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激流の中で  作者: 清水京太郎
第3章 インドラの塔
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19 本の部屋

 少年は首に食い込んだロープを握りしめ、苦しそうに唸っていた。


 「ちょっと、なにしてるの!やめなさい!」


 サリヤは思わず少年にしがみついた。

 その重みで、よけいに少年の首はロープで締まった。


 「くっ、苦しい・・・」


 「バカなまねはやめなさい!」


 サリヤは少年の身体を揺すった。ますますロープは首に食い込んだ!


 「ぐぅ・・・いっ、椅子を・・・はっ、早く・・・」


 見ると、椅子が床に転がっていた。サリヤはそれを起こして少年の足元に置いた。

 少年は椅子になんとか足を乗せ、ロープを首から外した途端木の床に倒れ込んだ。


 「がはあ、はあ、はあ・・・」


 パシィ


 サリヤは少年の頬を叩いた。


 「死ぬなんて、なに考えてるのよ!」 


 サリヤのせいでまじ死にそうになったのに、頬まで打たれた少年はちょっと理解出来なかったが、自分が自殺しようとしたのは事実だった。

 少年は少し落ち着いてきた。


 「すみませんでした。僕死のうとしたんです」


 「そんなの見れば、わかるわよ」


 そこは壁に本棚が並んでいた部屋だった。窓から日の光が差して、空気中に舞うホコリが光っていた。サリヤが見上げると、大きな太い木の柱にロープがかかっていた。


 「どうして死にたかったわけ?」


 「僕が尊敬し、心の支えだった人が最近死にました」


 サリヤはピンときた。


 「あなた!あなたね、マーラーの孫って」


 「マーラー様をご存じでしたか」


 「もちろん、そのためにここまで来たのよ」


 「そうでしたか。ですが、残念なことですがマーラー様はいません」


 「知ってるわ、死んだんでしょ?で、あなたが、マーラーの孫なんだ」


 「違います」


 「えっ!」


 少年はサリヤを見てはっきりと言った。


 「僕はマーラー様の孫ではありません。マーラー様には子供はいませんでしたので、当然孫もいません」


 サリヤは開いた口が塞がらなかった。


 「ほんとに・・・孫じゃ・・・ない・・・?」


 少年は頷いた。

 プツン・・・

 また頼みの綱が切れた音がした。サリヤは力が抜け、ペタンと床に座った。

 

 「アレンになんて言えばいいのかな・・・」


 少年は立ち上がり、服をパンパンと掃った。ホコリが舞い上がった。



 「どうしてマーラー様に孫がいると思ったんですか?」


 サリヤは、宿屋の男に孫の話を聞くまでの一連の流れを少年に話した。


 「なるほどー。でも、その男の言う孫は僕かも知れませんね」


 「えっ、どういうこと?」


 「マーラー様は家族もなくて、この大きな家に一人で住んでおられました」


 少年はサリヤに椅子を持ってきた。座るところを手で掃った。

 

 「僕は他の村からこの町に引っ越してきたのですが、町の人からはよそ者扱いで、その時小さかった僕は誰にも相手にされませんでした」


 「苦労したのね」


 「そんなとき、ふとしたことからマーラー様に出会い、彼の家に毎日遊びに行くようになったのです」


 (それで孫と思われたわけか・・・なるほど)


 サリヤは椅子に座り、改めて部屋を見渡した。壁という壁は全て本棚になっていて、そこには様々な本が並べてあった。本棚は天井近くまであり、高い場所の本を取るための木の梯子もあった。


 「凄い数の本ね、まるで図書館みたい」


 「ここにある本は全部読みました」


 ギルは部屋を見渡しながら言った。


 「え、これ全部?」


 「はい」


 本当かしら・・・

 小さな本もあれば分厚い本もある。サリヤは一冊の古ぼけた本を棚から取り出した。本棚から取るだけでホコリが舞った。

 本を開けると、サリヤには理解できない文字が並んでいた。


 「なにこれ、読めない・・・」


 「それは古代文字です」


 「これも読めるの?」


 「もちろん」


 サリヤはなんかカチンときた。本を閉じ元の場所に戻した。

 そして、椅子から立ち上がり、


 「あなたがマーラーの孫じゃないなら、あなたに用はないわ」


 「あ、あの、僕ギルって言います」


 「ギル、あたしはサリヤよ。それじゃ、ここで失礼するね」


 サリヤは部屋を出ようとしたが、ギルの顔を見て、


 「ねぇ、」


 「はい?」


 「もう死ぬなんて止めなさいよ」


 「あ、あの・・・」


 「なに?」


 ギルも椅子から立ち上がった。


 「サリヤさんは、どうしてマーラー様を探していたのですか?」


 サリヤは小さくため息を吐いた。


 「あなた、あ、ごめん、ギルに言っても仕方ないけど、ある物を探していて、その事でマーラーが何か知ってるんじゃないかって思ったわけ」


 「なるほどー。マーラー様は全ての事を知っていると言われてましたからね」


 「なんか嬉しそうね」


 「で、そのある物とは?」


 「ドラゴンオーブ」


 それを聞いて、ギルは天井を見ながらひとり言をブツブツ言いだした。


 「じゃ、あたし行くね」


 サリヤはギルに手を振った。


 「あ、僕知ってますよ、そのドラゴンオーブってやつを」



 「えっ!?」


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