60 開かれた部屋
「初めまして、私が砂漠のガイドを務めますルギットと申します」
その男は、丁寧にアレン達に挨拶した。
「よろしく頼むぜ」
「村を救ってくださった英雄御一行を案内出来るとは、光栄に存じます」
「俺達はすぐにでもソリッドに行きたいんだ。頼めるか?」
「かしこまりました。それでは、只今から港町ソリッドへ向け出発しましょう」
オーベルが家から出てきた。
「アレン、行くのかい」
「ああ、世話になったな、ありがとう」
アレンとオーベルは、しっかり握手した。
「あんた達は村を救った英雄、いつでも歓迎するよ」
アレンは、にっこり微笑んだ。
「じゃ、」
「アレン、あんた達の旅の無事を祈ってるよ」
アレンはオーベルに手を振った。
「では、行きますね」
アレン達は、ルギットの後をついて歩いた。
砂漠が見えてきた。
砂漠との境界線に立ったルギットは、後ろを向きアレン達に言った。
「砂漠を越えるにあたりまして、いくつか注意事項がございます」
「なんだ?」
「私は、ここから東の方へ少し移動します。移動が終われば合図しますので、お一人が私の左横に5メートルくらい距離を置いて並んでください。そして、その方の左横にもうお一人と、順に距離を置いてお一人ずつ横並びになります」
ギルが、ルギットに言った。
「つまりルギットさんを起点に、左に5メートルの間隔を置いて一人ずつ横に並ぶということですね」
「はい、そうです」
「要するに、固まって移動するなってことだよな」
「アレン様、その通りです。これは砂漠の魔物対策として、会話しないというルールを守るために、お一人様ずつバラバラになっていただきます」
アクロスが、怪訝そうな顔でルギットに言った。
「もう砂漠に魔物はいなくなったんじゃないのか?」
「アクロス様の言う通りです。ですが、念のためです。ガイドは、何よりお客様の安全を補償するのが仕事ですから」
「そうか、」
アクロスは納得出来なかったが、それが仕事と言われると言い返せない。
「わかった。じゃ、そうしよう。他に何かあるのか」
「これを履いてください。これは歩く振動を砂に伝え難くするもので、ラケットと言います」
それは靴に装着する木製の輪っかのようなものだった。
「なるほど、歩くときの音や振動をこれで分散させるのか」
「はい。ギル様、その通りです」
「ルギッドさんって、あたし達の名前知ってる?」
「もちろんでございます、サリヤ様。皆様は、テンプ村の最重要人物ですから」
「そうなんだ、」
「今後皆様が村で買い物や宿屋に宿泊されても、お金をいただくことはありません。全て無料でございます」
「まじか、」
「じゃ、このガイド料金も無料ですか?」
「はい、無料でございます」
「いいのか?」
「これは村の長からの厳命です。違反すれば、村から追い出されます」
そう言って、ルギットは笑った。
アレン達は、靴にラケットを装着した。
「これで、いいのかな」
「はい。それを使えば、砂漠も歩きやすくなりますよ」
「あ、本当だ。砂に足を取られることが全くないですね、これはいい」
ギルは嬉しそうに砂の上を歩き回っていた。
「他に何かあるのか?」
「進むときは、右横を見ながら全員同じ速度で並んで歩きます。砂の山とかで遅れる人があれば、揃うまで待ちます。あとは叫んだり横の方と喋ったりせず、砂漠を渡りきるまでは、ひたすら黙って歩いて下さいね」
「わかった」
「順調にいけば、半日程でソリッド側へ到着します」
「早いな、」
「あたし達、砂漠で迷ってたってことね」
「それでは、私は移動します。合図したら、お一人ずつ横並びでお願いします」
ルギットは東へ歩きだした。
「結構離れるなー、」
アレンは手で顔に影を作りながらつぶやいた。小さく見えているルギットが手を振った。
「お、合図だ。よし、じゃ行くか」
「待って下さいアレンさん、」
「どした、ギル」
「ルギットさんの横には僕が行きます」
「えっ?おっ、おう」
ギルはアレンを制して、ルギットのいる方へ歩いていった。
「なんだよ、ギルの奴」
アクロスがアレンの肩を叩き、小声で言った。
「砂漠の謎を解くつもりなんだよ、」
「好きだね、そういうの」
アレンは苦笑した。
ルギットの横にギル、そしてアレン、サリヤ、アクロスの順に並んだ。ルギットは全員並んだのを確認して、砂漠へ足を踏み入れた。
「それでは、出発します」
ギルは、ルギットをガン見していた。ルギットは、ギルの突き刺さるような痛い視線に苦笑していた。
(別に変なところは無いな・・・)
上空は、いつしか厚い雲に覆われていた。ギルが後ろを見ると、砂しか見えなくなっていた。しかし、ルギットはコンパスを使うでもなく、迷うことなく前を見て砂漠を進んでいる。
(一体どうやって方向がわかるんだ・・・)
周りを見渡しても砂しかなく、目標になりそうなものは何も無い。
ルギットはギルの方を見て、にっこり微笑んだ。
(謎が解けないことに自信があるな。解けるものなら解いてみろって感じか・・・)
ギルは、じわじわと敗北感を感じていた。
( くそー、わかんない!)
やがて、ソリッドの森が見えてきた。
(あー、ダメだ。森が見えたらもう迷うこともない・・・くそ、負けた・・・)
アレン達は、ソリッド側に到着した。
「すごーい、全然迷うことなく歩けるなんて!」
「まさに感動ものだな」
「さすがは砂漠のガイド、恐れ入ったぜ」
「恐れ入ります。アレン様御一行に褒めていただいたことは、私の誇りです」
そう言って、ルギットは頭を下げた。
「いや、本当に凄いよ」
「ありがとうございます」
アレン達は、ラケットを外した。
「じゃあ、俺達はこれで。ありがとな、助かったぜ」
「アレン様の旅のご無事を祈っております」
アレン達はルギットと別れ、ソリッドの町へ向け歩き出した。
「ギル、砂漠の謎は解けたのか?」
「アレンさん、・・・僕の負けです」
アレンはギルの背中を叩いた。
「ギル、負けることが明日の成長につながるんだぜ、フフ」
「アレンさん、なんで嬉しそうなんですか」
「気のせいだよ、」
「・・・」
アレン達は寄り道することもなく、真っすぐレゼルの屋敷を目指した。
「いよいよだな、ギル」
「ええ、ここに来るのに何度死にかけたことか」
アレン達はレゼルの屋敷の前にいた。
「ギル、まさか鍵が無いってことはないだろうな?」
ギルはアクロスに鍵を見せた。
「ご心配なく、ちゃんとあります」
「じゃ、いくぜ」
アレンは屋敷の中庭を通り、ノックもせずにドアを開けた。
「じいさん、いるか?」
「お前さんらか。ノックもせず人の家に勝手に入りおって、一体ど・・・」
「この前の封印された部屋、開けさせてもらうぜ」
「構わんが、金を・・・」
ギルは銀貨5枚をレゼルの手に握らせ、不敵に笑った。
「・・・」
アレン達は屋敷の中を歩き、魔封印の部屋の前に立った。
「ギル、俺が開けよう。鍵を渡してくれ」
「わかりました」
ギルはアレンに魔封印の鍵を渡した。
アレンはゆっくり部屋のドアに近づいた。アレン達の後ろで、レゼルが恐々とアレン達の様子を見ている。
「おっ、おい、お前ら本当に大丈夫なのか?」
「しーっ、」
3人に一斉にしーっをされ、レゼルは思わず口を閉じた。
アレンは、鍵を鍵穴に差し込んだ。
(よし、防御反応がない!あの鍵で間違いない!)
ギルは、拳を握った。
アレンは差し込んだ鍵を、ゆっくり回した。
ガチャ
その時、プシューっと空気が抜けたような音がした!
「キャッ!」
サリヤの声にアレンは思わず飛び退き、背中の剣に手をかけた!
しかし、何も起こらない。
「ごっ、ごめん。緊張してたからプシュって音に驚いたの、」
アレンは剣を握った手を離した。
「よし、扉を開けるぞ」
「ちょっと待て、アレン」
アクロスは後ろにいるレゼルに言った。
「ここは危険だ。あんたは避難してくれ」
「なっ、なにを言う!ここは、わしの屋敷だぞ!」
「巻き込まれて死にたくないだろ?」
ギルも後ろを向いた。
「レゼルさん、もしかしたら魔物が出てくるかも知れませんよ」
「ほっ、本当か!?」
「もしかしたらです。でも、魔物が現れたら、僕達は戦うのに精一杯で、レゼルさんを守ることが出来ません。いいですか、それでも」
「おっ、脅しよって・・・」
レゼルはブツブツ言いながらも、その場を離れどこかにいった。
アレンはそれを確認して、
「よし、開けるぞ。お前ら、準備はいいな?」
アレンの言葉に、それぞれ戦闘態勢を取った。武器を持つ手にチカラが入る。
アレンは、ドアの取っ手に手をかけた。




