ゴツゴツした抱き枕
奴隷たちに食事をさせ、体調の悪い者を回復させたりしていると、最後の一人が終わったのは夜になってしまった。0番は一緒に起きてると言ってくれていたが、立ったまま寝てしまっていたので、さすがにベットに寝かせた。
待っている方も大変だったと思うが、9番と土魔法を使えるメンバーがレンガで壁と簡易の寝床をを作ってくれたので、待ってる間はその中で眠ってもらった。
お腹がいっぱいになったことで、安心したのも多かったのか、みんなぐっすり眠っているようだ。まだ季節的に外で寝られる時期だからよかった。
できる限り早めに衣食住を完成させてやる必要がある。
俺は一人で焚火を見ながら考え事をしていると、そこに3番がやってきた。
「ご主人様、寝れないんですか?」
「いや、そろそろ寝るつもりだよ。3番も寝ておけ。明日は仲間と一緒に狩りに行ってもらうわなきゃいけないんだから」
「私も……ご主人様が寝たら寝ますよ」
「なんだそれ」
木の燃えるパチパチといった音と、虫の鳴き声が聞こえてくる。
今日一日色々ありすぎて、興奮しているせいか目が覚めてしまっていた。
「ご主人様……大丈夫なんですか? 私たちを助けたこと……ご主人様にとって負担になるんじゃないですか?」
「負担か……まったく負担じゃないと言えば嘘になるな。いきなり89人の奴隷ができたわけだからな。俺の当初の予想では数人だけだった。だけど、お前といい才能がありながら転落していった奴が沢山いて、仲間になってくれたおかげで少し希望が見えたよ」
「私が希望……ですか?」
「そう、これもきっと運命だよ。今は全力で奴隷を助けるのが優先だ。でも、3番の活躍を見ているとあっという間に奴隷から解放できそうで嬉しい限りだよ」
「解放……しなくていいですよ。この首輪気に入っているんで」
彼女は自分の首輪を触りながら、その感触を確かめているように見える。
本来奴隷の首輪は屈辱をあらわすものだ。それを外したがらないなんて不思議に思う。
できるなら奴隷を全員解放してやりたいが、今解放したところでまた奴隷になるのがオチだ。
それに、今の奴隷たちを豊かにすることで他の奴隷を救うことができる。
組織を大きくすることで、みんなを幸せにすることができるのだ。
「それはどちらでもいいよ。でも、自由になる権利は持っておきな。いつ気が変わるかなんて人間はわからないんだから」
「それはそうですね……ご主人様も気が変わって私たちを捨てるかも知れないですからね」
「そうだぞ。簡単に人を信じちゃいけない。人はすぐに裏切るものだからな」
「でも、それならご主人様は安心ですね。私が首輪をつけている限り裏切られることはありませんから」
「俺もできることなら、首輪なしで信用できる人間と出会いたいものだけどな……」
俺は焚火からゆっくりと空へと視線を移す。
空には大きな満月が浮かんでいる。
「今夜はとても月がきれいですね」
「あぁ……本当に美しい。今日のような月のきれいな日は……狼男がでるって話あるよな」
「ヴァンパイアじゃなかったでしたっけ?」
「そうだったか? でも、きれいな月は見ているだけで人の心を魅了するからな」
「本当に……月がこんなに美しいことを私は忘れていました。ここにこれたこと感謝しています」
「お礼なら0番に言え、彼女がお前ら全員を買ってきたんだからな。俺はただ金を渡しててだけで何もしていない。もしくは1番でもいいぞ。あいつの妹のついでだからな。1番が妹を助けてと言わなければ、お前らを買うことはなかった」
「ご主人様は不思議な人ですね。普通なら俺が助けてやったってなるのに」
「別に俺が助けたわけじゃないからな。俺はお前たちを助ける手助けをしただけだ。俺だけではお前たちを助けることはなかったからな。お礼を言われることはない」
しばらく、二人とも無言のまま空を眺めていたが、そろそろ眠くなってきた。
「さて、明日も早いことだし寝るぞ」
「あの……一緒に寝てもいいですか?」
3番がうっとりとした顔で聞いてくる。
「それはまだ早い。俺は自分の商品には手を出さない主義なんだ。手を出して欲しいならせめて自分を買い取れるようになるんだな」
「0番さんだけずるいです。なんで彼女はいいんですか?」
「あいつは特別なんだよ。俺が大変な時にでも側にいてくれた。そしてあいつは首輪をしているが俺の奴隷じゃない。あいつが望んで縛られているだけで、そういう形っていうだけなんだ」
「そうなんですね。でも……私諦めませんよ?」
「あぁ、まず自分を買い取れるくらい貢献してくれ。まずはそこからだ」
「もう、ずるいな。少し散歩してきてもいいですか?」
「ダメって言っても勝手に行くだろ。怪我をしないと約束するのと、あとは睡眠時間もきちんと確保しろよ。女の子の睡眠不足はお肌の大敵だからな」
「わかりました」
3番はそのまま森の中へと消えていった。
彼女の実力からすればこの辺りの森で怪我をする方が難しいだろう。
この辺りの魔物は比較的強い魔物は少ないと言われている。
俺が家に帰ると0番が起きていた。
「寝たんじゃなかったのか?」
「もちろん、寝てましたよ。でも女の第六感が浮気を察知して起きてしまったんです」
「冗談言ってないでさっさと寝ろ」
「なんですか、さっきの?」
「さっきのってなんだ? 3番と話していたことか?」
「そうですよ。0番は特別なんだよ。もう胸がキュンキュンしてましたよ。あぁ言うのはちゃんと私の前で言ってくれないと。危うく聞き逃しちゃうところじゃないですか」
俺は思いっきり0番の顔へと枕を投げつけた。
「お前なんで聞いてるんだよ」
「そりゃ聞いてるに決まってるじゃないですか。3番お前の気持ちには答えられない。俺が好きなのは0番だけなんだ。0番君は月のように美しい」
「いや、そこまでは言ってないな。なんだ0番の夢の話か。おやすみ」
「全力で否定は悲しすぎる。ちょっと寝るの早すぎですって、もっと愛について語りましょ」
0番が俺のベットの方へやってくる。
「いいから寝ろ」
俺はそのまま0番を抱きしめ、抱き枕のようにして眠りについた。
ゴツゴツしてて抱き心地的にはイマイチだったが贅沢は言わない。
人の温もりがあるだけで、寝れるときもあるのだ。