森からでてきたのは可愛いケルベロスだが……
僕たちの村に戻ると、村の状況が一変していた。
レンガで作られた家や、ログハウスが立ち並ぶ、隠れ里のようになっている。
たった数日離れただけでこの変わりようは異常だった。
「ご主人様、お帰りなさい。お帰りを首を長くしてお待ちしておりました」
「0番、ただいま……これはどうしたんだ?」
「今まで奴隷の人たちってほぼ24時間休まずに、最低限の食事で働かせ続けられていたみたいなんですよ。その過酷な中で生き残った猛者たちがここにいるので、その人たちに、規則正しい生活と、食事、それに清潔な衣服を提供したら……あぁなりました」
0番が見ている先では9番が、高速でレンガを作り出し、そこに他の奴隷たちがどんどん積み上げて固めていく。
よく見ると、そこの奥では1番が種を植えた瞬間からどんどん植物が育ち、2番や子供たちが収穫していっていた。
「あれも……」
「えぇ、今まで過酷な労働をさせられて来たせいか、成長力が半端ないみたいなの」
1番と2番の方を見ていると、俺に気がつき、2人が笑顔で走ってきた。
……走るスピード早くないか?
「3番……あの子たち走るの早くないか?」
「そんなことないんじゃないですか? リリとララより少し遅いくらいだと思いますよ」
「それは……」
リリ、ララを基準に考えるのがおかしいことに気が付いていない。
「ご主人様、おかえりなさい」
「おかえりなさい!」
「1番、2番元気にしてたか?」
「「はい」」
二人とも元気でよろしい。
他の子供たちも元気に出迎えてくれた。
うん。子供たちが笑顔でいるのはいいね。
これなら、早めに学校を作ってこの子たちに教育をしてあげることもできるだろう。
まずは自分たちの食事をどうにかしないといけなかったからな。
「ご主人様、こっちきて!」
「おっどうした?」
「育てた野菜とか見て欲しいの!」
うん。ほのぼのするね。
「3番、新しく連れてきた奴隷たちを降ろして適当に休ませてやってくれ。ずっと馬車で疲れているだろうからな。0番食事とかは……」
「22番、ちょっとこっちに来て」
0番はテキパキと指示をしてくれた。
「帰ってきたんですから、ご主人様の側は離れません」
「おっ……おう」
0番は自然と手を握ってきた。
もう片方は2番が手を握り、一瞬0番と2番で微笑みながら目をあわせていた。
うん。うん。仲がいいのはいいことだ。
「ご主人様~これ見て!」
1番が見せてきたのは、あまり見たことがない植物だった。
あれ? これってどこかで見たことがあるけど……昔薬師に……?
「ご主人様、耳塞いでてね」
どこから取り出したのか、1番が耳栓をすると、一気にその植物を引き抜いた。
思い出した!
マンドレイクだ!
広場に悲痛な叫び声が一瞬あがるが、1番が一瞬で処理をしてしまう。
「これで、ご主人様の薬草作りに役立てます」
マンドレイクは希少植物で、その生態は詳しくわかっていなかったはずだ。
「1番、どうやって育てたんだ?」
「えっ……お水あげて促進魔法使うと育ちますよ」
あっ、これ天才の途中経過が理解できていないパターンのやつだ。
これって普通だよね?
って言ってチートなことを平気でやっていく。
1番もとんでもないチート野郎らしい。
「そうか。1番はすごいんだな」
「ご主人様、目が白目になってますよ」
「気にするな。ちょっとびっくりしただけだ」
「あと……ご主人様、72番さんが飼っているみたいにペット飼ってもいい?」
「ペットか……ちゃんと自分たちで面倒みれるのか?」
子供の情操教育にペットはいいと言われている。
さすがにマンドレイクよりも驚くペットはいないだろう。
「もちろん大丈夫だよ! 自分で餌もとってこれるし、すごく可愛んだよ」
「ご主人様、マンドレイクよりもマシだと思っているでしょ」
「もう聞きたくない」
「ビックリしてください」
「ベロ、おいでー! ご主人様が帰ってきたよー!」
森の中から3つの頭がある犬が満面の笑みを浮かべて走ってきた。
なんだあの犬……。
あれは、地獄の番犬ケルベロスだ。
人に懐くことはなく、見たものは死ぬのを覚悟しなければいけないと言われている、S級魔獣だ。
大人になると、大きさは人の数倍になるという。
こんなところで見かける魔獣じゃない。
「今さら捨てたら……」
「将来この村を襲う可能性がありますね」
1番によほど懐いているのかブンブンと尻尾を振って楽しそうにしている。
「ご主人様、可愛いでしょ」
「あっ……あぁ、カワイイナァー」
「棒読みになってますよ」
「撫でてください」
ペガサスとグリフォンの時のことが頭をよぎる。
竜騎は平気なんだけどな。
恐るおそる手を出すと、自分から俺の手を舐めてくれる。
噛みつかれると思ったが、見た目とは違い、非常に人懐っこい。
「可愛いな」
「でしょ? 飼っていいですか?」
「いいぞ。ただしちゃんと面倒見るんだからな」
「わかりました!」
「ご主人様本当にいいんですか? 気軽にOKしちゃってしらないですからね」
「別に1匹くらいいいだろ。この子たちがそれで喜んでくれるならな」
「ご主人様……どんまい」
0番が何をそんなに気にしているのかわからなかった。
別に1匹くらい増えたところで……奴隷のたちの方が大変だ。
「よかったね」
「本当に。やっぱり最初はベロにして良かったね」
「みんなーでてきていいよ! ご主人様がペット飼っていいって」
森の中から大量の魔物の子供たちが走ってやってくる。
「0番……知ってて言わなかっただろ」
「知ったところで、あの子たちの笑顔見て拒否できるんですか?」
子供たちが満面の笑みを浮かべて魔物の子供を抱きしめている。
犬系、鳥系、魔獣系、幻獣系……もうなんの魔物がいるのか把握することができない。
「無理だな。あれは2番の力なのか?」
「はい。テイマーとは違うようですが、詳しい力はわかっていません。魔物を従えるというよりは、魔物と仲良くなる力のようです。しかも、生まれて間もない子供の魔物が多いようです。しかも、孤児の魔物が多いようですが、詳しくはわからないですね」
森の中で孤児になった子供の魔物が大量に集まってきたらしい。
「2番」
「はい」
「あとで魔物たちの小屋を作ってもらえ。その時、どうしたら過ごしやすいのか魔物たちにも確認してな」
「ありがとうございます」
「ご主人様、それでもう一つご連絡を頂いていた件なんですが……」
まだ報告は終わらないようだ。