33 シリウスを背に
アブスト城の大広間で祝賀会は行われた。
コの字型にテーブルがセッティングされ、中央にアブスト王、その隣にアレン、サリヤ、ギルと続いた。
一方、城の中庭ではたくさんの屋台が出店され、アブスト民は全て無料で利用出来た。
中庭は色とりどりの明かりで装飾され、多くの人で賑わっていた。
「アレン、酒は飲まないのか?」
「俺はいいよ」
「そうか、さすがの英雄王も酒はまだ早いか、はっはっは」
アレンは怪訝そうな顔でアブスト王を見た。
「ところで、あの王冠だけど」
「うむ、美しい王冠だろ?」
「俺が旅を終えて、ここに戻ってくるまで、預かってくれないか」
「いいとも、私が責任を持って保管しよう」
「頼むよ」
「その代わりアレン、」
「なんだ?」
「必ず、戻ってこいよ」
「ああ、わかってるよ」
アブスト王は、よしっと言いながらグラスを傾けた。
「そうだ、アレン、道案内を呼んである」
アブスト王は、ファリドに目で合図した。すぐに一人の男が、アレンに近寄ってきた。
「ハランディだ。この者にレリッシュ村までの道を聞いてくれ」
「助かるよ」
3人は椅子から立ち上がり、ハランディを囲むようにして、レリッシュ村までの道を聞いた。
「うーん、分かってはいましたが、これは想像以上に厳しい道程になりそうですね」
「どうしても3つの山脈を超えなくてはなりません。しかも、それぞれかなり高い山です」
「アレンさん、これは春になるまで待った方が良くないですか?」
「ギル、こういうことは勢いが大切だ。冬はまだこれからだ。行くなら今だよ」
「あたしは、アレンについて行くわ」
ギルは少しため息をついて、
「わかりました。じゃあ、行きましょう」
「明日の朝出発しようぜ」
「どうかお気をつけて。あと、もし道に迷った時は、夜になるのを待ってシリウスを探して下さい」
「シリウス?なんだそれは」
「大犬座の首星で、古代の人々はソティスって呼んでたそうですよ」
「そうです。夜空に青白く輝くひときわ大きな星なので、すぐ分かると思います。迷った時は、シリウスが背になる方向に歩いてください」
「シリウスを背にか、」
「大陸にかかる橋が見えたら、そこからレリッシュ村まで一本道です」
「わかった、ありがとな」
アレンは席に戻ってきた。
「どうだ、ちゃんと聞けたか」
「ああ、バッチリだ」
「で、出立はいつ頃だ?」
「明日だよ」
「アレン、急ぐ必要はないだろう。このアブストでもっとゆっくりしたらどうだ?」
「言ってなかったが、この旅には3年というタイムリミットがあるんだよ」
「そんなものがあったのか」
「そうなんだ。気持ちは嬉しいが、俺達は急がなくちゃいけないんだよ」
「それは残念だよ」
「ところでアブスト王、ひとつお願いがある」
「お、初めて私を王と呼んでくれたな」
「あんたは立派な王だよ」
アブスト王は、ニンマリした。
「で、願いとは何だ?」
「俺達に旅の服を用意してくれないか。出来るだけ軽くて丈夫なものを頼むよ」
「わかった。英雄王の理想にかなう装備を用意しよう」
アブスト王はファリドを呼び、アレンの注文を伝えた。
「今夜中に用意し、アレン様達に届けよ」
「かしこまりました」
「他になにかあるか?」
「いや、大丈夫だ」
「アレン、」
「なんだ?」
「私はアレン達のやろうとしていることが、この世界にとても重要な事に思えてならない」
「まさか、そんなわけないよ。ガラス玉を探して姫を起こすだけさ」
「それは、そうなんだが・・・」
「考え過ぎだぜ。そんなに考え込んでいると、そのうちハゲるぞ」
「それは困る。まだ結婚もしてないのに・・・」
アブスト王の深刻な顔を見て、アレンは噴き出した。
(アレン、君は気付いてないのか・・・君が剣に選ばれた者だということを・・・
一説では魔剣とも呼ばれているオセアオン・ブロンシュが、どうでもいい事のために持ち主を選ぶはずがない・・・)
翌朝、アレン達は夜明けとともに城を出た。
早朝にも関わらず、アブスト王自ら見送りに来ていた。
「アレン、いや英雄王よ。事を成し遂げたら、必ずここへ戻ってきてくれ。約束だぞ」
「ああ、わかってるよ」
アレンは、レリッシュ村への道を歩き出した。
城下町を通っていると、通りを掃除する町の住人は、アレンを見るなり跪いて頭を下げた。
「あの、犯罪者を見る目でみられた時とは正反対ですね」
「そうだな・・・」
民とは風見鶏のように、風が吹く向きで態度が変わる。それが良い悪いという話ではない、民とはそういうものなのだ。
アレン達が町を抜けようとしたとき、一人の老人が近寄ってきた。
「英雄王アレン様、旅立ちですね」
そう、町の長老だった。
「アレンでいいよ」
「あなた様がこの町にしてくれたこと、町を代表して心から感謝申し上げます」
長老は、深々と頭を下げた。
「じいさん、俺は町を思ってやったわけじゃないよ」
「それでも、財宝を取り戻し、魔物からこの町の民を救ってくれたことに何ら変わりありません」
「まあ、そうかもしんねえけど・・・」
「これからどちらへ?」
「レリッシュ村というとこさ」
「そうですか、どうかお身体にお気をつけてください。旅の無事を祈っております」
「ああ、じいさんも元気でな」
「お茶とても美味しかった、ありがとう」
「いつまでもお元気で」
長老は杖で身体を支えながら、アレン達を見送った。
アレン達はアブストの城下町を抜け、一つ目の山脈へ向かう道を歩いていた。
風は、まだ秋の気配だ。
「アレンさん、」
「なんだ?」
「水の古文書には、ドラゴンオーブの所在が明らかになる記述はありませんでした」
「それは聞いたよ」
「この本には、古代文字で水の大切さが切々と書かれています」
「そうなんだ」
「ただ気になることが、」
「お、それは何だ?」
「本の最後の1ページが白紙でした」
「白紙・・・わざとそうしてるだけじゃないのか?」
「これまで数えきれない本を読んできましたが、最後に白紙のページがある本なんて一冊もありませんよ」
「だから言ったろ?第2の古文書を探して、その本の最後のページを見るんだよ」
「もし、同じように白紙のページがあれば、それは何か隠された秘密があるってことか・・・」
「そういうことさ」
「でも、単純にそういう作りかも知れませんよね」
「そこはギル、賭けだよ」
「なるほど・・・」
サリヤは、クスっと笑った。
「アレン、あなたもしかして頭打ったお陰で、考えられるようになったんじゃない?」
「サリヤ、まるで今まで俺が何も考えて無かったような言い方はやめろよ」
「あれ、考えてた?」
「俺は思慮深い男さ、なあギル」
「ノーコメントでお願いします」
「なんでだよ」
アレン達は急いだ。
山脈に雪が積もる前に、レリッシュ村に着くために。




