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激流の中で  作者: 清水京太郎
第8章 神の島
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73 教会の墓地

 教会の一室を借りて、アレン達は集まっていた。

 

 「ギル、この村からドラゴンオーブのあるところまで、どのくらいかかりそうだ?」

 

 「なに!ドラゴンオーブがある場所がわかったのか!」

 

 「あ、アクロスさんには言ってなかったですね。神の島の場所、わかりました」

 

 「3冊でわかったのか?」

 

 「そうです。場所だけなら3冊でわかる仕組みになってました」

 

 ギルは、ディスペアでもらった地図を広げた。

 

 「この地図には南大陸しか描かれてないですが、あの砂の城があった場所のもっと東、この辺りにドラゴンオーブがある神の島があります」

 

 ギルは、地図じゃない床の部分を指差した。

 

 「ギルが言うには、神の島は陸地だそうだ」

 

 「島なのに陸地にあるのか?」

 

 「アレンさん、あれから考えたのですが、もしかしたら島って、湖に浮かぶ島のことじゃないでしょうか」

 

 「なるほど!それだよ、きっと」

 

 「それと、さっきの日数のことですが、海流の流れや風向きがどうなるかが大きく影響します。潮の流れが逆だと、長い船旅になるかも知れません」

 

 「それは問題ありません」

 

 扉の向こうで声がした。

 

 ギルが扉を開けると、男が立っていた。

 

 「ペシャル様の命令で、アレンさん達にお渡しする船を決めましたので、お伝えに来ました」

 

 ギルは男に向かって言った。

 

 「問題ないというのは、海流は南から北へ流れてるってことですか?」

 

 「そうです。南大陸の陸側は北から南へ、海側は南から北へと流れています」

 

 「じゃ、大きく円を描くようになっているんですね!」

 

 「はい、その通りです。おまけに、今の季節は風はほとんどなく、海が荒れることもありませんね」

 

 「アレンさん、これはラッキーですよ。海流に乗れば、かなり早く着けます!」

 

 「やっぱり俺は持ってる男だったな、」

 

 アレンはサリヤをチラっと見たが、サリヤはノーコメントだった。

 ギルは男に近寄り、海流の流れが変わる地点を教えてもらった。

 

 「この地図でいうと、この辺りです」

 

 男は地図のあるポイントを指で指した。

 

 「ありがとう!助かります」

 

 アクロスは立ち上がった。

 

 「じゃ、船の場所まで案内してもらおうか」

 

 「アクロス、俺が行こう」

 

 「いやアレン、お前はここに残れ。俺が行く」

 

 アクロスは、扉の前に立っていた男と教会を後にした。

 

 

 

 出発の朝がきた。

 水平線から太陽が登ってくる。アレンは、明るくなり始めた教会の二階の部屋にいた。

 なんとなく目覚めてしまったが、出発にはまだ早い。

 

 「今日も、いい天気になりそうだ」

 

 窓を開け、大きく背伸びをした。朝のひんやりした空気が、部屋の中に流れ込んできた。

 荷物の整理をしていると、窓に気配を感じた。

 素早く剣をとったが、窓にいたのはセキレイだった。

 

 (人の気配を感じたが・・・)

 

 アレンが窓に近づくと、セキレイは部屋の中に入り木の椅子にとまった。

 窓から顔を出し外を見たが、誰かいる気配は無い。

 アレンは小さくため息をつき、外から部屋へ視線を移すと、さっきのセキレイがアレンを見ていた。

 

 「随分人懐っこい鳥だな、」

 

 セキレイは首をかしげてアレンの顔を見ながら、しっぽを上下に忙しく動かしている。

 

 ふと、セキレイの動きが止まった。そしてバタバタと羽ばたき、窓の外へ飛んだ。

 アレンは気になって窓から顔を出すと、セキレイは教会近くの墓地の墓石の上に止まり、アレンを見上げている。

 

 「何かあるのか?」

 

 アレンは手に剣を持ち、階段を降りて教会近くの墓地へ行った。

 明るくなり始めた外は、空気が冷たく少し霧が出ていた。

 

 セキレイはアレンが墓石の近くに来ると、どこかへ飛んで行った。

 

 「誰の墓だろう」

 

 「そのお墓、気になりますか?」

 

 アレンが振り返ると、少し離れた場所にテレズが立っていた。

 テレズはアレンのそばまで来て、墓石を見つめた。

 

 「このお墓の人、わたし覚えてます」

 

 「最近死んだ人か?」

 

 「いえ、もう10年くらい前になるかしら。私がまだ小さかった頃、この教会でその人は亡くなりました。女性の方です」

 

 「随分前だな、」

 

 「この村に来た時は、亡くなる少し前でした」

 

 「弱ってたのか」

 

 「ええ、とても。なんでも大陸中を旅してたとかで、全身に傷があって見ているのが辛いくらいでしたね」

 

 「まじか、」

 

 「その人は、船を降りてすぐ教会に運ばれました。その時私は、小さいながらも教会の手伝いをしていたんです」

 

 「そうか、偉いんだな」

 

 「熱が酷く、私が水で湿らせた布を頭にのせてあげました。そしたら、痩せて黒ずんだ顔で微笑んでくれました」

 

 「・・・」

 

 「ゆっくりとした動作で、私の頭をなでてくれたのですが、その手がまるで骸骨のような手で、」

 

 テレズは墓石の前で膝を折り、手を合わせた。

 

 「その手を見て、私怖くなって・・・そのまま、走って逃げちゃったんです」

 

 「・・・きっと辛い旅だったんだろう」

 

 「その後、2、3日して、その人は亡くなりました」

 

 「そうか、」

 

 

 「アレンさん、」

 

 「なんだ?」

 

 「その人、たぶん高貴な方だと思います。持ち物に高価な物がありましたし、着ていた服も汚れてましたがシルクでした。どこかのお金持ちの人ではないかと、」

 

 「お金持ちねぇ。なんで、そんな人が世界を旅して、こんな田舎の島に来たのか、」

 

 「私、見たんです」

 

 「見た?」

 

 テレズは立ち上がり、アレンの顔を真っすぐに見た。

 

 「その人、アレンさんと同じ首飾りをつけてました」

 

 「えっ、」

 

 剣が手から落ちた。

 

 

 アレンは墓石を見た。そこには、こう掘られてあった。

 

   「アディア、ここに眠る」

   

 アレンは、墓石の前から動けなくなった。

 

 「アレンさん、お渡ししたい物があります。こちらへ、」

 

 アレンはテレズの言葉に我に返り、剣を拾いテレズの後をついて行った。

 

 そこは、教会の保管庫のような部屋だった。

 テレズはある引き出しから、一冊の本を取り出した。

 

 「お墓の女性が持っていた本です」

 

 「これは、」

 

 それは、間違いなく古文書だった。

 

 「アレンさん、お墓の人は、あなたの、」

 

 「言うな!」

 

 テレズはアレンの大きな声に驚いた。

 

 「・・・それ以上言うな、」

 

 「でっ、でも、」

 

 「そんなことを聞いて何になるんだ。もう何を言っても、過ぎ去った過去なんだよ。遅い、今さら遅いんだ」

 

 「アレンさん・・・」

 

 アレンはテレズの手から古文書を取った。

 

 「この本はもらっておく。世話になった、感謝してるよ」

 

 アレンは、くるりとテレズに背を向けた。

 

 「あ、待って下さい。せめて、あのお墓に手を合わせていただけませんか、」

 

 「俺に父親も母親もいない。俺の身内はじっちゃんだけだ。それだけだ」

 

 

 そう言い残し、アレンは部屋を出た。

 

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