27 怪鳥
夜も遅かったが、アレン達は王への目通りが叶った。
マーテルは、王がいる謁見の広間までアレン達を連れてきた。
マーテルが扉の前に立つ衛兵に目で合図すると、中から扉は開かれた。
なんと、王は扉の前に立っていた。マーテルと衛兵は慌てて跪いた。
「君達か、洞窟の魔物を退治したというのは」
「そうだぜ、アブスト王」
「おい、王の御前だぞ!」
マーテルはアレンに怒鳴ったが、アレンはその声を無視して立ったままだった。
扉の前の衛兵は、跪かないアレンに槍を向けた。
「槍を収めよ。彼らは洞窟の魔物を退治した英雄だぞ」
アブスト王は若い青年だった。
王の一言で、衛兵は槍を戻し姿勢を正した。
アブスト王はアレンを見て言った。
「君の名は?」
「俺はアレン、後ろにいるのはサリヤとギルだ」
アレンが後ろを見ると、サリヤとギルは跪いていた。
「お前ら何やってんの?」
謁見の広間の中央にある通路の上に、王は直接胡坐をかいて座った。
「さ、アレン。ここへ来て座って話そう」
変わった王に、サリヤとギルは戸惑っていた。
アレンは扉の中へ入り、王の前へ胡坐をかいて座った。
「王家のブレスレットを取り戻してくれて心から感謝するよ」
「洞窟の中は死体と骨だらけだったが、金属は杖の光を反射するからすぐ分かったぜ」
「杖の光?」
「持っている杖を魔力で光らせるのです」
いつの間にかサリヤとギルも座っていた。
「おお、君は魔導士か」
「サリヤも魔法使いだぜ」
「サリヤさんは回復魔法が使える聖女様です」
「やめてよギル、その言い方」
「聖女・・・」
謁見の間が一瞬どよめいた。
アブスト王は急に言葉を失い、少し青ざめていた。
「どうした?」
「いっ、いや、何でもない。私も含め我が国では、聖女に会うのは初めてのことなので少し驚いたのだ」
「回復魔法の使い手が、そんなに珍しいのか?」
「アレン、この国は魔法そのものが殆ど無い国だ。戦いはもっぱら鍛えた肉体と刃の武器のみだ」
「いいね、気が合いそうだ」
「ゆえに魔法の使い手は極端に少ない。ましてや聖女様は、言い伝えでしたか聞いたことがないよ」
「へえー、そうなんだ」
「あたしって、もしかして珍しい存在?」
サリヤは部屋を見渡した。周りにいる近衛兵は、全員サリヤに視線を集中させていた。
「ところでアレン、洞窟の魔物はどのような魔物だった?」
「二本の牙を持った大きな虎さ」
「えっ!ロリコンダーじゃないの?」
サリヤは部屋中に響くような大きな声を出して、思わず手で口を塞いだ。
(ギル!やっぱり話が違うじゃない!)
(サリヤさん、あとで説明しますから、落ち着いて)
「ふむ、それはもしかしてティーグサーバーかな」
「その通り。だが奴は俺達が洞窟に入ったときは既にいなかったぜ」
「じゃ、君達は魔物を倒していないのか?」
「倒したさ。ここに来るまでにな」
「まさか、旅の途中で出会ったというのか」
「そうだよ」
(我が精鋭部隊を全滅させた魔物を、たった3人で倒したというのか・・・)
ギルがアブスト王に向けて言った。
「おそらく誰も洞窟に行かなくなったことで、飢えてしまったんじゃないかと思います」
アブスト王は違和感と共に、少し恐怖を感じ始めていた。
(この者達が言っているのは嘘ではない・・・一体何者なのだ・・・しかも一人は聖女・・・)
「しかしアレン、見ていないのになぜティーグサーバーだとわかる?」
「多くの死体には2つ穴が空いてたんですよ」
「あんたの親父の背中のマントにも穴があいてたよ」
「父上の背中に・・・」
「もう魔物はいませんから、一度洞窟内を調査されてはいかがでしょうか」
「そ、そうだな。調査隊を編成して洞窟へ派遣することにしよう」
「アブスト王、」
「なんだ、アレン」
「俺達は塔にいかなきゃいけない」
アブスト王の顔が曇った。
「やはり塔の鍵も見つけたのだな」
「ああ、それが洞窟に入った俺達の目的だからな」
アブスト王は、おもむろに立ち上がった。
「君達は塔へ行って何をする気だ」
王の静かな低い声に、近衛兵が腰の剣に手をかけた。
アレンも立ち上がった。
「俺達は財宝に興味はない。俺達がほしいのは本だ」
「本?」
「古文書です。私達が探している古文書が、塔の中にあると思っています」
「何のために古文書を探しているのだ?」
「それは、ここでは言えないな」
アブスト王は、アレンの表情を見ながらその真意を読んでいた。王の瞳は、嘘を見透かすように青く澄んでいた。
「いいだろう。私の自室に案内しよう」
「それはなりません!」
扉の前で跪いていたマーテルが、大きな声で王を制した。
「構わないよ、マーテル」
「では、私も同行致します」
「俺は王にだけしか話をしない。あんたも来るっていうなら俺は何も喋らねえぜ」
アブスト王はマーテルを見た。
「マーテル、お前は来るな」
「しかし!」
「この者達は丸腰だ。何も出来ないよ」
「王、この者達を侮ってはいけません。洞窟の魔物を倒した連中ですよ。剣や杖がなくとも、危険な存在に違いありません」
「マーテル、この者達を自室に入れるのは私の判断だ。この王たる私の判断をお前は疑うつもりか?」
「そっ、それは・・・」
王に伝家の宝刀を抜かれたマーテルは、納得出来ないまま跪いた。
「では行こうか、アレン」
アブスト王が、警戒していることをアレンは感じていた。
得体の知れない旅の者と、一国の王が護衛無しに同じ部屋に入ることなどあり得ないことだ。
アレンは、アブスト王の腰で揺れている剣を見ていた。
(この王、よほど自分の剣の腕に自信があるのか?)
「ここだよ」
アブスト王は扉を開け、アレン達に入るように勧めた。
王の部屋に初めて入る3人だったが、そこには歴代の王の肖像画と大きめの花瓶があるだけで、
想像していたよりも質素だった。
「もっと金や銀の装飾でハデかと思ったが、意外とシンプルだな」
「それは私にとっては誉め言葉だ、アレン」
王は自身の机の前に座った。
「さて、まずは町の民に情報を流し、ワザと兵に捕まったアレン、」
「バレてたか」
「そこまでして、私に会いに来た理由を聞こうか」
アレンは立ったまま話した。部屋の外に複数の気配をアレンは感じていた。
(王に来るなと言われたあのマーテルってもの来てるな・・・)
「さっきも言ったが、俺達は古文書を取りに塔に行く。塔には財宝があるって長老から聞いたが、俺達は泥棒じゃない。そこのところを王であるあんたに分かってほしかったのさ」
「つまり塔の財宝に手を付けた罪で、アブストから指名手配されるのを恐れたわけか」
「そうだ」
「なるほど。今の話を私以外の者が聞いても、相手にされないと読んだわけだな」
「状況だけで頭ごなしに決めつけるのは、あんたら得意だろ?」
アブスト王はアレンの皮肉な発言に苦笑いした。
「君達からは悪のオーラは感じない。だが、膨大な財宝を目の当たりにして、何もしない保証は果たしてあるかな?」
「俺達を信じてもらうしかねえな」
アブスト王は立ち上がり、アレンの前まで来て言った。
「アレン、こうしよう。我が軍が君達を塔までお送りしよう。そして、君達はそのまま塔に入ってくれ」
「なるほど、俺達が持ち逃げしないように下で見張ってるということか」
「君達を信用していない訳ではない。だが私が何もしなかったら、城や町の者が納得しないのは目に見えているからな」
「別に、俺達は構わないぜ」
「塔の財宝は、元々我が領地の民のものだ。塔にあるものは全て民に返すと、君達に約束しよう」
「そりゃいい、」
アレンとアブスト王はしっかりと握手した。
「ファリドはいるか」
すぐさま部屋のドアが開き、一人の男がスっと入ってきた。
「ここに」
「ファリド、この3人にお茶と菓子を頼む」
「かしこまりました」
ファリドは一礼すると、消えるように部屋を出た。
アレン達はソファーに座った。アブスト王も座り足を組んだ。
「では、古文書の話に移ろうか」
アレン達は古文書を探すことになった、これまでの経緯をアブスト王に話した。
「ふむー、ウォルタ王のご依頼でドラゴンオーブとやらをか・・・」
「これで分かってもらえたか?」
(なんとなくウォルタ王の策略のような匂いもするな・・・)
アブスト王はソファーに座ったまま、しばらく考えた。
「アレン、そのドラゴンオーブとは一体何をするものだ?」
「分かんねえけど、眠り姫を起こすための道具だと俺は思ってるよ」
「ウォルタ城の1000年の眠り姫か・・・」
アブスト王は、いろんな情報が一気に入り過ぎて整理出来なくなったので、話題を変えることにした。
「では、私からも重要な話をしよう」
「なんだ?」
「インドラの塔には魔物が住み着いているのは知ってるか?」
3人は驚かなかった。
「どうせそんなこったろうとは思ってたぜ」
「我が軍の偵察からの報告では、その魔物はとてつもないオーラを放っているそうだ」
「アブスト軍がインドラの塔を攻略しないのは、塔の鍵と言うより、その魔物のせいなんじゃないのか?」
「アレン、君はたまに確信を突いてくるな」
「たまには余計だぞ」
アブスト王は笑った。
「まあ、強力な魔物がいるってのは、なんとなく想像はできるけどな」
「アレン、君は甘く見過ぎているぞ」
「どういうことだ?」
「偵察の者は、その姿を塔の遥か上空で目撃している」
「上空?飛んでいるってことですか?」
「そうだ、そんな距離で尚強いオーラを感じるんだ。その魔物と正面で向き合えば、どのような恐ろしいことになるか想像できるか?」
サリヤとギルは言葉を失った。
「舐めてなんかいないぜ、ぶっ飛んだ奴かも知れない。だが、俺達は何があっても立ち止まるわけにはいかないんだよ」
「フッ、そうか。では最後に偵察の者から聞いた言葉を付け加えよう」
ーその姿はまるで怪鳥のようだー




