43 激流の中へ
アクロスを取り囲むように、アレン達は集まった。アクロスは床に座り、アレン達もそれに合わせて座る。
「ここだけの話しだが、カース王は昔アブストへの侵攻を計画していた」
「戦争を仕掛けるってことか?」
「その通りだ。だが、君達も超えてきた3つの山脈が、当然と言えば当然だが行く手を阻んでいる」
「あの山脈を軍隊が超えるとなると、道が狭いし地盤が緩いところもあって、かなり危険ですよね」
「そうだ。戦争を起こす前に自軍が全滅なんて、笑えない話しになりかねん」
「確かに、笑えねえな」
「そこでカース王は、山脈にトンネルを掘る計画を立てた」
「なに!」
「実際にトンネルは掘られ、君達が超えてきた2つ目と3つ目の山脈を貫通している」
「まじか・・・」
「どうして3つ全ての山脈じゃないんですか?」
「トンネル計画は、途中で中止になったのさ」
「中止ですか」
「何があったんだ?」
「計画に莫大な金がかかり、カース自体の財政が破綻寸前になったんだよ」
「バカな奴らだ」
「まあ、ありがちですけどね」
アクロスは、立ち上がった。
「俺が君達を、そのトンネルへ案内しよう」
アレンも立ち上がった。
「よし!これで立ち入り禁止を気にしなくても済むぜ」
「よかったわ、これでアブストへ行けるね」
「アレンさん、船の操縦、ぜひ僕に任せてくださいね」
「え、ギルが船長か!」
「大丈夫なの?」
「任せてくださいよ!」
アレン達は、トンネルで一気に盛り上がった。
「但し、」
その言葉で、急に静かになった。
「なんだよ、」
アクロスは、アレン達の顔を順番に見た。
「俺を君達のパーティーに入れてくれ。それが条件だ」
(きたか、アクロスさん・・・)
アレンは、その一言で冷静になる。
「俺達の旅に参加する理由を聞こうか」
「俺は、もうここにいても仕方がない。クルルが死に、生きる目標が消え失せた。新しい生き甲斐がほしいのさ」
「そうか。だが、前にギルにも言ったことがあるが、俺達の旅は過酷以外の何物でもないぜ」
「それは、イグリシアとの一戦を見ればわかるさ」
「そうだな。俺は死にかけたらしい」
「それを言われると、言葉が無い」
「つまり、いつ命を落とすか分からないってことさ」
アクロスは、アレンを見て言った。
「アレン、俺も見たいんだよ。君達程の強者が集まっても、尚困難な道程の先にあるものを」
「あんたも物好きだな」
「この土地にもう未練はない。カース城の復興も、残った連中と話し合い目途を付けた。俺がこの土地で出来ることは何もないのさ」
アレンは、アクロスをじっと見つめた。アクロスもアレンを真っすぐに見た。
アクロスの目は、揺るぎない決心が現れていた。
「そうか、わかった。じゃ、アクロス、俺達と行くか、」
『激流の中へ』
「ああ、宜しく頼むよ」
アレンとアクロスは、握手を交わした。
(やはり、こうなることが運命なんだ
これで4つの神器が全て揃った
4つの神器を持つ僕達に挑んでくるのは、神か悪魔か、それとも・・・
残る3人の賢者か)
「どうしたギル、」
「あ、いえ、なんだか緊張しちゃって」
「お前、まだ船に乗ってないんだぞ。今からそんなで大丈夫か?」
「任せてくださいよ、アレンさん!」
「船の操縦やったことあるんだよな?」
「もちろん、ありません」
「・・・」
アクロスは、早々に旅支度を整えた。玄関の鍵を閉め、クルルと共に過ごした思い出の家を去った。
アクロスから教会に寄ってほしいと言われ、アレン達は村の教会に来ていた。
「シスター、」
「アクロス、どうしたのその恰好。どこか旅に出るの?」
「ええ、長い旅になりそうです。そこで、お願いですが、俺が住んでいた家を誰かに譲りたいのですが、」
「え、もう戻って来ないの?」
「いえいえ、戻りますよ。ただ、何年先になるか分からないし、その間ずっと誰もいないのも良くないと思いまして」
「まあ、それもそうね」
アクロスは、シスターに家の鍵を渡した。
「お願いしてもいいですか?」
「分ったわ。あの広い家だったら希望者もきっと多いはずよ」
アクロスはシスターに一礼し、教会を後にした。
「アクロス、お前まさかこの旅で死ぬ気じゃないだろうな」
「そんな事ないさ。ここにはクルルの墓もあるし、俺はここへ必ず帰ってくるつもりだ」
「ならいいけど」
「さあ、アレン、秘密のトンネルに案内しよう」
アレン達は大陸の橋を渡り、アブスト領へ入った。
見覚えのある道を歩いたが、途中から下山した方とは反対側に向かう道を進んだ。
「これ道っていうより、雑草だらけの中を進んでるって感じだよな」
目印も無いのに、アクロスは迷うことなくトンネルの入り口へと向かった。
「あそこだよ」
アクロスが顎で指した方向には、入り口らしきものは無かった。
「大きな岩以外何もないけど、」
「皆下がってろ」
アクロスは背負っていたアッシュ・ノワールを手に取り、全身に気合を入れた。
「ふん!」
ガシン!
斧が岩に食い込んだ。そして、そこからビシビシとひび割れが縦に走り、大きな岩はパカっと左右2つに割れた。
岩が割れた後ろには、トンネルの入り口が見えた。
「岩で塞いでいたのか」
「最初は入り口が見つからないようにするだけだったが、トンネルを使わないという意志表示の意味もあって、大きな岩で塞いだらしい」
「よし、じゃ行こうか」
トンネルの内部は、大人3人が横並びで通れるくらいの幅があった。
サリヤとギルは杖を光らせた。
「その杖、便利だな」
「アクロスさんも魔法使いになります?」
「遠慮しとくよ」
「俺は魔法が使えるぜ、アクロス」
「アレン、本当か」
「ああ、本当だとも」
「何言ってんだか。アレンの魔法なんて、所詮オシッコ魔法よ」
「ちょっとサリヤ、なに下品なこと言ってんだよ」
「あら、下品なあなたから下品と言う言葉が出てくるとは、思ってもなかったわ」
「なんだと!」
「ちょっと二人とも、そんな底辺な話題で揉めないでください」
「全くだ」
後ろで、二人が激化している声が聞こえた。
「いつもあんな調子か、あの二人」
「ええ、羨ましいくらい仲良しですよ」
「仲良しねぇー、」
アレンはサリヤに頭痛の魔法をかけられ、転げ回っていた。
「喧嘩する程なんとやら、ってやつか」
「ところで、アクロスさん」
「なんだ、ギル」
「あのイグリシアですが、元はカース城にいたんですか?」
「ああ、あいつは王立騎士団の主席だった男さ」
「騎士団の主席!」
「俺は、あのイグリシアが主席だったときに、同じ隊で副主席をやってた」
(主席の地位を利用して、王の間の隠し部屋を知ったってことか・・・)
「優秀な男だったよ。王の信頼も厚かった」
「そんな人がどうして、あんな魔物に」
「イグリシアは、よく俺に言ってたよ。主席はつまらないと。王の機嫌ばかり気にする取り巻きのオモチャにしかすぎない存在だってね」
「それで主席をやめたのですか?」
「ある日突然消えたよ。俺はイグリシアが居なくなって、その後を継ぎ主席になったんだ」
「そうだったんですね」
「主席になって、イグリシアの気持ちがわかった。あいつは純粋に強くなりたかったに違いない。きっと、強さを求める旅の過程で魔物に出会い、ちからを得るのと引き換えに化物になったんじゃないのかな」
「なるほどー」
後ろで、アレンがサリヤに詫びを入れている声が聞こえた。
「アクロスさんも城の騎士団を脱退したのですか?」
「そうだな、」
アクロスは、小さくため息をついた。
「いろいろあって騎士団を抜けたが、後悔はしてない」
「前から気になっていたんですが、クルルのお母さん、つまりアクロスさんの奥さんは、どこか他で住んでるとかですか?」
「そうだ。天国で暮らしている」
「すっ、すいません。知らなかったとはいえ・・・」
アクロスは、ギルの肩をポンと叩いた。
「俺の妻は、クルルを生んですぐに亡くなったんだ。クルルは、妻の生まれ変わりみないなもんだよ」
「・・・」
そのクルルを失ったアクロスの辛さを思うと、ギルは言葉が出なかった。
やっと和解したアレンが、後ろから話しかけてきた。
「なに二人で真剣に話し込んでんだよ」
「お前達二人が、取っ組み合いするのを待ってるんだよ」
「そうなれば俺の勝利は確実だな。ま、サリヤが謝れば許してやるど」
「さっきアレンさんが、サリヤさんに謝っているような声が聴こえましたが、空耳かな」
「ギル、アブストへ着いたら医者に行った方がいいぞ」
「後ろに名医がいるじゃないですか」
「いるな、苦痛をもたらす名医が」
「アレン、今何か聞こえたような気がするけど?」
「今日もいい天気だって言ったんだよ」
「トンネルの中から天気がわかるなんて、超能力者か」
「サリヤ、俺は全てを見通せる男さ」
「バカじゃない」
「ギル、これなら長いトンネルも退屈しないですみそうだな」
「いつものことですよ」
長く続くトンネルに、アレン達の元気な声が響いていた。




