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激流の中で  作者: 清水京太郎
第5章 孤独の賢者
33/94

32 英雄王

 「アレン、よく塔から戻れたな」

 

 アレン達は、アブストに到着後すぐにアブスト王に謁見した。

 

 「俺達は普通じゃないんでね。出来ないことも出来ちゃうんだよ」

 

 アブスト王はアレンを抱きしめた。

 

 「おっ、おいおい、どうしたんだよ」

 

 「君達の着ている服を見れば、いかに激しい戦いであったかは容易に想像できるよ」

 

 「マーテルが王と会うなら着替えろとか言ってたけど、俺がこのままでいいって言ったんだよ」

 

 ウォルタ王はアレンの顔を見た。

 

 「アレン、君の言いたい事は私はしっかり理解したよ」

 

 「そいつはよかった」

 

 アブスト王とアレン達は、例によって謁見の間の中央で座りながら話していた。

 

 「ところで、その大きなタンコブはどうした?」

 

 「こっ、これは、ちょっとしたミスだよ・・・」

 

 プーっと、サリヤが噴き出した。

 

 「サリヤが意地悪して治してくれねえもんだから・・・」

 

 「アレンのおっちょこちょいぶりを王様に見てもらおうって思ったの」

 

 「もう、いいから、さっさと治せっての」

 

 謁見の間は、笑いに包まれた。

 

 「君達が塔の魔物を倒してくれたお陰で、ようやく財宝が回収できたよ」

 

 「俺達が暴れたせいで、皿とか壺が壊れちまっただろ。すまねえな」

 

 アブスト王は、アレンの肩を叩いた。

 

 「何を言うアレン。君達がいなければ永久に戻らなかった財宝だぞ。感謝しかないよ」

 

 「そう言ってもらえると助かるぜ」

 

 アブスト王は、ギルが肩から下げたカバンに入っている本が見えた。

 

 「それが君達のほしがっていた古文書と呼ばれるものか」

 

 「ええ、そうなんですが・・・」

 

 ギルは、カバンから本を取り出した。

 

 「どうしたのだ?」

 

 「俺達が知りたかった事が、ここには書いてなかったんだよ」

 

 「なんと、じゃその本ではなかったということか」

 

 「塔にあった本は全て調べましたが、この本以外にそれらしいものは見当たりませんでした」

 

 「では、塔にあるという前提が間違っている事になるな」

 

 「そうなりますかね・・・」

 

 その時、

 

 「あー!」

 

 謁見の間にいた一人の神官が、大きな声を出した。

 

 「どうしたのだ」

 

 「それと同じものを、確かツァスターの森に住む老人が持っていたのを思い出しました」

 

 「ツァスターの森と言えば、レリッシュ村にある、あの森か」

 

 「御意」

 

 アレンは、アブスト王に尋ねた。

 

 「そのレリッシュの村っていうのは、どこにあるんだ?」

 

 「ここより北東に位置する村で、アブストとは異なる大陸にある小さな村だよ」

 

 神官は、アレン達の方へ近寄ってきた。

 

 「カース城からの帰り道に森で迷ってしまい、ウロウロしている時に偶然その老人が住んでいる祠を見つけたのです」

 

 「森の祠か・・・」

 

 「祠の中で老人から道を教えてもらっている時、老人の背後にそれと同じ表紙の本が置いてありました。変わった表紙だったので、今でもよく覚えております」

 

 「そりゃ第2の古文書に間違いなさそうだな」

 

 「でもアレンさん、この本には肝心な事が記載されていません。第2の古文書を見つけ出したところで、同じ結果になりそうですが・・・」

 

 「ギル、」

 

 「はい?」

 

 「その本が正解かどうか、今の段階では分かんねえだろ。お前が好きな隠された秘密があるかも知れねえし。だからこそ、第2の本を探し出して比べるんだよ」

 

 「うーん、まあ、確かにそういう考え方もありますね」

 

 「君達がレリッシュ村に行くのであれば、道を知っている者を後で紹介しよう」

 

 「ああ、是非頼むぜ」

 

 アブスト王は、立ち上がった。

 

 「よし、皆の者、今夜は祝賀会だ。塔の魔物がいなくなったことを大いに喜ぼうではないか」

 

 「おおー!」

 

 謁見の間から歓声が上がった。

 

 「マーテルはいるか」

 

 マーテルは即座に王の元へ駆け寄ってきた。

 

 「ここに」

 

 「マーテル、町の民も城へ呼ぼう。今夜は民も交えた宴とする」

 

 「は、かしこまりました」

 

 マーテルは早速手配すべく、謁見の間を後にした。

 

 「また、宴会か。結局飲みたいだけじゃねえのか?」

 

 「楽しくていいじゃない、ねえ、ギル」

 

 「ええ、そうですね」

 

 「さ、アレン。宴まで部屋でゆっくり寛ぐといい」

 

 謁見の間は散会となった。

 その時、先程大きな声を上げた神官が声をかけてきた。

 

 「アレン殿、」

 

 「ん、なんだ?」

 

 「言いそびれたのですが、私がその本を見たのは20年も前の事です」

 

 「そりゃ随分と前だな」

 

 「ええ、祠の老人はその時でもかなりご高齢な様子でしたので、もしかしたら、もうお亡くなりになっているかも知れません」

 

 3人は折角掴みかけた糸口が、また消えて無くなるような気がした。

 

 「まあ、とにかく行ってみるさ。ありがとな」

 

 神官は一礼をして、謁見の間から出て行った。

 

 「なんだか、急にやる気が無くなったわ」

 

 「サリヤ何を言ってるんだ。俺達には明るい未来しかないぞ」

 

 「アレンさんの根拠のない発言はともかく、他に情報が無い今の状況では、そこへ行くしかないですね」

 

 「ともかくって何だよ。あ、それとサリヤ、タンコブ治して」

 

 

 


 カーテンを引き窓を開けると、眼下に城下町が見えた。

 高台にある城から見ると、町の噴水や商店はミニチュアのように見える。

 

 窓辺に座り、ギルは小さくため息をついた。

 

 (あの時・・・

 

  僕は残りの魔力全てを使い雷撃の魔法を放った。

  狙い通り、僕の雷撃は嵐の雷とタイミングよく合わさりガルーダを直撃した。そして、ガルーダは倒れた。

  その後サリヤさんの生存を確かめるべく、彼女を起こし、まだ生きている事を確認したが、額が切れ出血がひどかった。

  僕は止血薬を取り出そうとした・・・そして、そのまま気絶した

 

  そこからだ。その後、どうなったのか・・・

 

  僕が目覚めたのはガルーダとの死闘から2日後。


  マーテルさんの部隊の兵士から聞く限り、誰もガルーダの死体を見ていない。

  もしかして、奴はどこかで生きているのか?

  

  いや、それはない。

  あいつは執念深い奴だ。魔法が使えなくなっても僕を物理的に殺しに来ている。

  そういう奴が僕達を生かしたまま、どこかに行くはずがない。

  

  つまり、ガルーダは死んだんだ。

  

  奴の死体が無いのは、おそらく奴が神獣だったことに関係がある。

  

  そこまでは、いい・・・

  

  僕が疑問に思っていることは、2つ。

   ・ガルーダを誰が殺したのか、

   ・3人全員無傷なのは何故か

  

  ガルーダを殺したのは誰なのか・・・

  

  残念ながら、それは僕ではない。

  僕の雷撃でガルーダが死んだのなら、塔最上の床に穴が空く理由がない。

  

  あの穴は、僕が気を失った後に出来たものだ。当然、ガルーダの死と関係がある。

  そして、部隊の兵士から得た、塔入り口の床に岩のような分厚い石の塊がいくつも落ちていた、という証言・・・

  とすると、最上の床に空いた穴は、上から下へ空けられたものだ。

  

  床に穴を空けることが目的だった訳じゃない、目的はあくまでガルーダを殺すことだ。

  穴はガルーダを殺す際の副次的な作用で空いたものだろう・・・

  

  上から下へ・・・

  

  つまり、ガルーダは何かのちからで上から抑えつけられ、そのちからは床をも破壊し、ガルーダをそのまま墜落死させた、ということか。

  普通であれば、塔の上から落ちたくらいでは死なないのだろうが、相当弱っていたんだろう。

  

  問題は、ガルーダを圧迫したちからが何だったのか、ということだ・・・)

  

 ギルは窓を閉め、部屋のソファーに座った。

  

 (おそらく魔法だろう。

  

  僕が知り得る魔法知識の中で、圧迫が出来る魔法はひとつしかない。

  

  重力を操る魔法、ルーフドヴェルサンだ。

  

  そして、その重力魔法が使えるのは・・・)

  

 アレンがノックもせずにドア開け、顔を突き出して言った。

 

 「ギル、宴会の準備が出来たってよ」

 

 ギルは、アレンの顔を見てソファーから立ち上がった。

 

 「はーい、行きます」

 

 

 3人が廊下に出ると、ファリドが待っていた。

 

 「宴会の前に、皆さんのお披露目がございます」

 

 「お披露目?」

 

 「そうです。その前に全員着替えていただきましょうか」



 「サリヤ、お披露目ってなんだ?」

 

 「さあ・・・」

 

 

 

 城のテラスの最前列に、アブスト王は立った。

 その後ろには、銀のプレートメイルを装備したアレン、鮮やかな白いドレスを纏ったサリヤ、紫の賢者のローブに身を包んだギルが立っていた。

 彼らの眼前には、テラス前の中庭に集まった数千人という群衆と、山間に落ちようとする夕日の輝きがあった。

 

 群衆は、手を振る王に歓声を上げていた。

 

 「凄い人ね」

 

 「ここって、こんなにたくさん人がいたのかよ」

 

 「これだけの人に見られると、ちょっと恥ずかしいですね」

 

 王は振っていた手を降ろした。群衆は途端に静まり返った。

 

 

 「皆の者、今日は素晴らしい報告がある」

 

 王の声は城の遠くまで響いた。

 

 「ここにいるアレン達三人は、北の洞窟の魔物を退治しただけでなく、我が王族の汚点であったインドラの塔を攻略し、財宝を取り戻してくれた」

 

 群衆から一斉に拍手と歓声が起こった。

 

 「私は、その財宝をひとつ残らずアブストの民へ返すことをここに約束する」

 

 おおーーー!という地響きのような叫び声が、アブスト城を直撃した。

 アレンは、その声の迫力に思わず後退りした。

 

 「うへ、すげー歓声だ」

 

 「皆さん、めちゃくちゃ喜んでますね」

 

 王は、続けた。

 

 「それも全てアレン達のお陰だ。彼らは、このアブストのために死を顧みず塔の魔物と闘い、そして勝利した!」

 

 再び、おおーー!という歓声が上がり、アレン!アレン!というアレンコールが巻き起こった。

 群衆がひとつになった大きな大きな声だ。

 

 「おいおい、やめろよ、恥ずかしいじゃねえか」

 

 「さあ、アレン、これを」

 

 ファリドは、アブスト王に王冠を渡した。

 

 「ええ、なんだよ、それは」

 

 「アレン、君はこのアブストにとって英雄王だ。この王冠を受け取ってくれ」

 

 「えっ、王って、何だよそれ」

 

 「凄い!やったじゃない、アレン」

 

 「ええ?サリヤ、何言ってんだ」

 

 「さ、アレンさん、群衆が見てますよ」

 

 「ギル、お前まで・・・」

 

 二人はアレンを見てにっこりと微笑んだ。

 アレンは仕方なく、アブスト王の前にいって膝をついた。

 

 アブスト王からアレンへ、金色に輝く王冠がゆっくりと被せられた。

 

 テラスにいた神官や近衛兵から拍手が起こった。その中にはマーテルもいた。

 

 「ここへ来て民に見せてやれ」

 

 アレンはテラスの最前列に行き、アブスト王の横に並んだ。

 群衆から、王冠を身に着けたアレンの姿がはっきりと見えた。その瞬間、おおー、という今度はため息にも似たような声が起きた。

 

 「アレン、群衆の声に答えるんだ」

 

 「答えるって?」

 

 「英雄は、こういう時には剣を抜くんだよ」

 

 そういのは苦手なアレンだったが、メイン会場のど真ん中に立っている以上、やらざるを得なかった。

 アレンは剣をゆっくり抜き、空に向け突き出した。

 剣は夕日を受けて、キラリと美しく煌めいた。

 

 (あ、あの剣は・・聖剣オセアオン・ブロンシュ・・・アレン、君は・・・)

 

 アブスト王は、2歩3歩と後ろへ下がった。

 

 「ん、どうした、大丈夫か?」

 

 アブスト王は跪いた。

 

 「えっ?」

 

 王の動きを見て、テラスにいた全員が一斉にアレン向け跪いた。

 

 「サリヤ、ギル、お前らまで何やって・・・」

 

 アレンはテラスから見える群衆が、まるで波が放射状に広がるように次々と跪いていくのが見えた。

 そこにいる全員がアレン、いや英雄王に向けて膝を付いて頭を下げていくのだった。

 

 「これは、一体・・・」

 

 アブスト王は、笑みを浮かべながら立ち上がった。

 

 「おめでとう、英雄王アレン」

 

 「何を言ってやがる。王はお前だろ?」

 

 「アレン、王とは民の心をひとつに出来る者のことだ。今の君は間違いなく王だ。嘘だと思うのなら民をよく見てみろ」

 

 アレンは、テラスから群衆をもう一度よく見た。静まり返っていた。誰も一言も会話をしていなかった。

 小さな子供もいたが、母親と手を繋いだまま何も言わず膝を付いてた。

 

 「今、もし君がここから皆に向かって『戦え!』と言えば、ここにいる全員一人残らず武器を持ち戦うだろう。王とは、そういうものだよ」

 

 アブスト王から言われた言葉に、アレンは少し恐ろしさを感じた。

 

 「王って民の命を預かっている存在なんだな」

 

 「その通りだ。だからこそ、国の存亡に全身全霊で取り組まなければならない」

 

 「あんたの責任の重さがわかったよ」

 

 「ありがとう、英雄王」

 

 アレンとアブスト王は、しっかり握手した。

 

 

 「皆の者、今宵は大いに楽しんでくれ。さあ、宴を始めよう!」

 

 「おおーー!」


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