42 主因と副因
イグリシアとの戦いから一週間が過ぎて、アクロスは家に戻ってきた。
「ようやくお戻りか」
「アレン、待たせたか」
「別に待ってたわけじゃないが、あんたに何も言わずにここを出るわけにはいかないからな」
「次の目的地が決まったのか?」
「俺達は一度アブストへ戻るぜ」
「アブストへ?どうしてだ」
◇◇◇
アクロスが家に戻って来た前日、
大陸の橋の番人という男が、アクロスの家を訪ねてきた。
「アレンという人はいるかね?ここに泊まっていると聞いて来たんだけど」
家の扉の前で、その男は叫んだ。
「俺がアレンだが、」
「ああ、あんたがアレンか」
男は、自分のカバンから手紙を取り出した。
「これはアブスト側の橋の番人から預かったものだ。あんた宛ての手紙らしい」
「手紙?」
アレンは、男から押し付けられるように手紙を受け取った。
「じゃ、確かに渡したよ」
その男は戻って行った。
男とのやり取りの声を聞いて、サリヤとギルがやってきた。
「どうしたですか、アレンさん」
「俺に手紙だってよ」
「え、手紙?」
「その手紙を差し出した人、よくアレンさんがここにいるって分かりましたね」
言われてみれば、不思議な話しだ。
アレンは手紙を開けてみると、差出人はアブスト王だった。
「アブスト王からだよ」
「王様だったのね。だったら、アレンがここにいることを知ってるね」
「一瞬驚きましたが納得しました。で、なんて書いてあるんですか?」
「ちょっと待てギル、今読んでみるから」
アレンは、アブスト王からの手紙を読んだ。
「俺達に船をくれるそうだ」
「船!本当ですか!」
「王が言うんだから、間違いないだろうぜ」
途端にギルの頭の中に、世界地図がパッと浮かんだ。
「アレンさん、次の場所が決まりましたよ。港町ソリッドです」
ギルは、嬉しそうだった。
「ギル、」
「なんですか?」
「お前、インドラの塔で見つけた本が本当に俺達が探している本か疑ってなかったっけ?」
「えっ?ええ、それは、そうですね」
「祠のじいさんから受け取った古文書と比べて結論を出すんじゃなかったっけ?」
「確か、そうでしたね」
「で、出たのか、結論は」
「・・・」
「ギル、なんだよ・・・って、お前もしかして、2冊目の本を読んでないのか?」
「いえいえ、ちゃんと読みましたよ。読みましたけど・・・」
「けど、なんだよ」
「分かりませんでした」
「分からない?」
「ええ。賢者セイジの持っていた本は、古代文字で『光の伝書』と書かれてあり、光の古文書だと思うのですが、やはりドラゴンオーブのことは何も書かれていません」
「なんだよ、それは。じゃ、やっぱり違うってことだよな?」
「アレンさん、この本の最後のページも白紙になってます」
「その話しか。偶然じゃないのか?」
「それにあの本は、賢者様が選ばれし者に渡すために、自分の命を賭けて守っていたものですよ。ドラゴンオーブの古文書と違う本だなんて、あり得ないと思いませんか?」
「天の神とやらが、盛大に俺達を騙しているのかもよ」
「そんなことしても、何のメリットも無いです」
「でも、書いてないんだよな?」
「書いてないです」
「だったら違ってると言われても仕方ないよな?」
「そこは賭けですよ。アレンさんも言ってましたよね、賭けだって。この偶然に、僕も賭けてみたくなったんです」
なぜギルが、こんなに前向きなのか、アレンは理解に苦しんだ。
しかし、アブスト王が船まで用意してくれた以上、ここで旅を止めるわけにいかないのも事実。
(旅を止める理由が見つかった途端に船を用意するなんて・・・これは策略以外の何物でもねえ・・・)
「ギル、旅を続けるように誰かに仕組まれているような気がするのは気のせいか」
「そうかも知れませんね」
「やっぱり」
「でも、いいじゃないですか。こうなったら全部探しましょうよ」
「結局どの本にも書かれてなかったね、という未来が見えているのは俺だけか?」
「アレンだけよ」
「お、なんだよサリヤ、ギルの味方か?」
「どれだけ犠牲者が出たと思ってるの?」
サリヤは下を向いていた。
「おっ、おい、なんだよ急に真面目な話になって」
「アレン、私達の旅はもう楽しいだけの旅じゃない。何人もの人の犠牲の上に成り立ってる」
「でも、それは俺達の旅と直接関係が無いものもあるだろ」
「私達の旅の始まりは、この地に魔物が増え始めた時期とほぼ同じ。どちらが主因でどちらが副因なのか、それは分からない」
サリヤは、顔を上げた。
「でも、私達の旅と魔物の増加は何かで繋がっている。これでも、関係が無いなんて言える?」
アレンは返す言葉が無かった。
「この旅を途中で止めたら、きっとクルルや賢者様も報われない気がするの」
アレンは、大きくため息をついた。
「わかったよ、サリヤ。何があっても最後までやり遂げよう」
「うん、」
◇◇◇
「アブスト王から手紙がきて、俺達のために船を用意してくれてるそうだ」
「王が君達に船を、そいつは凄い。やはり君達は大物だな」
ギルは、アクロスの前に出た。
「アクロスさん、次の僕たちの目的地は港町ソリッドです」
「なるほど、確かに船でないといけない場所だな」
「そういうわけで、俺達はアブストへ行くことにした。本当にいろいろ世話になった、ありがとなアクロス」
アレンは、握手の手をアクロスに出した。しかし、アクロスはその手を握らなかった。
「アレン、君達にとって良くない知らせがある」
「良くない知らせ?」
「君達はアブストからこのレリッシュ村に来るとき、おそらく3つの山脈を超えて来たはずだ」
「その通りだけど、それがなんだ?」
「その3つ目の山脈の山裾で、冬にも関わらず突然大洪水が発生したらしい」
「・・・」
「ふっ、冬に大洪水って、世の中不思議だねー、まったく・・・」
「アレン、」
「なっ、なんだよ」
「目が泳いでいるぞ」
「ばっ、バカなこと言うなよ。俺の目は普段通りだよ・・・」
「そうか。で、その山裾には偶然にも民家は無かったが、近くの村の連中が『神の祟りだ!』とか言って、周辺を立ち入り禁止にしたらしい」
(神の祟り・・・)
「そんなの夜行けば分からないって、なあギル」
「・・・」
「アレン、夜の山を登るつもりか。冗談だよな?」
「・・・冗談だよ」
アクロスは、ヤレヤレという顔でアレンを見ていた。
「ま、いずれにせよ、立ち入り禁止が解除されるまで、山脈には近づけないぞ」
「どのくらい待てば解除されるんだ?」
「わからんが、一年は続くのじゃないか」
「いっ、一年だと」
少しでも早く行動したいアレン達にとって、一年は到底待つことが出来ない時間だ。
「くそ、強行突破しかないか」
「やめとけ。罪人になりたいのか?」
アレン達は、八方塞がりの状態になった。
「あー、もうどうすりゃいいんだよ!」
アレンは頭を掻きむしった。
「アレン。今度は君達にとって良い提案をしよう」




