54 黒の戦斧
アレン達はオーベルの家に招かれ、来客のソファーに座っていた。
「村の長にしては凄く豪華な家ね」
「そうだな、調度品の装飾も品があって高級そうだ」
アクロスが部屋の周りを見ていると、オーベルがドアを開け入ってきた。
「お待たせしたね、ちょっと警備の責任者と外で話してたので遅くなったよ」
オーベルは、アレン達と向い合せで座った。
アレンは、オーベルに尋ねた。
「この村に宿屋はあるのか?」
「あるけど、今夜はうちにお泊まりよ。もちろんタダで」
「いいのか?」
「ここには客人用の部屋もあるから、問題ないんだよ」
「それは助かるぜ」
ドアがノックされ、執事と思われる男がアレン達にお茶を運んできた。
「アレン。まず、あんた達が何故この村に来たのか教えてくれないかい」
「俺達は、独眼の老人を探している」
ギルは、すかさずフォローを入れた。
「右目に眼帯をした老人です。おそらく身なりは整っていると思います」
「眼帯をした老人ねぇ、」
オーベルは、湯気の立っているお茶を飲みながら考えた。
「思い当たらないねー」
「そうか。じゃ、こんな本を見たことないか」
ギルは荷物から古文書を取り出し、オーベルに見せた。
「変わった表紙だね、この本は」
「いかがですか?」
オーベルは、しばらく古文書の表紙を見ていたが、
「本自体がこの村では珍しいものだから、見てたらきっと覚えているけど、こんな表紙の本は覚えがないよ」
「そうか、わかった」
ギルは、古文書を荷物に入れた。
「悪いねアレン。危ない目をしてまで村に来たのに役に立てなくて」
「いや、気にしないでくれ。こういうのは慣れてるから」
ギルは、オーベルに聞いた。
「この村で、なにか他とは違う変わったものってありませんか。この村にしかない遺跡とか、建造物とか」
「それは一つだけあるね。この村の東に、サーブルシャトーがあるよ」
「サーブルシャトー、それはどのようなものですか」
「砂で出来た、まあお城みたいなものさ」
「砂の城か・・・そこには、誰か住んでいるのですか」
「誰もいやしないよ。中は空洞になってるらしくって、何も無いみたいだよ。古い建物だけど、誰が建てたのか分かってなくて、気が付いたら、そこにあったらしいよ」
(誰が建てたか分からない・・・なんかインドラの塔っぽいな・・・)
ギルのワクワクセンサーが反応し始めた。
「あとさ、」
「なんでしょうか」
「そこには化物が住んでいるっていう・・・いやね、噂だけどさ、そういうのがあるらしいよ」
このオーベルの言葉は、ギルに決定打を与えた。
「アレンさん!これは行かないとダメでしょう!」
ギルの目に、星がキラキラと煌めいた。ギルの熱い視線が、アレンに突き刺さりまくりだった。
アレンは、咳払いをして、
「そのサーブルシャトーってのは、ここからどのくらいでいけるんだ」
「歩いていくつもりかい?馬で行きなよ、貸してあげるから」
「えっ、いいのか?」
「その前に、今度は、わたしから聞きたいんだけど、」
アレンは、テーブルのお茶を一口飲んだ。
「あんた達が倒したヴェールドゥテールの数を教えてほしいんだよ」
「昨日が3で、今日がデカイの入れて2だから、合計5匹だな」
「え、昨日も砂漠に行ったのかい?」
「まあな、」
オーベルは、あきれ顔でパンパンと2回手を打った。
すぐに執事が、部屋に入って来た。
オーベルは立ち上がり、アレン達に背中を向けながら、執事に何か耳打ちした。
聞き終わると、執事は頷いて部屋を出た。
「あんた達は村を救ってくれた。村を代表して心から礼を言うよ」
「どういうことだ?」
「あの砂漠には、ヴェールドゥテールが全部で5体いたのさ。それを、あんた達は全部倒してくれた」
オーベルは、ソファーに戻った。
「この村は、大陸でも珍しい特殊な鉱石が採掘できる村でね。商人達はそれを買い付けに、ソリッドからやってくるのさ」
(なるほど、その金で潤っているわけか)
「一年程前かね。あのミミズの魔物がいつの間にか住みついて、商人を襲うようになったんだよ」
(一年前・・・)
「あんな化物、村の軍隊でも勝てるはずもないしね。ほとほと困ってたわけさ」
「だが、魔物がいても、ガイドは砂漠を渡ってたんじゃないのか?」
オーベルは、笑みを浮かべた。
「それには、秘密があるのさ。砂漠の魔物を避ける秘密がね」
「じゃあ、別に俺達が退治しなくても良かったわけだ」
「それとこれとは話しが違うよ。氷の湖を歩いているようなもんさ。いつ氷が割れて、水に落ちるか分からないからね」
アクロスが、話しに割り込んできた。
「もう魔物はいなくなったんだ、その秘密とやらを教えてくれないか?」
「それは音だよ。砂漠の魔物は、話し声なんかの音や歩くときの振動に反応して襲ってくる。これが、テンプとソリッドが共同で調査した結果の答えだよ。多くの犠牲者を出してね」
「音か、」
「あんた達が魔物に遭遇する前に、話してたりしてなかったかい?叫んだり大きな声をあげると、必ずと言っていいほど襲ってくるよ」
「アレン、あたし達そんなこと全然気にしてなかったね」
「ああ、普通に喋ってた」
「それは無茶にも程があるよ。魔物を呼び寄せているようなもんさ」
アクロスが、更に尋ねた。
「あと、ガイドはなぜ方角がわかるんだ?コンパスは使えないのに」
オーベルは、フフフと笑った。
「それを言うわけにはいかないね。砂漠の魔物がいなくなったというだけで、商人はやる気を出すはずさ。そうなれば、また砂漠のガイドがたくさん必要になる。今ここで、その質問に答えるわけにはいかないね」
御もっともな話しだ。
その時、ギルが身体を突き出して聞いた。
「それは虫に関係ありますか!」
「虫?何の話しだい?」
ギルは落胆して、ソファーに座った。
「あんた達には感謝してるよ。これで、また村に活気が戻るよ」
アレン達は、オーベルが歓迎の意味を込めて開催した食事会でご馳走になっていた。
「アレン、サーブルシャトーにはいつ出発するんだい?」
「明日の朝出発するよ」
「え、明日かい?随分急いでるんだね」
「ああ、俺達にはあまり時間が無いのさ」
「そうかい、わかったよ」
「そこへ馬で行くと、どのくらいかかるんだ?」
「そうだね、朝出発するのなら昼前には着くはずさ」
「わかった。じゃ、馬は2頭でいいよ」
「あいよ。じゃ、明日朝から乗れるように手配しておくよ」
「助かるぜ。あと、砂の城までの道を教えてくれ」
その夜、
アクロスは、そっとアレンの部屋のドアを開けた。
「アレン、起きてるか?」
「外にいる連中のことか」
「そうだ。窓から見たか?」
「いや、見てないが、かなりの数の気配があるな」
「俺は部屋の窓からチラっとみたが、連中武装してるぞ」
「襲って来ないってことは、俺達は見張られてるな」
「村長が『村の軍隊』って言ってたの覚えてるか」
「そういや、言ってたかな」
「おかしいと思わないか、村に軍だなんて」
「なにか秘密がありそうな気はするけど、俺達には関係のないことだろ」
「ふむ、」
「アクロス。村人からすれば、俺達は砂漠の魔物と同じだ。人の姿をした化物なのさ」
アクロスは、小さくため息をついた。
「そうかもな。まあ、ちょっと気になっただけだ。じゃあな」
アクロスはそう言って、アレンの部屋を出ていった。
アレンは砂漠での疲れが出たのか、そのまま寝てしまった。
アレンの部屋からの帰り、アクロスはギルとすれ違った。
「アクロスさん、まだ寝てなかったんですか?」
「そういうお前こそ、」
「ちょっと考え事してたら眠れなくなって、夜風にあたろうと外へ出るところです」
「ダメだ、外へ行くな」
「えっ?」
ギルはアクロスの背中に、アッシュ・ノワールがあるのが見えた。
「アクロスさん、どうしてアッシュ・ノワールを」
「外には武装した連中が、俺達を見張ってるぞ」
ギルはアクロスの言葉で、自分達が村から警戒されていることを知った。
「そうですか。わかりました、部屋に戻ります」
「それがいい」
「ところで、アクロスさん。その斧が神器だって知ってました?」
「これか、」
アクロスは、背中のアッシュ・ノワールを手に持った。
「確かイグリシアが言ってたな」
「ええ、」
「これは元々親父の斧だ。これが普通の斧じゃないことは分かってたよ。使う者の能力を高める効果があるみたいだしな」
「お父さんの斧でしたか」
「親父がこの斧を俺に譲る時、絶対に使うなと俺に言った。これを使えば、俺自身が不幸になるってね。だから俺は、部屋の床下に封印していたんだ」
「でも使ったんですね」
「カース城が魔物の襲撃を受けた時、普通の武器じゃ無理だって思ったのさ」
「確かに、」
「妻が死に、そしてクルルが死んだ。親父の言葉通り、俺は不幸になったよ」
「僕達といっしょにいることも不幸ですか?」
「君達は神に選ばれたんだろ?俺は違うけどな」
ギルは、失笑の笑みを浮かべた。
「何を言ってるんですか。アクロスさんも選ばれし一人ですよ。その神の武器であるアッシュ・ノワールを持ってる時点でね」
「そうなのか?」
「神器はこの広い大陸でも、現存するものは4つしかない」
「4つ?」
ギルは、不敵な笑みに変わった。
「今更もう遅いですよ。アクロスさんが参加した時から、4人の物語で話しが進んでいる。もう抜けることは出来ません」
「抜けるなんて思ってないさ。覚悟は決めている」
「ならいいんですが、もう賽は投げられている。あとは、どの目が出るかだけです」
アクロスは、ギルの肩を叩いた。
「半端な気持ちで、君達に参加したわけじゃない。それだけは分かってくれ」
そう言って、アクロスは自分の部屋へと消えた。
「・・・」
それぞれの思惑が交差し、新たな物語が紡がれていく。
テンプ村での夜は、更けていった。




