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激流の中で  作者: 清水京太郎
第4章 怪鳥ガルーダ
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27 怪鳥

 夜も遅かったが、アレン達は王への目通りが叶った。

 マーテルは、王がいる謁見の広間までアレン達を連れてきた。


 マーテルが扉の前に立つ衛兵に目で合図すると、中から扉は開かれた。

 なんと、王は扉の前に立っていた。マーテルと衛兵は慌てて跪いた。


 「君達か、洞窟の魔物を退治したというのは」


 「そうだぜ、アブスト王」


 「おい、王の御前だぞ!」


 マーテルはアレンに怒鳴ったが、アレンはその声を無視して立ったままだった。

 扉の前の衛兵は、跪かないアレンに槍を向けた。

 

 「槍を収めよ。彼らは洞窟の魔物を退治した英雄だぞ」


 アブスト王は若い青年だった。

 王の一言で、衛兵は槍を戻し姿勢を正した。

 アブスト王はアレンを見て言った。


 「君の名は?」


 「俺はアレン、後ろにいるのはサリヤとギルだ」


 アレンが後ろを見ると、サリヤとギルは跪いていた。


 「お前ら何やってんの?」



 謁見の広間の中央にある通路の上に、王は直接胡坐をかいて座った。


 「さ、アレン。ここへ来て座って話そう」


 変わった王に、サリヤとギルは戸惑っていた。

 アレンは扉の中へ入り、王の前へ胡坐をかいて座った。


 「王家のブレスレットを取り戻してくれて心から感謝するよ」


 「洞窟の中は死体と骨だらけだったが、金属は杖の光を反射するからすぐ分かったぜ」


 「杖の光?」


 「持っている杖を魔力で光らせるのです」


 いつの間にかサリヤとギルも座っていた。


 「おお、君は魔導士か」


 「サリヤも魔法使いだぜ」


 「サリヤさんは回復魔法が使える聖女様です」


 「やめてよギル、その言い方」


 「聖女・・・」


 謁見の間が一瞬どよめいた。

 アブスト王は急に言葉を失い、少し青ざめていた。


 「どうした?」


 「いっ、いや、何でもない。私も含め我が国では、聖女に会うのは初めてのことなので少し驚いたのだ」


 「回復魔法の使い手が、そんなに珍しいのか?」


 「アレン、この国は魔法そのものが殆ど無い国だ。戦いはもっぱら鍛えた肉体と刃の武器のみだ」


 「いいね、気が合いそうだ」


 「ゆえに魔法の使い手は極端に少ない。ましてや聖女様は、言い伝えでしたか聞いたことがないよ」


 「へえー、そうなんだ」


 「あたしって、もしかして珍しい存在?」


 サリヤは部屋を見渡した。周りにいる近衛兵は、全員サリヤに視線を集中させていた。



 「ところでアレン、洞窟の魔物はどのような魔物だった?」


 「二本の牙を持った大きな虎さ」


 「えっ!ロリコンダーじゃないの?」


 サリヤは部屋中に響くような大きな声を出して、思わず手で口を塞いだ。


 (ギル!やっぱり話が違うじゃない!)


 (サリヤさん、あとで説明しますから、落ち着いて)



 「ふむ、それはもしかしてティーグサーバーかな」


 「その通り。だが奴は俺達が洞窟に入ったときは既にいなかったぜ」


 「じゃ、君達は魔物を倒していないのか?」


 「倒したさ。ここに来るまでにな」


 「まさか、旅の途中で出会ったというのか」


 「そうだよ」


 (我が精鋭部隊を全滅させた魔物を、たった3人で倒したというのか・・・)


 ギルがアブスト王に向けて言った。


 「おそらく誰も洞窟に行かなくなったことで、飢えてしまったんじゃないかと思います」


 アブスト王は違和感と共に、少し恐怖を感じ始めていた。


 (この者達が言っているのは嘘ではない・・・一体何者なのだ・・・しかも一人は聖女・・・)



 「しかしアレン、見ていないのになぜティーグサーバーだとわかる?」


 「多くの死体には2つ穴が空いてたんですよ」


 「あんたの親父の背中のマントにも穴があいてたよ」


 「父上の背中に・・・」


 「もう魔物はいませんから、一度洞窟内を調査されてはいかがでしょうか」


 「そ、そうだな。調査隊を編成して洞窟へ派遣することにしよう」


 「アブスト王、」


 「なんだ、アレン」

 

 「俺達は塔にいかなきゃいけない」


 アブスト王の顔が曇った。


 「やはり塔の鍵も見つけたのだな」


 「ああ、それが洞窟に入った俺達の目的だからな」

 

 アブスト王は、おもむろに立ち上がった。


 「君達は塔へ行って何をする気だ」


 王の静かな低い声に、近衛兵が腰の剣に手をかけた。


 アレンも立ち上がった。


 「俺達は財宝に興味はない。俺達がほしいのは本だ」


 「本?」


 「古文書です。私達が探している古文書が、塔の中にあると思っています」


 「何のために古文書を探しているのだ?」


 「それは、ここでは言えないな」

 

 アブスト王は、アレンの表情を見ながらその真意を読んでいた。王の瞳は、嘘を見透かすように青く澄んでいた。


 「いいだろう。私の自室に案内しよう」


 「それはなりません!」


 扉の前で跪いていたマーテルが、大きな声で王を制した。


 「構わないよ、マーテル」


 「では、私も同行致します」


 「俺は王にだけしか話をしない。あんたも来るっていうなら俺は何も喋らねえぜ」


 アブスト王はマーテルを見た。


 「マーテル、お前は来るな」


 「しかし!」


 「この者達は丸腰だ。何も出来ないよ」


 「王、この者達を侮ってはいけません。洞窟の魔物を倒した連中ですよ。剣や杖がなくとも、危険な存在に違いありません」


 「マーテル、この者達を自室に入れるのは私の判断だ。この王たる私の判断をお前は疑うつもりか?」


 「そっ、それは・・・」


 王に伝家の宝刀を抜かれたマーテルは、納得出来ないまま跪いた。


 「では行こうか、アレン」


 アブスト王が、警戒していることをアレンは感じていた。

 得体の知れない旅の者と、一国の王が護衛無しに同じ部屋に入ることなどあり得ないことだ。

 アレンは、アブスト王の腰で揺れている剣を見ていた。


 (この王、よほど自分の剣の腕に自信があるのか?)


 「ここだよ」


 アブスト王は扉を開け、アレン達に入るように勧めた。


 王の部屋に初めて入る3人だったが、そこには歴代の王の肖像画と大きめの花瓶があるだけで、

 想像していたよりも質素だった。


 「もっと金や銀の装飾でハデかと思ったが、意外とシンプルだな」


 「それは私にとっては誉め言葉だ、アレン」


 王は自身の机の前に座った。


 「さて、まずは町の民に情報を流し、ワザと兵に捕まったアレン、」


 「バレてたか」


 「そこまでして、私に会いに来た理由を聞こうか」


 アレンは立ったまま話した。部屋の外に複数の気配をアレンは感じていた。


 (王に来るなと言われたあのマーテルってもの来てるな・・・)


 「さっきも言ったが、俺達は古文書を取りに塔に行く。塔には財宝があるって長老から聞いたが、俺達は泥棒じゃない。そこのところを王であるあんたに分かってほしかったのさ」


 「つまり塔の財宝に手を付けた罪で、アブストから指名手配されるのを恐れたわけか」


 「そうだ」


 「なるほど。今の話を私以外の者が聞いても、相手にされないと読んだわけだな」


 「状況だけで頭ごなしに決めつけるのは、あんたら得意だろ?」


 アブスト王はアレンの皮肉な発言に苦笑いした。


 「君達からは悪のオーラは感じない。だが、膨大な財宝を目の当たりにして、何もしない保証は果たしてあるかな?」


 「俺達を信じてもらうしかねえな」


 アブスト王は立ち上がり、アレンの前まで来て言った。


 「アレン、こうしよう。我が軍が君達を塔までお送りしよう。そして、君達はそのまま塔に入ってくれ」


 「なるほど、俺達が持ち逃げしないように下で見張ってるということか」


 「君達を信用していない訳ではない。だが私が何もしなかったら、城や町の者が納得しないのは目に見えているからな」


 「別に、俺達は構わないぜ」


 「塔の財宝は、元々我が領地の民のものだ。塔にあるものは全て民に返すと、君達に約束しよう」


 「そりゃいい、」


 アレンとアブスト王はしっかりと握手した。


 「ファリドはいるか」


 すぐさま部屋のドアが開き、一人の男がスっと入ってきた。


 「ここに」


 「ファリド、この3人にお茶と菓子を頼む」


 「かしこまりました」


 ファリドは一礼すると、消えるように部屋を出た。

 アレン達はソファーに座った。アブスト王も座り足を組んだ。


 「では、古文書の話に移ろうか」


 アレン達は古文書を探すことになった、これまでの経緯をアブスト王に話した。


 「ふむー、ウォルタ王のご依頼でドラゴンオーブとやらをか・・・」


 「これで分かってもらえたか?」


 (なんとなくウォルタ王の策略のような匂いもするな・・・)



 アブスト王はソファーに座ったまま、しばらく考えた。


 「アレン、そのドラゴンオーブとは一体何をするものだ?」


 「分かんねえけど、眠り姫を起こすための道具だと俺は思ってるよ」

  

 「ウォルタ城の1000年の眠り姫か・・・」


 アブスト王は、いろんな情報が一気に入り過ぎて整理出来なくなったので、話題を変えることにした。

 

 「では、私からも重要な話をしよう」


 「なんだ?」


 「インドラの塔には魔物が住み着いているのは知ってるか?」


 3人は驚かなかった。


 「どうせそんなこったろうとは思ってたぜ」


 「我が軍の偵察からの報告では、その魔物はとてつもないオーラを放っているそうだ」


 「アブスト軍がインドラの塔を攻略しないのは、塔の鍵と言うより、その魔物のせいなんじゃないのか?」


 「アレン、君はたまに確信を突いてくるな」


 「たまには余計だぞ」


 アブスト王は笑った。


 「まあ、強力な魔物がいるってのは、なんとなく想像はできるけどな」


 「アレン、君は甘く見過ぎているぞ」


 「どういうことだ?」


 「偵察の者は、その姿を塔の遥か上空で目撃している」


 「上空?飛んでいるってことですか?」


 「そうだ、そんな距離で尚強いオーラを感じるんだ。その魔物と正面で向き合えば、どのような恐ろしいことになるか想像できるか?」


 サリヤとギルは言葉を失った。


 「舐めてなんかいないぜ、ぶっ飛んだ奴かも知れない。だが、俺達は何があっても立ち止まるわけにはいかないんだよ」


 「フッ、そうか。では最後に偵察の者から聞いた言葉を付け加えよう」



 ーその姿はまるで怪鳥のようだー


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