラゴンオーブがある地点へ向かう!」
その号令に、シアン、ヤンブル、そしてバルブは立ち上がった。
「我ら銀狼一族が、ドラゴンオーブを奪取するときがきた」
「ついにですな、族長」
ハザードは力強く頷いた。
「奴らが仲間割れしている今が千載一遇のチャンスだ。ヤンブル、一族の精鋭を集めろ!」
「はは!」
「バルブ、科学部隊からも何名か連れて行くぞ」
「もちろんでございます。そして族長、朗報がございますぞ」
「なんだ?」
「例の装置、完成しております」
「なに!それは朗報だな!」
「あとは、アレンとかいう小僧だけですな」
「フフ、それは俺に秘策がある。任せておけ」
「おお、さすがは族長」
「いいか、必ず、奴らより先にドラゴンオーブを手に入れるぞ!」
「ははっ!」




