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激流の中で  作者: 清水京太郎
第5章 孤独の賢者
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37 剣の意志

 「じいさん、俺は手荒なまねはしたくない。悪いが、渡した方が身のためだぜ」

 

 「ほう、賢者であるこのわしに喧嘩を売る気か」

 

 セイジの闘気が上がった。クルルは見たことないセイジの怖い顔に驚いた。

 アレンは何も言わずゆっくり剣を抜いた。

 

 「アレン、やめて!」

 

 「はぁ!」

 

 高速で飛び込んだが、賢者に杖で軽く受けられた。

 

 「生意気にも手加減しおって」

 

 「言ったろ、手荒なまねはしたくないんだよ」

 

 「もう十分手荒だろ」

 

 そのとき、セイジはアレンの剣がオセアオン・ブロンシュであることに気が付いた。

 

 「お前、選ばれし者か」

 

 アレンは下がった。

 

 「なんだ、その選ばれし者ってのは」

 

 「バカな、自分が使っておる剣が何かも知らんのか」

 

 「アレンさん、」

 

 「何だギル」

 

 「アレンさんの剣は聖剣オセアオン・ブロンシュといって、世界に4つある神器のひとつです」

 

 「神器?なんだそれは?」

 

 「神の器と書いて神器。神々が人に与えてくださった神の武器です」

 

 (そこの坊主はサージュ・グローク、後ろの女はクレセント・カルマンか・・・揃いも揃って、こやつら本気で探すつもりか、ドラゴンオーブを・・・)

 

 アレンは、剣を改めて見た。

 

 「・・・まあ、美しい剣だとは思ってたが、そんな凄い代物だったとはねぇ」

 

 セイジは、ヤレヤレと言った表情で切り株の上に座った。

 

 「その剣は、剣自身が意志を持っている。そんな生きているような剣など他にない。魔剣と言われる所以だ」

 

 「剣が意志を持ってる?」

 

 「そうだ。その剣は、剣が選んだ者にしか使えない」

 

 「バカな。あり得ないな、そんなこと」

 

 ギルは、アレンの前に来た。

 

 「アレンさん、一度剣を鞘に収めて、剣帯ごと僕に渡してもらえませんか」

 

 アレンは、剣を収めギルに渡した。

 

 「サリヤさん、このアレンさんの剣を抜いてもらえますか?」

 

 「えっ、あたし?」

 

 サリヤは、ギルから剣帯ごと渡された。

 グリップを持ち、鞘から抜こうとしたが、まるで動かなかった。両手でも試しみたが、やはり抜けない。

 

 「硬過ぎて抜けないわよ」

 

 「いくら非力なサリヤさんでも、鞘から抜くくらいなら出来るはず。それでも抜けないのは、この剣がアレンさんしか使えない証拠ですよ」

 

 「そうか。サリヤの芝居も大したもんだ。だがギル、」

 

 「ちょっと、芝居ってなによ」

 

 アレンは、失笑気味にギルを見た。

 

 「頭がいいお前でも、ポカするときがあるんだな」

 

 「どういう意味ですか?」

 

 アレンは、サリヤが足で踏んづけているアレンの剣を抜いた。

 

 「今俺が持っている剣をサリヤに手渡せば、サリヤでも使える、ってことになるんだよな?」

 

 「渡してみてください」

 

 「負けを認めたくないってか?往生際が悪いぞ、ギル」

 

 アレンは、不敵に笑った。

 

 「いいから、サリヤさんに渡してみてください」

 

 ちぇ、負けず嫌いにも程があるぜ、と言いながら、アレンはサリヤに剣を渡した。

 サリヤが剣を受け取った瞬間、

 

 「キャ、」

 

 サリヤは剣を持ったまま、その手が剣ごと地面に吸い寄せられた。

 

 「なによ、これ。地面に張り付いて動かないじゃない」

 

 「おいおい、サリヤ。いくらギルのためとはいえ、そこまで臭い演技するんじゃねえよ」

 

 演技ではなかった。サリヤは剣から手を放し、地面に張り付いている剣を拾い上げようとしたが、

 まるで杭でも打ち込まれたごとく、剣は地面からビクとも動かなった。

 

 「それマジでやってんの?」

 

 コノヤロー!、といいながらサリヤは、ガニマタのみっともない姿になっているのも気にせず、全身を使って剣をなんとか地面から上げようとしたが、やはり剣は1ミリも動かない。

 

 「はあはあ、ダメよ、これ」

 

 アレンはサリヤの前に立ち、剣を片手で拾い上げた。

 

 「なにそれ、嘘でしょ!」

 

 「理解してもらえましたか、アレンさん」

 

 アレンは、剣を目の前でまじまじと見たが、美しいという以外は何の変哲もない。

 

 「本当に俺しか使えない・・・のか」

 

 「そうです」

 

 

 「さて、茶番は終わったか?」

 

 セイジは、腰をトントンと叩きながら立ち上がった。

 

 「お前が選ばれし者ということはわかった」

 

 「では、古文書をいただけるのですか!賢者様」

 

 「それとこれとは話が別だ。やはり渡す訳にはいかんな」

 

 頑なな賢者に、アレン達は手詰まりになった。

 

 「わかったよ、今日は引き上げる。だが、俺達は諦めるわけにはいかないんだ。それだけは覚えてくれよ」

 

 アレンは後ろを向き、歩き始めた。

 

 「賢者様、是非ともお考え直してください。よろしくお願いします」

 

 ギルとサリヤは賢者に一礼して、アレンの後を追いかけた。

 

 

 「さて、クルル。面倒な連中がいなくなったので、これでゆっくり遊べるぞ」

 

 そう言いながらも、セイジはアレンの後ろ姿を目で追いかけていた。

 

 

 

 アレン達は、アクロスの家に戻っていた。

 

 「どうしますアレンさん、あの感じだと簡単に渡してくれそうにありませんね」

 

 「困ったじいさんだぜ、全く」

 

 アレンはしばらく考えた。

 

 「アクロス、ちょっと聞きたいんだが」

 

 「なんだ」

 

 「この村では、本当に宿屋が一軒もないのか?」

 

 「この村は旅人が来るような所じゃない。もし、来たとしたら、教会に泊まるか、君達みたいに村の住人の家に泊まるかだ」

 

 「この村で働き先はあるのか?」

 

 「ないことはないが・・・あるとしても、農作業か織物だぞ」

 

 「寝泊りと食事だけ確保できればいいんだよ」

 

 「だったら俺の家にいるといい。無駄に部屋が多いからな、この家は。但し、食事は期待するなよ、見ての通り貧乏だからな」

 

 「助かるぜ」

 

 「アレンさん、それって、ここに長く滞在するってことですか?」

 

 「あのじいさん、簡単に古文書を渡さないだろ。これは長期戦になる」

 

 「賛成、皆ここで働きましょうよ。今までずっと旅してきたから、屋根がある家にいられるのが、なんだか新鮮だわ」

 

 「今は冬だし、ちょうどいいかも知れませんね」

 

 「皆も賛成のようだし、アクロス、すまねえが世話になるよ」

 

 「いいとも」

 

 

 アレン達は、それぞれの部屋に戻った。ギルがアレンの部屋に入ってきた。

 

 「意外ですね、アレンさん」

 

 「なにがだ?」

 

 「てっきりアレンさんなら、力ずくで奪い取る!みたいなことをするのかと思いましたよ」

 

 「じいさん相手だと、俺は本気だせないんだよ」

 

 「そうなんですね」

 

 「それに、俺達は盗賊じゃない。奪い取るようなマネは出来ないのさ」

 

 ギルは、アレンの意外に冷静な一面を見たような気がした。

 

 「でも、永遠に渡さないかも知れませんよ」

 

 「偏屈そうだしな、あのじいさん。唯一心を許しているのが、クルルだけなんだろ」

 

 アレンは、ベッドに腕を組んで寝転がった。

 

 「まあ、粘り強くいくしかねえな」

 

 「そうですね・・・」

 

 「ギル、お前が賢者を説得してくれ。同じ魔法使いだし、どうやら俺は嫌われているみたいだしな」

 

 「わかりました。頑張ります!」

 

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