10 銀狼の一族
ハザードはコロセウムを後にして城下町を歩いていた。すると突然、スッと横に並ぶ男が現れた。その男は背が高く、屈強な身体であろうことは太い腕から容易に想像できた。ハザードはその男の方を気に掛けることもなく前を見て歩いてた。その男はハザードに話しかけてきた。
「若、首尾はいかがでした?」
「負けたよ」
「ということは、ワザと負けたのですね」
「ほっほ、若がワザと負けるとしたら、何かお考えあってのことじゃな」
今度は髭を伸ばした白髪の老人がハザードの横に並んできた。通りは人が多かったが、3人は衝突せず器用に歩いていた。
「じい、見えたんだよ」
「見えた?はて、何が見えたのですかな」
ハザードは歩みを止めた。それに合わせて横に並んでいる二人も止まった。
「あれは黒龍だ」
「なんと!」
「ほー、黒龍とな。それは本当ですかな?」
老人は急に鋭い眼光になった。
「決勝の相手の背後に、突如黒い影のようなものが現れた」
ハザードの顔は少し恐怖の色が混ざっていた。
「あの邪悪な気配・・・あれは間違いない」
ふむー、そう言って老人は顎鬚を撫でた。
「では我々の研究から導き出した仮説は、正しかったということになりますね」
屈強の男がハザードに答えを求めた。ハザードは少し考え、また歩きだした。
「いや、それは早計だろう。確かに黒龍の気配はしたが、それはあくまでも気配。実体がどこにあるかは分からない」
「ふーむ、でもその決勝の相手の背後に現れたということは、黒龍はその相手となんらかの関係があるということですね」
「ヤンブル、そう結論を急ぐな。我らは長きに渡り研究と解明を続けてきた。その時間と努力は膨大なものだ。そんな簡単に結論付けるもんじゃない」
「はっ、大変失礼を致しました」
「全く・・・若いもんはすぐ結論を出したがるのお」
ハザードは屈強の男であるヤンブルの気持ちが分かった。長い時間をかけて調べ続けてきたことが、ついに実を結びそうな状況になってきたからだ。しかし、だからこそ今は慎重になる必要がある。仮説が仮説では無くなるときまであと一歩のところだ、それは間違いないとハザードは思った。
いつしか3人は城下町を抜け、港へと続く道を歩いていた。もはや賑やかな雑踏は無くなり、野鳥の声が聞こえる野道になっていた。武闘大会は思いのほか短時間で終わったようで、外はまだ明るかった。
「今日の船はもう出てるだろうから、港の宿屋に泊まるとしよう」
「また、船ですか。どうもわしは船が苦手じゃ」
「じい、船はいいぞ。大海原を見ていると清々しい気持ちになる」
「その前に気持ち悪くなっとりますわい」
確かにと、ハザードは笑った。
3人は歩き続け、潮の香が微かにしてきたのを感じた。
「しかし、その黒い影さえなければ若が優勝していたのに、残念です」
「ヤンブル、そうでもないよ、あいつは強かった」
「そうなんですか」
「こいつを見てみろ」
ハザードは武闘大会で使っていた剣を見せた。
「なんと!我ら一族の宝刀銀狼にヒビが・・・」
「その剣じゃなかったら間違いなく折れてたよ。なんとか受け止めたが、両手が痺れて使い物にならなくなったしね」
3人は船着き場にやってきた。既に辺りは暗くなっていた。船着き場の周りには2,3件宿屋があり、今夜は泊まることにした。
「若がそこまで苦戦する相手がいたのですね。その者はなんという名前ですか」
「彼の名はアレン。どうやらフィニス村の出身らしい」
「フィニス、こりゃまた辺鄙なところじゃの」
案内された部屋で荷物を降ろし寛いでいた。
「アレン・・・ふむー、聞いたことがありませんね。その者は若と同じくらい強かったのですか?」
「スピードも速いし剣の腕も立つ。底知れない強さを秘めた、可能性の塊みたいな奴だ」
「それはまた凄い・・・」
開けた窓から心地よい夜風が流れ込んできて、ハザードの長い髪を揺らしていた。
「だが、致命的な弱点があるんだなー」
ハザードは部屋のテーブルに置いてあった焼き菓子を一口食べた。
「ほお、弱点。それはどのようなことですか?」
ハザードはヤンブルの方を向き、少しニヤリとしてこう言った。
「実戦経験が無いこと」




