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激流の中で  作者: 清水京太郎
第8章 神の島
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71 4人の選ばれし者達

 「おい、そんなに急いでどこへ行くんだ!」

 

 「また打ち上げられたらしい、」

 

 「なんだと、またか!」

 

 「今度は若い3人だ。うち一人は女らしいぞ」

 

 男達は、村から砂浜に続く道を急いだ。

 

 

 「どうだ、死んでるのか?」

 

 「いや気を失っているが息をしている、まだ生きてるな」

 

 「おい、誰かこいつらを乗せる板を持ってこい。教会まで運ぶんだ」

 

 男達は、海岸に打ち上げられていた若い男女3人を板に乗せ、村の教会まで運んだ。

 

 

 

 アレンが目を覚ますと、そこは天窓から明かりが優しく差し込む部屋だった。

 

 「あっ、気が付きましたか」

 

 「ここは、どこだ」

 

 起き上がろうとしたが、全身に力が入らなかった。若い女性は、アレンの肩を押さえてベッドに押し付けた。

 

 「まだ、無理をしてはいけませんよ」

 

 「あんたは?」

 

 「わたしはこの村の教会のシスター、テレズです。あなたの他に運ばれてきた人も大丈夫なので、安心してくださいね」

 

 アレンの横には、サリヤとギルが眠っていた。

 

 「俺はどのくらい眠っていたんだ」

 

 「この教会に運ばれてから、今日で5日目ですね。目が覚めて本当よかったです」

 

 「今日は何日だ?」

 

 テレズから聞いた日付は、アレン達が穴に突入してから一週間が過ぎていた。

 

 「ってことは、俺達は2日も海をさまよっていたのか・・・」

 

 「うぅ・・・」

 

 会話の声に刺激されたのか、ギルが目を覚ました。

 

 「あ、アレンさん・・・」

 

 「ギル、ここは天国じゃないらしいぜ」

 

 

 しばらくして、サリヤも目覚めた。アレンは、少しずつ意識がはっきりしてきた。

 開いている部屋のドアの向こうで、ギシギシと木が軋む音がした。誰かが階段を登ってくるようだ。

 

 「目を覚ましたか、」

 

 「あ、ペシャル様」

 

 現れた男に、テレズは頭を下げ部屋の隅に下がった。

 

 そのがっしりとした男は、アレンのベッド付近まで大股で歩いてきた。

 

 「お前がリーダーのようだな」

 

 「あんたは?」

 

 「俺は、このライの村の責任者兼漁師長、ペシャルだ」

 

 「村長ってことか」

 

 「まあ、そうだ」

 

 アレンはベッドから起き上がろうしたが、全身にピリピリとした痛みが走った。

 

 「痛てて、」

 

 「おっと、まだ無理すんなよ。そのまま寝てていいぞ」

 

 アレンは、痛みをこらえながらも立ち上がった。

 

 「俺達に何か用か」

 

 「それは、逆にお前に聞きたいぜ」

 

 ペシャルの声は低くドスの利いた声だ。

 

 「船が難破したわけじゃないだろう?俺が想像するに、お前達はわざと潮の流れにのって、この村に来た。違うか?」

 

 「その通りだ」

 

 「じゃ、さっきお前が言った言葉、そのまま返そう。この村に何の用だ」

 

 アレンはペシャルと対峙しながら、この男の戦いに関するレベルを計っていた。

 

 (腕力はアクロス並みにありそうだな。外に数人の仲間を待機させているところを見ると、俺達に危害を加える意志は無いということか・・・)

 

 アレンはベッドの下に、荷物とオセアオン・ブロンシュがあるのをチラリと見た。

 

 「どうなんだ、答えられないのか?」

 

 「俺達は仲間を探しにきたのさ」

 

 「仲間?もしかして、この前流れてきた大男の仲間か」

 

 「そいつは俺のリーダーだ」

 

 開けっ放しの部屋のドアの前に、アクロスが立っていた。

 

 「アクロス!」

 

 「アクロスさん!」

 

 アクロスは、ゆっくりアレンの方に歩いて来た。しかし、右足を引きずっている。

 

 「アクロス、お前・・・」

 

 「フフ、ここに流れ着くまでに、サメか何かに足をかじられたらしい」

 

 アクロスは、アレンのベッドの脇にある丸い木の椅子に座った。

 

 「もうすっかり良くなったよ」

 

 アレンはベッドに腰掛け、アクロスの右足をみた。

 

 「すっかりって、足引きずってたじゃねえか。ちゃんと歩けないのか?」

 

 「歩くことは問題ないが、おそらくもう走れない。足の腱をサメに切られたようだ」

 

 「なんだと!」

 

 アレンはサリヤを見た。

 

 「サリヤ、治せないのか!」

 

 「・・・たぶん無理だと思う。ケガは治っているけど、元の状態で治ってないってことだよね」

 

 「そうだ」

 

 サリヤは首を横に振った。

 

 「サリヤ、ダメ元でいいから、やってみてくれ!」

 

 「アレン!」

 

 アクロスは、アレンの両肩を手で押さえた。

 

 「これでいいんだ。これは、お前達を裏切ったことへの神の罰だ。命まで奪われなかった、それで十分だ」

 

 「アクロス・・・」

 

 「またこうして、生きてお前達に会えたじゃないか。それで俺は満足だよ」

 

 アレンはアクロスの大きな身体を、何も言わずに抱きしめた。

 

 ペシャルは、ゴホンとひとつ咳払いをした。

 

 「再会の儀は終わったか?」

 

 「ああ、わるいな」

 

 アレンはペシャルの方を向いた。

 

 「ここに来た目的は、このアクロスに会うためだ」

 

 「この男は流れ着いたときは半死というか、生きてるのが不思議なくらいだったぞ」

 

 「俺達は生きてると信じてたさ」

 

 「そんな頼りない希望だけで、この海を流れてきたというのか」

 

 「イカダで島に流れ着く予定だったんだが、気を失うというのは考えてなかったな」

 

 「無茶苦茶な連中だな。海が荒れれば、間違いなくサメの餌になってたぞ」

 

 「無茶はいつものことさ」

 

 ペシャルは、ため息をついた。

 

 「お前、名は?」

 

 「アレン」

 

 「アレン、今日はこれで引き揚げる。明日、俺の家まで来てくれ。そのときに詳しい話しを聞きたい」

 

 「ああ、わかった」

 

 「ペシャル様、まだこの方は万全ではありません。せめて、あと2、3日お待ちいただけませんか?」

 

 そう言って、テレズはペシャルに近寄ろうとしたが、アレンの声に止められた。

 

 「大丈夫だ。これから行ってもいいくらいだぜ」

 

 「ダッ、ダメです!」

 

 「テレズ、そう心配するな。こいつらは無茶な連中だ、普通じゃない。明日になれば回復してるさ」

 

 ペシャルはそう言って、部屋を出て行った。

 

 「じゃ、今日はここでゆっくりさせてもらうぜ。アクロス、お前も明日行けるか?」

 

 「もちろん大丈夫だ」

 

 「アレンさん、僕も行けます」

 

 「ちょ、ちょっと、あたしだけ置いて行かないでよね」

 

 「お前ら、ほんと大丈夫なのか?」

 

 「アレンさん、僕達を誰だと思ってるんですか、」

 

 ギルは青白い顔をしながらも、不敵な笑みを浮かべている。

 

 「ったく、元気な奴らだな。じゃ、皆で行くか」

 

 

 

 「あ、ありました、この家ですね」

 

 次の日、アレン達はペシャルの家の前にいた。

 玄関の扉をアレンは叩いた。

 ギィーという音とともにペシャルが現れた。

 

 「なんだ、お前ら全員で来たのか」

 

 「遠慮なく上がらせてもらうぜ」

 

 アレンはズカズカと家の中に入り、目の前にあったソファーに座った。

 その隣にサリヤ、反対側の隣にギル、そしてギルの横にアクロスと横並びに座った。

 ガラスのテーブルをはさんで、アレン達の対面のソファーにペシャルが座った。身体の重みで、ソファーが大きく沈み込む。

 

 「さて、お前達はディスペアから来たんだな」

 

 「そうだ」

 

 「あの断崖から飛び降りたのか?」

 

 「断崖?」

 

 「違うのか。じゃ、どうやってディスペアからここへ流れ着いた。まさか、あのイカダで延々と海を超えてきたわけでもないだろう」

 

 「俺達はサランの城の穴から海に出たのさ」

 

 「城の穴?まさか、本当に穴を掘ったのか、」

 

 「俺達が掘ったわけじゃないぜ。あの城には最初からサランの脱出用で穴があったのさ。城はぶっ壊れたけど、穴だけが残ったんだよ」

 

 「ちょっとまて。サランの城って、まさかお前らサランを倒したってのか・・・」

 

 「死んだとこ見たわけじゃねえが、アクロスが顔面を切り裂いたし、生きちゃいねえと思うけどな、」

 

 「顔を切り裂いただと・・・あのサランだぞ。お前ら嘘を言ってるんじゃないだろうな」

 

 「信じるかどうかは、あんたの自由さ」

 

 ペシャルは少し考え込んだ。

 

 「グレアはどうした。まさかグレアも倒したってのか、」

 

 「あの角野郎は、どこかにトンズラしやがったぜ」

 

 城が壊れたというのは、ペシャルには思いあたるフシがあった。

 アクロスが島に流れ着いたとき、城のものと思われる書棚やテーブル、椅子などの木の残骸も一緒に流れて着いていたのだ。

 

 「サランがお前らに倒されたというのは、にわかに信じ難いが、城が壊れたというのは本当みたいだな」

 

 「町の連中は、サランがいなくなって喜んでたぜ」

 

 「そうか。サランが死んでグレアもいないとなれば、それは俺達人間にとっていい知らせだ」

 

 ペシャルは立ち上がり、窓の外を見た。明るい太陽の日差しが差し込んでいる。

 

 「このライの村には、ディスペアから逃げてきた奴らも少なからずいるのさ」

 

 「そういや、さっき断崖とか言ってたな」

 

 ペシャルは、視線を窓の外からアレンに戻した。

 

 「ディスペアの東側は崖になっている。東の海に出るには船で大陸をぐるっと回るか、崖を飛び降りるしかない」

 

 「まさか、ディスペアの町の連中は飛び降りたってのか」

 

 ペシャルはソファーに座った。

 

 「何人もの腐乱死体が、この島に流れ着いたよ。生きてこの島に流れ着くというのは、奇跡以外なにものでもない」

 

 「・・・」

 

 「お前達が通ってきた穴というのは、もともとディスペアの奴らが掘っていた穴だろう」

 

 「そうだったのか、」

 

 「おそらく掘っている途中でサランに見つかり、地上の入り口は埋められたが、サランの城に通じるように無理やり掘らされたに違いない」

 

 「なるほど、」

 

 ペシャルは、ため息をついた。

 

 「それにしても、あのサランがお前らみたいな子供にやられるとは・・・」

 

 「全然大したことなかったぜ。鳥野郎の方がよっぽど強かったな」

 

 「鳥野郎?」

 

 「ガルーダのことです」

 

 思わずギルが答えた。

 

 「ガルーダって、神獣ガルーダのことか・・・」

 

 「はい、そうです」

 

 「噂には聞いたが、まさか本当に倒されたってのか・・・」

 

 しかも、倒した奴らがまだ子供で目の前にいる。ペシャルはあまりの衝撃に、呼吸することを忘れていた。

 苦しくなって、ペシャルは大きく息を吸って吐いた。

 

 「お前ら、一体何者だ。何のために、そんなことをしている・・・」

 

 「何者って言われても、なあ」

 

 アレンは、サリヤ、ギル、そしてアクロスの顔を見た。

 

 「アクロス、俺達って何者だろう?」

 

 「普通の人間じゃないのか?」

 

 「だよなー、」

 

 「普通の人間は、神獣を倒せないぞ」

 

 「そんなこと言ったって、倒せちゃったものはしょうがないだろう」

 

 「そもそも、お前が持っている剣は使えないだろう。俺が抜こうとしても、抜けなかったぞ」

 

 「ああ、これか。これは俺にしか使えないらしいぜ」

 

 アレンは足元に置いたオセアオン・ブロンシュを手に取り、抜いて見せた。

 

 「ぬっ、抜けた?」

 

 その美しい輝き。これまでいくつもの戦いを経たにも関わらず、傷や汚れがひとつもない。

 鏡のように磨き抜かれた剣身に、ペシャルは思わず見入った。

 

 「美しい・・・こんな美しい剣が、この世にあったのか・・・」

 

 「なんでも神の武器らしいぜ」

 

 「神!神器なのか、これは!初めて見た・・・」

 

 ペシャルは、まるで剣の煌めきに魅入られたような、うつろな目になっていた。

 

 「ちょ、ちょっと俺に持たせてくれ、」

 

 「俺以外は使えないって言っただろ」

 

 「持つくらいいいだろう、」

 

 「それも無理だぜ」

 

 「そうか、」

 

 なんと、ペシャルはアレンから素早く剣を奪い取った。

 

 ガッシャーン

 

 途端に剣はとんでもない重さになり、ペシャルは前にあったガラスのテーブルを破壊し、剣を持つ腕が床に張り付いた。

 

 「ぐわぁ、」

 

 ペシャルの腕は無数に割れたガラスで切れ、床に血が飛び散った。

 

 「だから言ったのに、」

 

 アレンはサリヤをチラっと見た。サリヤは、小さくため息をついて右手を少し振った。途端にペシャルの切れた腕は、何もなかったように元通りになった。床には血が落ちているというのに。

 

 「こっ、これは・・・あんた、もしかして聖女か・・・」


 サリヤはニコっと微笑んだ。

 アレンはペシャルの手から剣を取り、鞘に戻した。

 

 

 「少しはわかってくれたか、俺達のこと」


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