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激流の中で  作者: 清水京太郎
第5章 孤独の賢者
35/94

34 困難な道程

 「サリヤ!大丈夫か!」

 

 「ええ、なんとか・・・」

 

 サリヤは崖から足を踏み外した。

 谷底へ落ちようとしたもう少しの所で、アレンがサリヤの腕を掴んだ。

 急斜面を歩いているところへ、ヒラヒラと美しい蝶がサリヤの目の前を舞う。サリヤはその美しさに気をとられ、足を踏み外したのだった。

 

 「アレン!」

 

 「なんだ!」

 

 「あの蝶が、あたしをこんな目に合わせたのよ!あたしを幻惑するなんて、あの蝶侮れない!」

 

 「ちょっと、何言ってるかわかんねえけど、今引き上げてやるからな!」

 

 アレンはちからを込めてサリヤを引き上げようとしたとき、

 

 「待って!」

 

 「どうしたんだよ」

 

 アレンの腕から、血が自分の方向に流れてくるのが見えた。

 よくみると、まるで刃物のような石が突き出ていて、それがアレンの腕を切っていた。

 

 「アレン、このまま腕を動かすと、切れてちぎれるかも」

 

 「なっ、なに!」

 

 アレンはサリヤを掴んでいる腕が鋭く痛むのを感じた。

 

 「お前の回復魔法で治せないのか?」

 

 「アレンの腕がちぎれたら、腕といっしょに下へ落ちるわよ」

 

 「そりゃそうだな」

 

 アレンの腕は、徐々に痺れててきた。

 

 (これは、長くもたないぜ・・・)

 

 「ギル!」

 

 「はい!」

 

 「ローブになるようなものを探してきてくれ!このままじゃ、サリヤを引き上げられねえんだ」

 

 「わかりました!」

 

 ギルは、来た道を急ぎ引き返した。

 

 「なるべく、早めに頼むぜ」

 

 崖を吹き抜ける風が吹いた。

 サリヤは、アレンの腕一本で宙刷りになったまま揺れた。

 サリヤが動くと腕も振れ、石がアレンの筋肉に切り込んできた。

 サリヤはアレンの腕に捕まえられながら、回復魔法を使っていたが、回復して切れる、回復して切れるを繰り返していた。

 しかし、アレンの腕の痺れは増す一方で、腕の感覚が無くなりつつあった。

 

 (くそー、ギルの奴遅いぜ・・・まだかよ・・・)

 

 「アレン、腕は大丈夫?」

 

 サリヤは上を見上げた。

 

 「上を見るなよ。目に石が入るぜ」

 

 「アレンさん、持ってきました!」

 

 「よし、ギル、下に降ろせ」

 

 ギルは近くの大きな岩にぐるぐると巻き付けて縛り、そして下に垂らした。

 

 「サリヤ、それを掴め!」

 

 サリヤは垂れてきたロープを右手で掴み、アレンが手を離した瞬間に左手でも掴んだ。

 ギルは自分の着ている服を脱ぎ、崖とロープの間に挟んだ。

 

 「これで引き揚げられますよ」

 

 「よし、上げるぞ」

 

 二人はサリヤを引き上げた。

 


 「よかった、一瞬ダメかと思いましたよ」

 

 「俺の反射神経のお陰だな」

 

 「アレン、腕は?」

 

 「ああ、平気さ。まだ痺れているけどな」

 

 「見せて」

 

 サリヤはアレンの腕を見た。

 

 「もう大丈夫よ」

 

 「おお、一瞬で痺れが無くなったよ」

 

 その様子を見ていたギルは、驚いた。

 

 (今見ただけで回復させた・・・

  魔法が発動するときの特融の波動は感じなかった・・・

  つまり、今のは魔法じゃない

  言うなれば、超能力のような特殊な能力・・・

  

  サリヤさん、もしかして魔法使いの域を超えた?・・・)

 

 

 「ギル、どうした、行くぞ」

 

 「あ、はい」

 

 

 3人は、ようやく一つ目の山脈を踏破し、2つ目の山脈に続く山裾を歩いていた。

 出発してから既に1か月近く経過していた。

 

 「やっとひとつ超えたか」

 

 「この調子だと、おそらく3つ目の山脈に差し掛かる頃に、本格的な冬になりそうですねー」

 

 「まずいな・・・」

 

 「どうします、ここで引き返すのもありだと思いますが」

 

 ギルの言葉にアレンは迷った。

 

 「アレンさん、引き返す決断をするなら今しかないですよ。言わばラストチャンスです」

 

 アレンは立ち止まった。それに合わせてサリヤとギルも歩くのを止めた。

 

 

 「よし、腹をくくったぜ」

 

 「どうします?」

 

 「このまま行く」

 

 「危険を承知でですか?」

 

 「ギル、アブスト王も言ってたけど、もし俺達の旅がこの世界にとって本当に必要なものだったら、この3つの山脈を超えれるはずだ」

 

 「それは、アレンさんの嫌いな神に頼るってことですか?」

 

 「神に助けてもらうなんて考えてないさ」

 

 「じゃ何に頼るんでしょうか」

 

 「頼るとすれば、それは俺の運だ」

 

 アレンの発言に、ギルはサリヤを見た。

 

 「おばあちゃんから、『竜宝を求める者と共にあり、その者を守ること』って言われてる。あたしは一族の代表として、その言葉を全うするつもりよ」

 

 サリヤの言葉に迷いは無かった。


 ギルは、なるほどと思った。

 

 (この二人は運命に従い、そして固い決意を持って旅を続けている。

  それに対して、僕は神の神器が揃うという事態を見極めるというのが目的だ。

 

  僕の目的は、なんて自分本位で軽いんだ・・・

  そんな事で命を賭ける決断など、到底出来るはずもない・・・)

 

 

 ギルは、何だか自分が情けなくなってきた。

 

 「ギル、お前が嫌だっていうなら無理は言わない、お前は戻れよ。俺達はこのまま行くから」

 

 「たくさん助けられたけど、これからはアレンと何とかするわ」

 

 アレンは、ギルの肩を叩いた。

 

 「今までありがとな」

 

 「アレンさん、」

 

 「ん?」

 

 「なに、ここで分かれようとしてるんですか?」

 

 「えっ、行くの嫌なんだろ?」

 

 「嫌ですよ」

 

 「だったら・・・」

 

 「僕も、今ここで腹をくくりました」

 

 「えっ?」

 

 「僕はアレンさんと、これからも旅を続けます。ドラゴンオーブを見つけるまで」

 

 「ギル・・・」

 

 「アレンさんと旅をしてて、アレンさんの目的が、何だか自分の目的でもあるような気がしてきました」

 

 「・・・いいのか、まじで命を落とすかもよ」

 

 「もう決めました、アレンさん」

 

 アレンはギルを見たが、なにか吹っ切れたような顔だった。

 

 「そうか・・・じゃ、改めてよろしくな、ギル」

 

 「あたしが死んだらお墓作って埋めてね」

 

 「サリヤさんを死なせるようなことは絶対にしませんよ。アレンさんは分かりませんが・・・」

 

 「なんだよ、それは」

 

 「さあ、時間がもったいない。行きましょう」

 

 「お、おぅ・・・」

 

 二つ目の山脈に向けて、三人は再び歩き出した。

 

 

 辺りは暗闇が迫ってきていた。

 

 「今日はこの辺りで寝ることにするか」

 

 「焚き火用の枝を探してきます」

 

 「頼む」

 

 ギルは、薄暗い林の中に入って行った。

 

 

 アレンとサリヤは、起こした火を囲んで暖を取っていた。

 赤い炎の揺らめきが、二人の顔を照らしていた。

 

 「サリヤ・・・」

 

 「わかってる、ドラゴンオーブなんて、どうでもいいんでしょ?」

 

 「・・・」

 

 「本当の目的は、おじいさんを探すことだよね」

 

 サリヤは、アレンの瞳に映る自分を見ていた。

 

 「いいじゃない、それでも」

 

 「ギルに申し訳なくてさ・・・」

 

 「ああ言ってたけど、ギルも本当は別の目的があるんじゃないのかな」

 

 「そうか・・・」

 

 「あたし達3人は、目的は違うけどドラゴンオーブで繋がっているんだよ」

 

 アレンは、ため息をついた。

 

 「ねえ、アレン。あたしも見てみたいのよ、ドラゴンオーブを。それがこの世界にとって、どれだけの価値があるのか」

 

 「そうだな、なんだか俺も見たくなってきたぜ」

 

 「あっ、」

 

 急にサリヤはアレンに寄り添い、アレンの腕にもたれ掛かり、そして、そっと目を閉じた。

 

 「おっ、おい、どうしたんだよ」

 

 「いいじゃない、たまには」

 

 

 辺りはすっかり暗くなっていた。

 流れ星がひとつ、夜空に光の線を残して消えた。

 

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