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激流の中で  作者: 清水京太郎
第5章 孤独の賢者
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38 ステラとマリア

 一週間が過ぎ、新しい年を迎えた。

 年末までに、アレンとギルは農作業と近くの村までの配達、サリヤは村長の家で織物を手伝うことで決まった。

 アレンとギルは新しい年の夜明けを、アクロスの家の前で迎えていた。

 

 朝日が山間から登ってきた。オレンジの光線がアレンとギルを照らした。

 

 「アレンさん、初日の出に何を誓いますか?」

 

 「ギル、お前、俺が選ばれし者だっていうの知ってたんだよな」

 

 「それ、新年の言葉ですか?」

 

 ギルは苦笑した。

 

 「別に年明けだからって、おめでたいわけでもないしな」

 

 「この世界にとって、いい年になれば良いですけどね」

 

 吐く息は真っ白だった。

 温かい服をアクロスからもらったアレンとギルは、年明け早々から仕事だった。

 

 「正直に言うと、アレンさんと出会ったあの宿屋で、アレンさんの剣がオセアオン・ブロンシュだって気付いてました」

 

 「つまり、お前が俺達を追いかけ、一緒に旅がしたいと言ったのは神器が目的だったわけだ」

 

 「アレンさん、」

 

 「なんだよ」

 

 「考えてみてください。この広大な全大陸に、たった4つしかない神器の3つが同じ所に集まっているんですよ」

 

 「それって、サリヤとお前の杖も神器ってやつか?」

 

 「そうです」

 

 「・・・まじか」

 

 「ねっ、おかしいでしょ?そんなの普通に考えてあり得ないじゃないですか」

 

 「偶然・・・じゃないのか・・・」

 

 「どんな確率ですか、それは」

 

 「じゃ、何かに集められてるってことか?」

 

 「僕はそう思っています」

 

 ギルは、徐々に登ってくる朝日に照らされながらも前を見ていた。

 

 「アレンさん、もっと驚く話しがありますよ」

 

 「もう十分驚いてるけどな」

 

 「4つ目の神器をアクロスさんが持っていたら、どうなりますかね」

 

 「おいおい、やめろよ、そんな怖い想像は・・・」

 

 アレンは、もし4つの神器が揃ったら恐ろしいことがこの先に待っているような気がした。

 

 「アレンさんが感じているように、それは吉兆ではない。むしろ破滅の予兆・・・」

 

 アレンは、どんどん底知れぬ闇に思考が入っていきそうなので、一旦頭を切り替えた。

 

 「ギル、お前はその確認のために、俺とサリヤについてきたのか」

 

 「最初はそうでした。でも今は違う。あの1つ目の山脈を超えたときに、僕はお二人といっしょにドラゴンオーブを見たくなったんです」

 

 ギルは、あまりの太陽の眩しさに、くるりと背を向けた。

 

 「アレンさん、僕はドラゴンオーブは眠り姫を起こすための道具というより、この世界を救う希望のような気がしています」

 

 「この世界を救うって、別に世界が困っているわけじゃないだろう」

 

 「いえ、それは違いますよ」

 

 「違う?」

 

 「モダリント、アブスト、そしてこのレリッシュ。行く先々で町や村の人の言葉は決まって同じ『魔物が増えた』という言葉です」

 

 「まあ、それは俺も旅してて感じるけどな・・・」

 


 ・・・ギルは考えていた。

 

 この魔物が増えている現象・・・

 これは、もしかしたら1000年前の天魔大戦の再来の予兆ではないだろうか

 その時、この世界を救えるのは、ドラゴンオーブではないだろうか

 そのドラゴンオーブを探す困難は、神々が与えた試練ではないだろうか


 その試練を乗り越えられるであろう者達を神は選び出し、そして神の武器を与えた・・・

 

 

 「まあ、魔物が多少増えたところで、どうってことはないだろうけど」

 

 「そうだと良いんですがね」

 

 ギルは小さくため息をついた。

 

 「ま、今年もよろしくな、ギル」

 

 「アレンさん、絶対に見つけましょう。ドラゴンオーブを」

 

 「おう、頑張ろうぜ」 

 

 

 アレンとギルは朝食の後、すぐに近くの畑を耕す手伝いを始めた。春の種まきに向けての準備だ。

 畑仕事は夕方まで続いたが、ギルは早めに終わり、賢者セイジの元へ向かった。

 粘り強く説得するギルだったが、賢者は首を縦に振らなかった。

 しかし、何度も話すうちに、ギルとセイジは次第に打ち解けていった。

 

 

 「アクロス、」

 

 「おう、アレン。どうだ畑仕事は、慣れないとキツイだろう」

 

 「全然大したことないぜ」

 

 「それだけ手にマメを作って、よく言えたもんだな」

 

 アレンは手を隠した。

 

 「それより、実は頼みがある」

 

 「なんだ?」

 

 「俺に、あんたの剣を教えてくれないか」

 

 「俺の剣?」

 

 「前にも言ったが、あんたはきっと正式な訓練を受けてるはずだ」

 

 「・・・まあ、察しの通りだ」

 

 「俺は、あんたの正式な剣捌きや立ち回りを勉強したいんだよ」

 

 「お前の気配だけでも並みじゃないことは分かるが、まだ強くなりたいのか?」

 

 「俺の剣は、じいさんから習った。けど、じいさんは剣士じゃない。だから我流なんだよ」

 

 「なるほど。それで、正式な流派の剣を学びたいと」

 

 「そういうことだ」

 

 「そんなに強くなって、一体何をするつもりだ?」

 

 「俺は全然強くないぜ。あのガルーダってのも、俺の剣じゃ殆どダメージだせなかったし」

 

 (ガッ、ガルーダ!)

 

 「結局倒せたか倒せてないのか、よくわかんねえくらいの中途半端なものだよ、俺の強さは」

 

 「ガルーダって、あのガルーダを、まさか倒したのか?」

 

 「どのガルーダか知らねえけど、インドラの塔にいるやつは倒したぜ。たしか、神獣とか言ってたな・・・」

 

 (嘘だろ、マジで倒したのか・・・)

 

 「あ、勘違いするなよ。当然俺一人で倒したわけじゃないぞ。っていうか、最後はあいつが勝手に死んだって感じじゃないのかな・・・」

 

 (こいつら一体何なんだ・・・集めている古文書とやらで何をしでかすつもりだ・・・)

 

 アクロスはアレン達に恐怖を感じたのと同時に、興味も湧いてきた。

 

 「わかった。俺の習った剣をお前に教えよう」

 

 「よろしく頼むぜ」

 

 

 

 サリヤは洗った髪をとかしていた。

 手鏡で自分の顔を見た。真っ白の髪は、その部分だけ老婆のようになっている。

 サリヤは手を止め、あの山脈で見た夢の女性のことを思い出していた。

 

 「お母さん・・・」

 

 夢の女性は、自分の母親に間違いない。サリヤは確信していた。

 

 「あの夢、もう一度見れないかな・・・」

 

 荷物の中から、ステラからもらった法衣を取り出した。もらったときは真っ白だったのに、どう洗っても灰色にしかならない。

 サリヤは久しぶりに法衣を着て、その日は眠ることにした。

 

 クレセント・カルマンを胸に抱いて・・・

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 バアンっと乱暴に扉は開けられた。

 

 「マリア様はいらっしゃいますかね」

 

 男達は数人、ステラの家にズカズカと入ってきた。

 

 「なんだお前達!ここが聖女の家と知ってのことか!」

 

 「もちろん知ってますよ。知っているから、ここに来たのです」

 

 男達は、それぞれ手に武器を持っていた。

 

 「俺達が何をしにきたか、察しがつきますよね?」

 

 「あたしは母として、マリアをどんなことがあっても守る」

 

 男は、急に厳しい顔になった。

 

 「マリア様、いやマリアは我らラダの一族の汚点になった。これは看過できるものではない」

 

 「この一族の恥さらしめ!」

 

 「そうだ、そうだ」

 

 後ろの男達が大きな声で叫んだ

 

 「マリアをどうするつもりだ」

 

 「殺しはしませんよ。つかまえて何もかも白状させるだけです」

 

 「貴様、拷問するつもりか!」

 

 「おおこれは。元聖女のステラ様ともあろうお方が、拷問なんて汚い言葉を使われるとは」

 

 男達から失笑が聞こえた。

 

 「くぅ、」

 

 ステラは、じりじりと後ろに下がった。そして、大きな声で叫んだ!

 

 「マリア!お逃げ!逃げるんだよ!」

 

 そのとき、槍を背中に突き付けられたマリアが姿を現した。

 

 「マリア・・・」

 

 「残念、裏のドアにも仲間を待機させてました」

 

 男は不敵に笑った。

 

 「お母さん、わたしはこの人達と行きます」

 

 「マリア、お前何を言ってるんだ・・・」

 

 マリアはステラの元へ駆け寄り、そして手を力強く握った。

 

 「お母さん、サリヤのこと頼みます」

 

 「マリア・・・」

 

 「捕まえろ」

 

 マリアはステラから引き離され、縄をグルグルと体に巻かれ、両手も縛られた。

 

 「連れていけ」

 

 マリアは、男達に連行された。

 

 「待って、待っておくれ!マリアを連れていかないで!」

 

 追いかけようとするステラに、男達は剣を突き付けた。

 ステラはその場に崩れ落ちた。やがて、マリアの後ろ姿は闇の中に消えた。

 

 「マリアーーー!」

 

 

 

 眠るサリヤの閉じた目から、銀の雫が落ちた。

 

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