05 武闘大会の始まり
翌朝、アレンはフカフカのベッドで目覚めた。
大きく背伸びをした。
「うーん、なんて気持ちのいい朝なんだー」
おもむろに窓を開ると、太陽はアレンの頭の真上にあった。
「やばい!急げ!」
武闘大会の受付は、当日の朝から始まり、昼で締め切りだった。
素早く着替え、宿屋の階段を落ちるように駆け下りた。
凄い音に驚いた主人は、宿屋から飛び出そうとしているアレンに声をかけようしたが、姿は既に無かった。
「くそー! ベッドが気持ち良すぎて寝過ごした!」
アレンは、城の入り口へ向け全速力で走った。
「これで間に合わなかったら、シャレになんないぜ」
「そこで、止まれ」
アレンは、城への入り口を槍で塞がれた。
「はあ、はあ、武闘大会の参加者だ。はあ、はあ」
門番は、無言だった。
(えっ、まじか・・・)
少しして、入り口を塞いでいた槍を元に戻した。
「よかった、間に合ったか」
門の中は、レンガを重ねて壁が作られていた。
城壁はかなり分厚く、トンネルのように日差しが遮られているので中は涼しかった。
門番が目線を送った先には、薄暗い中椅子に座っている受付らしき男がいた。
アレンは流れる汗を拭きながら、男に近寄った。
「大会に参加する者か?」
「そうだ」
男はアレンの頭からつま先まで、舐めるように観察した。
そして、小さくため息をついた。
「名前と出身を言え」
「名前はアレン、出身はフィニス村」
「フィニス? あの辺鄙な村か」
「なにか問題でも?」
「ドラゴンの年、ドラゴンの月生まれだろうな?」
「もちろん」
「嘘をつくと、首をはねるぞ」
「間違いねえよ」
男は、疑いと軽蔑の眼差しでアレンを見ていた。
アレンは視線を外すことなく、男を見返していた。
「お前、読み書きは出来るのか?」
「ああ、出来るぜ」
「では、この紙に書いてあることを読んで、異議なければここにサインしろ」
男は一枚の紙を取り出し、机の上に置いた。
そして、サインする場所を指でコンコンと叩いた。
アレンは、紙を取り読んだ。
紙には次のような事が書かれてあった。
・武闘大会は勝ち抜き戦で行われ、組み合わせは運営側で決める。
・優勝者は、次回以降の武闘大会には参加できない。
・相手が戦闘不能になるか負けを認めた場合に勝ちとする。
・試合中に相手にケガや死亡させることがあっても無罪とし、賠償する義務も発生しない。
また、ケガや死亡に関して運営者は一切責任はない。
・試合時間は制限がなく、また判定に引き分けはない。
・敗者は試合後すみやかに城を出ること。
城内に残っていると判断した場合は、罪人とし拘束する。
「殺しても無罪ねー、そりゃ凄いわ」
「怖気づいたか。なら、とっとと辺鄙村に帰るんだな」
会話を聞いていた門番は、アレンの方を見て笑っていた。
アレンは机越しに、顔を男に近づけた。
「ここで殺したら罪になるんだろ? あんたラッキーだったな」
男は、ギョっとした顔になった。
アレンは、にこやかにサインをし、紙を男に突き出した。
「ほらよ、これでいいんだろ」
男は、アレンから紙をひったくった。
「後悔するなよ」
捨て台詞のように吐き、紙を箱の中に入れた。
「じゃな」
アレンはくるりと背を向け、城の中に入っていった。
◇◇◇
太陽の光が容赦なくコロセウムに照り付けた。
ズラリと並んだ武闘大会の選手。
宿屋にいた男から聞いた通り、観客はおろか誰一人いなかった。
「まじ誰もいねえ・・・やる気でないよ、これじゃ」
「心配すんなや。俺様が一瞬であの世に送ってやるから」
横にいたガッシリとした体格の男が、アレンを見て意地悪そうに言った。
「ああ、そうかい。そりゃ楽しみだ」
アレンは、言い返した。
リラックスした表情を見せているアレンだったが、内心は緊張していた。
アレンにとって、対人の戦闘は今日が初めてだったからだ。
エルダーと数えきれない程戦ってきたが、言うなればそれらは全て模擬戦。
ケガはしたものの、命のやり取りまでには当然至っていない。
相手を殺せるという今の緊張感は、全く次元が異なるものだった。
しばらくして、コロセウムの中段あたりから、中年太りした背の低い男が現れた。
男は参加者全員をっゆっくりと見渡し、そして宣言した。
「これより、武闘大会を始める」
(ついにきたか・・・)
アレンは、ギュっとこぶしを握り締めた。
嫌がっていたものの、いざ戦いの場に立つと、言いようもない緊張感、そして、不思議と胸の高鳴りを感じた。
「これまで嫌という程修行した成果、見せてやるぜ」
一人の背の高い男が、選手の前に現れた。
「わたしが審判を務めます。よろしくお願いします」
男は選手達に頭を下げた。
そして素早く背中を向け、中年太りの男に向かって、大声で最初の組み合わせを告げた。
「第一回目の対戦は、ラウルス、対するは、アレン」
名前を呼ばれた対戦者以外は、コロセウムの隅に散らばった。
「ほほう、貴様か。やはり俺があの世に送ってやる運命だったようだな」
「どうでもいいけど、あんた酒くせえよ。喋んじゃねえ」
「なんだと!」
アレンは真剣な顔になった。そして、剣を構えた。
(じっちゃん、俺の試合、今始まるぜ)
「対戦始め!」
審判の試合開始の声が、コロセウムに響いた。
アレンの初めての戦いが、今始まった。




