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激流の中で  作者: 清水京太郎
第3章 インドラの塔
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17 大魔導士マーラー

 外にいたアレンは、ステラに呼ばれて家の中に入った。

 テーブルがある部屋には、サリヤは既にいなかった。


 「ドラゴンオーブのこと知ってるんだろ? なんでいいから教えてくれないか」


 ステラはまだ涙目であったが、だいぶ落ち着いていた。


 「アレン、わたしが知ってるのは言い伝えだけで、ドラゴンオーブそのものに関しては何も知らないんだよ」


 「えっ、そうなんだ」


 詳しく知っていると思っていたアレンは肩を落とした。


 「悪いね、アレン」


 旅の服に着替えたサリヤが部屋に入ってきた。


 「おっ、おばあちゃん、これちょっと短くない・・・」


 その服は白く、絹で織られたような艶だった。膝より少し上の長さだったが、いつもサリヤが着ている服よりも短く、サリヤは恥ずかしそうにしていた。


 「それは魔法の法衣。特別な糸で編まれているんだよ。軽くて熱や氷の耐性もある。短いのは動き易くなっているためだよ」


 サリヤはテーブルの上に置いてあった三日月の杖、クレセントカルマンを手にした。

 その時、


 「うわっ!」


 杖を握りしめてサリヤは動かなくなった。

 猛烈な勢いで、サリヤの頭の中にあらゆるスペルが飛び込んできたのだ。たくさんの呪文を瞬間的に詰め込まれたような気がした。


 「サリヤ、どうしたんだい!」

 

 しばらくして、サリヤは我に返った。


 「大丈夫かい、サリヤ」


 「う、うん、大丈夫」


 (この杖は一体なんなの・・・まるで長い時間を一瞬で飛び越えたような気分・・・)



 

 出発の時が来た。ステラは二人を前に改めて言った。


 「アレン、サリヤを頼んだよ。この子は気は強いがまだまだ子供」


 「ちょっと、おばあちゃん、」


 「だが、お前さんはこれからサリヤ無しでは旅は出来ないだろう」


 その通りだとアレンは思った。

 あの洞窟でサリヤがいなければ確実にやられていた。これから先のことを考えると、自分だけではとても無理だ。


 「で、これからどうする、アレン」


 「とりあえず、ここから更に北に向かって、町や村を探してみるよ」


 「だったら、まずマーラーを訪ねるのがいい」


 「マーラー?」


 「大魔道士にして、この世界のあらゆる事を知り尽くしたお方」


 「おばあちゃん、そんな人よく知ってたね」


 「サリヤ、お前がまだ小さいときに行ったことがあるんだよ。マーラーが住むモダリントの町へね」


 「そうなんだ。あたし全然覚えてない」


 「その方なら、きっとドラゴンオーブのことをご存知のはずだよ」


 アレンは世の中は広いと思った。そんな凄い人がこの世界にいる。なのに自分は名前すら知らない。


 「モダリントは、ここからずっと北にある町。でも、二人とも覚悟しておくことだ。モダリントは思ってる以上に遠いよ」


 「わかった、いろいろありがと」


 アレンは剣を背負い、その上から荷物を背負った。

 そしてサリヤも荷物を背負い、手に三日月の杖を持った。


 「じゃ、おばあちゃん、行ってくるね」


 ステラはもう一度サリヤを抱きしめた。


 「必ず、必ずここに帰ってくるんだよ。わたしはいつまでも待っているから」


 サリヤはそっと頷いた。

 二人はステラに手を振りなが、ピタの村を後にした。


 モダリントへ向けて、二人の旅が始まった。




 ◇◇◇




 それは、過酷な行程だった。

 草原を行き、川を超え、山を登った。

 晴れた日は容赦なく照りつける太陽で異常に熱く、雷鳴轟く嵐になれば、おさまるまで洞穴で何日も過ごした。道中には集落はなく、たまに家を見つけても中には誰もいなかった。


 そんな厳しさの中でも、アレンもサリヤも弱音を吐かない。試練と言えるその厳しさに耐えた。サリヤの白いローブは、いつしか灰色になっていた。


 途中で出会う魔物は、二人の相手になるものはいなかった。

 しかし一度だけ、かなりの数の魔犬に囲まれたときがあった。一匹ずつであれば全く問題ないが、一度に集団でアレンに襲いかかってきた。さすがのアレンも捌ききれない数で、噛まれたり引っ掛かれたりで傷を追った。

 だが、サリヤの魔法が正確で的確だった。傷を追うのとほぼ同時くらいに回復されていた。周りから見ると、全く無傷で不死身のように見えただろう。


 アレンは驚愕していた。

 サリヤの魔法力、何が最適かを見極める判断力、そして魔法を放つまでの瞬発力、どれをとっても一級品だった。時には無詠唱でも魔法の威力は全く落ちない、あらゆる凄さに恐ろしささえ感じた。


 (俺より強いんじゃないのか・・・)




 さて、二人が旅立ってからどのくらい時間が流れたであろうか。

 いつしか季節は夏を越え、秋になっていた。

 

 「なあ、サリヤ」


 「なに?」


 「遠いな、モダリント」


 「そうね・・・でも、このまま北へ進めば必ずあるはずよ」


 アレンは風に吹かれながら、行く先の草原を見ていた。


 「ちょっと休憩しようぜ」


 「あら、珍しいわね。どこか悪いの?」


 「まさか、平気だっつの」


 すると、微かに鈴の音が風に乗って聞こえてきた。


 「おお、ピタを出て初めてじゃないか?魔物以外と出会うのは」


 鈴の音はだんだん大きくなり、やがてアレン達が来た方向から二頭の馬が見えてきた。それは荷馬車を引いた旅の行商人だった。


 「おや、こんなところで人に会うとは珍しいこともあるもんだ」


 荷馬車にはたくさんの商品が詰め込まれていた。

 行商人は荷馬車からアレン達に尋ねた。


 「あんたらモダリントへ行くのか?」


 「そうだけど、モダリントはここからまだ遠いのか?」


 「ここからだと、馬で行けば半日くらいでいける距離だな」


 行商人はアレン達を見た。どこから来たのか知らないが、かなり苦労してきたのは服を見てもわかった。


 「荷馬車に乗っていくか?」


 「えっ、いいんですか?」


 「ああ、いいとも。あんたらボロボロだし、そっちの兄さんは体調悪そうだしな」


 やっぱり、とサリヤは思った。よく見るとアレンの顔色は悪い。


 「いくら払えばいいのかしら?」


 「金なんていらんよ。ただ、魔物が出たら退治してほしい。あんたら強そうだしな」


 行商人は腰に短剣を持っていた。


 「ここまで俺なりに戦ってきたが、だんだん数が多くなっている気がするんだよ。町まで後少しだが、あんたらがいてくれたら俺も助かる」


 アレンとサリヤは了承し、行商人は荷馬車に二人が乗るスペースを作った。

 二人を乗せ荷馬車は出発した。



 「やっぱり歩くのと違って全然楽だわー。ね、アレン」


 返事は無かった。見るとアレンは寝ていた。疲れが出たのかと思ったが、やはりアレンの顔色は優れない。

 サリヤはアレンのおでこに手をあてた。


 「熱だ・・・」

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