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激流の中で  作者: 清水京太郎
第5章 孤独の賢者
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41 賢者の死

 イグリシアが死ぬことで、アクロスの術も解けた。

 アレンはあと少しで絶命するところだったが、ギルの懸命の呼びかけでサリヤは落ち着きを取り戻し、アレンを回復させた。

 

 出血が激しく、立ち上がったアレンは顔が真っ白だった。

 状況をギルから聞いたアクロスは、アレンに詫びるしかなかった。

 

 「クルルを救えなかった。すまねえ、アクロス」

 

 「アレン、なぜお前が謝るんだ。君達がいなければ、今頃カース城は魔物に乗っ取られていたよ」

 

 アクロスは、クルルの亡骸を抱えた。

 

 「アレン、俺はこの城でまだやることがある。君達は先に戻ってくれ」

 

 「わかった」

 

 アレンはアクロスと別れ、レリッシュ村に戻った。

 

 

 

 クルルがいなくなった家は、まるで火が消えたような静けさだった。

 アレン達は軽く食事を取ると、互いに会話することもなくそれぞれの部屋に入った。

 アレンはこれまでの旅の中で、今日程虚しさを感じた日はなかった。

 

 (じっちゃん・・・人と魔物はなんで対立するんだろう・・・殺し合わずに暮らすことって出来ないのかな・・・)

 

 

 

 次の日になったが、アクロスは戻らず。

 

 「アレンさん、今から賢者様のところへ行ってきます」

 

 「ギル、すまねえな。辛い役目を押し付けちまって」

 

 「気にしないで下さい。誰かが言わないといけませんから」

 

 ギルは、そう言い残して賢者のいる祠へ出かけた。

 

 

 

 

 「おう、ギルか。最近、クルルが来んようだが、どうした病気にでもなっておるのか?」

 

 「賢者様、そのことでお話しがあります」

 

 「どうした、改まって。お前らが治せないのなら、わしが行こうか?」

 

 ギルは、出かけようとする賢者の前に立った。

 

 「なんだ?」

 

 「・・・クルルは、死にました」

 

 「なに?」

 

 賢者はすぐに理解出来なかったが、病気で手遅れになり死んだという理解をした。

 

 「お前らクルルを死なせたな!なぜ、そうなる前にわしに相談に来ない!このバカ者が!」

 

 賢者はギルを殴りつけた。

 ギルは殴られた勢いで、後ろへ倒れた。この時の賢者の形相を、ギルは生涯忘れないだろう。

 

 「違います、賢者様・・・」

 

 「違う?何が違うというのだ!」

 

 賢者は起き上がろうとするギルに馬乗りになり、もう一度殴ろうとした。

 

 「・・・クルルは殺されたんです」

 

 賢者の振り上げた拳が止まった。

 

 「こっ、殺された・・・誰に」

 

 「カース城を襲った魔物です」

 

 ギルは、切れた口の血を手で拭いた。

 

 「まっ、魔物・・・」

 

 カース城へ飛来する魔物を、賢者は見ていた。

 

 「アクロスさんと僕達で、カース城の魔物は退治しました」

 

 賢者は掴んでいたギルの服を放した。先程までの勢いはなくなり、フラフラと祠の中へ入った。

 

 「クルルを殺した魔物は、アクロスさんが止めを刺しましたよ」


 「本当にクルルは死んだのか・・・」


 「はい」

 

 賢者はよろけながら、いつも座っている椅子に倒れこんだ。

 

 「そうか・・・あの子は死んだのか・・・」

 

 そう言いながら、賢者は頭を抱えていた。

 ギルはその姿を見て、一旦アクロスの家に戻ろうとした。

 

 「ギル、」

 

 「あ、はい」

 

 「アレンとやらを、ここに連れてきてくれ」

 

 「アレンさんをですか?一体どのようなご用件でしょうか」

 

 「ここへ来たら、話す」

 

 「・・・わかりました」

 

 ギルはアレンを呼びに戻った。

 

 

 

 「アレンさん、」

 

 「どうした、ケンカになったのか?」


 アレンは、ギルの口の周りの紫色のアザを見た。

 ギルは、そっと口を手で押えた。

 

 「アレンさんに話しがあるそうで、祠まで来てほしいそうです」

 

 「話し?」

 

 何だろうと思いつつ、アレンは祠へ向かった。サリヤも同行した。

 

 


 「じいさん、ギルに代わって俺が相手しようか?」

 

 「きたか、選ばれし者よ」

 

 賢者の手には、古文書があった。

 

 「その本は、」

 

 「そう、お前達がほしがっていた古文書だ」

 

 賢者はアレンに向けて、本を突き出した。

 

 「いいのか?」

 

 「クルルも居なくなった今、わしはもうこの世に未練はない」

 

 「なんだよ、死ぬみてえだな」

 

 「そうとも、わしはこれでやっとあの世へ行けるのだ」

 

 死にたがっているような賢者のセリフに、アレン達は戸惑った。

 

 「理由を知りたいか?教えてやろう・・・

 

  わしら5人の賢者は、天上の神から1冊ずつ古文書を渡され、

  それを選ばれし者に渡すという、命を授かった

  

  わしらは、天上の神の仰せの通り、選ばれし者が現れるのを待ち続けた

  それは気が遠くなるような時間だ

  

  来る日も来る日も、わしらは待ち続けた。

  夏がきて冬になり、また夏になった。季節はめぐり、もう何年経ったのか、わしらは分からなくなっていた

  ある時、わしらは気付いた

  一定の年齢から年を取らなくなっていたことを

  

  老衰では死ねない、おそらく病気にかかることもない

  これは、神がわしらに刻んだ呪いのようなものだ

  

  長い年月が経過し、わしらの使命感はやがて絶望へと変わった。

  一人、また一人とこの地を離れ、最後に残ったのは、このわしだ。

  

  ある時、わしは気付いた

  わしらが死ねる条件は、神から受け取った本を、選ばれし者に渡した時ではないかと・・・」

  

 「えっ、それじゃ、賢者様がアレンさんに古文書を渡したら・・・」

 

 「そうだ。おそらくわしは死ぬ」

 

 これは究極の選択になった。賢者を生かすのか、古文書を受け取るのか。

 

 「アレンさん、どうすれば・・・」

 

 「悩む必要なんか無いだろう」

 

 アレンは、賢者が差しだす本を受け取った。

 

 「アレンさん!」

 

 「このじいさんは死にたがっている、そうだろ?」

 

 「それでいいんですか!アレンさん!」

 

 「ギル、お前は・・・なにもわかって・・・おらんな」

 

 「えっ?」

 

 賢者の様子が、おかしくなってきた。

 

 「死ねない・・・ということが・・・どれだけ・・・辛いことか・・・」

 

 「しっかりしください!」

 

 ギルは、崩れ落ちようとした賢者を支えた。賢者の息は荒くなっていた。

 

 「ギル・・・わしは、やっと死ねるのだ・・・やっと・・・」

 

 「嫌だ、賢者様、死なないで下さい!」

 

 「ギル、お前は・・・マーラーの跡を継いで・・・立派な・・・魔導士に・・・なれ」

 

 「賢者様・・・」

 

 「わっ、わしは・・・もう・・・この世で思い残した・・・ことなど・・・何も・・・無・・・い・・・・・・」

 

 賢者の全身が、ちからを失った。ギルは叫びながら、賢者を抱きしめた。

 目を閉じた賢者の顔は、少し微笑んでいるように見えた。

 

 「じいさん、あんたは自分の責任を全うしたな」

 

 

 

 アレン達は、祠のすぐ横に賢者を埋葬した。

 アレンは、墓の前で手を合わせた。

 

 「あのじいさん、きっと天国でクルルと遊んでるぜ」

 

 「そうね、」

 

 その時、賢者の祠に一筋の光が差し込んできた。それはまるで、天界から賢者を迎えにきたような光だった。

 

 

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