56 魔人出現
アレン達はサリヤがギブアップ宣言するたびに、階段途中の小部屋に入って休憩した。
「サリヤさん、大丈夫ですか?」
「ダメ、もう足がパンパンよ」
「もうすぐ天上です。あと少しで到着しますよ、頑張りましょう」
「上で何も出なけりゃいいけどね」
「村長が化物がいるって言うくらいだ。何もいませんってことはないだろう」
「アクロス、案外もういなくなってるかも知れねえぜ」
「だが、用心に越したことはないだろう」
ついにアレン達は天上に差し掛かった。インドラの塔と同じように、階段は天上を突き抜けていた。
そして、階段を登りきったそこは、想像とは全くの別世界だった。
「うわぁー、なんて素敵なの!」
サリヤは足が痛いのも忘れて、思わず驚嘆の声を上げた。
「ここが最上か」
「まるで季節の花が咲く草原のようですね」
「一番上がこんなだとは、想像も出来ないな」
三角形の頂点が作る空間であったが、壁に大きな隙間が所々空いていて、そこから差し込む太陽の光が、とても幻想的であった。
「もう杖の明かりは必要ないわね」
一言で言えば、そこは美しい光景だ。
サリヤは、草原の中を歩いているような感覚に包まれていた。花だけでなく、蝶がヒラヒラと舞い、蜜を吸う虫もいる。
「インドラの塔とは大違いだな」
「アレン、ここには何もいないようだぞ。気を全く感じない」
「なんか拍子抜けだぜ、これは」
ゆっくりと歩いていた4人は、やがて部屋の中心に箱を見つけた。
「ギル、ここにも宝箱があるな」
アレンは、近づこうとしたが、
「待って!アレンさん!」
「どうした、ギル」
「おかしいですよ、この箱、」
「確かに変だな」
「なにがだ?普通の木箱にしか見えないけど?」
「この箱、開けられていません」
言われてみれば、これまで階段の小部屋にあった箱は全て開けられ、中に何も入っていない状態だったのをアレンは思い出した。
「ここに誰も来ていない、ってことはないよな」
「ないですね。普通に階段登れば、ここに到着しますから」
ギルは、少し時間をおいて、
「考えられるとしたら、フタを開けた途端に何かの罠が発動する、って感じでしょうか」
アレンは箱に伸ばしていた手を、思わず引っ込めた。
「一番あり得るのは、床が抜けて落下するパターンだな」
開けなくて良かった!と、アレンは心の中でガッツポーズ。
「だが、アクロス。このまま何もしないわけにもいかないだろう」
「そうだよ、アレン。誰かがこの箱を開けなければ、話しは前へ進まない」
「誰かって、誰・・・」
ふと見ると、アレン以外の3人は、全員アレンの顔を見つめていた。
「・・・えっ、俺?」
アレン以外の3人は、全員頷いた。
「アレン、落ちたら骨は拾ってあげるね」
「アクロスさん、アレンさんのお墓には何て書きますかね?」
「英雄王、ここに眠る、でいいんじゃないか?」
「おお、さすがです。それでいきましょう」
アレン以外の3人は、全員アレンの顔を再び見つめた。
「ちょ、ちょっとー。なんだよ、お前ら。マジ俺が開けるわけ?ギル、お前の魔法で開けれないのか?」
「そんな魔法ありません」
「サリヤ、お前なにか召喚して、代わりに開けさせるとか、できんだろ?」
「あたしは、召喚魔法なんて使えませんよ」
「あ、ギルなら出来るよな?」
「出来ません」
アレンは、狼狽えてきた。
「そんなキッパリ言うか、ギル」
「出来ないものは、出来ませんよ。アレンさんが、このパーティーのリーダーなんですよ。ジタバタせずに腹をくくって下さい」
無慈悲なギルの言葉に、アレンは何も言えなくなった。
相変わらず3人は、アレンを見ている。
「じゃあ、リーダーとして命じる。ここは、・・・」
「命じるな!」
アレン以外の3人の声が揃った。
「・・・」
ザバーーン、崖っぷちのアレン。
「わかった、わかったよ、わかりました。俺が開ければいいんでしょ、開ければ!」
「アレン、ようやく死を受け入れたか」
「くそー、化けて出てやるからな」
アレンは覚悟を決め、宝箱と向かい合った。アレン以外の3人は、部屋の隅へ退避した。アレンは箱に手をかけた。腰から下は即座に走り出せる体制だ。アクロスは、背中のアッシュ・ノワールを持った。サリヤとギルも、杖をギュっと握りしめている。
全員がアレンに注目した。
アレンは右手で箱を持ち、左手で箱のフタを持った。
「よし、開けるぞ!」
一秒がこんなに長く感じたことが、今まであっただろうか。
「はあ!」
アレンは、一気にパカっと箱のフタ開け、即座に後ろに飛び退いた!勢い余って、草の上をゴロゴロと転げたが、すぐ起き上がり開けた箱を見た。
しかし、何も起きない・・・
箱のフタは確かに開けられている。
「何も起こらないですね・・・」
「もしかして、壊れてる?」
アレンは、ゆっくり箱に近づいた。
少し離れた位置から箱の中を覗くと、部屋の鍵のようなものが見えた。
「あ、ギル!鍵が入って・・・」
シューーー!
その時、箱から大量の煙が噴き出した!
「うわぁ!」
アレンは転げながら、部屋の隅まで移動した。
「何が起きた!」
アクロスは立ち上る煙に驚き、思わず叫んだ。
「わからねえ、箱に鍵が入っているのを見たら、いきなり中から煙が出やがった」
「これは・・・」
煙は、徐々に何かの形になり始めた。
「お前ら、警戒しろ!何か出てきそうだぜ!」
アレンは、剣を抜き構えた。
現れたのは、魔人のような姿をしていた。
羊のように頭に2本の巻いた角をもち、真っ黒な目が顔に1つしかない巨体だ。腕は2本だらんと下げ、腰から上の太った身体が、箱から出ていた。
「こっ、これは、一体・・・」
「何かヤバイことになってきやがったぜ」
しかし、煙から現れた魔人は、襲ってくる気配がなかった。
その様子を見て、ギルは戦闘態勢を解いた。
「もしかして、大丈夫なんじゃないでしょうか」
「こんなデカイのに睨まれているのに、よくそんなことが言えるな、ギル」
その時、なんと魔人から声が聞こえた。
「ナニヲサガシテイル」
「えっ、今喋りました?」
「何を探している、って言ったんじゃない?」
「こいつ口が利けるのか!」
「ナニヲサガシテイル」
再び、魔人は質問してきた。
ギルは魔人を見上げながら答えた。
「魔封印の鍵だ。お前のその箱の中にあるんだろ?それを僕達にくれないか」
「・・・」
「黙りやがった。きっと渡したくないんだよ」
「ナニヲサガシテイル」
4人は顔を見合わせた。
「ギル、こいつバカなんじゃないか?鍵は箱にあるんだ。俺はこいつを無視して、いただくぜ」
「待って下さい!まだ安全と決まったわけじゃないですよ」
「お前さっき大丈夫って言ってなかったっけ?」
「それは取り消します。なにか、だんだん嫌な気がしてきました」
「嫌な気って、こいつから何も感じないけどな」
ギルは何かに追い詰められているような、切羽詰まった顔になっていた。
・・・間違いない、これは独眼の賢者が仕掛けた罠だ
魔封印の鍵を見せながら、こんな大がかりな仕掛けを用意するなんて、一体どういうつもりだ
このまま何も起きないなんて、とても考えられない
きっと何かあるはずだ・・・
アレン達は何も言わずに、少しの時間魔人と睨み合いになった。
その時、
シューー
なんと、魔人が元の煙になり箱の中に消えた!
パタン、
箱のフタが閉まった。
それを見て、アレン達は呆気にとられた。
「おい、フタが勝手に閉まったぞ」
「何なんだよ、これは!」




