11 黒い影
「あいつは俺の召喚魔法を見て、棒立ちになってたよ」
開けた窓から、少し湿った風が吹いてきた。
「戦いの最中に呑気な奴ですじゃ。それでは命がいくつあっても足りませんぞ」
「その姿を見て思ったよ。こいつは強いが、今まで鍛錬しかしてこなかったんだろうってね、」
「それで実戦経験がない、と」
「無いというのは極端かも知れないが、全然足りてないことは確かだろうな」
「戦場で棒立ちなんぞ、あり得ないことじゃ」
「剣を使う奴が魔法も使う、ということが奴の頭にはきっと無かったんだよ」
「どのようなことも想定しておく、これは戦場の基本です」
夜空を見上げてたハザードの顔に、ポツポツと雨が降ってきた。
「じい、やばいぞ」
「どうされましたかな」
「明日は嵐かも」
「なんと!」
ハザードは窓を閉め、カーテンを閉じた。
「じゃ、みんなでメシ食いにいこう」
ハザード達は宿屋の一階にあるテーブルへ向かった。
いくつかあるテーブルで、明日の船に乗るであろう宿泊客が食事していた。
その中で、商人らしき男が二人テーブル越しに会話していた。
商人達はこういう場での情報交換を怠らないものだ。
「武闘大会で優勝した奴が、ついに城下町に現れたらしい、」
「うへー、本当か。そりゃ何か悪いことの前ぶれじゃないのか?」
「そういや、最近各地で魔物の数が増えてるって話だ」
「あ、それでか。北へ行く道が通れなくなったのは」
「ああ、きっとそうだ。そうなると北へ行くには船しかないぞ」
「船賃も急に値上げされたし、踏んだり蹴ったりだな」
ハザード達は二人から少し離れた場所で食事していたが、聞きたくなくても聞こえるくらい商人の声は大きかった。
「ただで情報教えてくれてるよ、ありがたいことだ」
「それは皮肉ですかな?」
「本心だよ、じい。俺達も魔物には気を付けないとね、」
ハザードは、楽しそうだった。
「逆に出てきてほしいのではないですかな?若」
「何言ってる、魔物って見た目怖いじゃん。だから僕、怖気づいちゃう」
(お茶目な若も素敵です・・・)
ハザードは急に悪寒が走った。
(なにか、今とても嫌な感じがしたが、気のせいか・・・)
3人は食事を終え部屋戻り、明日も早いので寝ることにした。
灯りを消した後、ハザードはアレンの背後に現れた黒い影のことを考えていた。
(そうは言ったものの、あの気配は本当に黒龍なんだろうか・・・
邪悪な気配だったが・・・しかし、何故あのタイミングで現れた?
あれじゃ、まるであいつを守っているようじゃないか・・・)
ハザードはため息をついた。
「若、眠れないのですか?」
「ヤンブル、」
「は、」
「俺が心配か?」
「いえ・・・ただ若がため息をつかれるなど、珍しいことでしたので」
「俺を心配するなど、俺を信じていない証拠だぞ」
「大変申し訳ございませんでした」
「お前は俺を守るのが仕事だ、ヤンブル。なにがあっても俺を守れ、いいな」
「は、この命に代えてもお守り致します」
「よし、じゃもう寝ろ。これは命令だ」
「かしこまりました!このヤンブル、命に代えて眠ります!」
「・・・」
ハザードは、またため息が出そうになったが我慢した。
(アレン・・・君は黒龍と何か関係があるのか・・・
ま、それも調べていけば分かることだがな)
ハザードそっと目を閉じた。
(まさか、あいつが黒龍ってことは・・・ないよな・・・)




