16 聖女サリヤ
3人は軽く食事を済ませ、ステラはアレンに今夜はここに泊まるように勧めた。
サリヤはアレンが泊まる部屋を用意した。アレンはステラに感謝し部屋のドアを閉めた。
「ねえ、おばあちゃん、さっきはどうしてあんなに驚いてたの?」
「サリヤ、今夜はもう遅い。部屋に行って寝なさい」
ステラはサリヤの問いに答えなかった。納得出来ないサリヤだったが、今日はやらかしているだけに、ステラを追求出来なかった。
ステラは二人がいなくなったテーブルに座っていた。何度も何度もため息をついた。そして日付が変わる頃、意を決したように立ち上がり自分の部屋に入った。
ステラはチェストを開け、中に入っていた服を全て取り出した。そして底の板を取ると、一本の木の杖と白いローブが現れた。
木の杖は、持ち手が月の彫刻になっていて、年代を感じさせる黒ずんだ色だった。
「まさかあの子がこの杖を持つことになるとは・・・」
ステラは杖とローブを取り出した。木の杖を両手でそっと胸に当てたとき、ステラの頬には一筋の涙が流れた。
「マリア、見えるかい。おまえの娘が旅立つ時が来たんだよ・・・」
月明かりが天窓から差し込んでいた。真夜中の静けさの中、時折鳴く梟の声だけが、さみしげに聞こえていた。
「どうしてあの子なんだい・・・何故神はあの子を・・・」
翌朝、アレンとサリヤはステラに呼ばれた。二人はテーブルの前に座った。
少しして、ステラが部屋に入ってきた。ステラは昨日チェストから取り出した白いローブと月の杖をテーブルの上に置いた。
「おばあちゃん、これは?」
「サリヤ、」
「ん?」
「お前は今日から、このアレンといっしょに旅に出るんだ」
「えっ?」
「これは旅の服と、我が一族の正当な継承者だけが持つことができる三日月の杖、クレセントカルマンだよ」
サリヤはステラの突然の発言に驚きを禁じ得なかった。
「おっ、おばあちゃん、何言ってるの? なんであたしがアレンと旅なんかに・・・」
サリヤはステラが少しおかしくなったのではないか、という疑惑が頭に浮かんだ。
アレンはステラの言葉に驚きを隠せなかったが、今は事の成り行きを見守るしかなかった。
「サリヤ、お前には言ってなかったが、我が一族には伝えてきた言葉がある」
~竜宝を求めし者現われたとき、我が一族の立つときなり。
光の聖剣を携えし者は、全ての封印を解き、
おおいなる安息をもたらすであろう~
「これは、神に仕える我らの正当な継承者が伝えてきた神の御言葉」
「それがあたしが旅にでなきゃいけない事と何の関係が?」
「竜宝とは、ドラゴンオーブのことだよ」
(なに!)
アレンは驚いた。ドラゴンオーブの事を知っている、そして言い伝えにそれがあるということは、きっと何らかの関係があるに違いない、そう思った。
「じゃあ、一族が立つって言うのは・・・」
「竜宝を求める者と共にあり、その者を守る、ということだ」
「まっ、守る!? 共に?」
サリヤはアレンの顔を見た。
(つまり、この男が聖剣を持って封印を解く人? 封印って何? あたしの一族はこの男を守らないといけないわけ?)
サリヤはステラの方を見て、
「一族って言うけど、ここにいるのは、おばあちゃんとあたしだけじゃない。他に誰もいないし」
「だからお前が旅立つんだよ、サリヤ」
サリヤは思わず立ち上がった。
「おっ、おばあちゃん、それ本気で言ってるの!」
「落ち着きなさい」
ステラに言われて、少し冷静になったサリヤは椅子に座った。
「我が一族の正当な継承者の家には、女子しか生まれない」
「えっ、」
「わたしであり、お前の母であり、そしてサリヤ、お前だ」
「・・・」
ステラはアレンの方に顔を向けた。
「アレン、悪いが外してくれないか。少しの間、外に行ってほしい」
「わかった」
アレンは立ち上がり、二人を残して外に出た。
バタンとドアが閉まる音がした。
その音を聞いて、サリヤはステラに詰め寄った。
「おばあちゃん、どうしてお母さんはここにいないの?一族ってわたしが小さい時にいた所でしょ?」
「・・・」
「帰ろうよ。こんな大事なこと、お母さんに相談したい!」
「サリヤ・・・」
「あたしイヤだよ!どうしてここを出て一人で知らない男と旅に出なきゃいけないの!あたし、絶対イヤだからね!」
バシン!
ステラはサリヤの頬を平手で打った。
「・・・なんでぶつのよ・・・」
ステラはサリヤを抱きしめた。
「サリヤ、お前の気持ちはよくわかる。だけど、もう私達は一族には戻れない・・・あの一族を捨てたのは私達の方なんだよ」
「えっ?なんで、なんで捨てたの?」
「そのわけは時期が来たらお前に話す。正直に全て話すと約束しよう。だけど、今は話せない・・・わかっておくれ」
ステラは強くサリヤを抱きしめた。ステラが震えているのをサリヤは感じた。
「わたしだってお前と離れたくないよ・・・でも、これは神と交信できる者が神から与えられた使命」
「でも、お母さんだって魔法が使えるんじゃないの?だったら、あたしじゃなくてもお母さんでも・・・」
「神の力を得られるのは一人だけなんだよ」
「一人だけ?」
「お前が神と交信できた時、それはお前が正当な継承者として神に認められたということだ。そしてその時から、お前の母は神との交信が出来なくなるんだよ」
「そんな、」
「サリヤ、神に話かけ神と交信できるのはお前だけだ。そして、神から与えられた使命を果たせるのもね」
「・・・」
サリヤの目に涙が溢れてきた。それは悲しみの涙ではなかった。今の自分ではこの現実にどうすることも出来ない悔しさの涙だ。使命なんてどうでもいい、この力が無くなるのならそれでも構わない。だが、それは自分の運命に負けたことになる。自分自身との戦いに、挑戦することもなく敗北したと言うことになる。サリヤにはそれが我慢出来なかった。旅には出たくないが、負けを認めるのはもっと嫌だった。
サリヤは涙でグシャグシャになった顔を上げた。
「・・・わかった。あたし行くことにする」
「サリヤ・・・」
ステラとサリヤは抱き合った。それは、これで離れ離れになるという互いの別れでもあった。サリヤはステラとの日々を、今ここで終わらせなければならなかった。
しかし、サリヤはもう泣いてはいない。拳をギュっと強く握りしめ、心の中で叫んだ。
(こんな使命を背負わせた神を、必ず見返してやる!)




