22 水門の家
次の日、3人は夜明けとともに出発した。
「あ、あれですよ」
ギルが指さす方向に、霞んで見える高い建築物があった。
「あれがインドラの塔です」
「確かに高そうだ」
3人はインドラの塔に向かって歩き出した。
3人は塔の前に到着した。その高さに、アレンは思わず塔を見上げた。
「ギル、一体誰がこれを建てたんだ?」
「はっきりしたことは分かっていないらしいんです。もしかして、人ではなく神の手で建てられたのかも」
「神ねぇー」
塔の入り口は鉄の扉で塞がれていた。
扉は観音開きになっており、2枚の扉にはそれぞれ鳥のような絵が向い合せに彫られていた。
見るからに重厚な扉で、長い間風雨に曝されたのか、錆て赤茶色に変色していた。
アレンは、押したり引いたり足で蹴ったりしたが、表面の錆がポロポロ落ちるだけで扉はビクともしない。
「くそー、これ開くのか」
ギルはさっきから何も言わず、ずっと扉を見ていた。
「あっ!」
「おい、急にでかい声だすなよ、ビックリするじゃねえか」
「アレンさん、あそこ見てください。右側の鳥の目」
アレンが見ると、右側の鳥の目は黒くなっていた。
「んー、穴が開いてる?」
「アレンさん、ちょっと肩車してもらえませんか」
アレンの肩に乗ったギルは、右側の鳥の目の部分に顔を近づけて見た。
「あー、これは鍵穴ですね」
「なんかまためんどくさい匂いがしてきたぜ」
(どんな匂いよ)
「アレンさん、ちょっと左に寄ってもらえませんか」
ギルに言われて、アレンはギルを肩に乗せたまま蟹歩きで左に移動した。
「なにかあるのか?」
「これは・・・」
ギルが見ているものは、左側の扉の上部にある落書きのような傷跡だった。
アレンはギルを降ろした。
「なにかあったのか」
「左側の扉に落書きのような傷がありましたが、あれは紋章ですね」
「紋章?どこの紋章だ?」
「おそらくアブスト王家の紋章です」
「ギル、それって何か関係あるのか?」
「今の段階ではなんとも・・・」
「ねえ、やっぱり鍵を探すのが正解じゃない?」
「そうだよな」
3人は鉄の扉の鍵を見つけるべく、塔の周辺を隈なく探したが結局見つからなかった。
「あー、腰が痛てぇ」
アレンは右手でトントンを腰を叩いた。
「やっぱり無いですか」
「そりゃそうね。鍵が簡単に見つかったら意味ないもん」
「となると、唯一の手掛かりは、あの紋章になりますね」
「っていうか、なんでこう謎が謎呼ぶ展開になるんだよ。もっと簡単にたどり着けないもんかね」
「あの紋章は誰かが鍵の所在を教えるために残したものじゃないでしょうか」
疲れた顔で、アレンはギルを見た。
「じゃ、行くしかないのかよ。そのアブスト王家ってとこへ」
「これだけ探しても見つからない以上、もうそうするしか手は無いですね」
折角ここまで来たのに、また移動しなければならないという、
アレンは脱力感で、ため息が出た。
「で、そのアブスト王家ってどこにあるか、ギル知ってるのか?」
「ここから東へ、そうですね、歩いて30日くらいのところでしょうか」
(知ってるんだ。しかも30日って・・・)
「世界地図は頭に入ってますから。僕が案内します」
ギルは嬉しそうだった。
「ギル、」
「はい?」
「お前、見た目細いのに意外とタフだな」
「アレンさん、僕は楽しいんですよ。この謎が謎を呼ぶ展開が。やっぱりアレンさんと旅して正解だったなー、フフフ」
「悪いけど、俺はちっとも楽しくないよ」
「まあまあアレンそう言わずに。世界は広い!さあ、張り切って歩きましょう!」
サリヤは、アレンの背中を叩いた。
(お前も元気だな、サリヤ・・・)
こうして3人はアブスト城がある城下町へと向かった。
◇◇◇
「あそこに見えるのがアブスト城です」
「へー、また立派な城だこと」
3人はアブスト城が見える小高い丘に来ていた。
「この大陸を統治しているのがアブスト王で、ウォルタとは兄弟国家という事になっているようですね」
「あ、あそこに見えるのが城下町ね」
「もうじき日暮れです。城下町まで急ぎましょう」
3人はアブストの城下町に入った。
そこはウォルタやモダリントのような賑いはない。人通りは少なく、城へと続く大きな通りにポツポツと露店が並ぶ程度だった。
(なんか人が少ないわね・・・)
「さて、城下町に着いたはいいが、どうしようかね」
「ここはセオリー通り、この町の長を訪ねましょうか」
「よし、じゃその辺で聞いてみるか」
アレンは通りを歩く人を見つけ、この町の長の事を訪ねた。
「町の西の外れに水門があって、その裏に長老の家があるらしいぜ」
3人は聞いた場所に行ってみた。
「ここかな」
「水門の裏の家といえば、ここだけのようですね」
アレンは小窓のついた木の扉をノックした。
「誰じゃ」
中からシワ枯れた声がした。アレンの後ろにいたギルが答えた。
「旅の者です。実はインドラの塔について、お尋ねしたい事が・・・」
返事が無かった。
「聞こえて無い?」
「耳が遠くなってんじゃねえか?」
ギルは息を大きく吸い込んで、
「たーびーのー・・・」
ガチャっと扉が開いた。
「そんな大きな声ださんでも、聞こえとるわ」
白髪の老人が、アレン達をジロリと見た。
「入れ」
アレン達は家に入った。中に入るとすぐに応接のソファーがあり、そのテーブルの上にランプがひとつあるだけという質素な感じの部屋だった。
ソファーの横にはロッキングチェアが揺れていた。
長老はロッキングチェアに腰掛け、膝から下に毛布を掛けた。
「あんたがこの町の長老か?」
「いかにも」
アレンが次の言葉を言おうとしたのを遮って、長老は言った。
「旅の若者よ、塔に何の用だ」
長老はパイプを口にくわえ、火をつけた。
少し面食らったが、アレンは一歩前に出て答えた。
「俺達はある古文書を探している。それがインドラの塔にあるらしいんでね。なので塔に入りたいのさ」
長老は口から煙を吐いた。
「やめとけ、悪いことは言わん」
まず最初は断られるというテンプレパターン。
「じいさん、俺達はじいさんと会話しに来たんじゃない。塔の扉を開ける鍵の在処を聞きたいだけだ。知ってるんだろ?」
「ほー、礼儀の無い小僧だの」
間髪を入れず、ギルがアレンの前に出た。
「すみません、お気に触ったのなら謝罪します。ですが、私達にもやむを得ない事情があるのです」
長老はチラっとギルを見て、ロッキングチェアからゆっくりと立ち上がった。
そして、アレン達に背中を向けたまま言った。
「塔の鍵がどこにあるかは、わしじゃなくても、この町の人間ならだいたい知っている」
「えっ?」
「但し、」
長老は、アレン達の方を向いた。
「鍵を取りに行くことは不可能だ」




