70 穴へ突撃
アレンとサリヤ、そしてギルの3人は、イールドの村からディスペアへと続く道を歩いていた。
「こんな綺麗な道があったなんて、山道をずっと歩いていた俺は一体・・・」
アレンは後ろを振り返ってつぶやいた。
「だから遅かったのね」
「でも、よく俺があの村に行くとわかったな」
「ディスペアから一番近い集落はイールドですからね。アレンさんなら、必ず来ると思ってました」
「なるほど、」
「アレンはイールドの村を知ってたの?」
「ディスペアを出て何日か後に、旅の吟遊詩人に出会ったんだよ。そいつが、あの村を教えてくれた。まあ、辿り着くのに苦労したけどな」
「アレンさんが村に来た夜は、土砂降りの雨でしたもんね。再会した時のボロボロ具合を見ると、ディスペアからの苦労がわかりました」
「そんなに酷かったのか、俺って」
「ええ、それはもう」
サリヤは急に立ち止まった。
「ねえ、アレン」
「なんだ?」
アレンとギルも止まり、後ろを振り返った。
「あたし言い過ぎた。おじいさんのこと・・・」
アレンは小さくため息をついた。
「サリヤ、お前の言った事は正しいよ。じっちゃんのことを探しながら、ドラゴンオーブも見つかればいいななんて俺はずっと考えてた。甘過ぎたよ、その考えは」
「・・・」
「死ぬことは怖くなかった。俺も命を賭けて戦ってきたし。けど、仲間に犠牲者が出た瞬間に、」
アレンは、青い空に浮かぶ雲を見上げた。
「俺は怖くなったんだ」
サリヤはアレンの手を取った。
「ごめんなさい、あたしアレンのそんな気持ち全然わかってなかった、」
「サリヤ、リーダーは仲間の犠牲を乗り越えても、目的を達成しなきゃいけない。俺には無かったんだよ、その自覚が、」
「アレンさん・・・」
「命を賭ければいいってもんじゃない。全てにおいて、俺は考えが甘過ぎだ」
アレンはサリヤを見た。
「サリヤのあの一言で俺は救われたんだ。むしろ、感謝してるくらいだぜ」
サリヤはアレンの手をギュっと握りしめた。
アレンはサリヤの肩をポンと叩いた。そして、ディスペアへと続く、真っすぐに伸びる道の彼方を見た。
「さあ、行こうぜ。アクロスが待ってる島にな」
「うん、」
◇◇◇
アレン達は、10日程でディスペアの町へ戻って来た。
サランの恐怖から解放さたれた町は安堵の笑顔が戻り、見るから活気があった。
カランカランとカウベルを鳴らして、アレンは宿屋の扉を開けた。
それぞれの部屋で荷物を降ろし、さっそくアレンの部屋で3人は穴へ突撃する作戦会議を行った。
「あの穴ですが、かなり距離があると思われますね」
「まあ、反対側の海に繋がってるくらいだからな」
「問題はどうやって穴の中に入るかね」
「サリヤさん、僕に考えがあります」
「お、ギル。何かたくらんでるな」
「穴に入る方法は僕に任せてもらうとして、アレンさんに凄く重要な話があります」
「なんだ、」
「神の島の場所、わかりましたよ」
「なにっ!」
ギルはアレンの前に、部屋から持ってきた3冊の古文書を並べた。
「わかったって、まだ2冊残ってるんだぜ?」
「そうです。ですが、ドラゴンオーブが隠された神の島の位置は、どれか3冊そろえばわかるようになっているんですよ」
「そうだったのか・・・」
「僕も驚きましたが、地面に埋めた地の古文書を掘り出して、最後のページを見たときそれに気が付きました」
「じゃ、あと2冊は集めなくていいってわけか」
「いえ、そうはいきません」
「えっ?」
「アレンさん、覚えてますか。最後のページには、地図といっしょに言葉が書かれていたことを」
「そういえば、あったな」
「あの言葉は、おそらく5冊全部必要です。仮に揃っても、何を言ってるか理解できないかも知れませんが、」
「それってドラゴンオーブを見つけるための言葉か?」
「今の時点では何とも・・・」
「ふむ・・・」
ギルは3冊の古文書の最後のページを開けた。
「この3冊の地図によると、神の島はテンプ村の東側、あの崩れた砂の城のもっと東に位置します」
「東側の海ってことか?」
「いえ、この3つの地図の交点は陸地です」
「陸?神の島って、海に浮かぶ島じゃないのか?」
「僕もそう思ったんですが、何度見ても陸地ですね」
「陸地なのに島って変だわね」
3人は考え込んだ。
「ここでいくら考えても仕方ない。まずは、アクロスを追いかけようぜ」
「そうですね、わかりました」
「ギル、さっき何か考えがあるって言ってたよな。具体的にどうやるんだ?」
「さっそく取り掛かりましょう。アレンさんも手伝ってください」
「おっけー、さっそく始めるか」
そして次の日、
アレン達は、アクロスが落ちた穴の前にいた。
「これを試す時が来ましたね」
「ギル、大丈夫なのか?」
アレンが不安そうに見つめるのは、木の丸太を紐でくくったイカダだった。
「穴の中がどうなっているのか全くわかりませんので、大丈夫と言い切れないですが、とにかく頑丈に作りました」
「でも、これって3人が座ってちょうどくらいの大きさしかないわよね」
「サリヤさん、あまり大きく作ると、穴が小さくなっていた場合動けなくなるか、イカダが壊れてしまいますから」
ギルは、不安そうなアレンに説明した。
「中は真っ暗だと思いますので、前にはランタンを取り付けました。そして、後ろには摩擦によるブレーキをかける棒を2本取り付けてあります」
「方向はどうやって決めるんだ?」
「舵はありません」
「ない?」
「おそらく真っすぐ海に繋がっているはずです。それに舵を付けたとしても、きっと役に立たないでしょう」
「それくらい速くなるってことか、」
ギルは頷いた。
「もし右や左に行く必要があれば、そこはもう運に任せるしかないですね」
「ふむ、」
アレンは、足元の真っ暗な穴を覗き込んだ。
「ギル、この穴って、そもそも何のためにあるんだろうな」
「ちょっとわかりませんが、もしかすると、サランが非常時の脱出用に掘ったのではないでしょうか」
「ふーむ、だとすると、あの時サランは脱出しようとしてたわけか」
「あと、気になることがひとつ、」
「ん、なんだ?」
「もしかしたら、地下水が流れ込んでいるかも知れません」
「だとしたら、どうなる?」
「抵抗がなくなりますから、イカダはとてつもなく速くなるでしょうね」
「そのためのブレーキだろ?」
「ええ、そうなんですが・・・」
「なんだ、歯切れが悪いな」
「あ、いえ。ちょっと考え過ぎかもしれません、大丈夫です」
「そうか、」
アレンは若干気になったが、未知の穴に対して、ここであれこれ言っても仕方のないことだろう。
「よし、じゃ思い残すことは無いな」
「ちょっとアレンさん、その言い方止めましょうよ」
アレンが前に乗り、その後ろにサリヤが乗った。
「いいですか、行きますよ」
「ギル、ちょっと待て」
アレンは、服の外に出していた首飾りを服の中に入れた。
「いいぜ、」
「アレンさん、多分経験したことがない速度になると思いますよ」
「覚悟は出来てるさ」
「途中でイカダがバラバラになったら、もうヤバイことになりますね」
「ギル、ここまで来たらさっきの話しじゃないが運を天に任せようぜ。お前が大好きな神に祈りでも捧げるか」
「アレンさんが神って言ってくれるだけで、僕は救われた気持ちになります」
ギルは微笑んだ。
アレンは、ランタンに火を付けた。
「よし、押せ!ギル!」
「行きます!」
ギルは穴に向けてイカダを押し、落ちる直前にサリヤの後ろに飛び乗った。
イカダは真っ逆さまに穴の暗闇に落ちた。
進むにつれ、ギルの予想通り地下水が穴に流れ込んでいた。イカダは壁の抵抗を受けることなく進み、速度をさらに上げた。
ゴォーーという風切り音が、3人の聴覚を奪う!
「こっ、これは思った以上の速さだ!ギル、ブレーキをかけろ!」
「わかりました!振動が凄いと思うので、イカダにつかまってください!いきますよ!」
ギルは木の棒のブレーキを穴の壁にこすりつけた!
ガガガーという凄い音と振動がアレン達に伝わった!
「うわぁー」
思わずアレンはイカダから落ちそうになったが、なんとか踏ん張った。
ギルがブレーキを離すと、途端にイカダは加速した。
穴を駆け抜ける風で、ランタンが吹き飛んだ。
イカダはとてつもなく速くなり、凄い風圧がアレン達を襲った!アレンは目が開けられない!
「くそっ、息が出来ない・・・ギル!ブレーキだ!ブレーキをかけろ!」
ギルは2本のブレーキを同時にかけた!
ガガガガー
イカダはまるで暴れ馬のように、バタンバタンと激しく上下に揺れた!
サリヤは固く目を閉じ、一言も喋らずアレンの背中にしがみついている!
ギルは2本のブレーキを、さらに思い切りかけた!
バキッ!
「ギル!今の音は何だ!」
「・・・」
「ギーール!」




