28 塔の階段
アブスト城では、塔の魔物討伐という名目でアレン達の壮行会が行われた。
急遽の企画だったので、城の一部の関係者だけで執り行われ、どちらかと言えば食事会のようであった。
この会の最中、ロリコンダーについてサリヤがアレンとギルに問い詰めたことは言うまでもあるまい。
程なく会も終わった。
アレン達は今夜は城に滞在し、翌朝塔へ向けて出発となった。
アレン達を客人用の部屋に案内した後、ファリドは王の部屋の扉をノックした。
「ファリドにございます」
「入れ」
ファリドは扉を開け中に入った。壮行会の途中で、王は自室に戻っていた。
「アレン達を案内したか?」
「はい、客室の中でも最高の部屋にご案内しました」
「それでよい」
「ところで、我が王、」
アブスト王は机に座ったまま、窓の外の真っ暗な景色を見ていた。
「お前の言いたいことは分かっているよ、聖女のことだろ?」
「我がアブストの言い伝えである<聖女が現れた時、災いも始まる>が、現実になるのではないかと皆騒いでおります」
「ファリド、」
「はは、」
「あの3人は神の使いか、それとも悪魔の化身か、お前はどっちだと思う?」
「わたくしめには何とも・・・」
アブスト王は、暗い窓を見ながら片腕で頬杖をついた。
「神の使いの可能性もあるということでございますか?」
「多分、こういう言い方が一番正しいと思うよ」
「それは、どのような」
「今は神でも悪魔でもない。だが彼らは、神にも悪魔にもなれる」
「なんと・・・それは、とても不安定な存在でございますな」
「そうなんだよ。優れた者達だけに、やっかいなんだよな・・・」
アブスト王は立ち上がり、読んでいた本を閉じて本棚に戻した。本の背には「自国の防衛と戦略について」と書かれてあった。
「ファリド、もう世界は混乱の時代に足を踏み入れている気がするよ」
ファリドに緊張が走った。
アブスト王はファリドに向かって言った。
「早急に軍備を整えることが急務だ。これから私もお前も忙しくなるぞ、覚悟しておけ」
「はは、全ては我が王の御心のままに」
あの3人が本気で戦えば、我がアブスト軍はどこまで耐えられるのか・・・
若きアブスト王は、恐怖と焦りを感じていた。
塔へ向けて出発の朝を迎えた。
アブスト王は、アレン達を塔へ送り届ける部隊を500名で編成した。
もちろん、それはアレン達が魔物に勝利したときに、塔の財宝を持ち帰るための部隊でもあった。
物をたくさん積み込める荷馬車が多くを占めた。
部隊長を務めるのは、近衛騎士団長マーテルだった。
「あんたが隊長か」
「昨日の最後の晩餐は楽しめたか?」
「あんたがいなけりゃ、もっとメシは旨かったのにな」
「私は貴様らを信用していない。妙な行動をすると何が起きるか分からんぞ」
マーテルは不敵な笑みを浮かべた。
「まあ精々俺達を見張るがいいさ」
「マーテル様、出発のお時間です」
アレン達3人は、先頭の幌がついた荷馬車に乗った。そこには数名の兵士も、アレン達を監視するために乗っていた。
「くれぐれも3人から目を離すなよ」
「はっ、了解しました」
こうして、アレン達は塔へ向け出発した。
◇◇◇
数日かけて部隊はインドラの塔に到着した。
山を迂回する道を進むので徒歩より距離は長くなるが、そこはやはり馬である。断然早いし、なにより座っているだけの移動は快適だった。
「もう、着いたのね」
「こんな楽したら、次から歩くのが嫌になりそうですね」
「全くだ」
マーテルの部隊は、インドラの塔をぐるりと囲んだ。蟻一匹這い出る隙間もないとはこの事だ。
アレンが見上げた空は、一面黒が混じった灰色で厚みのある雲に覆われていた。
「さあ、ここからは貴様らが主役だ。我々は貴様らの悲鳴をここで聞くとしよう」
マーテルの髪が、時折ヒューっと吹く強い風になびいた。
「一つ頼みを聞いてくれないか」
「頼み?」
「俺達が塔から戻ってきたら、アブスト王のところまで送ってほしい」
「またか。我が王に何の用だ」
「俺達が塔から持ち帰る本は、お前らの王も興味があるってことだよ」
マーテルは、アレン達が戻ることは万に一つも無いと確信していた。
「いいだろう。お前達が生きて戻ってこれたらの話しだがな」
「頼んだぜ。じゃサリヤ、ギル、行こうか」
3人は塔の入り口へ向け歩いた。
マーテルは高い塔を見上げた。灰色の空から水滴が落ちてきた。風は少しずつだが強くなってきている。
(これは嵐になるな・・・)
マーテルは、部隊を塔をから移動させることにした。
先程通ってきた道で、大きな岩山のところまで引き返す指示をだした。
「ん、あいつら引き上げていくな」
「風雨が強くなるので、この草原では危険と判断したのでしょう」
「じゃ、俺達もさっさと塔の中へ入ろうぜ」
鉄の扉の前に3人は立っていた。
ギルは、荷物の中から塔の鍵を取り出した。
「よしギル、俺に任せろ」
ギルはアレンを肩車して上に持ち上げた。
「ど、どうですか・・・アレンさん・・・」
見上げたギルの顔にも、雨粒がポツポツと当たってきた。
「ギル、もう少し右だ」
ギルはアレンの重さに耐えながら、右に寄った。
「よし、そこでストップ」
アレンは鍵穴に鍵を差した。鍵の錆びが少し削れたが、抵抗無く入った。この鍵で間違いないようだ。
しかし、差しただけでは扉は開かなった。
「鍵は回すものよ」
サリヤの忠告に、アレンは鍵を右に回したが動かなった。
「左か?」
今度は左に回したが、やはり鍵はビクとも動かなった。
「なんだよ、これ。錆ちまって回らないぜ」
「ちょっとアレンさん、変わってもらえますか」
鍵は全く回る気配が無かったので、アレンはギルと交代した。
ギルは鍵を回したが、やはり回らない。押してもみたが、これ以上鍵は奥へ入らなかった。
「やはりこれは回すしかないな」
ギルはちからを込めて鍵を回した。雨は小降りだが降り続いている。
「くそ、固い・・・・・・おっ」
鍵が少しだけ回った。
「いけそうですよ!」
ギルは更にちからを込めて鍵を回した。
「なんて・・・固いん・・・だ・・・」
バキッ
「ギル、今なんか変な音がしたぞ」
ギルから返事が無かった。
アレンはギルは降ろした。
「折れました、鍵」
「なんだと!」
ギルは中程から折れた鍵を茫然と持っていた。鍵の残りは、鍵穴に刺さったままのようだ。
「ギル!てめえ、なんてバカちからなんだよ!」
アレンはギルの服の襟を掴み、前後に揺さぶった。
「やめてください、アレンさん!」
その時、
グーン、ガガガガーー
モーターのような音と、金属と石が擦れる音を発して、ゆっくりと鉄の扉が開き始めた。
「へっ?」
扉は最後まで開かずに、途中で止まったようだ。しかし、2枚の扉の間に人が通れるくらいの空間が出来ていた。
「開いたわ、ね」
アレンは、ギルの肩をポンポンと叩いた。
「ギルならやってくれると思ったぜ」
「あんた、どういう性格してんの」
「さ、中へ入るぞ」
「アレンさん、この扉凄い技術ですよ!扉を開ける動力はどうなっているんでしょうか?」
ギルは興奮して扉を観察した。
「ギル、細かいことは気にすんなって、いくぞ、ほら」
アレンとサリヤは、まだ懸命に鉄の扉を見ているギルを置いて中へ入っていった。
「あ、ちょっと待って下さいよ、」
塔の中は広い空洞になっていて、周りの壁に張り付くように螺旋状の階段があった。
「これって階段をいくつ登るんでしょうねー」
見上げた塔の上まで、階段は壁際に続いているようだ。
「まあ、とりあえず登るか」
アレンを先頭に3人は登り始めた。
階段は固い砂で出来ていて、塔の壁から突き出すように作られていた。足を乗せると表面の砂がこぼれた。
「ゆっくり踏めよ。強く踏むと崩れそうだ」
杖の灯りを点け、塔の壁に左手をつけながら3人はゆっくりと登った。
階段には手すりなどなく、一人しか歩けない幅だった。少しでも体が振れると落下する危険な階段だ。
最初は良かったが登るにつれて高くなり、アレン達は怖くなってきた。
「これって本当に大丈夫なの・・・?」
「なんか上にいく程に、階段が脆くなっているような気がしますけど・・・」
「・・・」
「アレン、あんたなんで黙ってるのよ」
「・・・」
「もしかして高所恐怖症?」
「・・・」




