19 本の部屋
少年は首に食い込んだロープを握りしめ、苦しそうに唸っていた。
「ちょっと、なにしてるの!やめなさい!」
サリヤは思わず少年にしがみついた。
その重みで、よけいに少年の首はロープで締まった。
「くっ、苦しい・・・」
「バカなまねはやめなさい!」
サリヤは少年の身体を揺すった。ますますロープは首に食い込んだ!
「ぐぅ・・・いっ、椅子を・・・はっ、早く・・・」
見ると、椅子が床に転がっていた。サリヤはそれを起こして少年の足元に置いた。
少年は椅子になんとか足を乗せ、ロープを首から外した途端木の床に倒れ込んだ。
「がはあ、はあ、はあ・・・」
パシィ
サリヤは少年の頬を叩いた。
「死ぬなんて、なに考えてるのよ!」
サリヤのせいでまじ死にそうになったのに、頬まで打たれた少年はちょっと理解出来なかったが、自分が自殺しようとしたのは事実だった。
少年は少し落ち着いてきた。
「すみませんでした。僕死のうとしたんです」
「そんなの見れば、わかるわよ」
そこは壁に本棚が並んでいた部屋だった。窓から日の光が差して、空気中に舞うホコリが光っていた。サリヤが見上げると、大きな太い木の柱にロープがかかっていた。
「どうして死にたかったわけ?」
「僕が尊敬し、心の支えだった人が最近死にました」
サリヤはピンときた。
「あなた!あなたね、マーラーの孫って」
「マーラー様をご存じでしたか」
「もちろん、そのためにここまで来たのよ」
「そうでしたか。ですが、残念なことですがマーラー様はいません」
「知ってるわ、死んだんでしょ?で、あなたが、マーラーの孫なんだ」
「違います」
「えっ!」
少年はサリヤを見てはっきりと言った。
「僕はマーラー様の孫ではありません。マーラー様には子供はいませんでしたので、当然孫もいません」
サリヤは開いた口が塞がらなかった。
「ほんとに・・・孫じゃ・・・ない・・・?」
少年は頷いた。
プツン・・・
また頼みの綱が切れた音がした。サリヤは力が抜け、ペタンと床に座った。
「アレンになんて言えばいいのかな・・・」
少年は立ち上がり、服をパンパンと掃った。ホコリが舞い上がった。
「どうしてマーラー様に孫がいると思ったんですか?」
サリヤは、宿屋の男に孫の話を聞くまでの一連の流れを少年に話した。
「なるほどー。でも、その男の言う孫は僕かも知れませんね」
「えっ、どういうこと?」
「マーラー様は家族もなくて、この大きな家に一人で住んでおられました」
少年はサリヤに椅子を持ってきた。座るところを手で掃った。
「僕は他の村からこの町に引っ越してきたのですが、町の人からはよそ者扱いで、その時小さかった僕は誰にも相手にされませんでした」
「苦労したのね」
「そんなとき、ふとしたことからマーラー様に出会い、彼の家に毎日遊びに行くようになったのです」
(それで孫と思われたわけか・・・なるほど)
サリヤは椅子に座り、改めて部屋を見渡した。壁という壁は全て本棚になっていて、そこには様々な本が並べてあった。本棚は天井近くまであり、高い場所の本を取るための木の梯子もあった。
「凄い数の本ね、まるで図書館みたい」
「ここにある本は全部読みました」
ギルは部屋を見渡しながら言った。
「え、これ全部?」
「はい」
本当かしら・・・
小さな本もあれば分厚い本もある。サリヤは一冊の古ぼけた本を棚から取り出した。本棚から取るだけでホコリが舞った。
本を開けると、サリヤには理解できない文字が並んでいた。
「なにこれ、読めない・・・」
「それは古代文字です」
「これも読めるの?」
「もちろん」
サリヤはなんかカチンときた。本を閉じ元の場所に戻した。
そして、椅子から立ち上がり、
「あなたがマーラーの孫じゃないなら、あなたに用はないわ」
「あ、あの、僕ギルって言います」
「ギル、あたしはサリヤよ。それじゃ、ここで失礼するね」
サリヤは部屋を出ようとしたが、ギルの顔を見て、
「ねぇ、」
「はい?」
「もう死ぬなんて止めなさいよ」
「あ、あの・・・」
「なに?」
ギルも椅子から立ち上がった。
「サリヤさんは、どうしてマーラー様を探していたのですか?」
サリヤは小さくため息を吐いた。
「あなた、あ、ごめん、ギルに言っても仕方ないけど、ある物を探していて、その事でマーラーが何か知ってるんじゃないかって思ったわけ」
「なるほどー。マーラー様は全ての事を知っていると言われてましたからね」
「なんか嬉しそうね」
「で、そのある物とは?」
「ドラゴンオーブ」
それを聞いて、ギルは天井を見ながらひとり言をブツブツ言いだした。
「じゃ、あたし行くね」
サリヤはギルに手を振った。
「あ、僕知ってますよ、そのドラゴンオーブってやつを」
「えっ!?」




