68 旅の終わり
グラグラグラ、
サランの城が大きく揺れ出した。
部屋の壁が次々と崩れ落ちている。
「城が崩れる!アレンさん、早く逃げましょう!」
ギルはアレンの腕を引っ張った。
「ギル!何言ってやがんだ!アクロスのこの穴に落ちた!助けに行くんだよ!」
「わかってます!ですが、何の道具も無い中で、この穴に入るのは危険です!ここは一旦下がりましょう!」
その時サリヤは、微かな潮の香を感じた。
「ダメだ!今助けないと奴は死んじまうぞ!」
「今助けに行ったら、僕達も死にますよ!」
「うるせー!じゃ、お前は残れ、俺は行く!」
「仕方ない、」
ギルはアレンに金縛りの魔法をかけた。アレンは途端に動けなくなった。
「ギル!お前何してんだ!」
「サリヤさん、アレンさんを僕に背負わせてください」
「わかった、」
アレンは動けないまま、背中合わせでギルの背中に乗せられた。ギルはアレンと自分の胴体を、持っていた紐で縛った。
ギルは燃えた古文書のところへ走った。
古文書は固い表紙を残して、後は灰になっていた。
「ダメだ、最後のページも燃えている・・・」
サリヤは、焦げた本の表紙をギルに見せた。
「これは闇の古文書、」
ガガガガー、
揺れが激しくなってきた。
「サリヤさん、急ぎましょう!」
「そうね、」
サリヤとギルは部屋の扉に向け走った。扉の近くに人影が見えた。
「シアンさん!どうしてここへ、」
「話は後だ!早く逃げないと巻き込まれるぞ!」
ギルは城の入り口に向け走ろうとした。
「そっちはもう崩れてダメだ、こっちに抜け道がある!」
「わかりました!」
サリヤとギルは、シアンの誘導で崩れゆく城の中を走った。その間も、アレンはギルの背中でわめいていたが、サリヤとギルは城を脱出すべく全力で疾走した。
ドドドーーン・・・
脱出した直後、サランの城は崩れ落ちた。物凄い砂煙が舞い、辺りは真っ白になった。
サリヤとギルは城近くの芝生まで来て、走るのを止めた。
「はあはあ、サッ、サリヤさん・・・大丈夫ですか・・・」
「・・・平気よ、」
ギルはアレンを芝生の上に降ろした。
「あれ、シアンさんは?」
「そう言えば、いないね」
「どこかで、はぐれたのかな・・・」
二人が後ろを振り向くと、真っ白な煙で何も見えない。
「ギル・・・いい加減魔法解いてくれよな、」
「あ、忘れてました、」
やがて砂煙は無くなり、視界が元に戻った。
サランの城は瓦礫へと変わっていた。
アレンは芝生の上に座ったまま、立ち上がろうとしない。瓦礫になった城跡を、ぼんやり眺めていた。
しばらくして、アレンは立ちあがって言った。
「宿屋に戻ろう」
宿屋に戻った三人は、着替えて厨房のテーブルに座っていた。
そこには、アクロスが朝作っていたスープの鍋が、そのまま残されている。
夕闇が辺りを暗く染めていた。
「アレンさん、明日からアクロスさんを探しましょう」
「・・・」
「アレンさん、」
「ギル、お前もわかってんだろ、」
「えっ、」
「もう手遅れなんだよ」
「・・・でも、少しでも生きている可能性があれば、」
「あの時!」
アレンはテーブルをドンと叩いた。サリヤとギルは、ビクっとなった。
「お前が止めなけりゃ、アクロスを助けられる可能性がまだあった!アクロスは生きてたんだよ!」
「・・・」
「でも俺達は宿屋に戻り、テーブルにこうして座ってるじゃねえか・・・今更何をやっても手遅れさ」
サリヤとギルは、言い返すことが出来なかった。
「ギル・・・燃えたのは何の古文書だ・・・」
「闇です」
「そうか・・・」
アレンは立ち上がった。
「アクロスは俺の身代わりで死んだ・・・闇の古文書も燃えちまった・・・もう、俺達が旅を続ける理由は無くなったな、」
「アレン、あなたまさか・・・」
アレンはサリヤとギルの顔を見た。
「ここで終わりにしようぜ」
「ちょっと待って下さい!それって、解散ってことですか!」
「ああ、そうさ」
「アレンさん!古文書は全部で5冊です!あと、もう一冊残ってますよ!」
「アレン、探そうよ!ここで解散なんて、あたし嫌だからね!」
「お前らー!」
アレンは大声を出した。サリヤとギルは黙った。
「アクロスは死んだんだ。残ってる古文書を探して、もしサリヤやギルが死ぬことになったら、俺はどうすりゃいいんだ・・・そこまでして、あんな本を集める意味あんのかよ!」
アレンは椅子に座った。
「あの本はギルの言う通り、世界を救う本かも知れねえ。だけど、俺はそんなことより、お前らの命の方が大切なんだ」
「アレン・・・」
「仲間が死ぬくらいなら、世界なんてどうだっていいんだよ」
アレンは立ちあがり、厨房を出て行こうとした。
「アレンさん!」
「ここで解散だ!俺達の旅は、ここで終わりだ・・・お前らは自分の場所へ帰れ」
「・・・」
アレンは厨房を出ていった。
サリヤとギルは、厨房のテーブルに座ったまま動かなかった。
しばらくして、階段を降りてくる音と、カウベルのカランカランという音が寂しく聞こえた。
宿屋を出たアレンは、そのまま暗闇の中へ消えて行った。




