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激流の中で  作者: 清水京太郎
第2章 北へ
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10 銀狼の一族

 ハザードはコロセウムを後にして城下町を歩いていた。すると突然、スッと横に並ぶ男が現れた。その男は背が高く、屈強な身体であろうことは太い腕から容易に想像できた。ハザードはその男の方を気に掛けることもなく前を見て歩いてた。その男はハザードに話しかけてきた。


 「若、首尾はいかがでした?」


 「負けたよ」


 「ということは、ワザと負けたのですね」


 「ほっほ、若がワザと負けるとしたら、何かお考えあってのことじゃな」


 今度は髭を伸ばした白髪の老人がハザードの横に並んできた。通りは人が多かったが、3人は衝突せず器用に歩いていた。


 「じい、見えたんだよ」


 「見えた?はて、何が見えたのですかな」


 ハザードは歩みを止めた。それに合わせて横に並んでいる二人も止まった。


 「あれは黒龍だ」


 「なんと!」


 「ほー、黒龍とな。それは本当ですかな?」


 老人は急に鋭い眼光になった。


 「決勝の相手の背後に、突如黒い影のようなものが現れた」


 ハザードの顔は少し恐怖の色が混ざっていた。


 「あの邪悪な気配・・・あれは間違いない」


 ふむー、そう言って老人は顎鬚を撫でた。


 「では我々の研究から導き出した仮説は、正しかったということになりますね」


 屈強の男がハザードに答えを求めた。ハザードは少し考え、また歩きだした。


 「いや、それは早計だろう。確かに黒龍の気配はしたが、それはあくまでも気配。実体がどこにあるかは分からない」


 「ふーむ、でもその決勝の相手の背後に現れたということは、黒龍はその相手となんらかの関係があるということですね」


 「ヤンブル、そう結論を急ぐな。我らは長きに渡り研究と解明を続けてきた。その時間と努力は膨大なものだ。そんな簡単に結論付けるもんじゃない」


 「はっ、大変失礼を致しました」


 「全く・・・若いもんはすぐ結論を出したがるのお」


 ハザードは屈強の男であるヤンブルの気持ちが分かった。長い時間をかけて調べ続けてきたことが、ついに実を結びそうな状況になってきたからだ。しかし、だからこそ今は慎重になる必要がある。仮説が仮説では無くなるときまであと一歩のところだ、それは間違いないとハザードは思った。


 いつしか3人は城下町を抜け、港へと続く道を歩いていた。もはや賑やかな雑踏は無くなり、野鳥の声が聞こえる野道になっていた。武闘大会は思いのほか短時間で終わったようで、外はまだ明るかった。


 「今日の船はもう出てるだろうから、港の宿屋に泊まるとしよう」


 「また、船ですか。どうもわしは船が苦手じゃ」


 「じい、船はいいぞ。大海原を見ていると清々しい気持ちになる」


 「その前に気持ち悪くなっとりますわい」


 確かにと、ハザードは笑った。




 3人は歩き続け、潮の香が微かにしてきたのを感じた。


 「しかし、その黒い影さえなければ若が優勝していたのに、残念です」


 「ヤンブル、そうでもないよ、あいつは強かった」


 「そうなんですか」


 「こいつを見てみろ」


 ハザードは武闘大会で使っていた剣を見せた。


 「なんと!我ら一族の宝刀銀狼(シルバーウルフ)にヒビが・・・」


 「その剣じゃなかったら間違いなく折れてたよ。なんとか受け止めたが、両手が痺れて使い物にならなくなったしね」



 3人は船着き場にやってきた。既に辺りは暗くなっていた。船着き場の周りには2,3件宿屋があり、今夜は泊まることにした。


 「若がそこまで苦戦する相手がいたのですね。その者はなんという名前ですか」


 「彼の名はアレン。どうやらフィニス村の出身らしい」


 「フィニス、こりゃまた辺鄙なところじゃの」


 案内された部屋で荷物を降ろし寛いでいた。


 「アレン・・・ふむー、聞いたことがありませんね。その者は若と同じくらい強かったのですか?」


 「スピードも速いし剣の腕も立つ。底知れない強さを秘めた、可能性の塊みたいな奴だ」


 「それはまた凄い・・・」


 開けた窓から心地よい夜風が流れ込んできて、ハザードの長い髪を揺らしていた。


 「だが、致命的な弱点があるんだなー」


 ハザードは部屋のテーブルに置いてあった焼き菓子を一口食べた。


 「ほお、弱点。それはどのようなことですか?」


 ハザードはヤンブルの方を向き、少しニヤリとしてこう言った。


 「実戦経験が無いこと」


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