0番のやきもち
「狩人のスキルで水流操作というスキルがあるんです。今回はそれを使いました」
5番はそう楽しそうに言っているが、これって簡単に人を殺せるのじゃないだろうか。
奴隷に落ちる人間には何種類かいる。
・敵国の民が敗戦により連れてこられる場合
・借金奴隷
・犯罪奴隷
・人身売買
などが主に奴隷に落ちる理由だ。
その中でも犯罪奴隷はなかなか危険な人が多い。
とは言っても犯罪奴隷のほとんどは、危険な鉱山や戦争に連れていかれて、そのまま帰ってこない場合の方が多い。
「そのスキルを使えば人も殺せるのか?」
「そんなことできませんよ! これはあくまでも今回のように流れる先がある場合に動かすことができるものなので、怪我をしていない普通の人に使っても意味がないです。それに、どちらかといえば、出血をしている人の血を止めることとかに使います。長時間は難しいので大出血をおこした人を助けるのは難しいんですけどね」
「そうなのか。でも狩人のスキルとしてはかなり便利だな」
「はい。このスキルがあるかどうかでお肉の美味しさは全然変わってきますからね。でも、覚えられる人が少ないので結構重宝されていたんですよ」
「それなのになぜ……?」
「私の住んでいた村で魅惑の香りという違法薬物が流行ったんです。商人がリラックスできると言って、田舎の純粋な村人たちが崩れるのはあっという間でした。私はどこへ行っても重宝されるはずだと言われて売られたんです。でも、街の空気があわなくて……狩りにいくこともできず、あっという間に体調を崩して……置いてきた妹だけは元気に生活しているといいんですけど……」
「そうか。大変だったな。村はどこにあったんだ?」
「ここからだと2-3日竜騎で行ったところですね」
「帰れる時もあるかも知れないから、頑張るんだぞ。とりあえずあとは任せてもいいか?」
「大丈夫です。あっでもこのまま解体までしたいのでナイフをお借りしてもいいですか?」
「あぁ、これを使ってくれ。安物だからそのまま使い続けていいぞ」
「本当ですか? ありがとうございます」
彼女は目を輝かせながら、俺からナイフを受け取る。
本当に嬉しいようだ。
「最高のお肉にしますから、ご主人様はゆっくり休んでいてください」
「ありがとう」
彼女はどうやら危ないタイプなのではなく、久しぶりに自分の好きなことができるのが嬉しかったようだ。
コンロの方を見ると、あっという間にレンガのコンロが組み立てられお湯を沸かしている。
まずは食事をとらせて、風呂に入れて……やることは沢山ある。
ただ、これから3番と5番がコンビなら食料調達は楽になりそうだ。
この様子なら備蓄の食料をだしてしまっても良さそうだ。
「0番、何人か使って食料を備蓄庫から全部だして食べさせてやってくれ。胃袋が受け入れない奴もいるだろうから、最初はスープみたいなものにしてから頼む。それが終わったら残りの奴隷たちを俺のところに回してくれ」
「ご主人様、少し休まないとダメですよ」
「大丈夫。ちょっと中にいるから頼むな」
いきなり奴隷の数が増えてしまったので、いろいろ考えなおさないといけない。
当面の目標は食料確保だが……そんなことは当たり前にできるようになるのが前提だ。
幸いにもこの森には沢山の魔物や植物がある。
でも、それを自給自足できるようにならなければいけないのだ。
俺が家の中に入ると、2番と1番が起きてきたところだった。
「二人とも調子はどうだ?」
「ご主人様、妹を助けてくださってありがとうございました」
「兄を助けてくださってありがとうございます」
二人が深々と頭を下げてくれる。
そういえば、まだ一番の目を治していなかった。
「さて、お前たちは言うまでもないと思うが俺の奴隷だ。そのためにはしっかりと働いてもらう必要がある。お前たちがしっかり働くためにやっておかなきゃいけないことがある1番、そのまま静かに立っていろよ」
俺は1番の目の上に手を置き、補完の魔法を唱える。
これで視力を補完してくれるはずだ。
「1番、ゆっくり目を開けな」
「はい」
彼が恐々目を開けると、眩しかったのかすぐに閉じてしまった。
「まっまぶしい!?」
「最初は少し眩しくても段々と慣れていくはずだ」
「ご主人様……今まで目を開けても暗闇しかなかったのに、今一瞬光が見えました。どういうことですか?」
「あぁ、段々と慣れていくはずだ。目があけられるようになったら、外でみんなと食事を作るの手伝ってくれ。今後は1番は野菜を育てる担当で2番はその補助だな」
1番がゆっくりと目を開ける。
「ご主人様……目が……僕の目が見えます。失った世界が……二度と戻らないと思っていた世界が……」
「良かったな。これで奴隷としてしっかり働けるな」
「お兄様! 本当に良かった。ご主人様、この御恩は一生忘れません。身を粉にして働かせていたきます」
「2番、お前はまだ子供なんだから無理はしなくていいぞ。今は食料が優先だが、そのうち学べる機会も作ってやるから、世間の広さを知るといい。1番はもう死ぬとか言うなよ。今度はしっかりと妹を助けられる力をつけろ」
「わかりました。もう後悔するような生き方はしません」
1番はとてもいい顔をしていた。
「視力の方はどうだ?」
「大丈夫……です。視力を失う前よりもしっかり見えます。こんな日が来るなんて夢にも思いませんでした」
「そうか。それなら良かった。その目は裏切ればまた見えなくなるからな。裏切らずにしっかりと働くんだぞ」
「ご主人様、兄を助けてくださり本当にありがとうございます」
「いいよ。兄貴のこと支えてやって、いい女に育てよ」
「もちろんです。それでご主人様ちょっと耳を貸してもらってもいいですか?」
「なんだ?」
俺が2番の前にしゃがみ込むと、彼女が頬にキスをしてきた。
「必ず素敵な女性になりますから、待っていてくださいね」
「ご主人様とはいっても、妹は簡単に渡しませんからね」
「はぁ、二人してませた考えしてないでさっさと手伝いに行ってこい。弱っている子供もいるからな。まずはその子たちと仲良くなってこい」
2番と一緒にでて行く1番は、出会った頃とは違って笑顔になっていた。
これでご飯でも食べれば、もっと元気になってくれるだろう。
彼らと入れ替わりに0番が入ってくる。
「ご主人様……兄だけではなく妹も毒牙にかけるつもりだったんですね。まさかそこまで手が早いとは……禁断の三角関係……」
「0番ふざけていると怒るぞ」
「いいじゃないですか。妄想くらい」
「だから残念天使って言われるんだよ」
「ヒッードイ! こんなにも可憐な女の子と捕まえて。あんな子供のどこがいいって言うのかしら。浮気ですよ。幻滅です」
俺は0番を優しく抱き寄せる。
「お前は0番。これは何もないことを意味する数字なんだ。奴隷であって奴隷ではない特別な意味を持つんだ。お前は俺だけのものなんだから、そうやって子供にまで妬むんじゃないよ」
「うっうん」
俺は0番の頬に優しくキスをしてやる。
「ずるい。ご主人様するなら唇にキスしてくださいよ」
「大人になったらな」
「大人です」
そう言って頬を膨らませる彼女はとても可愛かった。