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激流の中で  作者: 清水京太郎
第5章 孤独の賢者
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40 聖剣士イグリシア

 アレン達は行き詰まり、全員が座り込んで動かなくなった。

 時間は無常に過ぎていく。

 ギルは、アクロスが破壊した壁を見ていた。

 

 (隠し部屋か・・・でも、一体何のために隠すんだろ・・・

  王の緊急避難用の部屋と考えるのが、自然なんだろうな・・・)

  

 ギルは、壁に向かってブツブツ呟いていた。

  

 (隠すのだから、出入りする時に人目に付くのはマズイ

  とすると、玉座からそんなに遠くない所に作るはずだ・・・

  

  玉座か、)

  

 ギルは、視線を玉座の方へやった。

  

 「ん、ギル、何かわかったのか?」

  

 アレンの言葉に返事もせず、ギルは玉座へ向かって歩き出した。そして、大きな王の椅子を調べ始めた。

 すると、腕を置く右側の裏に何かスイッチのような突起を見つけた。

 

 「あ、これだ!」


 ギルは、それを押した。


 ガガーー

 

 ゆっくりと、玉座の後ろの壁が上へとせり上がった。斜め下半分はそのまま残り、階段となって現れた。

 

 「壁を斜めに切って、階段にしたってわけか」

 

 「これじゃ、いくら叩いても分からないわね」

 

 アレンが開いた壁から上を覗くと、階段の続く先は扉の形に明るくなっている。

 

 「今度こそ間違いなさそうだ。皆、準備はいいか」

 

 アレン達は、階段を上って行った。

 そして、扉の前に来た。

 

 「開けるぞ」

 

 アクロスは斧を構えた。

 アレンは、扉の取っ手をゆっくり引いた。

 

 そんなに広くない部屋だった。小窓がひとつあるだけで、机や書棚など一切なにも置いてない空間である。

 そしてそこには、窓から外を見ている背の高い長髪の男がいた。


 「遅かったですね、待ってるとイライラしてきましたよ」

 

 その男は、窓の方を向いて腕を組んでいた。

 

 「誰だ、お前は」

 

 「あら、私を知らないなんて、あなたよそ者ですね」

 

 その聞き覚えのある声に、アクロスは男の後ろ姿を注視した。

 男は腕組みしたまま反転し、アレン達の方を向いた。

 

 その姿を見たアクロスは驚いた。男はカース城の元王立騎士団主席だった。

 

 「あなたは、聖剣士イグリシア」

 

 「なんだ、ちゃんと知ってる人がいたんですね、嬉しいです。おや?あなたは、アクロスじゃないですか」

 

 「お前ら、知り合いか」

 

 その時、サリヤは気付いた。

 

 「アレン!あそこ!」

 

 サリヤが見ている部屋の隅に、幼児がうつ伏せに倒れていた。

 

 「クルル!」

 

 アクロスは叫び駆け寄ろうとしたが、イグリシアが剣を抜き立ちはだかった。

 

 「動くんじゃないですよ」

 

 「貴様!クルルに何をした!」

 

 「これはこれは、アクロスの息子でしたか。村から子供をさらって来いと命じただけなのに、よりによってアクロスの息子とは」

 

 「お前がクルルをやったのか」

 

 アレンは静かに問う。

 

 「ただ、生き血を吸っただけですが、あまりの美味しさに吸い過ぎて殺してしまいました」

 

 衝撃的な発言に、アレン達は絶句した。

 イグリシアは、薄ら笑いを浮かべていた。

 サリヤは回復魔法を何度もかけたが、クルルが起き上がることは無かった。

 

 「そんな・・・・・クルル・・・」

 

 サリヤは、手で口を押え嗚咽しその場に崩れた。

 

 「貴様ー!」

 

 アクロスは我を忘れ、イグリシアへ向け力任せにアッシュ・ノワールを振り下ろした!

 

 ガキーーン!

 

 イグリシアは、斧を剣で受け止めた。

 激しい火花が飛び散る!

 

 「お前の剣は私には通じませんよ」

 

 イグリシアは、アクロスの斧を跳ね除けた。

 アクロスは、イグリシアに弾き飛ばされ仰向けにひっくり返った。

 

 「なぜだか分かるか?この私も同じ流派の剣だからさ。お前の剣筋は手に取るようにわかりますよ、ククク」

 

 「くそっ、」

 

 「神器を持ちながらも、その程度とは正直がっかりです」

 

 「舐めやがって!」

 

 アクロスは起き上がり、再び飛びかかろうしたが、アレンに肩を掴まれた。

 

 「止めろ、アクロス!あんた興奮し過ぎだ。そんなじゃ、奴の思うツボだぜ」

 

 アレンの言葉は、アクロスを止めた。

 

 「ほー、若いのになかなかリーダーシップがありますね。そちらの方お名前は?」

 

 アクロスは、振り上げていたアッシュ・ノワールを降ろした。

 アレンは、アクロスの肩をポンと叩いた。

 

 「ちょっと後ろで頭冷やしてろよ。その間に、俺達がキッチリと仇を撃つ」

 

 「ブフゥー、ハッハッハ、」

 

 イグリシアは噴き出し、大きな笑い声を上げた。

 

 「神器を持ってるようですが、中身はまるでダメじゃないですか。ヘボ剣士に、出来損ないの聖女、それに三流魔導士ですか」

 

 サリヤは反応しなかった。肩を小刻みに震わせ、俯いたままだった。

 

 「今サリヤさんを侮辱したな・・・」

 

 「侮辱?見たままを言ったまでですが、なにか?」

 

 ギルは杖をグッと強く握りしめた。ギルの闘気が急上昇した。髪は逆立ち、瞳が消え失せた。

 

 「サリヤさんを侮辱した奴で、この世に存在する者は・・・」

 

 グラグラと部屋が揺れだした!

 

 「おっ、おいギル、狭い部屋なんだ、ちょっと手加減した方がいいんじゃないか」

 

 「例え神でも、この僕が許さないー!」

 

 「聞いちゃいねえし」

 

 「消えろ、このゴミ野郎!爆裂魔法、エクスプロージオン!」

 

 バアーーン!

 

 耳をつんざく大爆発が起きた。

 カース城の隠し部屋がある一体が、一瞬で吹き飛んだ。

 爆発の威力で、破壊された壁やレンガの破片が飛んできたが、アレン達が傷を受けることは無かった。

 

 「ギル、お前、爆発の魔法と光の盾を同時に使ったのか」

 

 「仲間を巻き込むわけにはいきませんからね」

 

 前方は埃で何も見えなかったが、アレンは、イグリシアがまだ生きている気配を感ていた。

 

 「しぶとい野郎だ」

 

 やがて埃が落ち着き、視界がクリアになってきた。

 イグリシアは眼前に手をクロスする姿勢で、防御結界を瞬時に展開していたようだ。

 しかし、身に着けた鎧はボロボロになり、全身傷だらけになっていた。

 イグリシアの背後の壁は、人型を残して他は吹き飛び、屋根が無くなった部屋からは青空が広がって見えた。

 

 「きっ、貴様・・・一体何者だ!」

 

 「三流魔導士だよ」

 

 「この私に一瞬でも恐怖を感じさせるとは、許さんぞ」

 

 アレンはギルを後ろへ下がらせ、前へ出た。

 

 「今度は俺が相手だ」

 

 アレンは、背中の剣を抜いた。

 

 「クルルを殺しやがって。俺が本当の死の恐怖を教えてやろう」

 

 「舐めるなよ、小僧が!」

 

 アレンは何も言わず、イグリシアに向けて飛び込み、剣を振った。

 

 バキーーン!

 

 「ぐぁー、」

 

 アレンの剣は、アクロスとの修行の成果で鋭さが増していた。

 イグリシアは剣で受けたが、アレンの剣はイグリシアの剣を粉砕し、そのまま顔面を深く斜めに斬った。

 顔を斬った剣を折り返し、イグリシアの腹部を斬りにいく。

 

 「待て!」

 

 残り数ミリで腹部を切り裂くところで、アレンの剣は止まった。

 しかし、剣のあまりの鋭さに、イグリシアの横腹は裂けて血が流れた。

 

 「なんだ、命乞いか。まだこれからだぞ、お前が苦しむのは」

 

 イグリシアは顔と腹を手で押さえた。指の間から血が流れている。

 

 「俺は・・・このガキの生き血を吸って・・・殺した」

 

 「それで?」

 

 「このガキは・・・アクロスの・・・子供なんだろ」

 

 イグリシアの手から白い煙が上がってきた。

 

 「アレンさん!そいつ自己再生してますよ!早く止めを!」

 

 アレンはギルに向かって手を伸ばし、ギルを制した。

 

 「アクロスの息子だったら、なんだ」

 

 「だったら・・・俺を殺すのは・・お前じゃなくアクロスなんじゃ・・・ないのか」

 

 「まあ、それもそうだな・・・」

 

 アレンは、アクロスを見た。

 

 「アレン、俺に止めをさせてくれ」

 

 アクロスは、斧を手に前へ出た。先程のような興奮はなく、怒りながらも冷静になっていた。

 

 「ひとつ教えろ、変態野郎」

 

 (あのガキには、まだ血が残っているはずだ。それを吸えば、体力は少しだが回復する・・・)

 

 イグリシアは、斬られた傷を再生する時間がほしかった。アレンが会話してきたことは好都合だ。

 

 「なんだ、」

 

 「誰に命令されたか白状しろ。お前みたいな小物が、こんな単独行動出来るわけがない。カース城襲撃を命じた奴は誰なんだ」

 

 「何を言ってる。この私に命令する奴などいない」

 

 アレンは、イグリシアの喉元に剣を突き出した。

 

 「今すぐ頭と胴体を切り離してもいいんだぜ」

 

 アレンの剣が、イグリシアの喉に切れ込みを入れ始めた。鏡のような剣身にイグリシアの血が、赤い線のように流れた。

 

 「わっ、わかった。言うから、剣を引け」

 

 イグリシアの手から白い煙は出続けている。だがアレンは、時間をかけても完全に回復は出来ないと読んでいた。

 アレンは、剣を引いた、

 その瞬間、イグリシアはクルルの亡骸に飛びついた。

 

 「うはは、このガキにはまだ血が残っている。私はそれで復活する!」

 

 「そうはさせん!」

 

 アクロスは、アッシュ・ノワールを振り上げ、イグリシアに向かって飛び込んだ!

 

 「これはどうだ!」

 

 なんと、イグリシアはクルルの亡骸をアクロスの前にかざした。

 アクロスの動きは止まった。

 

 「死体でも、自分の息子は斬れまい」

 

 「どこまで俺達親子を侮辱する気だ!」

 

 その時、イグリシアはある呪文をアクロスに向け言った。

 

 「マレディクシオン・エテルネル・ファントッシュ」

 

 アクロスは、急にダランと両腕を下げた。

 

 「奴を殺せ!」

 

 アクロスはくるりと反転し、アレンにゆっくり近づいた。

 

 「どうした、アクロス」

 

 アクロスは何も言わず、アレンに向けてアッシュ・ノワールを走らせアレンを切り裂いた。

 

 ブシュ!

 

 アレンの鮮血が、天井の無い青空に飛び散った。

 

 「アクロスさん!なにを!」

 

 アレンは血しぶきを上げながら、その場に倒れた。

 アクロスは、再び斧を振り上げた!

 

 「サリヤさん!アレンさんに回復魔法を!」

 

 サリヤは目を大きく見開いたまま、クレセント・カルマンを握りしめてガタガタと震えていた。

 

 (ダメだ、クルルのショックから立ち直れていない・・・)

 

 ギルは咄嗟にアレンに向け飛び込み、抱きしめるようにアレンの上に覆いかぶさった。

 ギルの背中めがけて、アクロスは斧を振り下ろした!

 

 「アレンさんを殺すなーー!」

 

 ギルの叫び声に、アクロスの斧はピタっと止まった。

 ギルは鬼のような形相で、アクロスを睨みつけた!

 

 「アレンさんは、この世界の唯一の希望なんだ!アクロスさん!この世界が終わってもいいのかー!」

 

 「魔物にこの世界を奪われて、人々が大勢死んでも平気なのか!」

 

 アクロスは、斧を持つ手を降ろした。

 

 「あなたが今すべき事は、アレンさんを殺すことじゃない。クルルの敵討ちだ!クルルはあいつに殺されたんだーー!」

 

 「ぐぁー、」

 

 その言葉に、アクロスは床に這いつくばり、苦しみだした。

 

 (くそ、あのガキの言葉で術が弱まっているのか)

 

 しかし、今がクルルの血を飲むチャンス、イグリシアはクルルの腕を持ち上げ、嚙みつこうとした。

 それを見たアクロスは、イグリシアに襲いかかった!

 

 「ばっ、ばかな!貴様、まだ術が効いているはずだぞ!俺じゃない!あいつを殺せ!」

 

 アクロスは、イグリシアの首を両手で絞めた。

 

 「やめろ・・・アクロス・・・」

 

 息が出来なくなった。アクロスは更に強く、イグリシアの首を締め付けた。

 イグリシアは、死の淵に立つ自分の姿が見えた。

 

 「・・・命じたのは・・・サラン・・・様・・・・だ・・・」

 

 その言葉を最後に、イグリシアは崩れ落ちた。

 

 そして、アクロスもその場に倒れた。


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