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激流の中で  作者: 清水京太郎
第2章 北へ
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16 聖女サリヤ

 3人は軽く食事を済ませ、ステラはアレンに今夜はここに泊まるように勧めた。

 サリヤはアレンが泊まる部屋を用意した。アレンはステラに感謝し部屋のドアを閉めた。

 

 「ねえ、おばあちゃん、さっきはどうしてあんなに驚いてたの?」


 「サリヤ、今夜はもう遅い。部屋に行って寝なさい」


 ステラはサリヤの問いに答えなかった。納得出来ないサリヤだったが、今日はやらかしているだけに、ステラを追求出来なかった。


 ステラは二人がいなくなったテーブルに座っていた。何度も何度もため息をついた。そして日付が変わる頃、意を決したように立ち上がり自分の部屋に入った。

 


 ステラはチェストを開け、中に入っていた服を全て取り出した。そして底の板を取ると、一本の木の杖と白いローブが現れた。

 木の杖は、持ち手が月の彫刻になっていて、年代を感じさせる黒ずんだ色だった。


 「まさかあの子がこの杖を持つことになるとは・・・」


 ステラは杖とローブを取り出した。木の杖を両手でそっと胸に当てたとき、ステラの頬には一筋の涙が流れた。


 「マリア、見えるかい。おまえの娘が旅立つ時が来たんだよ・・・」

 

 月明かりが天窓から差し込んでいた。真夜中の静けさの中、時折鳴く梟の声だけが、さみしげに聞こえていた。


 「どうしてあの子なんだい・・・何故神はあの子を・・・」




 翌朝、アレンとサリヤはステラに呼ばれた。二人はテーブルの前に座った。

 少しして、ステラが部屋に入ってきた。ステラは昨日チェストから取り出した白いローブと月の杖をテーブルの上に置いた。


 「おばあちゃん、これは?」


 「サリヤ、」


 「ん?」


 「お前は今日から、このアレンといっしょに旅に出るんだ」


 「えっ?」


 「これは旅の服と、我が一族の正当な継承者だけが持つことができる三日月の杖、クレセントカルマンだよ」


 サリヤはステラの突然の発言に驚きを禁じ得なかった。


 「おっ、おばあちゃん、何言ってるの? なんであたしがアレンと旅なんかに・・・」


 サリヤはステラが少しおかしくなったのではないか、という疑惑が頭に浮かんだ。

 アレンはステラの言葉に驚きを隠せなかったが、今は事の成り行きを見守るしかなかった。


 「サリヤ、お前には言ってなかったが、我が一族には伝えてきた言葉がある」


 

 ~竜宝を求めし者現われたとき、我が一族の立つときなり。


  光の聖剣を携えし者は、全ての封印を解き、


  おおいなる安息をもたらすであろう~




 「これは、神に仕える我らの正当な継承者が伝えてきた神の御言葉」

 

 「それがあたしが旅にでなきゃいけない事と何の関係が?」


 「竜宝とは、ドラゴンオーブのことだよ」


 (なに!)


 アレンは驚いた。ドラゴンオーブの事を知っている、そして言い伝えにそれがあるということは、きっと何らかの関係があるに違いない、そう思った。


 「じゃあ、一族が立つって言うのは・・・」


 「竜宝を求める者と共にあり、その者を守る、ということだ」


 「まっ、守る!? 共に?」


 サリヤはアレンの顔を見た。


 (つまり、この男が聖剣を持って封印を解く人? 封印って何? あたしの一族はこの男を守らないといけないわけ?)


 サリヤはステラの方を見て、


 「一族って言うけど、ここにいるのは、おばあちゃんとあたしだけじゃない。他に誰もいないし」


 「だからお前が旅立つんだよ、サリヤ」


 サリヤは思わず立ち上がった。


 「おっ、おばあちゃん、それ本気で言ってるの!」


 「落ち着きなさい」



 ステラに言われて、少し冷静になったサリヤは椅子に座った。


 「我が一族の正当な継承者の家には、女子しか生まれない」


 「えっ、」


 「わたしであり、お前の母であり、そしてサリヤ、お前だ」


 「・・・」


 

 ステラはアレンの方に顔を向けた。


 「アレン、悪いが外してくれないか。少しの間、外に行ってほしい」


 「わかった」


 アレンは立ち上がり、二人を残して外に出た。

 バタンとドアが閉まる音がした。


 その音を聞いて、サリヤはステラに詰め寄った。 


 「おばあちゃん、どうしてお母さんはここにいないの?一族ってわたしが小さい時にいた所でしょ?」


 「・・・」


 「帰ろうよ。こんな大事なこと、お母さんに相談したい!」


 「サリヤ・・・」


 「あたしイヤだよ!どうしてここを出て一人で知らない男と旅に出なきゃいけないの!あたし、絶対イヤだからね!」


 バシン!


 ステラはサリヤの頬を平手で打った。


 「・・・なんでぶつのよ・・・」


 ステラはサリヤを抱きしめた。


 「サリヤ、お前の気持ちはよくわかる。だけど、もう私達は一族には戻れない・・・あの一族を捨てたのは私達の方なんだよ」


 「えっ?なんで、なんで捨てたの?」


 「そのわけは時期が来たらお前に話す。正直に全て話すと約束しよう。だけど、今は話せない・・・わかっておくれ」


 ステラは強くサリヤを抱きしめた。ステラが震えているのをサリヤは感じた。


 「わたしだってお前と離れたくないよ・・・でも、これは神と交信できる者が神から与えられた使命」


 「でも、お母さんだって魔法が使えるんじゃないの?だったら、あたしじゃなくてもお母さんでも・・・」


 「神の力を得られるのは一人だけなんだよ」


 「一人だけ?」


 「お前が神と交信できた時、それはお前が正当な継承者として神に認められたということだ。そしてその時から、お前の母は神との交信が出来なくなるんだよ」


 「そんな、」


 「サリヤ、神に話かけ神と交信できるのはお前だけだ。そして、神から与えられた使命を果たせるのもね」


 「・・・」


 サリヤの目に涙が溢れてきた。それは悲しみの涙ではなかった。今の自分ではこの現実にどうすることも出来ない悔しさの涙だ。使命なんてどうでもいい、この力が無くなるのならそれでも構わない。だが、それは自分の運命に負けたことになる。自分自身との戦いに、挑戦することもなく敗北したと言うことになる。サリヤにはそれが我慢出来なかった。旅には出たくないが、負けを認めるのはもっと嫌だった。

 

 サリヤは涙でグシャグシャになった顔を上げた。


 「・・・わかった。あたし行くことにする」


 「サリヤ・・・」


 ステラとサリヤは抱き合った。それは、これで離れ離れになるという互いの別れでもあった。サリヤはステラとの日々を、今ここで終わらせなければならなかった。

 しかし、サリヤはもう泣いてはいない。拳をギュっと強く握りしめ、心の中で叫んだ。


 (こんな使命を背負わせた神を、必ず見返してやる!)


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