25 天魔大戦
ハザードは、里にある族長の執務室にいた。
最近になって、ハザードの父親は族長の地位をハザードに譲り、自身は引退したのだった。
ハザードが調べものをしていると、部屋のドアがノックされた。
「若、あっ、すみません。族長、報告があります」
「入れ、ヤンブル」
ドアを開け、ヤンブルが部屋に入ってきた。
「俺は若でも族長でも、どっちでもいいよ」
「そういう訳には参りません。若は族長になられたのですから」
ハザードは苦笑した。
「で、どんな報告だ」
「はっ、ウォルタに忍ばせていた密偵から連絡がきました」
「ウォルタか」
「アレンがウォルタの城下町にて、ドラゴンオーブなるものの所在を町の者に聞き回っていたとのことです」
「アレンが・・・」
ハザードは、アレンの背後に見えた黒い影を思い出した。
「他に報告はあるのか?」
「アレンはウォルタの北にある洞窟から、ピタという村に向かったとのことです」
「わかった。ご苦労、下がっていいぞ」
「はは、」
(あのアレンがドラゴンオーブを・・・)
ハザードは椅子から立ち上がり、窓を閉めカーテンを引いた。
そして、研究所の責任者であるバルブに合うため、族長の家を後にした。
「やあ、バルブ」
「これは族長、また一段と精悍な顔付になられましたな」
「責任重大だからね。若と呼ばれた時みたいに好き勝手したいよ」
「はっは、それは残念でございますな。して、本日は何用ですかな?」
「ちょっと二人だけで話したい」
バルブはハザードを研究所の中にある自室へ案内した。ハザードが部屋に入ると、バルブはドアの鍵を閉めた。
「ここであれば、誰も来ません」
「いい部屋持ってるねー。さすが研究所のトップだ」
部屋の中には、本や研究するための装置のようなものが置いてあったが、綺麗に整頓されていて清潔感があった。
ハザードは応接のソファーに座った。
「どのようなお話ですかな」
「ついに現れたよ、ドラゴンオーブを探す者が」
「なるほど、左様ですか・・・しかし、あれはそう簡単に見つかるものではありませんぞ」
「ドラゴンオーブはウォルタの眠り姫を起こす装置のようなもの、というのが研究所の結論だったよな」
「様々な情報から推論した結果、導き出された答えがそれです」
「ドラゴンオーブをうちで探せないのか?」
「族長、」
バルブは机の前の椅子から立ち上がり、ハザードの前のソファーに座った。
「我々はドラゴンオーブが危険な存在だと認識しています」
「どういうことだ」
「例えば、手に触れた瞬間に、ウォルタ姫の眠りが解除されるような仕組みになっているかも知れません」
「ふーむ・・・」
「そして研究所の長年にわたる調査でも、確かなことが分かっていないのが眠り姫の存在です」
「1000年の眠り姫か・・・」
ハザードは立ち上がり、部屋の壁に飾られた一枚の大きな絵を見ていた。
その絵には、灰色の空と荒廃した大地に、白と黒の二匹の竜が睨み合う様が描かれている。
絵のタイトルは「天魔大戦」とあった。
「この1000年前の大戦、全てはここから始まっているんだよ」
1000年前の大戦について、歴史書にはこう書かれてあった。
その戦いは、天界の王と闇の王による地上の覇権を巡る争いだった。
その争いは長きに渡り続いた。戦力は互角で、互いに体力を削り合う消耗戦となった。
そして、両者の陣営がほぼ全滅に近い状態になったとき、王による一騎打ちで最終決着を着けることにした。
天界王である白龍、闇の王である黒龍。決戦の地はウォルタだった。
両者は互いに一歩も譲らない戦いを見せ、いつになれば終わるのかという戦いは七日七晩続いた。
そして決着は、互いの最後の一撃で相打ちになるという結果になり、大戦は終った。
バルブは、ハザードの横に並び絵を見た。
「天界王は、黒龍が死してもいつの日か復活すると予見し、自身が消える間際に黒龍を封印した、と我々は考えております」
「その封印の依代に使われたのが、その時のウォルタ姫じゃないかってことだよね」
「おそらく」
「迂闊に目覚めさせてしまうと大変なことになるな」
「天界王がいない今となっては、この世界は破滅するしかないでしょうな」
ハザードはソファーに座り、足を組んだ。
「じゃ、ドラゴンオーブは何のためにあるんだろうね。黒龍を封印したのなら、それを解く必要は無いよね?」
バルブは熱いお茶を入れ、ハザードに出した。
「ドラゴンオーブを作られたのはおそらく神でしょう。闇の者が封印を解く装置を作る理由はありませんからな」
「だよね。封印解除出来るのなら、さっさとやってるはずだし・・・」
「なぜ神は封印を解く装置をわざわざ作られたのか・・・その理由は全くわかっておりません」
「うーむ・・・謎だ」
バルブは、小さなため息を吐きながら言った。
「族長、いずれにせよドラゴンオーブを探し出されることは非常に危険です」
「同意だな」
ハザードは、出されたお茶を最後まで飲んだ。
「アレンを暗殺するしかないか・・・」
「アレンという名ですか、ドラゴンオーブを探す者は」
「そうだよ」
バルブは少し考えた。そして、
「族長、こうしましょう」
「なんだ?」
「ドラゴンオーブを見つける直前まで、アレンとやらを泳がせ行動を監視するのです」
「うーむ、なるほど。ドラゴンオーブがある場所を特定出来るまでは、彼に頑張ってもらうということだね」
「そうです。そして、場所が明らかになった時点で始末しましょう。ドラゴンオーブの所在が記されたものがあれば、それらも奪う。そうすれば、我が一族だけがドラゴンオーブの在処を知り得ることになります」
「それはいい意見だ、是非そうしよう。だが、」
「なんでしょう」
「監視役は一族の中でも最高の者を使ってくれ。アレンはきっと鋭い奴だ。普通の者だと気付かれる可能性が高い」
「かしこまりました」
ハザードは再び立ち上がり、天魔大戦の絵を見た。
(アレン、君には悪いがドラゴンオーブは我々銀狼一族が永遠に封印する。そして、その存在を知る君は死んでもらうよ)
「よろしいのですか?そのアレンという者を殺しても」
ハザードは、少し間をあけて答えた。
「剣を交えた中では、あいつは純粋だった。きっといい奴なんだろう。だが、黒龍復活に手を出すというのなら、容赦はしない」
一族の最高責任者としての顔が、そこにあった。




