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激流の中で  作者: 清水京太郎
第6章 炎の魔人
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59 時の彼方に

 新しい朝が来た。

 

 「アクロス、俺はサリヤを村まで送ってくる」

 

 「そうだな、女性にはあの重労働は無理だ」

 

 アレンはサリヤを馬に乗せ、テンプ村まで走った。

 テンプ村に到着したアレンは、サリヤに言った。

 

 「俺は砂を掘る道具を買って、ギル達のところへ戻る。お前は、オーベルに宿屋を教えてもらってくれ」

 

 「アレン、あたしは何をすればいいの?」

 

 「一週間後に持ってこれるだけの食料を運んでくれ。それまでメシは、干し肉と後は現地調達してなんとかやってくよ」

 

 「わかった、」

 

 「じゃな、頼んだぜサリヤ」

 

 アレンは馬に跨った。

 

 「アレン、頑張ってね。見つかることを祈ってる」

 

 「必ず見つけるさ、心配すんな」

 

 

 アレンが村から戻ってきた。

 砂を掘る道具が手に入ったので探す効率は上がったが、まるで砂漠かと思える程の砂の量は、出口の無いトンネルをさまよう感じで、先がまるで見通せない。

 

 「アレン、近くに川があったのは良かったな」

 

 その夜、捕まえた野兎を焼いて3人で食べていた。

 

 「水は絶対に必要だからな、助かったぜ」

 

 「アレンさん、」

 

 「なんだ、ギル」

 

 「今日アレンさんが戻ってからの作業と、砂のおおよその量とで、この砂全部を探したとしたらどのくらい時間がかかるか、ざっくり計算しました」

 

 「正直聞きたくないな」

 

 アクロスは、野兎の骨を口からペっと吐き出した。

 

 「せっかくギルが計算したんだ。教えてくれ、ギル」

 

 「3人で今日と同じ作業効率をずっと出せたとして、」

 

 アレンとアクロスは、ギルに注目した。

 

 「おおよそ一年です」

 

 「いっ、一年・・・」

 

 「それは、ちょっとマズイぜ」

 

 「ま、最後の最後まで発見出来なかった場合の話しですけど、」

 

 「つまり、どのくらい時間がかかるか、あとは運しだいってわけか」

 

 「・・・」

 

 パチパチと燃える炎が、元気の無い3人の顔を赤く照らした。

 二つの月が、砂の大地を薄明りで照らしている。

 

 「ギル、この砂の試練もクソ賢者の仕業だぜ、きっと」

 

 「アレン、賢者の仕掛けが砂の城を壊したってことか?」

 

 「ああ、きっとそうさ。鍵を取った後すぐに地震なんて、そんな事あり得ねえよ」

 

 (もし、そうだとしたら、独眼の賢者は鍵を奪われたときの事まで考えていたのか・・・)

 

 アクロスは炎に枯れ木を入れた。火の粉が飛び、炎が揺れた。

 

 「アレン、良く分からんが、どうして賢者にそこまで嫌われるんだ?」

 

 「俺達に、自分の人生をメチャクチャにされたからだろ」

 

 「どういうことだ?」

 

 「アクロスさん、今度ゆっくり僕が説明しますよ」

 

 「そうか、わかった」

 

 「さて、明日も頑張らないとな。さ、寝ようぜ」

 

 焚き火を消し、アレン達は眠った。

 

 

 

 次の日、そして、その次の日も、アレン達はひたすら砂を掘り、皮の袋を探した。

 しかし、見つかる気配は全く無かった。

 

 キツイ作業だった。血豆がつぶれて、その上にまた血豆が出来た。手と砂を掘る道具は赤く染まり、日が経つに連れて砂を掘る効率は確実に落ちた。

 6日目の夜には、何も食べず誰も口を利かなくなっていた。

 

 そして、7日目の朝がきた。

 フラフラになりながらも、アレン達は砂を掘る道具を手にした。ギルは道具を持った瞬間激痛が走り、思わず道具を落とした。

 

 「アレン、これじゃ身体がいくつあっても足りないぞ」

 

 「・・・そうだな。でも、早く見つけたい。こんな事で過ぎていく時間が惜しいんだよ」

 

 「気持ちは分かるけどな・・・」

 

 その時、アレンは背後に大勢の気配を感じた。

 

 「誰か来るのか・・・」

 

 気配のする方向は、登る朝日がまぶしかった。思わず目を閉じたアレンの前方に、複数の黒い影が現れた。

 

 「なんだい、ボロボロじゃないか」

 

 「アレン!」

 

 馬を降りたサリヤは、アレン達に駆け寄った。サリヤは、全員の真っ赤な手を見て絶句した。

 サリヤが目を閉じると、アレン達を緑色の風が包んだ。赤い手は即座に元に戻り、痛みも消えた。

 

 「助かったぜ」

 

 アレン達は、まるで手品のように一瞬で回復した。

 

 (これが聖女のチカラかい、全く恐ろしいね・・・)

 

 オーベルは、馬を降りアレンに近寄った。

 

 「アレン、サリヤから聞いたよ。砂の城で見つけた鍵を無くしたんだって」

 

 「ああ。城が壊れた砂の中に埋もれちまったみたいだ」

 

 「もっと早く来たら良かったね。ちょっと人を集めるのに時間がかかったんだよ」

 

 オーベルの背後には、大勢の男達が馬に乗っていた。

 

 「探すの手伝ってくれるのか?」

 

 「アレン、あんたはテンプ村の恩人だよ。困っているなら助けて当然さ」

 

 アクロスが後ろから出てきた。

 

 「俺達を警戒して監視してたんじゃなかったのか?」

 

 「ああ、あたしの家での警備の話しかい?」

 

 「そうだ」

 

 「あれは監視じゃなくて、あんた達を守っていたのさ」

 

 「守る?」

 

 「あんた達の凄いチカラを利用しようとする連中がいるって、密告を受けたんだよ」

 

 「俺達を利用ねぇ、」

 

 「あたし達から見れば、あんた達のチカラは神と同じさ。そんな人間離れしたチカラを、私欲のために利用しようとする連中がいるのは、いつの世でもあることだろ」

 

 「そんな連中が来たとしても、俺達がどうにかなるなんて、あり得ない話しだけどな」

 

 「アレン、もちろんそうさ。砂漠の魔物を簡単に倒してしまうようなあんた達に、かなう奴なんていないのは分かり切った話しだよ」

 

 「当然だな、」

 

 「だけど、もし一般民に手を出したとなれば、あんた達は神じゃなく悪魔になるよ」

 

 そのことは、アレンは分かっていた。

 

 「民衆とは、そんなもんさ。英雄だった者も、次の日には石を投げつけられるんだよ」

 

 「その通りだよ」

 

 「だから、あんた達がどんなに凄いチカラを持っていても、手を出せない時点で、あんた達は一般民には勝てないのさ」

 

 「それで俺達の警備をしてくれてたのか」

 

 「わかってくれたかい、アクロス」

 

 「勘違いして悪かった、許してくれ」

 

 「気にしてないさ。さて、アレン、」

 

 オーベルはアレンを見た。

 

 「後ろにいる連中、ざっと300人だ。ここにいる全員が、あんた達を手伝うよ」

 

 アレンがオーベルの背後を見ると、手に砂を掘る道具を持った男達が、不気味な笑顔を浮かべて立っている。

 

 「悪いな、よろしく頼む」

 

 オーベルは、ギルから探し物が腰につけていた皮袋ということを聞き、男達に伝えた。

 男達はオーベルの掛け声を合図に、一斉に砂を掘り始めた。

 

 「後は私達に任せて、あんた達はその辺で休んでなよ」

 

 「いいのか?」

 

 「ああ、これだけいれば、きっと今日中に見つかるだろうさ」

 

 アレン達はオーベルに感謝しつつ、木陰で休んだ。男達の砂を掘る勢いは、凄まじかった。

 

 「確かに今日中に見つかりそうだぜ」

 

 「僕達3人の100倍ですからね」

 

 

 そして、午後を少し過ぎた頃、見つけた!という大きな声が、辺り一帯に響いた。

 オーベルは男から見つけた物を受け取り、ギルに見せた。

 

 「どうだい?」

 

 「これです!」

 

 ギルは袋を開け中を見た。砂の城で勝ち取った鍵が、しっかり入っていた。

 

 「あった!鍵が入ってましたよ、アレンさん!」

 

 「良かったわね、ギル」

 

 アレンは、オーベルの前に出た。

 

 「ありがとう、心から感謝するぜ」

 

 「見つかって良かったよ」

 

 「砂の城は壊れちまったがな」

 

 「構まやしないよ。誰が建てたか知らないけど、こんなものあった所で村には何の恩恵も無いからね」

 

 「そう言ってもらえると、気が楽だぜ」

 

 「アレン、これからどうするんだい」

 

 「この鍵で開けなきゃいけない部屋があるのさ」

 

 「どうせあんたのことだ。ゆっくりしないで行くんだろ?」

 

 「ああ、今夜は村に泊まって明日朝ソリッドへ向かう」

 

 「わかった。じゃあ、今夜もあたしの家に泊まりなよ。砂漠のガイドは、明日の朝に私の家まで来るよう手配しておくから」

 

 「悪いな、何から何まで」

 

 「あんた達は村を救った英雄さ。当然のことだよ」

 

 アレン達とオーベル、そして手伝った男達は馬にまたがり、テンプ村に向け走り出した。

 アレンの後ろに乗ったサリヤは、壊れて砂の塊になった城跡がどんどん遠ざかっていくのを見ていた。

 

 「アレン、壊れた城は元に戻らないのね」

 

 「それが時の流れってもんだよ」

 

 「この旅も、いつか終わりが来るのかな・・・」

 

 「どした急に、」

 

 「ううん、なんでもない」

 

 サリヤは、アレンの腰に回している腕に力を込めた。

 

 「おいおい、昨日から何も食ってねえんだぞ。そんな強く締めんな」

 

 「アレン!」

 

 「なんだよ、」

 

 「テンプ村で美味しいもの食べようよ!」

 

 「・・・そうだな、お前のおごりで」

 

 「えー、なんでよ、」

 

 

 馬は一路テンプ村に向け走った。

 砂の城は、独眼の賢者の思いとともに、時間の彼方へ消えていった。

 

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