35 3枚の毛布
三人は2つ目の山脈も超え、最後の山に挑もうとしていた。
山裾から山頂を見上げると、薄っすら白くなっていた。
「もう山頂は雪になってるみたいだな」
「ここまで来たら行くしかありませんよ。戻っても雪に道を閉ざされるだけですから」
「前進あるのみだな」
「行きましょう」
急ぎはしたが、結局2つの目の山脈越えも、おおよそ1か月を費やしていた。
季節は、秋から冬に変わった。
雪はチラホラと降ってきが風が殆ど無く、急ぎ歩きの体熱もあって、3人は寒さをそんなには感じなかった。
「ギル、この3つ目の山脈は、きっと今までで一番小さいんじゃないか」
「そうですね、見た目からすれば最初の山が一番高いと思われます」
「ねえ、ちょっとこの小川で休憩しない?」
「よし、休もう。この調子だと思ったより早く超えれそうだしな」
アレン達は、小川のせせらぎで疲れた身体を休めた。
「あー、冷たいけど水がうまい」
その時、アレンは空間が微かに揺れる気配を感じた。
思わず背中の剣に手をかける。
「どうしたの?」
「し、静かに、」
アレンは目を閉じて周りの気配を探ったが、何も感じない。
「気のせいか・・・」
「なにかいた?」
「野生動物か何かじゃないんですか?」
「いや、あれは人の気配だ」
(確かに感じたような気がするんだけど・・・)
アレン達は少し休憩したあと、再び歩き出した。
そして、10日余り過ぎた頃、アレン達は最後の山の9合目付近にきていた。
山頂近くに立ち、これまで踏破した2つの山脈が後ろに見えていた。
足元には雪があったが、空は真っ青な快晴だった。
「ギル、やっぱり俺って持ってる男だろ」
「さすがアレンさん。運の強さに感服しますよ」
「運だけかもねー」
「サリヤ、一言余計なんだよ」
「この調子だと、寒さを気にせず3つ目も踏破できそうですね」
「いやっはっは、我ながら自分の強運が怖いよ」
アレン達が山頂から下り始めた頃、にわかに空模様が怪しくなってきた。
「ちょっと、風が強くなってきた気がしない?」
「空もいつの間にか灰色ですしね」
「お、お前ら、心配すんなって。俺は、持ってる男・・・だよ・・・」
太陽が隠れ、周囲の温度が下がってきた。
やがて雨が降り始め、みぞれに変わり、そして雪になった。
風が徐々に強くなり、前方が見づらくなっていた。まさに山天気の急変だった。
「アっ、アレンさん・・・これは、ちょっと危険になってきましたよ」
風が激しさを増し、ギルの声が聴こえなくなっていた。
「ギル、今なんか言ったか?」
ギルは先頭に立ち、前方に光の盾を展開した。
雪と風が遮られ、会話できるようになった。
「ふう、やっと声が聞こえるようになった」
「しかし、光の盾では寒さを抑えることは出来ません。なにか対策しないと、このままでは・・・」
ギルは立ち止まった。
「どうした、ギル」
「アレンさん、進む道が見えません」
「なに!」
もはや前方は雪が風で渦を巻き、真っ白い世界があるのみだった。
「これでは道なのか崖なのか、まったく分かりませんね」
アレン達は動けなくなった。
「くそ、どうすりゃいいんだ」
アレンはしばらく考えたが、ふと前を見るとギルの姿が見えない。
「おい、ギル!どこだ!」
アレンは後ろのサリヤに向け、言った。
「サリヤ、ギルがどこへ行ったか見えてたか?」
返事が無い。
後ろを見ると、サリヤもいなくなっていた。
「嘘だろ!おい、お前ら、一体どこに行ったんだよ!」
行ったんだよ・・・行ったんだよ・・・行ったんだよ・・・
アレンの声が、何回もリピートされた。
そして急に周りが真っ暗になった・・・
「ギル」
「あれ、マーラー様ですか?」
ギルの前に、霞みがかってマーラーが現れた。
「お前、こんな所で一体何をしておるんじゃ」
「何って、わたしはアレンさん達とドラゴンオーブを探す旅に出ています」
「誰がそのようなことを許可した」
「でもマーラー様はいなくなりましたよね?塔のガルーダに殺されたのでは?」
「愚かな。わしがあのような化物に殺されるなどあり得んわ」
「では、マーラー様は生きていらっしゃると?」
「お前の目の前にこうしているではないか。さあ、こっちへ来い。わしといっしょに、家へ帰るぞ」
「マーラー様・・・うっ」
ギルは意識を失って倒れた。
「うぅ・・・」
アレンは、何かに頭をぶつけたような頭痛に見舞われていた。
起き上がり頭を振り、意識を戻した。
「ここは・・・」
洞窟のようだったが、吹雪の音が小さく聞こえていた。ポチャ、ポチャっと何かが滴り落ちる音も聞こえた。
そのとき、うーん、と言ううめき声が、
「ギル、いるのか?」
暗くてアレンには見えなかった。
「あ、アレンさん・・・」
「ギルか」
「あ、はい」
「明かりをつけてくれ」
「わっ、わかりました・・・」
ギルは杖を光らせた。すぐ横に、サリヤが倒れているのが見えた。
「サリヤさん!大丈夫ですか!」
ギルがサリヤを抱きかかえると、サリヤは目を開けた。
「あ、頭が痛・・・」
「サリヤ、大丈夫か!」
「うん、平気よ」
「ここは、どこでしょうか」
「俺にも分かんねえ。起きたらここだった」
「アレンさん、僕も何かに頭を強く打ったような気がします」
「つまり3人とも、頭を打ってここで倒れてたってことか」
「ちょっと、外を見てきますね」
ギルは頭痛でフラフラしながらも、吹雪の音がする方へ歩いていった。
「ここって少し暖かいね」
「そういや、そうだな・・・」
ギルがすぐ戻ってきた。
「アレンさん、外は猛烈な吹雪になってます」
「・・・まじか」
「ねえ、あたし達、どうやってここに来たの?」
「もしかして、誰も覚えちゃいねえってことか」
ギルは、自分の頭部のいろんな所を触っていた。
「どうやら外傷はない。とすると、何かの薬物かも知れませんね、この頭痛」
「毒ってことか?誰が、いつ、どうやって?」
「アレンさん、僕はマーラー様の幻を見ました」
「俺は、お前らがいなくなったと思ったら、急に辺りが真っ暗になって・・・」
「あたしは、お母さんに会ったの。知らない女の人だったけど、きっとお母さんだと思う」
3人は顔を見合わせた。
「3人とも幻を見ていたってことでしょうか」
「幻ねぇ・・・」
アレンがふと見ると、干し肉と水が入った竹筒が置いてあった。
「ここに誰かいたのか・・・」
「ねえ、こっちには毛布があるよ」
「なに!」
「しかも3枚」
「・・・?」
「兄上!」
「わぉ!びっくりした!」
「そのリアクション、いつ見ても愉快だ」
「シアン、いい加減兄を脅かすのは止めたらどうだ」
「兄上が油断しすぎなんだよ」
「お前の潜伏を見破れる奴なんかいないだろ」
「あいつはどうかな」
「ん、もしかしてアレンか」
「俺の潜伏が危うく見つかるところだったよ」
「シアン・・・お前、女なんだから俺って言うの、もうやめろよ」
「男の方が便利な時が多いんだよ。特に隠密はね」
ハザードは、倒れた椅子を元に戻して座り直した。
「で、アレンはどうだ?」
「あいつ、冬になろうってのにペルディド山脈を越えようとしたんだぜ、バカ過ぎんだろ」
「それは無謀だが、あいつらしいな。フフフ」
「兄上、笑ってる場合か。あいつら俺がいなけりゃ死んでたぜ」
「でも、助けたんだろ?」
「そりゃ、兄上の命令だから仕方なくだよ」
「シアン、」
「なに?」
「あいつらは神獣ガルーダを倒した連中だぞ」
「それは俺も驚いた」
「あいつらは普通じゃない、特別な連中だ。たかが吹雪くらいで死なせたら、もったいないだろ」
「よくわかんねえけど、一族の頭である兄上がそう言うなら、俺は従うまでだよ」
「アレンの冒険記を聞いていると、俺まで楽しくなってくるよ」
ハザードは、嬉しそうにほほ笑んだ。
「で、これからも俺が監視を続けるわけ?」
「もちろんだ。我が一族でもトップクラスのハイドスキルを持つ、お前にしかアレンの監視は出来ないよ」
「あいつ、そのうち死ぬぜ、きっと」
「アレンの旅は危険といつも隣り合わせだ。それは、そうなるように誰かが仕向けているのかもな」
「誰かって誰?」
「それは分からん」
「なんだ、つまんね」
「だが、もし本当に死ぬようなことがあれば、あいつもそれまでの男だったってことだ」
「だったら、助けずにほっときゃ良かったじゃん」
「だからー、吹雪なんかで死んだら面白くないって」
「意味わからん~、じゃねー」
そう言い残して、シアンは消えた。
(アレン、これからも俺を楽しませてくれ。そしてドラゴンオーブの在処を早く見つけ出すんだ)
「ねえ、なんで3枚っていう、とってつけたような数の毛布があるんだろね」
「サリヤ、この際深く考えるのはやめろ。あるんだから、ありがたく使わせてもらうんだよ」
「あんた、また何も考えられない人に戻ったわね。さっきの頭痛が原因かしら」
「なんだと、」
「まあまあ、お二人とも。この吹雪は当分止みそうにないですし、ここは山の地熱のせいか少し暖かい。毛布に水に食料完備。まるで、吹雪がおさまるまでゆっくりして下さいって言われているようなものですよ」
「御意」
「御意ってなんだよ、サリヤ」
「とにかく、あたしはまだ頭痛いから寝まーす、おやすみ~」
サリヤは背中を向けて毛布を被った。
「これもアレンさんの運ですよね、きっと」
「そうだといいけどな」
アレンは、納得できないまま眠りについた。




