決断の時期が迫る
朝方空が明るくなってくると、村の人々に禁断症状があらわれだした。
昨日までの明るい村から、今では道端でバタバタと人が倒れだし悲痛な声をあげている。
俺たちはそれほど吸っていなかったからか幸いにも禁断症状のようなものはなかったが、村人たちは禁断症状がでているらしく、倒れながら、何かブツブツとつぶやいている。
それはもう地獄絵図そのものだった。
「仕方がない。全員で薬が抜けるまで口に猿轡して、縛っておくしかない。危険な薬物とはいえ身体の中から抜ければ大人しくなるからな。リリとララは家の中で待ってなさい」
「ご主人様、私もやるよ?」
「私もー」
二人は見かけより大人なのはわかっている。
だけど、これ以上辛い状況を見せたくなかった。
「気持ちはわかる。でもリリとララに俺は見せたくないと思ってしまうんだ。これからもっと大変ことがあるのはわかるんだけど、これは俺の親心なんだ。わかってくれるかい?」
「ご主人様がお父さん?」
「ご主人様お母さん?」
「生みの親ではないけど、育ての親にはなりたいと思っているよ」
「わかったー家の中で待ってるね」
「私も家の中で待ってるー」
リリとララは俺の指示に従って大人しく家の中に入ってくれた。
奴隷主だから命令をすればいいだけなんだけど……できるだけ彼女たちに命令はしたくない。
「ご主人様、私の足を治したようにこの禁断症状を消すことができるんじゃないですか?」
「できなくはない」
「私の肺を治したようにメレーヌの苦しみから解放してあげられるってことですか? それなら……」
5番はそれを言いかけてやめる。
そうできないことではない。
でも、その条件を受け入れられるのかが問題となってくるのだ。
「俺も普通に助けられるなら助けてやりたい。だけど、この禁断症状がでているなかで苦痛から奴隷になれば解放してあげると言われればきっとなる人はいる。でも、それはお互いにとってメリットがないんだ。薬物以外で生計を立てていた村人をわざわざ奴隷にする必要はない。今は苦しくてもしばらく我慢すればこの苦痛から解放されるんだからな」
「さてと、薬が抜けるまで大変だろうけど。それじゃあやるか」
「私も手伝わせてください。こうなったのは私たちのせいですから」
メレーヌがそう言ってくれたが、彼女自身も一生懸命、禁断症状と戦っているようだ。
身体が震えを起こし、立っているのも辛そうだ。
「メレーヌ家の中で寝ていなさい」
「いえ、私たちの家がこの村をダメにした以上、この現状を自分の目で見て置く必要があります。私たちはとんでもない罪を犯したんです」
「ご主人様……なんとか……」
薬の禁断症状なんて、基本的に収まるまで縛ってでも放置しておくことくらいしかできない。
「5番はメレーヌを俺の奴隷にした方がいいって思っているのか?」
「メレーヌが助かるなら」
「俺のスキルには欠点がある。俺が死ねば補完をする前の状況に戻ってしまうんだ。それは結局治療を先延ばしにしているのと変わらない。例えば1年後に俺が死ねば彼女はこの症状に悩まされることになるんだぞ」
「それでもいいです」
「5番! 奴隷になるってことがどれだけ辛いことなのかわかっているだろ?」
「知っているからです。ここにもし他の奴隷商人がきたら、どうなると思いますか? この村はあっという間に奴隷商に連れて行かれ、また同じように薬漬けか、良くて劣悪な環境に放り出されるだけです」
頭では理解できることだ。
もし、ここで奴隷商がくれば容赦なく彼らを捕まえるだろう。
奴隷商は国内でも、法をおかした人間を奴隷にすることができる。
違法薬物に関して言うなら、国としてはそんな人間いらないから売り飛ばしてくれと、喜んで奴隷にすることを推奨している。
「奴隷商さん、私からもお願いします。この村はもうダメです。どのみち……魅惑の香りがなくなった時点でこの村は、グレイのネズミたちに殺されるか、売り払われるんです」
そこには見知らぬ老人がいた。
これだけ、禁断症状はでている中で出歩けるのは、あまり吸っていなかったのか、それともメンタルが強いのか……。
「おじいちゃん!」
「5番とメレーヌの祖父なのか?」
「はい。村長をしているトレーシーと言います。この度は私たちがダメなばかりにご迷惑をおかけしました」
「5番の頼みだから、それは別にいい。それよりもなんで村長自ら奴隷にして欲しいなんて言い出すんだ」
「この村を支配していたのは、私の娘夫婦でしたが、それに資金提供や売りさばく販路を持っているのがグレイのネズミという地下組織です。この村から魅惑の香りがなくなったとわかればすぐにでも証拠隠滅にやってくるでしょう」
やっかいな……それはこの村を捨てなければいけないことを意味する。
しかもできる限り早急に……