71 4人の選ばれし者達
「おい、そんなに急いでどこへ行くんだ!」
「また打ち上げられたらしい、」
「なんだと、またか!」
「今度は若い3人だ。うち一人は女らしいぞ」
男達は、村から砂浜に続く道を急いだ。
「どうだ、死んでるのか?」
「いや気を失っているが息をしている、まだ生きてるな」
「おい、誰かこいつらを乗せる板を持ってこい。教会まで運ぶんだ」
男達は、海岸に打ち上げられていた若い男女3人を板に乗せ、村の教会まで運んだ。
アレンが目を覚ますと、そこは天窓から明かりが優しく差し込む部屋だった。
「あっ、気が付きましたか」
「ここは、どこだ」
起き上がろうとしたが、全身に力が入らなかった。若い女性は、アレンの肩を押さえてベッドに押し付けた。
「まだ、無理をしてはいけませんよ」
「あんたは?」
「わたしはこの村の教会のシスター、テレズです。あなたの他に運ばれてきた人も大丈夫なので、安心してくださいね」
アレンの横には、サリヤとギルが眠っていた。
「俺はどのくらい眠っていたんだ」
「この教会に運ばれてから、今日で5日目ですね。目が覚めて本当よかったです」
「今日は何日だ?」
テレズから聞いた日付は、アレン達が穴に突入してから一週間が過ぎていた。
「ってことは、俺達は2日も海をさまよっていたのか・・・」
「うぅ・・・」
会話の声に刺激されたのか、ギルが目を覚ました。
「あ、アレンさん・・・」
「ギル、ここは天国じゃないらしいぜ」
しばらくして、サリヤも目覚めた。アレンは、少しずつ意識がはっきりしてきた。
開いている部屋のドアの向こうで、ギシギシと木が軋む音がした。誰かが階段を登ってくるようだ。
「目を覚ましたか、」
「あ、ペシャル様」
現れた男に、テレズは頭を下げ部屋の隅に下がった。
そのがっしりとした男は、アレンのベッド付近まで大股で歩いてきた。
「お前がリーダーのようだな」
「あんたは?」
「俺は、このライの村の責任者兼漁師長、ペシャルだ」
「村長ってことか」
「まあ、そうだ」
アレンはベッドから起き上がろうしたが、全身にピリピリとした痛みが走った。
「痛てて、」
「おっと、まだ無理すんなよ。そのまま寝てていいぞ」
アレンは、痛みをこらえながらも立ち上がった。
「俺達に何か用か」
「それは、逆にお前に聞きたいぜ」
ペシャルの声は低くドスの利いた声だ。
「船が難破したわけじゃないだろう?俺が想像するに、お前達はわざと潮の流れにのって、この村に来た。違うか?」
「その通りだ」
「じゃ、さっきお前が言った言葉、そのまま返そう。この村に何の用だ」
アレンはペシャルと対峙しながら、この男の戦いに関するレベルを計っていた。
(腕力はアクロス並みにありそうだな。外に数人の仲間を待機させているところを見ると、俺達に危害を加える意志は無いということか・・・)
アレンはベッドの下に、荷物とオセアオン・ブロンシュがあるのをチラリと見た。
「どうなんだ、答えられないのか?」
「俺達は仲間を探しにきたのさ」
「仲間?もしかして、この前流れてきた大男の仲間か」
「そいつは俺のリーダーだ」
開けっ放しの部屋のドアの前に、アクロスが立っていた。
「アクロス!」
「アクロスさん!」
アクロスは、ゆっくりアレンの方に歩いて来た。しかし、右足を引きずっている。
「アクロス、お前・・・」
「フフ、ここに流れ着くまでに、サメか何かに足をかじられたらしい」
アクロスは、アレンのベッドの脇にある丸い木の椅子に座った。
「もうすっかり良くなったよ」
アレンはベッドに腰掛け、アクロスの右足をみた。
「すっかりって、足引きずってたじゃねえか。ちゃんと歩けないのか?」
「歩くことは問題ないが、おそらくもう走れない。足の腱をサメに切られたようだ」
「なんだと!」
アレンはサリヤを見た。
「サリヤ、治せないのか!」
「・・・たぶん無理だと思う。ケガは治っているけど、元の状態で治ってないってことだよね」
「そうだ」
サリヤは首を横に振った。
「サリヤ、ダメ元でいいから、やってみてくれ!」
「アレン!」
アクロスは、アレンの両肩を手で押さえた。
「これでいいんだ。これは、お前達を裏切ったことへの神の罰だ。命まで奪われなかった、それで十分だ」
「アクロス・・・」
「またこうして、生きてお前達に会えたじゃないか。それで俺は満足だよ」
アレンはアクロスの大きな身体を、何も言わずに抱きしめた。
ペシャルは、ゴホンとひとつ咳払いをした。
「再会の儀は終わったか?」
「ああ、わるいな」
アレンはペシャルの方を向いた。
「ここに来た目的は、このアクロスに会うためだ」
「この男は流れ着いたときは半死というか、生きてるのが不思議なくらいだったぞ」
「俺達は生きてると信じてたさ」
「そんな頼りない希望だけで、この海を流れてきたというのか」
「イカダで島に流れ着く予定だったんだが、気を失うというのは考えてなかったな」
「無茶苦茶な連中だな。海が荒れれば、間違いなくサメの餌になってたぞ」
「無茶はいつものことさ」
ペシャルは、ため息をついた。
「お前、名は?」
「アレン」
「アレン、今日はこれで引き揚げる。明日、俺の家まで来てくれ。そのときに詳しい話しを聞きたい」
「ああ、わかった」
「ペシャル様、まだこの方は万全ではありません。せめて、あと2、3日お待ちいただけませんか?」
そう言って、テレズはペシャルに近寄ろうとしたが、アレンの声に止められた。
「大丈夫だ。これから行ってもいいくらいだぜ」
「ダッ、ダメです!」
「テレズ、そう心配するな。こいつらは無茶な連中だ、普通じゃない。明日になれば回復してるさ」
ペシャルはそう言って、部屋を出て行った。
「じゃ、今日はここでゆっくりさせてもらうぜ。アクロス、お前も明日行けるか?」
「もちろん大丈夫だ」
「アレンさん、僕も行けます」
「ちょ、ちょっと、あたしだけ置いて行かないでよね」
「お前ら、ほんと大丈夫なのか?」
「アレンさん、僕達を誰だと思ってるんですか、」
ギルは青白い顔をしながらも、不敵な笑みを浮かべている。
「ったく、元気な奴らだな。じゃ、皆で行くか」
「あ、ありました、この家ですね」
次の日、アレン達はペシャルの家の前にいた。
玄関の扉をアレンは叩いた。
ギィーという音とともにペシャルが現れた。
「なんだ、お前ら全員で来たのか」
「遠慮なく上がらせてもらうぜ」
アレンはズカズカと家の中に入り、目の前にあったソファーに座った。
その隣にサリヤ、反対側の隣にギル、そしてギルの横にアクロスと横並びに座った。
ガラスのテーブルをはさんで、アレン達の対面のソファーにペシャルが座った。身体の重みで、ソファーが大きく沈み込む。
「さて、お前達はディスペアから来たんだな」
「そうだ」
「あの断崖から飛び降りたのか?」
「断崖?」
「違うのか。じゃ、どうやってディスペアからここへ流れ着いた。まさか、あのイカダで延々と海を超えてきたわけでもないだろう」
「俺達はサランの城の穴から海に出たのさ」
「城の穴?まさか、本当に穴を掘ったのか、」
「俺達が掘ったわけじゃないぜ。あの城には最初からサランの脱出用で穴があったのさ。城はぶっ壊れたけど、穴だけが残ったんだよ」
「ちょっとまて。サランの城って、まさかお前らサランを倒したってのか・・・」
「死んだとこ見たわけじゃねえが、アクロスが顔面を切り裂いたし、生きちゃいねえと思うけどな、」
「顔を切り裂いただと・・・あのサランだぞ。お前ら嘘を言ってるんじゃないだろうな」
「信じるかどうかは、あんたの自由さ」
ペシャルは少し考え込んだ。
「グレアはどうした。まさかグレアも倒したってのか、」
「あの角野郎は、どこかにトンズラしやがったぜ」
城が壊れたというのは、ペシャルには思いあたるフシがあった。
アクロスが島に流れ着いたとき、城のものと思われる書棚やテーブル、椅子などの木の残骸も一緒に流れて着いていたのだ。
「サランがお前らに倒されたというのは、にわかに信じ難いが、城が壊れたというのは本当みたいだな」
「町の連中は、サランがいなくなって喜んでたぜ」
「そうか。サランが死んでグレアもいないとなれば、それは俺達人間にとっていい知らせだ」
ペシャルは立ち上がり、窓の外を見た。明るい太陽の日差しが差し込んでいる。
「このライの村には、ディスペアから逃げてきた奴らも少なからずいるのさ」
「そういや、さっき断崖とか言ってたな」
ペシャルは、視線を窓の外からアレンに戻した。
「ディスペアの東側は崖になっている。東の海に出るには船で大陸をぐるっと回るか、崖を飛び降りるしかない」
「まさか、ディスペアの町の連中は飛び降りたってのか」
ペシャルはソファーに座った。
「何人もの腐乱死体が、この島に流れ着いたよ。生きてこの島に流れ着くというのは、奇跡以外なにものでもない」
「・・・」
「お前達が通ってきた穴というのは、もともとディスペアの奴らが掘っていた穴だろう」
「そうだったのか、」
「おそらく掘っている途中でサランに見つかり、地上の入り口は埋められたが、サランの城に通じるように無理やり掘らされたに違いない」
「なるほど、」
ペシャルは、ため息をついた。
「それにしても、あのサランがお前らみたいな子供にやられるとは・・・」
「全然大したことなかったぜ。鳥野郎の方がよっぽど強かったな」
「鳥野郎?」
「ガルーダのことです」
思わずギルが答えた。
「ガルーダって、神獣ガルーダのことか・・・」
「はい、そうです」
「噂には聞いたが、まさか本当に倒されたってのか・・・」
しかも、倒した奴らがまだ子供で目の前にいる。ペシャルはあまりの衝撃に、呼吸することを忘れていた。
苦しくなって、ペシャルは大きく息を吸って吐いた。
「お前ら、一体何者だ。何のために、そんなことをしている・・・」
「何者って言われても、なあ」
アレンは、サリヤ、ギル、そしてアクロスの顔を見た。
「アクロス、俺達って何者だろう?」
「普通の人間じゃないのか?」
「だよなー、」
「普通の人間は、神獣を倒せないぞ」
「そんなこと言ったって、倒せちゃったものはしょうがないだろう」
「そもそも、お前が持っている剣は使えないだろう。俺が抜こうとしても、抜けなかったぞ」
「ああ、これか。これは俺にしか使えないらしいぜ」
アレンは足元に置いたオセアオン・ブロンシュを手に取り、抜いて見せた。
「ぬっ、抜けた?」
その美しい輝き。これまでいくつもの戦いを経たにも関わらず、傷や汚れがひとつもない。
鏡のように磨き抜かれた剣身に、ペシャルは思わず見入った。
「美しい・・・こんな美しい剣が、この世にあったのか・・・」
「なんでも神の武器らしいぜ」
「神!神器なのか、これは!初めて見た・・・」
ペシャルは、まるで剣の煌めきに魅入られたような、うつろな目になっていた。
「ちょ、ちょっと俺に持たせてくれ、」
「俺以外は使えないって言っただろ」
「持つくらいいいだろう、」
「それも無理だぜ」
「そうか、」
なんと、ペシャルはアレンから素早く剣を奪い取った。
ガッシャーン
途端に剣はとんでもない重さになり、ペシャルは前にあったガラスのテーブルを破壊し、剣を持つ腕が床に張り付いた。
「ぐわぁ、」
ペシャルの腕は無数に割れたガラスで切れ、床に血が飛び散った。
「だから言ったのに、」
アレンはサリヤをチラっと見た。サリヤは、小さくため息をついて右手を少し振った。途端にペシャルの切れた腕は、何もなかったように元通りになった。床には血が落ちているというのに。
「こっ、これは・・・あんた、もしかして聖女か・・・」
サリヤはニコっと微笑んだ。
アレンはペシャルの手から剣を取り、鞘に戻した。
「少しはわかってくれたか、俺達のこと」




