18 マーラーの孫
荷馬車はモダリントの町の入り口についた。
「ありがとう、助かりました」
サリヤは行商人の男にお礼を言った。
「なんの、またどこかで会ったらよろしくな。あんたらの旅の無事を祈ってるよ」
行商人の男は荷馬車で町の中へ入っていった。
アレンは相変わらず顔色が悪い。
「早く宿屋に行かなきゃ。歩ける?」
「そこまで酷くないぞ。確かに熱っぽいけどな・・・」
言葉とは裏腹に疲れた顔だった。
サリヤは町の入り口から一番近い宿屋の扉を開けた。
「二人ですけど、部屋空いてます?」
「空いてますよー、当然一部屋ですよね、お嬢さん」
「二つも借りるお金が無いから一部屋で結構よ」
宿屋の受付の男は、ヘラヘラして感じ悪かった。
サリヤは前金を支払うためのお金を出そうとしたが、その手が止まった。
「ところで、マーラーという人をご存知かしら。この町に住んでるって聞いたけど」
受付の男は少しビクっとなった。
それを見て不審に思ったサリヤは、もう一度聞いた。
「知らない?」
「そ、そんなことありませんよ。知ってますとも。マーラー様は偉大なお方。この町で知らない人なんていませんよ。ヘヘヘ」
なーんか怪しかった。
「じゃ、マーラーがどこに住んでるのかも知ってますよね?」
「もっ、もちろん・・・」
サリヤは受付の男をジロジロと見た。男は平静を装っていたが、何か焦っているのがバレバレだった。
「嘘ついてないでしょうね」
「まさか・・・全部本当のことです、はい」
ま、いいか。この男を追求するより、今はアレンを寝かすのが先だ・・・サリヤはため息をついて、前金を支払った。
翌朝、サリヤは昨日の受付の男を探していた。男は外をホウキで掃いていたが、サリヤを見た途端宿屋の窓の下に隠れた。しばらくして男はそっと窓から中を見た。誰も見えなかった。
安心して大きな息をついたとき、目の前にサリヤが不敵な笑みを浮かべて立っていた。
男、絶対絶命!
「なんで隠れたのよ」
「か、隠れるだなんて人聞きが悪い。ちょっと休憩しただけですよ。ヘヘヘ」
サリヤは男を連行し、宿屋の受付にある椅子に座らせた。
「じゃ教えてくれる、マーラーの家の場所」
男は返事をしなかった。
「どうしたのよ、まさか本当に知らないんじゃ・・・」
サリヤの表情がみるみる曇ってきた。そして、なにか一言呟いた。
「あ、痛い、痛いー!」
男は頭をかかえて悶絶した。急に酷い頭痛に襲われたのだ。
「どう話す気になった?」
「あ、あんた魔法使いか!わかった、話すよ、話すから止めてくれ!」
サリヤは魔法を解いた。男はゼエゼエと息も絶え絶えだった。
「じゃ、話して」
男は上目づかいにサリヤを見た。また、サリヤの顔が曇ってきた。
「マ、マーラー様は・・・」
「なに!」
「死にました・・・」
「えっ?」
「・・・」
理解が追い付かないサリヤは、しばらく沈黙していた。
サリヤは立ち上がった。
「あんた、それを知ってて昨日は言わなかったのね!」
「言うと泊まってくれないと思いました・・・」
「本当に死んじゃったの?」
「本当です、はい」
サリヤは怒りで一杯になったが、魔法までかけられた男が今更嘘を言うはずもなく、きっと本当のことなんだと思った。
「じゃ、アレンとあたしは何のために苦労してここまで・・・」
力が抜け茫然となりサリヤは、ペタンと椅子に座った。目の前の宿屋の景色が涙で歪んできた。
「あ、あの・・・」
「なによ」
「マーラーは死にましたが、彼には孫がいます」
「えっ、孫?」
急転直下、可能性が出てきた。孫ならマーラーの知識を受け継いでいても不思議ではない。
サリヤはまた立ち上がった。
「教えなさい!マーラーの家の場所」
もはや命令形だった。男は素直にマーラーが住んでいた家の場所をサリヤに教えた。きっと孫もそこにいるはずだ。アレンはまだ起きてこない。サリヤは単身マーラーの家に向かった。
そこは、町からだいぶ離れたところにあった。
「あそこかしら・・・」
大きめのかなり古い家だった。家の周りは畑や木があるだけで、町からは完全に隔絶していた。サリヤは家に近づいたが、まるで空き家のようで誰かが住んでいる気配が感じられなかった。
木の扉を引いた。扉には鍵がかかっておらず、ギーという音がして開いた。
「ごめんください・・・」
返事は無かった。
「誰かいませんか?」
全くの静寂だったが、バタンっと奥から何かが倒れる音がした。
「ひぃ!」
サリヤは思わず悲鳴を上げた。
「ぐぁー、」
続いて、異様な声が聞こえた。
「誰かいるの!?」
サリヤは声がした奥の部屋に恐る恐る近づいた。
部屋の中を見ると、首を吊った少年が揺れていた。
「ひえぇー!」




