大当たりをひいたようだ。
次に0番が連れて来たのは石化魔法で身体の半分が石化された女性だった。
0番が途中から抱えて持ってきた。
ほぼ自力では歩けないようだ。
「会話ができるか?」
彼女は片方の手でできないと合図をおくる。
口を開こうとすると、石が崩れそうになるようだ。
どうやらバジリスクの石化能力を受けたようだが、なぜか完全石化ではなく半分だけになっている。
ものすごく珍しい症例だ。
まずはこの石化をどうにかしないといけない。
石化には……天使の涙が効くはずだ。
俺は奴隷商になろうと思った時、一番最初に覚えたのは回復系の魔法とスキル、それに治療薬の確保だった。
この国の奴隷は基本的に使い捨てが当たり前だった。
他国へ侵攻し奴隷を狩ってくる人間がいるくらい、その集め方は最悪だ。
俺は、そんな奴隷たちに少しでも良くしたいと思い奴隷商へとなった。
そのためには怪我で使い捨てになる奴隷を回復させて高く売るのが一番いい。
もちろん、売り先は選ばせてもらう。
奴隷とはいえ幸せになってもらうのが一番だからだ。
俺は机の引き出しから天使の涙を取り出す。
これ一本で普通に買おうと思うと300万ロンかかる。
俺は自分で調合したので3万ロンですんだが、それでもかなり高い薬だ。
原価よりもその製法が秘匿とされているため、価格は高めになる。
なんで俺が知っているのかというと……うちにはお抱えの薬師がいたからだった。
親父にはそんな知識必要ないと言われていたが、小さい頃から使用人がやっていることを学ぶのが癖になっていた。
それのおかげで今では実践で役立つ知識がかなりある。
「今から君にこの薬を飲ませる。これは石化を解除する薬だから安心して飲んで欲しい」
彼女の方を見ると、彼女は一生懸命やめるように訴えているように見える。
なるほど、立ったままでは上手く飲めないのかもしれない。
俺は近くのソファに彼女を寝かしつけると、彼女の口に小瓶を突っ込んだ。
これで、石化は治るはずだ。
飲んだ瞬間から彼女の身体の中心から一気に石化が解かれていく。
石化魔法は一種の呪いのようなものではなんていう話もあるがその原因はわかっていない。
一部聖魔法を使える人間は跳ね返せるらしいが……彼女もなにかそっちの力があるのだろう。
全身から石化が消えるのを見計らって話しかける。
「どうだ? 身体は動きそうか?」
「なんて……なんてことをしてくれたんですか。天使の涙なんて末端価格では今600万ロンですよ。私はそれを聞いて諦めたんです。一生奴隷として暮らすなんてまっぴらごめんです。今すぐ殺してください」
「そうですか。わかりました」
0番が彼女の首を持ち、そのまま握りつぶそうとする。
「苦しい……やっぱ死にたくない……です」
「0番やめてやれ」
「はい。生かしてもらったことを素直に喜べない奴は死んだ方がいいと思って……」
0番は本気で殺すつもりはなかったようだが、奴隷になってヒドイ扱いをされている人間は沢山いる。あれを見たら死を選ぶこともわかる気がする。
だけど、先に来たってことは何かしらの才能があるってことだ。
助けてすぐに死なれるのは困る。
「まったく怯えてしまうだろ。君の名前は?」
「ナッ……ナターヤです。元神官をしていました。部位欠損を治すことはできませんが、怪我や解毒ならすることができます。冒険者だけで行くよりは回復と自衛の腕はあるので役に立てると思います」
「そうか。では君の名前は4番だ。今から狩りに行くメンバーを優先的に助けるから外で待っていてくれ」
「わかりました」
4番は0番を警戒しながら外へと向かう。
「0番気持ちはわかるけど、ここには傷を負ってきた人ばかりなんだから、あまりきついことをしないでやってくれ」
「それはわかるよ……やり方には問題もあったけど、生きる気力を失ったままじゃ生きていけないよ。自分で生きるって選択しないと。絶望を知っている人間は死ぬことを恐れないから」
「そうかも知れないけど……もう少し優しく頼む」
「わかったわよ。次からは軽くしばくことからにするわ」
0番も0番なりに考えてやってくれたのだろう。
何が正解かわからないだけに難しい。
「次の人を連れてきてくれ」
「わかりました」
そう0番が出て行こうとすると、4番が戻ってきた。
「どうした4番?」
「あの3番の人がいないんですけど」
「はぁ?」
逃げたってことだろうか。
まぁそれはそれで仕方がない。
逃げれば俺の魔法が解けて歩けなくなる。
それに逃げる意思があると、この首輪はどんどん締まり最終的には窒息してしまう。
「どこにいるのかわからないが、彼女ならそう遠くには逃げないよ。0番次の奴を連れてきてくれ」
「わかりました」
逃げたい奴のことを考えても仕方がない。
それより今は一人でも多くの人間を助けて食料を確保することの方が大事だ。
それから、俺たちは順調に10人程治療していった。
魔力としてはまだ大丈夫そうだ。
魔力用ポーションを飲みながら回復魔法や治療薬、補完を使って治していく。
それにしても、よくこれだけの病人を集められたものだ。
これだけの人数が廃棄とか、どれだけ沢山の人間が集められたというのだろう。
「0番次の人を呼んでくれ」
「大丈夫ですか? 少し休んだ方がいいんじゃないですか?」
彼女はそう言いながら俺の膝の上に座ってくる。
「どいてくれ」
「ダメです。休憩しないと倒れちゃいますよ」
「わかってはいるけど、今は少しでも早く食料をどうにかしてやらないと」
「でも、ご主人様が倒れたらそれどころじゃなくなっちゃいますよ」
「それはそうだけど……なんだ?」
何か地鳴りのようなものが外から聞こえてくる。
こっちへ段々と近づいてきているようだ。
「外へでて確認してみましょう」
俺たちが外に出ると3番が満面の笑みを浮かべて巨大な猪を引きずってきたやってきた。
「ご主人様遅くなりました。小さないのしかいませんでしたが、明日はもっと大きいのとってきますね」
「おっおぅ」
どうやら俺はとんでもない当たりを引いたらしい。
彼女の純粋無垢な笑顔はとても可愛かった。