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激流の中で  作者: 清水京太郎
第3章 インドラの塔
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18 マーラーの孫

 荷馬車はモダリントの町の入り口についた。


 「ありがとう、助かりました」


 サリヤは行商人の男にお礼を言った。


 「なんの、またどこかで会ったらよろしくな。あんたらの旅の無事を祈ってるよ」


 行商人の男は荷馬車で町の中へ入っていった。

 アレンは相変わらず顔色が悪い。


 「早く宿屋に行かなきゃ。歩ける?」


 「そこまで酷くないぞ。確かに熱っぽいけどな・・・」


 言葉とは裏腹に疲れた顔だった。


 サリヤは町の入り口から一番近い宿屋の扉を開けた。


 「二人ですけど、部屋空いてます?」


 「空いてますよー、当然一部屋ですよね、お嬢さん」


 「二つも借りるお金が無いから一部屋で結構よ」


 宿屋の受付の男は、ヘラヘラして感じ悪かった。

 サリヤは前金を支払うためのお金を出そうとしたが、その手が止まった。


 「ところで、マーラーという人をご存知かしら。この町に住んでるって聞いたけど」


 受付の男は少しビクっとなった。

 それを見て不審に思ったサリヤは、もう一度聞いた。


 「知らない?」


 「そ、そんなことありませんよ。知ってますとも。マーラー様は偉大なお方。この町で知らない人なんていませんよ。ヘヘヘ」


 なーんか怪しかった。


 「じゃ、マーラーがどこに住んでるのかも知ってますよね?」


 「もっ、もちろん・・・」


 サリヤは受付の男をジロジロと見た。男は平静を装っていたが、何か焦っているのがバレバレだった。


 「嘘ついてないでしょうね」


 「まさか・・・全部本当のことです、はい」


 ま、いいか。この男を追求するより、今はアレンを寝かすのが先だ・・・サリヤはため息をついて、前金を支払った。

 

  

 翌朝、サリヤは昨日の受付の男を探していた。男は外をホウキで掃いていたが、サリヤを見た途端宿屋の窓の下に隠れた。しばらくして男はそっと窓から中を見た。誰も見えなかった。

 安心して大きな息をついたとき、目の前にサリヤが不敵な笑みを浮かべて立っていた。


 男、絶対絶命!


 「なんで隠れたのよ」


 「か、隠れるだなんて人聞きが悪い。ちょっと休憩しただけですよ。ヘヘヘ」


 サリヤは男を連行し、宿屋の受付にある椅子に座らせた。


 「じゃ教えてくれる、マーラーの家の場所」


 男は返事をしなかった。


 「どうしたのよ、まさか本当に知らないんじゃ・・・」


 サリヤの表情がみるみる曇ってきた。そして、なにか一言呟いた。


 「あ、痛い、痛いー!」


 男は頭をかかえて悶絶した。急に酷い頭痛に襲われたのだ。


 「どう話す気になった?」


 「あ、あんた魔法使いか!わかった、話すよ、話すから止めてくれ!」


 サリヤは魔法を解いた。男はゼエゼエと息も絶え絶えだった。

 

 「じゃ、話して」


 男は上目づかいにサリヤを見た。また、サリヤの顔が曇ってきた。


 「マ、マーラー様は・・・」


 「なに!」


 「死にました・・・」


 「えっ?」


 「・・・」


 理解が追い付かないサリヤは、しばらく沈黙していた。


 サリヤは立ち上がった。


 「あんた、それを知ってて昨日は言わなかったのね!」


 「言うと泊まってくれないと思いました・・・」


 「本当に死んじゃったの?」


 「本当です、はい」


 サリヤは怒りで一杯になったが、魔法までかけられた男が今更嘘を言うはずもなく、きっと本当のことなんだと思った。


 「じゃ、アレンとあたしは何のために苦労してここまで・・・」


 力が抜け茫然となりサリヤは、ペタンと椅子に座った。目の前の宿屋の景色が涙で歪んできた。


 「あ、あの・・・」


 「なによ」


 「マーラーは死にましたが、彼には孫がいます」


 「えっ、孫?」


 急転直下、可能性が出てきた。孫ならマーラーの知識を受け継いでいても不思議ではない。

 サリヤはまた立ち上がった。

 

 「教えなさい!マーラーの家の場所」


 もはや命令形だった。男は素直にマーラーが住んでいた家の場所をサリヤに教えた。きっと孫もそこにいるはずだ。アレンはまだ起きてこない。サリヤは単身マーラーの家に向かった。



 

 そこは、町からだいぶ離れたところにあった。

 

 「あそこかしら・・・」


 大きめのかなり古い家だった。家の周りは畑や木があるだけで、町からは完全に隔絶していた。サリヤは家に近づいたが、まるで空き家のようで誰かが住んでいる気配が感じられなかった。


 木の扉を引いた。扉には鍵がかかっておらず、ギーという音がして開いた。


 「ごめんください・・・」


 返事は無かった。


 「誰かいませんか?」


 全くの静寂だったが、バタンっと奥から何かが倒れる音がした。


 「ひぃ!」


 サリヤは思わず悲鳴を上げた。


 「ぐぁー、」


 続いて、異様な声が聞こえた。


 「誰かいるの!?」


 サリヤは声がした奥の部屋に恐る恐る近づいた。


 部屋の中を見ると、首を吊った少年が揺れていた。


 「ひえぇー!」


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