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激流の中で  作者: 清水京太郎
第8章 神の島
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69 再出発

 男は民家のドアを叩いた。

 夜の暗闇に、ザーっという音を立てて雨が降っている。

 

 しばらくして、家の窓に明かりがついた。

 

 「誰だ、こんな夜に」

 

 「旅の者だ。空き家があれば貸してほしいんだが」

 

 返事は無かった。家の扉は重く閉じたままだ。

 

 「この雨がしのげればいいんだよ、頼む」

 

 明かりはついたままだが、返事はない。

 

 ドアを叩いた男は、あきらめて帰ろうとした。

 

 「空き家はあるが、俺では決められない。村長に聞いてくれ。今いる道を真っすぐ奥に行ったところだ」

 

 「助かるよ」

 

 男はバシャバシャと、雨が溜まった道を歩いた。

 雨は容赦なく降り続いている。

 

 道の一番端に少し大きめの家があった。

 男はその家のドアを叩いた。少しして、家の中から声が聞こえた。

 

 「誰だ」

 

 「ここは村長の家か?」

 

 「何か用か」

 

 「旅の者だ。今夜一晩でいいから空き家を貸してくれないか」

 

 遠くの空が明るく光り、少しして低い音が聞こえた。

 

 「空き家はあるが、貸せない。悪いが帰ってくれ」

 

 「俺は泥棒じゃない。信じてくれ」

 

 「どこの誰かわからんのに、いきなり空き家を貸せという方が無理なんじゃないか」

 

 ドアを叩いた男は、しばらく考えた。

 

 「じゃ、これを置いていく。窓を少し開けてくれ」

 

 男は背中に背負っていた剣を外し、少し空いた窓から中に入れた。

 

 「その剣は俺の大切な物だ。これで信用してくれるか」

 

 村長は明かりをつけ、雨に濡れた剣を受け取った。そして、剣帯から鞘に収まった剣を取り出した。

 しっかりとした重さがある見事な美しさ。これが高級な剣だということは、村長にもわかった。

 

 「いいだろう、以前老人が住んでいた家を教えてやろう。鍵はかかってないから、そのまま使え」

 

 「助かるぜ」

 

 男は教えられた方に歩こうとした。

 

 「待て、その背負っている荷物も置いていけ」

 

 男は言われた通り、荷物をドアの前に置いた。

 

 「これでいいか、」

 

 「今夜だけだぞ。明日には、このイールドの村を出て行け」

 

 「わかった」

 

 

 

 翌朝、雨はあがり晴天になっていた。

 男は旅の疲れか、日が高くなるまで起きなかった。

 窓から差し込む光が直接男の顔にあたるようになって、よくやく目を覚ました。

 

 「・・・そうか、空き家を借りたんだったな」

 

 床に寝転んでいた男は、その狭い部屋にある本棚に本が並んでいるのが目に入った。

 立ち上がり、その中の一冊を手に取った。

 それは、見たことのある本。

 

 「これは、古文書?」

 

 隣の本を取り出した。今見た本と、まったく同じ表紙をしている。

 

 「古文書が2冊・・・」

 

 手にある2冊の本をテーブルに置き、さらに隣の本を手に取った。

 やはり同じ表紙をしている。

 

 「まさか、ここにある本全部古文書なのか・・・」

 

 「そうですよ、アレンさん」

 

 「そっ、その声は・・・」

 

 ドアを開けると、サリヤとギルが立っていた。

 

 「サリヤ、ギル・・・お前らどうして、ここに・・・」

 

 「アレン、あんたどこほっつき歩いてたのよ」

 

 「えっ?」

 

 「ギル、あたし達ここに来てどのくらい経ってる?」

 

 「もう、2週間くらいなりますね」

 

 「はー、やっと来たって感じだわ、」

 

 「全くです」

 

 アレンは驚いたまま、今の状況が理解出来なかった。

 

 「お前ら自分の村へ帰ったんじゃなかったのか、」

 

 「帰るわけないですよ、」

 

 「あれからいろいろあったのよねー、」

 

 「アレンさんに伝えたいことがあります。ちょうどテーブルがあるし、座って話しましょうか」

 

 二人は家の中に入ってきた。

 

 「これ、お渡ししておきますね」

 

 ギルの手には、アレンの剣と荷物があった。

 

 「村長には、アレンさんが僕達の仲間だって話ししましたから」

 

 「夢でも見てるような顔ね、」

 

 「正直まだ信じられないぜ。お前らがここにいることがな」

 

 

 3人は、空き家のテーブルに座った。

 

 「まず、サラン城のその後ですが、ディスペアの町の人達が協力してくれて、瓦礫の後片付けをしました」

 

 「あの角野郎と狼みたいな奴らは、何もしてこなかったのか?」

 

 「おそらく、どこかに消えたのではないかと思います」

 

 「消えた?」

 

 「そもそも私達3人がサランの城へ入ったときに、既にグレアや狼の魔物はいなかったですよね」

 

 「言われてみれば、そうだな」

 

 「その時点でおかしいです。普通城には警備がいるはずですが、何もいなかった」

 

 「確かに変ね」

 

 「グレアは、多分サランを裏切って、狼の魔物とどこかに消えたのではないでしょうか」

 

 「角野郎は、古文書集めに興味無かったってことか」

 

 「それもあると思いますが、グレアはサランのやり方にずっと反感を持っていたのではないでしょうか。私達がサランと戦うことで、サランの監視が無くなる時間が出来る。それをチャンスに逃げ出した、という事だと思います」

 

 「なるほど、」

 

 ギルは、話しを続けた。

 

 「瓦礫を片付けていると、アクロスさんが落ちた穴が出てきました」

 

 サリヤはアレンを見て言った。

 

 「あの穴、海に繋がっているのよ」

 

 「海に?」

 

 「穴から潮の香りが微かにするんですよ」

 

 「じゃ、アクロスは穴を伝って海に落ちたってことか」

 

 ギルは持っていた一枚の地図を取り出し、テーブルに広げた。

 

 「これはディスペアの人からもらった地図ですが、あの穴は大陸の東側の海に繋がっていると思われます」

 

 「俺らが泳ぎ着いた海岸の反対側か」

 

 「ええ、そうです」

 

 ギルは地図のあるところを指差した。

 

 「ここを見てください」

 

 「島か」

 

 「東側の少し南に下ったところに島があり、そこにはライと書かれた村があります。そして、東側の大陸に近い潮の流れは、この島に向かっているそうです」

 

 「まさか・・・」

 

 アレンは立ちあがった。

 

 「そうです。もしアクロスさんが生きていたら、この島に流れ着いている可能性があります」

 

 サリヤは、立ち上がったアレンを見上げて言った。


 「さあアレン、どうする?ああ、そうだ、忘れてた。あたし達、アレン様の命令で解散したんだっけ」

 

 サリヤは、意地悪な顔になっている。

 

 「その前に教えてくれ。どうしてこの部屋には、古文書がこんなに大量にあるんだよ」

 

 ギルは立ち上がり、本棚から一冊取り出した。

 

 「答えは簡単です。ここにある古文書は全て偽物だからです」

 

 「にっ、偽物?」

 

 「これは闇の古文書。サランが持っていたものと同じ物です。ですが、本物じゃない」

 

 「なぜ偽物とわかったんだ?」

 

 「闇の古文書は暗闇にすれば、最後のページに文字が浮き出るはずですが、ここにあるどの本を見ても文字は浮き出ていません」

 

 「ここは空き家で、誰も明かりとかつけないから、夜になれば真っ暗闇になるわよね」

 

 「だが、サランが持っていた本は本物だったかもよ」

 

 「村長さんから話しを聞きましたが、この村にもグレアが来てたんですよ」

 

 「またあの角野郎か、」

 

 「ええ、狼の魔物と暴れまわっているところを村長が止めに入ると、グレアが古文書のことを聞いてきた。本の特徴が空き家の本棚にある本と同じだと気付いた村長は、本棚から一冊取り出して、グレアに渡したそうです。そして、グレア達はおとなしく引き上げた」

 

 「・・・」

 

 「グレアに渡した本が、たまたま本物の古文書だったっていう可能性も無くはないですが、この家に住んでた老人は外部から来たらしく、服はボロボロで木の杖しか持っていなかったと村長さんが証言してましたから、本物は別にあると考えていいと思います」

 

 「つまりその老人が、ここにある偽物を全部作ったってことか」

 

 「おそらく。そして、その老人というのは、」

 

 「5人の賢者の一人、」

 

 ギルは頷いた。アレンはうなだれるように、テーブルに両手をついた。

 

 「アクロスは生きてる可能性があり、燃えた古文書は偽物だった・・・俺は、一体何をやってたんだ・・・」

 

 サリヤは立ち上がり、アレンをにらんだ。

 

 「さあアレン、どうするのよ。また、旅を続けるの?」

 

 アレンはサリヤとギルの顔を見た。そして、アレンは頭を下げた。

 

 「俺が悪かった。サリヤ、ギル、もう一度俺といっしょに旅に出てくれ」

 

 「嫌よ」

 

 「サッ、サリヤさん!」

 

 「ちょっと燃えたくらいで簡単に解散して、燃えてなかったと知った途端またいっしょになんて、アレン、あんたちょっと虫が良すぎない?」

 

 「・・・」

 

 「アレンがどれだけ真剣に反省しているか、態度で見せてほしいわ」

 

 「どうすりゃいいんだよ」

 

 サリヤは少し考えた。

 

 「この旅が終わっても、おじいさん探しはしないこと、これが条件よ」

 

 「なっ、なんだって!本気かサリヤ!」

 

 「ええ、本気よ」

 

 「ちょ、ちょっとサリヤさん、それは言い過ぎですよ、」

 

 「言い過ぎじゃないわ。私達がどれだけ命を賭けて真剣にこれまでやってきたか、アレンはわかってない」

 

 アレンは返答に困った。

 

 「さあ、どうするのアレン」

 

 「サリヤさん、そこまでしなくても、」

 

 「ギルは黙って!」

 

 サリヤの迫力に、ギルは口を閉ざした。

 

 「返答を聞かせて」

 

 

 しばらく沈黙の時間が過ぎた。

 やがて、アレンは顔を上げた。

 

 「わかった。じっちゃんのことは諦める。俺はドラゴンオーブを探す、お前らといっしょにな」

 

 その言葉を聞いて、サリヤは目を閉じた。

 

 「信じていいのね?」

 

 「ああ、もう一度俺を信じてくれ」

 

 サリヤはギルを見た。

 

 「ギル、出発の準備よ」

 

 

 「わかりました!」

 

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