猪と3番の演説
「ご主人様! 3番命令無視ですよ。いいんですか?」
0番がやけに3番が手柄を立てたことに突っかかっていたが、きっと焼きもちもあるだろう。
そんなことを言ってもしかたがない。
今回は緊急事態だ。
「0番、今は全員にお腹いっぱいになるまで食事させるほうが大切だよ。少しでも栄養をつけさせないと」
「そうなんですけど……はぁ。なかなか手ごわいライバル出現に焦ってます。ご主人様が私だけのものじゃなくなりそうで」
「素直でよろしい。妬むより協力をして上手くやっていこう」
3番はまるで子犬のように褒めて、褒めてと目を輝かせている。
可愛い奴だ。
つい命令無視を許してやりたくなってしまうがここは少し言っておかないといけない。
「3番良くとってきてくれたと言いたいけど、他のメンバーも一緒にいくと伝えてあっただろ? もう俺たちは仲間なんだから一人で暴走するのはよくないよ。勝手にいなくなるんは禁止だ。その強さは認めるが、それで怪我をしたら元も子もないからな」
「はい。申し訳ありませんでした」
「なんかすごく素直ね」
「そうだな」
俺もそう思っていた。
冒険者なんて自由な奴が多い。命令なんて基本聞かない奴ばかりだ。
3番も言うだけ無駄だと思っていた。
「私が足を失った時もやっぱり命令を無視して一人で行動していた時でした。あの頃の私は絶頂を迎えていて、冒険者ギルドの情報なんて無駄だと決めつけていたんです。でも、その結果片足を失い、人から信用を得ようとしていなかった私はあっという間に転落していきました。今はこの首輪が少し嬉しいんです。少なくともこれがあって役に立てるうちは裏切られないから」
「いや、さっきも言ったけど俺は問答無用で売り払うぞ。そのための奴隷商人だからな。俺は慈善事業でやっているわけじゃない。だから自分たちで働いて適正価格になったら自分を買い取れ。それまではお前らは俺のものだからな。いいか勝手に死ぬなよ」
「えっ買い取れるのか?」
「自分自身を?」
「嘘だろ?」
「でもこの身体じゃ……」
「そうだな。俺たちに未来はない」
一度心を完全に折られてしまえば、そこから復活するのはかなり大変だ。
折れた心はずっと自分の気持ちを縛り続ける。
自分で心に檻を作ってしまえば、そこからでられなくなってしまうのだ。
「みんなちょっと聞いて欲しい」
そう声をあげたのは3番だった。
全員からの視線が集まる中、彼女はゆっくりと話し始めた。
「私は奴隷番号3番の者だ。私はかつて疾風のマーニャと呼ばれていた。もしかしたら聞いたことがあるものもいるかもしれない」
彼女が自己紹介すると、奴隷たちの中から驚きや感嘆の声があがる。
どうやら知らなかったのは俺と0番だけらしい。
3番が俺たちの顔を見ながら、どや顔してくるが、なにか説明するなら早くしろと手で合図を送った。
彼女は満足したのかそのまま続きを話し始めた。
「私はかつて冒険者として、最強クラスまで上り詰めたことがある。だけど、足を失い、人に騙されあなたたちと同じ奴隷になった。私の名前を聞いたことや見たことがある人は手を挙げて欲しい」
彼女の声に反応するかのように、大半の人間が手を挙げた。
もう一度3番がこっちを見てくるが無視だ無視。
「これだけ知っていてくれた人がいる中で、私は誰にもわからないほど変わってしまった。だけど今日私は、ご主人様に新しい魔法の足を頂いた。もちろん、ご主人様がすべての病気や怪我を治せるとは思っていない。だけど、今まで私たちはどん底へと転がり落ちたせいで這い上がり方を忘れてしまっているんじゃないかと思う。同じところまで落ちた私たちだから、できることがあるんじゃないかと思う。ご主人様は自分を買い取れと言ってくださった。正直に言おう。これはチャンスだ。一度目の奇跡をご主人様がおこしてくれた。じゃあ二度目の奇跡も起こせると思っている。最強の冒険者だった私も一緒に這い上がる。みんなも一緒に人生をやり直そうじゃないか」
彼女の話に、最初は他人に興味がなかった人たちの顔に生気が戻ってくる。
これがカリスマってことなんだろう。
彼女が輝けば輝くほど、天性の才能ってものを感じてしまう。
もう、完全に3番劇場となっている。
ここに俺たちの出番はないな。
「0番、ここは英雄3番さんに任せて猪の血抜きをするぞ。どうやらまだ心臓は動いているみたいだからな」
「わかりました。下で血抜きをするのでご主人様持ち上げてください」
「……」
何をふざけていることを言っているのだろう。
どう考えても飛べる0番が適任だろう。
「えっもしかして、このでかいのを私が持ち上げるんですか?」
「そうだな。俺は空を飛べないからな。それに血抜きしないと美味しくないし」
「3番め……一番大変なところを押し付けやがって」
「適材適所だよ」
俺たちが猪の元へ向かうと先に治療した人たちが俺の元へ集まってきた。
彼らは3番の話を聞かなくてもいいってことだろう。
「なにか僕たちにも手伝わせてください」
「あぁ、4番からのみんなは家に入ってすぐ右側の部屋に調理器具があるから、それを持ってきてくれ。あと石魔法が使えるのいたよな?」
俺がそう聞くと一人の青年が元気よく手をあげた。
「君はたしか……9番か?」
「そうです。レンガでコンロを造りをしたことがあります」
「そうか。じゃあ鍋の大きさに合わせてコンロ作ってくれ」
「わかりました」
彼が魔法を唱えると、どんどんレンガが積み上がり、コンロができていく。
もの凄いスピードだ。
なぜ彼が廃棄される直前の奴隷にまでなっていたのかわからないが、よほど前の主人が人を見る目がなかったのだろう。
あの調子なら……レンガの家も作れそうだな。
他にもまだ回復途中の連中の中に魔法が使える奴らがいるだろう。
思ったよりも早く住居のめどはたちそうだ。
最悪今夜は屋根ができなくても、四方を囲むだけでもいいだろう。
風を遮るだけでも寒さは全然変わってくる。
それぞれが仕事を始めた中で、いやいやそうに0番が巨大猪の足を持ち飛び上がった。
あの小さな身体にどれだけの力があるのだろうか。
本当にびっくりしてくる。
「カッコいいぞ0番」
「カッコいいじゃなくて、ご主人様の前では可愛いくいたいんです」
「可愛いぞ。そのまま持っていてくれ」
実際頬を膨らませながら飛んでいる彼女の姿は可愛い。
俺はそのまま猪の首にナイフを入れ、そのまま血抜きをする。
「ご主人様、あとどれくらいですか?」
「まだ血が抜けてないからな。もう少しだ」
そこへ一人の女の子がやってきた。
髪の毛がきれいな雪色をして、少し中性的な顔立ちをしている。
失礼な話だが、胸のふくらみがなければ女性だとわからなかった。
「ご主人様、あの血抜きなんですけど……お手伝いしてもいいですか?」
「5番か、いいぞ。自分からできることはどんどんやってくれ」
俺はやる方法を聞かずに許可をだした。
この子は元々狩人で獲物を追うのが仕事だと言っていたはずだ。
何か特別な狩人のスキルがあるのかもしれない。
彼女は優しく猪につけた傷口に触れると勢いよく血が噴きだした。
「いったい何をしたんだ?」
彼女は美しい笑みを浮かべていたが、その目の奥には暗い何かがあった。
吹きだす血液を見る彼女の顔はとても楽しそうだった。