37 剣の意志
「じいさん、俺は手荒なまねはしたくない。悪いが、渡した方が身のためだぜ」
「ほう、賢者であるこのわしに喧嘩を売る気か」
セイジの闘気が上がった。クルルは見たことないセイジの怖い顔に驚いた。
アレンは何も言わずゆっくり剣を抜いた。
「アレン、やめて!」
「はぁ!」
高速で飛び込んだが、賢者に杖で軽く受けられた。
「生意気にも手加減しおって」
「言ったろ、手荒なまねはしたくないんだよ」
「もう十分手荒だろ」
そのとき、セイジはアレンの剣がオセアオン・ブロンシュであることに気が付いた。
「お前、選ばれし者か」
アレンは下がった。
「なんだ、その選ばれし者ってのは」
「バカな、自分が使っておる剣が何かも知らんのか」
「アレンさん、」
「何だギル」
「アレンさんの剣は聖剣オセアオン・ブロンシュといって、世界に4つある神器のひとつです」
「神器?なんだそれは?」
「神の器と書いて神器。神々が人に与えてくださった神の武器です」
(そこの坊主はサージュ・グローク、後ろの女はクレセント・カルマンか・・・揃いも揃って、こやつら本気で探すつもりか、ドラゴンオーブを・・・)
アレンは、剣を改めて見た。
「・・・まあ、美しい剣だとは思ってたが、そんな凄い代物だったとはねぇ」
セイジは、ヤレヤレと言った表情で切り株の上に座った。
「その剣は、剣自身が意志を持っている。そんな生きているような剣など他にない。魔剣と言われる所以だ」
「剣が意志を持ってる?」
「そうだ。その剣は、剣が選んだ者にしか使えない」
「バカな。あり得ないな、そんなこと」
ギルは、アレンの前に来た。
「アレンさん、一度剣を鞘に収めて、剣帯ごと僕に渡してもらえませんか」
アレンは、剣を収めギルに渡した。
「サリヤさん、このアレンさんの剣を抜いてもらえますか?」
「えっ、あたし?」
サリヤは、ギルから剣帯ごと渡された。
グリップを持ち、鞘から抜こうとしたが、まるで動かなかった。両手でも試しみたが、やはり抜けない。
「硬過ぎて抜けないわよ」
「いくら非力なサリヤさんでも、鞘から抜くくらいなら出来るはず。それでも抜けないのは、この剣がアレンさんしか使えない証拠ですよ」
「そうか。サリヤの芝居も大したもんだ。だがギル、」
「ちょっと、芝居ってなによ」
アレンは、失笑気味にギルを見た。
「頭がいいお前でも、ポカするときがあるんだな」
「どういう意味ですか?」
アレンは、サリヤが足で踏んづけているアレンの剣を抜いた。
「今俺が持っている剣をサリヤに手渡せば、サリヤでも使える、ってことになるんだよな?」
「渡してみてください」
「負けを認めたくないってか?往生際が悪いぞ、ギル」
アレンは、不敵に笑った。
「いいから、サリヤさんに渡してみてください」
ちぇ、負けず嫌いにも程があるぜ、と言いながら、アレンはサリヤに剣を渡した。
サリヤが剣を受け取った瞬間、
「キャ、」
サリヤは剣を持ったまま、その手が剣ごと地面に吸い寄せられた。
「なによ、これ。地面に張り付いて動かないじゃない」
「おいおい、サリヤ。いくらギルのためとはいえ、そこまで臭い演技するんじゃねえよ」
演技ではなかった。サリヤは剣から手を放し、地面に張り付いている剣を拾い上げようとしたが、
まるで杭でも打ち込まれたごとく、剣は地面からビクとも動かなった。
「それマジでやってんの?」
コノヤロー!、といいながらサリヤは、ガニマタのみっともない姿になっているのも気にせず、全身を使って剣をなんとか地面から上げようとしたが、やはり剣は1ミリも動かない。
「はあはあ、ダメよ、これ」
アレンはサリヤの前に立ち、剣を片手で拾い上げた。
「なにそれ、嘘でしょ!」
「理解してもらえましたか、アレンさん」
アレンは、剣を目の前でまじまじと見たが、美しいという以外は何の変哲もない。
「本当に俺しか使えない・・・のか」
「そうです」
「さて、茶番は終わったか?」
セイジは、腰をトントンと叩きながら立ち上がった。
「お前が選ばれし者ということはわかった」
「では、古文書をいただけるのですか!賢者様」
「それとこれとは話が別だ。やはり渡す訳にはいかんな」
頑なな賢者に、アレン達は手詰まりになった。
「わかったよ、今日は引き上げる。だが、俺達は諦めるわけにはいかないんだ。それだけは覚えてくれよ」
アレンは後ろを向き、歩き始めた。
「賢者様、是非ともお考え直してください。よろしくお願いします」
ギルとサリヤは賢者に一礼して、アレンの後を追いかけた。
「さて、クルル。面倒な連中がいなくなったので、これでゆっくり遊べるぞ」
そう言いながらも、セイジはアレンの後ろ姿を目で追いかけていた。
アレン達は、アクロスの家に戻っていた。
「どうしますアレンさん、あの感じだと簡単に渡してくれそうにありませんね」
「困ったじいさんだぜ、全く」
アレンはしばらく考えた。
「アクロス、ちょっと聞きたいんだが」
「なんだ」
「この村では、本当に宿屋が一軒もないのか?」
「この村は旅人が来るような所じゃない。もし、来たとしたら、教会に泊まるか、君達みたいに村の住人の家に泊まるかだ」
「この村で働き先はあるのか?」
「ないことはないが・・・あるとしても、農作業か織物だぞ」
「寝泊りと食事だけ確保できればいいんだよ」
「だったら俺の家にいるといい。無駄に部屋が多いからな、この家は。但し、食事は期待するなよ、見ての通り貧乏だからな」
「助かるぜ」
「アレンさん、それって、ここに長く滞在するってことですか?」
「あのじいさん、簡単に古文書を渡さないだろ。これは長期戦になる」
「賛成、皆ここで働きましょうよ。今までずっと旅してきたから、屋根がある家にいられるのが、なんだか新鮮だわ」
「今は冬だし、ちょうどいいかも知れませんね」
「皆も賛成のようだし、アクロス、すまねえが世話になるよ」
「いいとも」
アレン達は、それぞれの部屋に戻った。ギルがアレンの部屋に入ってきた。
「意外ですね、アレンさん」
「なにがだ?」
「てっきりアレンさんなら、力ずくで奪い取る!みたいなことをするのかと思いましたよ」
「じいさん相手だと、俺は本気だせないんだよ」
「そうなんですね」
「それに、俺達は盗賊じゃない。奪い取るようなマネは出来ないのさ」
ギルは、アレンの意外に冷静な一面を見たような気がした。
「でも、永遠に渡さないかも知れませんよ」
「偏屈そうだしな、あのじいさん。唯一心を許しているのが、クルルだけなんだろ」
アレンは、ベッドに腕を組んで寝転がった。
「まあ、粘り強くいくしかねえな」
「そうですね・・・」
「ギル、お前が賢者を説得してくれ。同じ魔法使いだし、どうやら俺は嫌われているみたいだしな」
「わかりました。頑張ります!」




