21 魔導士ギル
3人は宿屋の前にいた。
アレンとサリヤは宿をチェックアウトし、旅の装備に着替え荷物を背負っていた。
「じゃな、ギル。ドラゴンオーブのこと教えてくれて助かったよ」
サリヤはギルに近寄った。
「あたしとの約束守ってね」
そう言ってウインクした。
「ところでギル、お前何歳だ?」
「14です」
「俺は17、サリヤは16だ。お前、一人で生活できるのか?」
「マーラー様が蓄えてたお金が少しありますので、それでなんとか食べていけると思います」
「そっか、よし。じゃ俺達行くわ。またな、ギル」
アレンとサリヤはギルに手を振り、インドラの塔へ向かった。
ギルによると、ここから北へ半日ほど行くと、遥か遠くに塔が見えてくるという。
あとは、見えている塔に向かって進むのみだ。
ギルは少しずつ小さくなるアレンとサリヤを見送った。
北に位置するモダリントは、アレンやサリヤがいた村よりだいぶ肌寒く感じた。
「塔で古文書、見つかるといいわね」
「きっと見つかるさ」
(だが、塔の中に何かいるのは間違いねえ・・・)
アレンは気持ちをぐっと引き締めた。
出発が遅かったせいか、まだ塔が見えない段階で辺りはすっかり夜になっていた。
アレンとサリヤは焚火をしながら、語らっていた。
「あー、お腹すいたなー」
「仕方ないだろ。なんでか知らねえけど、ここら辺には獣一匹いやしねえし」
「これだけ森が広がっていれば、普通なにかいるはずなんだけどなー」
(確かに妙だな・・・)
アレンとサリヤは炎の明かりに照らされていた。
パチと木が弾ける音がして、火の粉が舞った。
その時、アレンは気配を感じた。これは人ではない。魔物の気配だ。
アレンは置いていた剣を持った。
「どうしたの?なにかいる?」
サリヤも思わず杖を手に持つ。
「何か近づいてくる・・・こいつは大物だぜ」
アレンは立ち上がり、ゆっくりと剣を抜いた。気配のする方向に集中した。
やがて、前方の草むらがガサガサっと揺れた。
炎の微かな明かりに照らされて現れたのは、大きな虎だった。口から地面スレスレまで、赤く長い2本の牙が伸びていた。
「ティ、ティーグサーバー!噓でしょ・・・」
「こいつを知ってるのか」
「前に読んだ本で見たことがある。けど、この魔物は温かい所にしかいないはずよ」
サリヤに緊張が走った。魔物から感じるオーラが、これまでのものとは別格だった。
「気を付けてアレン、この魔物は強いわ」
「ああ、俺も感じるよ。あのナメクジの比じゃねえな」
アレンは剣に力を込めた。
「でも、お前がいてくれたら、俺は何にも負けない。そうだろ、サリヤ」
「アレン・・・」
ガアァー!
ティーグサーバーは、いきなり飛びかかってきた!
ガキーン!
アレンは、ギリギリ剣で牙を受け止めた!
(こいつ!なんて早さだ!)
ティーグサーバーは一度引いた。
一撃で仕留められなかったことに驚いている様子だった。
「今度は俺の番だな、いくぜ!」
アレンはティーグサーバーに向かって右足で大地を蹴り低い姿勢で飛んだ。
そう、あの武闘大会で見せた低い弾道の弾丸のように!
「これでもくらえ!」
アレンの素早い剣がティーグサーバーに向かって振り下ろされた!
ガキーン!
ティーグサーバーは2本の牙でアレンの剣を受け止めた!
「なんだと!」
ティーグサーバーは身体をひねり、長く伸びた鞭のようなしっぽでアレンの顔面を攻撃した。
バシッ!
「ぐあっ」
アレンの左目に当たり、アレンは顔をおさえてよろめいた。その瞬間をティーグサーバーは逃さない!
前足から鋭い爪が出て、アレンの胸を狙った!
(やばい!地面に足を取られて体制が立て直せない!、くそー!)
ティーグサーバーの爪がアレンを引き裂く!
サリヤは瞬間的に杖を地面立て集中し、全力の回復魔法を撃つ体制になった。
その時!
ドカーーン!
真っ白な稲妻が閃光とともに轟音を放った!
「キャー!」
あまりの轟音と眩しさに、サリヤは耳を押さえ顔をそむけた。
「なっ、なにが起きたの・・・」
アレンとティーグサーバーが戦っている様子はない。
サリヤが杖の持ち手にある月の彫刻を撫でるとランプのように光った。
その灯りを頼りにアレンのもとへ走った。
「これは・・・」
ティーグサーバーは即死していた。その近くでアレンも倒れている。
「アレン!」
サリヤは杖を置き、アレンを両手で抱き起した。
「アレン!しっかりして!」
「うーん・・・」
目を閉じたままだが、アレンは生きていた。
「アレン!」
アレンの耳に、ようやくサリヤの声が小さくだが、少しずつ聞こえるようになってきた。
「サっ、サリヤか・・・」
「よかった・・・死んじゃったかと思ったよ」
サリヤはアレンを抱きしめた。
「おっ、おいおい、簡単に、殺すなよ・・・」
薄目を開け、アレンは起き上がろうとした。
「あいつはどうなった」
「たぶん死んだ」
「なに?」
アレンは、杖の明かりに照らされて横たわっているティーグサーバーを見た。
全く動かず呼吸もしていない様子だった。
ティーグサーバーの体から白く煙が上がっていた。
「何が起きた?」
「あたしにもわからない」
その時、遠くから人の声がした。
「ん?あの声はもしかして、」
そう、ギルだった。
ギルは手を振りながら、走ってアレン達の方へ向かってきた。
「はあ、はあ、やっと追いついた。二人とも歩くの早過ぎですよ」
ギルはそのまま草むらに転がった。よほど長い時間走ったのか、息をするのがやっとという状態だった。
「どうしたんだ、ギル」
「ぼっ、僕も・・・アレンさん達の旅に混ぜてください、はあ、はあ」
「えっ?」
「お、お願いします、はあ、はあ」
そう言ってギルは荒い息のまま、頭を地面につけた。
荷物を背負い、手には杖を持っていた。服も旅の装備であることは間違いない。
落ち着いてきたギルは草むらに座り直し、話し始めた。
「アレンさん達と別れた後、家に戻ったのですが、マーラー様が居なくなった家にいても僕は何もすることがありません」
アレンとサリヤは顔を見合わせた。
「で、俺達といっしょに行きたいってか」
アレンは立ち上がり、服についた草を払った。
「ギル、お前はどう考えてるか知らねえが、俺達の旅は過酷以外なにものでもないぜ」
サリヤは頷いた。
「わかってますよ」
「本当にわかってるのか?」
アレンが言ってるのは正しかった。
厳しい自然を乗り越えなければならなかった。食べられない日が続き、川の水だけで命を繋ぐこともあった。昼夜問わず魔物に襲われ緊張の連続だ。
「では逆に、アレンさんに聞きたい。僕が何も苦労せずに、ここまで生きてきたとでも?」
ギルの顔は真剣だった。
「わかった、そこまで言うのなら一緒に行こう。お前がいてくれたら正直俺も助かる。ドラゴンオーブのことは、まだまだ謎だらけだしな」
アレンはギルに手を伸ばした。
「ありがとう、アレンさん」
「本当にいいのか?」
「もちろんです」
アレンとギルはガッチリと握手した。
「よろしくね、ギル」
「サリヤさんもよろしくです」
アレンは横たわって死体になったティーグサーバーを見て、
「ということは、これはギル、お前がやったのか?」
「あ、はい。軽く雷撃魔法を撃ちましたが、まさかあの程度で死ぬとは思ってなかったですが」
(こいつ・・・どんだけなんだよ)
「おかげで、俺は今でも耳がキンキン鳴ってるけどな」
目の前に稲妻が落ちたのだ。無理もない・・・
「あんた、それでよく死ななかったわね」
「だからー、簡単に殺すなって」
「ティーグサーバーといっしょに、あたしが埋めてあげたのにー」
「なんだとー」
「キャ、来ないでよ!」
アレンとサリヤは、ワーワー言いながら追いかけ合っていた。
ギルはその様子を見つめながら、真剣な表情をしていた。
(アレンさん、アレンさんには申し訳ないが、僕はドラゴンオーブはどうでもいい。
僕は、確かめなければならない。
3つの神器が揃うというこの異常事態を。
必ず何かの企みがあるはずだ。
それを見極めないなんて、僕には出来ない・・・
この僕も神器を持つ一人なのだから)
ギルは、左手に持つ闘杖サージュグロークを力強く握った。




