58 砂の崩壊
ミラルは、サリヤに向けて炎を吐き出した!
ゴオオォォー!
サリヤは思わず目を閉じた!
しかし、炎がサリヤを蒸発させることはなかった。
なんと、ギルが竜巻の魔法で、ミラルの炎を巻き上げていた!
炎は竜巻の渦に巻かれ、火柱となって部屋の上部の壁を蒸発させた。
今度はギルに顔を向け、ミラルは炎を吐き出した!
ギルは横に飛び炎を避けたが、そこは度重なる振動で床が脆くなっていた。
ギルの着地と同時に砂の床は崩れ、ギルはまるで蟻地獄に落ちるように、下に落ちる砂に引き込まれそうになった!
「うわぁ!」
落ちる寸前、草の束を片手で掴んだ。足元は床が完全に抜け、ギルは宙刷り状態になっている!
「ギル!」
アクロスは、草を掴んでいるギルの手が見えていた。
ミラルはギルに顔を向けたまま、再び大きな口を開けた!
「ダメだ!やめろー!」
思わずアクロスは、顔を横にそらした。
ミラルが炎を吐き出そうとした、その時!
バキッ!
次にアクロスが目を開けたとき、ミラルは消えていた。
箱が置いてあった周囲は、細かい砂煙が舞い上がり空気が白く濁っていた。
「消えた!?」
アクロスは、宙吊りになっているギルに駆け寄り引き揚げた。
「魔人がいない?」
「突然消えたよ」
「サリヤさんは!?」
「倒れたままだ」
ギルはサリヤの元へ走り、抱き起した。
「サリヤさん、大丈夫ですか、」
「あたし生きているの?」
「ええ、生きてますよ」
「あれ、魔人は」
「理由はわからんが、突然消えた」
「えっ、消えた?」
「あれですよ」
ギルは、箱があったところを指差した。徐々に見えてきたそこには、アレンがうつ伏せで倒れていた。
「アレン!」
アクロスは、アレンを起こした。
「アレン、大丈夫か!」
「もう少し優しく起こしてくれよ。全身痛えんだから」
「すまん、」
アレンの胸には、箱に入っていた鍵が張り付いていた。周りには、バラバラになった箱の破片が飛び散っている。
「その胸の鍵、」
「ああ、これが魔封印の鍵さ」
サリヤとギルが、アレンとアクロスの元へやってきた。サリヤは、アレンを回復させた。
アレンは胸に貼りついていた鍵を取り、ギルに渡した。
「ギル、こいつで三冊目の古文書ゲットだな」
「ええ、そうです」
ギルは、アレンから受け取った鍵を高々と掲げた。
「アレンさん、僕達は独眼の賢者の試練を見事に乗り越えたんですよ」
「そうだな、」
ギルは、満足そうな笑みを浮かべた。
「アレン、箱に向かって飛び込んだのね」
「ああ。壁にぶつかって、身体が痛くて上手く動けなかったけどな。あいつが炎を吐きまくっているのを後ろで見て、もう箱を壊すしかねえと思ったのさ」
「しかし、よくアレンの動きが魔人に感知されなかったな」
「アクロスさん、あの魔人が動きをキャッチ出来るのは魔人より前方だけで、後ろ側はむしろ安全だったんですよ」
「そういうことか、」
サリヤは、ギルが手に持っている鍵を見つめて言った。
「これが魔封印の鍵なの?普通の部屋の鍵にしか見えないけど、」
「独眼の賢者が、僕達を消そうとしてまで渡したくなかった鍵です。もしこの鍵じゃなかったら、僕が独眼の賢者の首を締めますよ」
「しかし、箱を壊すことが魔人を倒す方法だったとは。今思えば、簡単な話だったんだな」
「でも、あの魔人を見た人が、箱を壊すという発想は、おそらくでないですからね」
「確かにな、」
「魔人の後ろ側が安全だったのも、魔人に向かって飛び込んでくることを、賢者は想定していなかったからだと思います」
「まあ、普通は飛び込まないよ」
「アレンが異常で良かったわ」
「サリヤ、誉めてるのか、バカにしてるのか、どっちなんだよ」
サリヤは、アレンに腕をからませた。
「何言ってるの。アレンの普通じゃない行動が、あたし達を救ったのよ」
「全然嬉しくないんだけど、」
「まあ、いいじゃないか。アレンに皆が救われたのは事実だ」
「そうですよ。魔封印の鍵も手に入ったことですし」
ギルは、鍵を腰の皮袋に入れた。
「そうだな。まあ、よしとするか」
アレン達は、皆で笑いあった。
その時、
グラ、グラ、グラ、
また、部屋全体が揺れ始めた!
「おっ、おい、どうした!」
「新たな敵か!」
「いや、何も感じないぞ」
「アレンさん、もしかして、これは本物の地震じゃないでしょうか!」
「なに!このタイミングでか!」
バアーーン!ドーーン!
大きな音を立てて、砂の床がどんどん抜けていく!
「やばい!階段だ、階段へ急げ!」
アレン達は、急いで階段があるところへ向かった。その時、ギルが走っていた床が、大きな音を立てて落下した!
「うわぁー!」
「ギル!」
アレンが手を伸ばしたが、間に合わなかった。
「ギーール!」
ギルは、暗闇の底に消えた。
「くそーっ!」
アレンは、握り拳を思いっきり床に叩きつけた!
その間も部屋は揺れ続け、徐々に揺れが大きくなってきた。砂の城全体が揺れている!
「アレン!今は降りることが先だ!早く来い!」
アレンは立ち上がり、3人は階段を降り始めた。
アレンが後ろを見ると、天上が崩れ、大量の砂が下の闇へ吸い込まれていった。
「ダメだ、崩れる方が早いぞ!」
「くそーっ!」
次の瞬間、周りの壁が一気に全て崩れ、アレン達は足場の階段を失い、暗い闇へ落下した。
「うわぁー!」
「キャーー!」
ズシーーン
全てが崩れ、静寂が訪れた。
「ブファ、」
アレンは、砂の中から顔を出した。
「アレン!無事だったか!」
近くにいたアクロスが駆け寄り、顔だけ出したアレンを引き上げた。
「サリヤとギルは?」
「まだ見つかっていない」
アレンは全身砂だらけになっているのを構いもせず、目を閉じ気を探った。
「アクロス、こっちだ!」
アクロスは砂に足を取られながら、アレンの走る方についていった。
「この辺りだ!」
「よし、」
アレンとアクロスは、手で砂をかき分けながら必死に掘った。
白い頭が見えた!
「見えたぞ!サリヤだ」
サリヤは砂の中で淡い光に包まれていた。アクロスは両腕をグッと砂に突っ込み、サリヤを引き上げた。砂だらけのサリヤは、両腕がだらんとなり意識を失っているようだ。しかし、クレセント・カルマンは、しっかり握られている。
アレンは、サリヤの胸に耳をあてた。
「まだ生きてる!」
「アレン、任せろ!」
アクロスはサリヤの背骨に膝を当て、両手を持ってグっと後ろに引いた。
「はぁ!」
サリヤは目を開き、口を開けて呼吸した。
「よし!これでサリヤは大丈夫だ!あとはギルか」
アレンは再び目を閉じて、気を探った。
「一体・・・何が・・・起きたの」
横になっているサリヤは、はっきりしない意識の中で喋った。
「静かにしろ。今アレンが、ギルの気を探っている」
なかなか見つけることが出来ない。目を閉じたアレンの眉間に、焦りのシワが寄った。
その時、
ドカーーン!
爆発が起き、砂が空中に噴き上げられた!爆発の穴から、ギルが出てきた。
「ふうー、良かった。なんとか脱出できた」
ギルの姿を見たアレンとアクロスは、安堵のため息をついた。
「よかった。なんとか全員生きてたな」
「あ、アレンさん!」
「ギル、こっちだ」
ギルは、砂の上をヨロヨロしながら走ってきた。
「皆無事だったんですね」
「ああ、サリヤはちょっと危なかったけどな」
「多分、神器の杖に守られたんじゃないか?」
「そういえば砂の中で光ってたぜ、サリヤ」
「あたし、何も覚えてない」
アレン達は砂まみれになりながらも、全員の無事を喜んだ。
「ギルが落ちたときは、ダメかと思ったぜ」
「部屋から落ちたときに、咄嗟に光の盾をだして自分を包み込んだんです」
「なるほど、」
「俺達は、たぶん先に落ちた砂がクッションになって助かったんだと思う」
「しかし、ハデに潰れましたね」
「ああ、まさか砂の城全体が崩れるとはな・・・」
砂の城は跡かたもない。周囲には、大量の砂が一面に積み上がっていた。
「まあ、でも結果オーライというか、魔封印の鍵も手に入ったことですし・・・」
ギルは鍵を入れた腰の皮袋を取ろうとしたが、無かった。
「あれ?」
自分の腰を見たが、あるはずの皮袋が無い。
「まさか!」
「どうした、ギル」
ギルは、自分が爆発の魔法で這い出た所に向け走った。
「なにがあった?」
「鍵を無くしたんじゃないか、」
「なに!」
アレン達も、ギルの後を追いかけた。
ギルは自分が這い出た穴を見て、茫然と立っていた。
「ギル、落ちたとき、どこかにいったのか?」
「おそらく、そうかと・・・」
「まあ、この砂の中にあるんだし、探すしかねえな」
「アレンさん、無理です・・・こんな大量の砂の中から、皮の袋を見つけるなんて・・・」
「ギル、諦めんなって。さあ、探すぞ」
アレン達は、ギルが腰につけていた皮の袋を探し始めた。
夕闇が訪れた。
「暗くなってきたな」
アクロスの言葉に、アレンは腰をトントンと叩きながら、
「よし、今日はここまでにしようぜ」
「どうする、アレン」
「ここで野宿しよう」
アレン達は、馬を繋げた辺りの木々がある所で、野宿することにした。
「ちょっと近くに川がないか探してくる」
「わりい、頼むわ」
アクロスの言葉に、サリヤが反応した。
「アクロス、あたしもいっしょに行くわ」
「すまんな」
サリヤは杖で灯りをつけ、アクロスの後を追った。
パチパチと燃える炎が、ギルの元気のない顔を照らしていた。
「ギル、そう落ち込むなって」
「こんな大量の砂の中から見つけるなんて、出来るんでしょうか」
「出来るかじゃない、やるんだよ」
「・・・おそらく、凄い時間がかかると思いますけど・・・」
アレンは、ギルの肩を叩いた。
「ギル、それでもやるんだよ。俺達が命を賭けて、勝ち取ったもんだぜ。そう簡単に諦めんなよ」
アレンの言葉に、ギルは辛い思いをして砂漠を乗り越えてきたことを思い出した。皆が協力し、命を賭けてここまで来た。
「あの鍵は、みんなの鍵ですね」
「そうさ、俺達の鍵だ」
「頑張って探します!」
「その調子だ。頑張ろうぜ、ギル」




