5番の村の後処理……幸せを祈るしかできなかった。
「ご主人様、どうされますか?」
5番が俺に聞いてくるが……奴隷にして、それをすぐに奴隷から解放してやるということはできなくはない。
ただ、問題は一度奴隷に落ちたという本人たちの気持ちだ。
人によっては奴隷から解放されたとしても、奴隷に落ちたことを恥じて自分から命を絶つ人もいる。
「とりあえず、村の人たちを集めろ。その中で奴隷になりたいものだけは助ける。それが嫌なら……俺にはそれ以上助けることは無理だ」
「わかりました。ご主人様、大変な決断ありがとうございます」
5番が俺に頭を下げてくるが、乗りかかった舟である以上仕方がない。
「3番、村の人たちをできる限り集めるんだ。メレーヌ、君はどうしたい?」
禁断症状に苦しむ中で、こんな決断を迫ること自体が間違っている。
だけど、他の危険が迫っている以上、悠長なことは言っていられなくなった。
「ご主人様、私も奴隷にしてください。私は今までずっとこの薬を言い訳にして逃げ続けてきました。汚いものをすべて見なかったフリをして、都合のいい解釈だけをしてきました。本当なら自分からお姉ちゃんを探しに行かなければいけなかったのに、私はそれをしなかったんです。でも、もう逃げるのは終わりにします。今度は奴隷になってもお姉ちゃんを支えます」
彼女の目には、今までの薬による虚ろな目とは違い、力強いものがあった。
俺は、奴隷の首輪を彼女に取り付けると、彼女と奴隷の契約を結ぶ。
一から奴隷にするのは0番以来だが……少し緊張する。
あの時は、誰にも見られていなかったし、こんな責任もなかった。
アホみたいなことを言っていた0番は、すぐに解放するつもりだったが、今ではいないといけない存在になっている。
今では、早く帰って0番に会いたいとさえ思っている。
彼女の首につけた首輪に触れ、隷属の魔法を唱える。
それは世界で一番最悪な魔法。
自分で言うのも嫌になる。
そして、俺の魔力を込める。
できることなら、この子が早く奴隷から解放されますように。そう矛盾した願いを込めながら。
きっと俺は奴隷商には向いていないんだと思う。
非情になる決断も、すべてを抱え込む決断もできない。
普通はこんなことを考える奴隷商なんていない。
でも、この子たちの幸せを祈らずにはいられないのだ。
彼女を正式な奴隷にして、次は補完魔法で彼女から禁断症状をなくす。
補完の魔法自体はすごく簡単だ。
ただ、全員を助けるために魔力が持てばいいけど。
「どうだ?」
「ありがとうございます。今まで頭の中にかかっていたもやが一瞬で晴れたような、そんな清々しさがあります」
「それは良かった。気が付いているだろうが、俺は奴隷を全て番号で管理している。だから今からお前は75番だ。お前の姉さんが5番だから、覚えやすいだろう」
「はい、ありがとうございますご主人様」
「それじゃあ、大変だろうけど村の人々を集めてきてくれ。もちろん無理強いはしなくていい」
「わかりました」
それからは……もう大急ぎで色々なことを処理していった。
助かりたいために奴隷を選択する人、そんな人たちに文句を言う人、自損行為に走る人……。
そこの村には結局126名の人が住んでいたが、うち72名が俺の奴隷になった。
残りは、自力で違法薬物が身体から抜けるのを待つということだった。
奴隷の中には、奴隷になったまま村に残りたいと言い出したものもいたが、それは賛成しなかった。
本当ならここを第二の村にしたい気持ちもあったが、ここは今から裏社会の人間がやってくる。
そんなところに言うことを聞かない奴隷がいたら、真っ先に殺されるのがオチだ。
それに、もし5番のように裏切った時に、助けてやることができない。
首の切断をさせないようにすることはできるが、それでも俺の意思でも止められるのは殺さないようにすることだけだ。
逃げようと少しでもすれば、意識を刈り取るくらいに首がしまってしまう。
そうなっても、ここまでの道のりを考えると俺は助けることができないからだ。
5番の両親はここに残ることを選択した。
絶対に奴隷になんかならないと言っていたが、責任を感じてはいるのだろう。
「娘二人をよろしくお願いします」
そう言って頭を下げてきた。
今後残った人たちがどうなるのかは……俺にもわからない。
色々なことがあったが、俺たちは元の場所に帰ることにした。
元の場所に残る選択も、これから俺の奴隷としてやっていくことも、どちらがいいとは言えないが……少しでも幸せになってくれることを祈ることしかできなかった。
前の時は、薬などを頼って上手く乗りこえたが、今回はさすがに魔力切れで帰りの道のりはほとんど、キャレッジの中で眠っていた。
だけど……帰ってからもまだまだ問題が山積みだった。