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激流の中で  作者: 清水京太郎
第7章 覇王サラン
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61 箱の中

 アレンはゆっくり扉を開けた。ギーっと木がきしむ音がした。

 部屋の中を様子をうかがい、目を左右に動かした。中から何か飛び出してくる様子はない。

 

 アレンは低くなっていた姿勢を戻し、立ち上がって部屋に入った。

 それを見て、3人も続いた。

 

 大きめの部屋の中は、壁が本棚になっていて、本がびっしりと天上の高さまで並んでいた。本棚の本は、整理整頓され綺麗に並べてある。部屋の隅には、木の椅子がひとつ置いてあった。少し湿っぽい匂いがした。

 

 「まるで、ギルが首をくくったあの部屋にそっくりね」

 

 「モダリントの家に帰ったみたいだ」

 

 「おいおい、穏やかな話しじゃないな」

 

 「アクロスさん、僕も過去にいろいろあったんですよ」

 

 ギルはにっこり微笑んだ。

 部屋の中央には、天板が丸い木のテーブルがあり、その上に木箱が一つ置いてある。

 

 「あの木箱の中か、」

 

 アレンは近づこうとしたが、途中で止まった。

 

 「どうしたの、アレン」

 

 「なあ、これ開けたらまた何か出てくると思うか?」

 

 アレンの問いに、3人は互いの顔を見るだけで誰も答えなかったが、ギルが口を開いた。

 

 「アレンさん、一応警戒はした方がいいですね」

 

 「そうだな」

 

 ギル、サリヤ、アクロスは部屋の隅に移動した。アレンは一人、部屋の中央のテーブル付近にいる。

 

 「じゃ、開けるぞ。っていうより、また勝手に開くかもな」

 

 アレンは箱に向かって一歩進んだ。木の床がギーっという音を立てている。

 

 木箱が勝手に開く様子は無かった。次の一歩で、木箱に手が届く。

 アレンは、ゴクリと息を飲んだ。

 慎重に一歩進み、テーブルの前まで来ると、手を木箱にゆっくりと伸ばした。

 木箱のフタに手をかけた。

 

 「だぁ!」

 

 アレンは素早くフタを開けると、後ろにゴロゴロと転がり、部屋の隅で木箱に向かって素早く剣を抜いた!

 

 

 ・・・

 

 

 「何も・・・起きないですね、」

 

 ギルの声に、アレンは剣を手に持ったまま木箱に近づいた。そして、フタの開いた箱の中をのぞいた。

 

 「・・・」

 

 無言のアレンに、ギルは言った。

 

 「アレンさん、中に何が・・・」

 

 「・・・」

 

 「アレンさん!」

 

 アレンは剣を収めた。

 

 「ギル、こっちに来て見てみろよ」

 

 「えっ?」

 

 アレンはギルに向かって手招きをした。ギルはゆっくり箱に近づき、中を見た。

 


 箱の中には、何も入っていない。

 

 

 「うっ、嘘だ・・・」

 

 ギルの驚愕の表情に、サリヤとアクロスは走って箱に近づき中を見た。

 

 「空か!」

 

 「古文書が入ってるんじゃなかったの!?」

 

 「アレン!」

 

 アクロスが叫んだ。

 

 「俺達は賢者に騙されたのか!」

 

 アレンはうつむいていた。徐々に怒りが込み上げてきた。

 

 「何度死にかけたと思ってやがんだ・・・何も無いだと・・・空だと・・・こんな事許されると思っているのか、」

 

 その時、ギルは空の木箱を奪うように抱え込んだ!

 

 「嘘だ!これは夢だ、こんなの、こんなの現実じゃなーい!」

 

 ギルは大きな声で叫んだ!

 

 「ギル、落ち着け!」

 

 「嘘だあぁーー!」

 

 ギルは木箱をテーブルに思いっきり叩きつけた!

 

 バキーーン!

 

 木箱はテーブルに激しくぶつかり、粉々に砕け散った。

 砕けた木箱の破片が、ギルの顔に当たり、ギルの頬は切れて血が流れた。

 

 「なぜだぁーーー!」

 

 ギルは、両手の拳を壊れた木箱に叩きつけた!

 拳に木の破片が突き刺さった。テーブルに血が飛び散り、ギルの拳は真っ赤に染まった。

 

 「ギル!やめろ!」

 

 アレンは、ギルを背後から抑え込んだ。

 

 「なぜだ、賢者様!なぜなんだーー!」

 

 ギルは、アレンに上から抑えられながら泣いていた。泣きながら、ドンドンと拳を床に叩きつけた。

 アクロスは、力が抜けたように床に座り込んだ。

 

 「こんなの、いくらなんでも酷過ぎるぞ」

 

 サリヤは、ギルを治療した。ギルは床に顔を伏せたまま、涙が止まらなかった。

 アレンは抑えていたギルを放し、床にあぐらをかいた。

 

 「クソ賢者の野郎、探し出してボロボロにしてやるぜ!」

 

 「なんか一瞬で老け込んだ気分だわ」

 

 サリヤも床に座り込んだ。

 ここまで苦労して積み上げてきたものが、音を立てて崩れた。アレン達は脱力感に襲われていた。

 

 ギルは、いつしか泣き止み静かになっていた。しかし、相変わらず突っ伏して床に額をつけている。

 アレンはギルに声をかけた。

 

 「ギル、残念だがこれが現実だ。また一から出直そうぜ」

 

 ギルの反応は無かった。

 アレンは小さくため息をつき、ギルが顔を上げるまで待つことにしようと思った時、

 ギルが、パッと顔を上げた。

 

 「お、またやり直す気になったか?」

 

 ギルは素早く立ち上がり、凄い勢いで部屋を出て行った!

 

 「おい!どこ行くんだ!」

 

 「アレン、追いかけた方がいいぞ!」

 

 アクロスの声に、アレンはギルの後を追いかけた。サリヤとアクロスも続いた。

 

 「ギル!どこだ!」

 

 屋敷の奥で、ギルの笑い声がした。

 アレンが声のした方に行くと、そこは独眼の賢者の絵が飾ってあった客間だった。

 

 「ギル!何やってんだ!」

 

 なんと、ギルは独眼の賢者の絵を壁から外し、ズタズタに引き裂いていた。

 

 「やめろ!」

 

 アレンは、絵からギルを引き離した。

 客間に来たサリヤは、ギルの頬を平手でパーンと叩いた。

 

 「何やってんの!しっかりしなさい!」

 

 アレンに抑えつけられているギルは、サリヤを見て言った。

 

 「えっ?サリヤさん、僕は正気ですよ」

 

 「えっ?」

 

 「お前、こんなに絵をボロボロにして、何が正気なんだよ!」

 

 「アレンさん、あれを見てください」

 

 ギルが、顎で引き裂かれた絵を差した。

 アレンが見てみると、引き裂かれた絵の中に本の一部が見えていた。

 

 「えっ、もしかして古文書か!」

 

 「そうです。地の古文書ですよ、アレンさん」

 

 アレンは、突然の出来事にギルを抑えている手が緩んだ。

 ギルは立ち上がり、絵の背後に隠されていた古文書を引っ張りだし、にっこり微笑んだ。

 鼻から血が流れている。

 

 「絵の中に隠してあったの!?」

 

 「そうです、サリヤさん。最初に絵を見たときにそれに気付いていれば、こんなバカみたいな苦労をせず済んだかと思うと、やるせない気持ちで一杯です」

 

 「・・・全くだな、」

 

 アクロスは、大きくため息をついた。

 

 「しかしギル、よく絵の中にあると気付いたな」

 

 「いえアレンさん、気付いたわけじゃなく、もしかしたらって思ったんですよ」

 

 「でも、絵を破ったってことは、気付いたからじゃないのか?」

 

 「壁から絵を外したときに、中で何か動いたんです」

 

 「それでか、」

 

 「勢いで破っちゃいましたけど、もう少し考えて行動すれば良かったです」

 

 ギルは、申し訳ない顔になっていた。

 

 「でも、絵が怪しいって思ったんだろ?」

 

 「アクロスさん、この絵は魔封印された部屋と共通点があったんですよ」

 

 「共通点?」

 

 「ええ、木箱が置いてあったテーブルと部屋の隅にあった椅子。それらは、この絵の中に描かれたものと同じものだという事に気が付いたんです」

 

 「つまり、あの絵は封印された部屋の中の絵だった」

 

 「そうです。地の古文書は、魔封印された部屋のあのテーブルに上に置いてあった。その時の絵を、独眼の賢者は描いたんですよ」

 

 「なるほど、」

 

 「賢者は、最後の最後で僕達に古文書の在処のメッセージを残してくれたんです」

 

 「それは違うだろ」

 

 「アレンさん、どうしてですか?」

 

 アレンは、ソファーに座り言った。

 

 「多分、砂の城の魔人で俺達を全滅させれると思ったんじゃねえか」

 

 ギルも古文書の手にソファーに座った。

 

 「この部屋までたどりつけないと?」

 

 「そうだ。本当なら封印の部屋の木箱にも、なにか仕掛けをしてもよかったはずだぜ」

 

 「言われてみれば、そうね」

 

 サリヤとアクロスもソファーに座った。

 

 「それをしなかったのは、封印の部屋まで来れるわけがないという、賢者の驕りだと俺は思うね」

 

 「まあ、砂の城の魔人か、その後の城の壊滅で全滅すると思うのが普通だろう」

 

 「それだけ、自分の仕掛けに自信があったんだろうさ」

 

 ギルは皆を見て言った。

 

 「独眼の賢者は、僕達をギリギリまで追い込んでも生き残れるか試した。それは間違いありません。おそらく、この後に待ち受ける試練に耐えれるか否か、それを見極めたかったんじゃないでしょうか」

 

 「試したというより、間違いなく俺達を殺しにきてたぞ」

 

 「アクロス、賢者は最初はギルの言う通り俺達に試練を与えようとしてたと思う。でも、時が経つにつれ、その思いは殺意に変わったんじゃねえか」

 

 「そうかもな、」

 

 「ギル、この後の試練って、もっと酷いのがあるってことか?」

 

 「アレンさん、それはわかりませんが、そんなメッセージが込められている気がします」

 

 「メッセージねぇ、」

 

 アレン達が会話していると、レゼルがやってきた。

 

 「おっ、おい、これは一体・・・」

 

 レゼルは、引き裂かれた絵を見てプルプルと震えている。

 

 「じいさん、すまねえ。絵破いちまったよ」

 

 「絵を破いた・・・だと」

 

 ギルはレゼルの前に飛び出し、土下座した。

 

 「すいません!大変申し訳ございません!僕が勢いで破りました・・・どんな罰でも受ける覚悟です!」

 

 「きさま!」

 

 「すいません!」

 

 「よくやった」

 

 「えっ?」

 

 「わしは、この絵は好かんかった。だが、いなくなったとは言えこの屋敷を建てた元主の絵だ。ふらっと戻って来たりして、絵がなくなっていれば、ただでは済まんだろ」

 

 「まあ、行方不明ってだけで、死んだわけじゃないからな」

 

 「だが、お前らが破壊してくれた」

 

 「破壊・・・」

 

 「これで、もしこの絵の独眼のじじいが舞い戻って来ても、わしじゃない、旅の連中が破壊したんだ、と言おう」

 

 レゼルは嬉しそうだった。レゼルは、ギルが手に持っている本を見た。

 

 「それが、お前さんらが探していた本か」

 

 「ええ、そうです」

 

 「確かに絵の中の本と全く同じだ・・・」

 

 「じいさん、助かったぜ」

 

 「わしは、何もしとらんぞ」

 

 「とにかく礼を言うよ、ありがとな」

 

 アレン達は、立ち上がった。

 

 「じゃ、俺達はこれで」

 

 「おい、こら。お前ら、掃除くらいしていかんか、」

 

 「またな、じいさん」

 

 アレン達はレゼルの屋敷を後にした。

 

 

 「最低の連中だ」

 

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