73 教会の墓地
教会の一室を借りて、アレン達は集まっていた。
「ギル、この村からドラゴンオーブのあるところまで、どのくらいかかりそうだ?」
「なに!ドラゴンオーブがある場所がわかったのか!」
「あ、アクロスさんには言ってなかったですね。神の島の場所、わかりました」
「3冊でわかったのか?」
「そうです。場所だけなら3冊でわかる仕組みになってました」
ギルは、ディスペアでもらった地図を広げた。
「この地図には南大陸しか描かれてないですが、あの砂の城があった場所のもっと東、この辺りにドラゴンオーブがある神の島があります」
ギルは、地図じゃない床の部分を指差した。
「ギルが言うには、神の島は陸地だそうだ」
「島なのに陸地にあるのか?」
「アレンさん、あれから考えたのですが、もしかしたら島って、湖に浮かぶ島のことじゃないでしょうか」
「なるほど!それだよ、きっと」
「それと、さっきの日数のことですが、海流の流れや風向きがどうなるかが大きく影響します。潮の流れが逆だと、長い船旅になるかも知れません」
「それは問題ありません」
扉の向こうで声がした。
ギルが扉を開けると、男が立っていた。
「ペシャル様の命令で、アレンさん達にお渡しする船を決めましたので、お伝えに来ました」
ギルは男に向かって言った。
「問題ないというのは、海流は南から北へ流れてるってことですか?」
「そうです。南大陸の陸側は北から南へ、海側は南から北へと流れています」
「じゃ、大きく円を描くようになっているんですね!」
「はい、その通りです。おまけに、今の季節は風はほとんどなく、海が荒れることもありませんね」
「アレンさん、これはラッキーですよ。海流に乗れば、かなり早く着けます!」
「やっぱり俺は持ってる男だったな、」
アレンはサリヤをチラっと見たが、サリヤはノーコメントだった。
ギルは男に近寄り、海流の流れが変わる地点を教えてもらった。
「この地図でいうと、この辺りです」
男は地図のあるポイントを指で指した。
「ありがとう!助かります」
アクロスは立ち上がった。
「じゃ、船の場所まで案内してもらおうか」
「アクロス、俺が行こう」
「いやアレン、お前はここに残れ。俺が行く」
アクロスは、扉の前に立っていた男と教会を後にした。
出発の朝がきた。
水平線から太陽が登ってくる。アレンは、明るくなり始めた教会の二階の部屋にいた。
なんとなく目覚めてしまったが、出発にはまだ早い。
「今日も、いい天気になりそうだ」
窓を開け、大きく背伸びをした。朝のひんやりした空気が、部屋の中に流れ込んできた。
荷物の整理をしていると、窓に気配を感じた。
素早く剣をとったが、窓にいたのはセキレイだった。
(人の気配を感じたが・・・)
アレンが窓に近づくと、セキレイは部屋の中に入り木の椅子にとまった。
窓から顔を出し外を見たが、誰かいる気配は無い。
アレンは小さくため息をつき、外から部屋へ視線を移すと、さっきのセキレイがアレンを見ていた。
「随分人懐っこい鳥だな、」
セキレイは首をかしげてアレンの顔を見ながら、しっぽを上下に忙しく動かしている。
ふと、セキレイの動きが止まった。そしてバタバタと羽ばたき、窓の外へ飛んだ。
アレンは気になって窓から顔を出すと、セキレイは教会近くの墓地の墓石の上に止まり、アレンを見上げている。
「何かあるのか?」
アレンは手に剣を持ち、階段を降りて教会近くの墓地へ行った。
明るくなり始めた外は、空気が冷たく少し霧が出ていた。
セキレイはアレンが墓石の近くに来ると、どこかへ飛んで行った。
「誰の墓だろう」
「そのお墓、気になりますか?」
アレンが振り返ると、少し離れた場所にテレズが立っていた。
テレズはアレンのそばまで来て、墓石を見つめた。
「このお墓の人、わたし覚えてます」
「最近死んだ人か?」
「いえ、もう10年くらい前になるかしら。私がまだ小さかった頃、この教会でその人は亡くなりました。女性の方です」
「随分前だな、」
「この村に来た時は、亡くなる少し前でした」
「弱ってたのか」
「ええ、とても。なんでも大陸中を旅してたとかで、全身に傷があって見ているのが辛いくらいでしたね」
「まじか、」
「その人は、船を降りてすぐ教会に運ばれました。その時私は、小さいながらも教会の手伝いをしていたんです」
「そうか、偉いんだな」
「熱が酷く、私が水で湿らせた布を頭にのせてあげました。そしたら、痩せて黒ずんだ顔で微笑んでくれました」
「・・・」
「ゆっくりとした動作で、私の頭をなでてくれたのですが、その手がまるで骸骨のような手で、」
テレズは墓石の前で膝を折り、手を合わせた。
「その手を見て、私怖くなって・・・そのまま、走って逃げちゃったんです」
「・・・きっと辛い旅だったんだろう」
「その後、2、3日して、その人は亡くなりました」
「そうか、」
「アレンさん、」
「なんだ?」
「その人、たぶん高貴な方だと思います。持ち物に高価な物がありましたし、着ていた服も汚れてましたがシルクでした。どこかのお金持ちの人ではないかと、」
「お金持ちねぇ。なんで、そんな人が世界を旅して、こんな田舎の島に来たのか、」
「私、見たんです」
「見た?」
テレズは立ち上がり、アレンの顔を真っすぐに見た。
「その人、アレンさんと同じ首飾りをつけてました」
「えっ、」
剣が手から落ちた。
アレンは墓石を見た。そこには、こう掘られてあった。
「アディア、ここに眠る」
アレンは、墓石の前から動けなくなった。
「アレンさん、お渡ししたい物があります。こちらへ、」
アレンはテレズの言葉に我に返り、剣を拾いテレズの後をついて行った。
そこは、教会の保管庫のような部屋だった。
テレズはある引き出しから、一冊の本を取り出した。
「お墓の女性が持っていた本です」
「これは、」
それは、間違いなく古文書だった。
「アレンさん、お墓の人は、あなたの、」
「言うな!」
テレズはアレンの大きな声に驚いた。
「・・・それ以上言うな、」
「でっ、でも、」
「そんなことを聞いて何になるんだ。もう何を言っても、過ぎ去った過去なんだよ。遅い、今さら遅いんだ」
「アレンさん・・・」
アレンはテレズの手から古文書を取った。
「この本はもらっておく。世話になった、感謝してるよ」
アレンは、くるりとテレズに背を向けた。
「あ、待って下さい。せめて、あのお墓に手を合わせていただけませんか、」
「俺に父親も母親もいない。俺の身内はじっちゃんだけだ。それだけだ」
そう言い残し、アレンは部屋を出た。




