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22/27

家族との再会は思ったようなものではなかった。

 俺たちが通された客室には、当主の自画像が飾られ、家具の一つ一つがとてもお金がかけられているものだった。


「さぁどうぞ。こちらにお座りください」

 さすがに自分の娘が奴隷ということもあり、全員に席を案内してくれた。


「アグネス、ずっと探していたんだよ。お前を売った奴隷商が不慮の事故で死んでしまって、それ以降なかなか有力な情報を得ることができず……生きていてくれて本当に良かった」

「お父さん……ありがとうございます。妹のメレーヌは元気ですか?」


「あぁもちろんだ。今呼んでこさせよう。メレーヌをここに呼びなさい」

「かしこまりました」

 先ほどのメイドが頭を下げ、部屋からでていく。


「ゴルさん、わざわざアグネスを送り届けて頂きありがとうございます。それでアグネスはおいくらお支払いすれば売って頂けるのでしょうか? 100万ロンではいかがでしょうか?」


 俺がおかしいのかもしれない。

 多分、俺が間違っている。


 だけど、なぜだろう。

 この男はなぜ平気で自分の娘にすぐに値段をつけられると言うのだろか。

 

 この国では奴隷は物である。それはいい。

 でも、自分の娘じゃないか。 

 そんな話をする前にもっと話すことがあるのではないだろうか。


「売る気はないですよ。100万ロン? 馬鹿言っちゃいけないですよ。この子の価値は1憶ロンでも安いくらいですよ」

「馬鹿な……1憶ロンなんてこの豪邸と同じ値段ですよ。見て下さい。この世界中から集めた彫刻や絵画を。これらとこの子が同じだなんて……吹っ掛けるのもいい加減にして頂きたい」


 5番の肩が少し震えている。

 2年前この子は自分が売られることで、家族を助けられると思っていたはずだ。

 でも、今目の前で親はこの子よりもお金が大切だといいきった。


 連れて来たのが間違いだったのだろうか。

 俺は5番の肩をそっと抱く。


「先ほどお伝えした通り、俺はこの子に期待をしているので、この子と同じような能力を持った奴隷を買うために来たんですよ。それなのに100万ロンなんて安い金額で売るわけないじゃないですか」


 そこへコンコンとノックする音が部屋の中に響き渡る。

「はいれ」

「失礼します」


 入ってきたのは5番をもっと女性らしくしたという言い方は悪いかもしれないが、とても美しい人形のような女の子だった。雪色の髪に白い肌。指の一本、一本まで手入れがなされ、元々狩人の家系だったことなどみじんも感じさせなかった。


 昨日見た


 5番が開いていた手を、とっさに握る。

 妹に見られたくないのかもしれない。


「お姉様、お久しぶりでございます」

「メレーヌ久しぶり。元気だった?」

「えぇお陰様で。お姉様もお元気そうで」

「あぁ私も元気だよ。無事でよかった」

「お姉様も」


 何ともぎこちない会話が目の前で繰り返される。

 5番の目には妹に会えた嬉しさからかなのか、目には涙を浮かべているが、妹の方は先ほどからほぼ無表情だった。

 元々、感情表現が出にくい子なのかもしれないが、5番の気持ちや行動を知っている俺としては何とも言えない気持ちになってくる。

 まるで片思いしている空回りしている子のようだ。


「ゴルさん娘を買い取ることはできなくても、一泊まっていくことくらいはできるんだろ?」

「お父様、無理を言ってはダメですよ。お姉様にもお仕事がおありなんですから。早々に帰らないと」


「せめて一緒に食事くらいはいいだろ?」

「私は過去を忘れたいんです。今さらこんなのが姉とでてこられて……しかも奴隷だなんて……迷惑以外ありません。お父様もいい加減にしてください」


「妹さんは俺たちを帰したいようですが、5番のために一泊くらいならいいですよ。俺もこの村を見て回りたいですから」

「ちっ、奴隷商が……早く帰ればいいのに。それでは私は失礼します」

「あっ……メレーヌ」


 奴隷商は相当嫌われているようだ。

 それは仕方がないとしても、あまりに5番への対応が可哀想だ。


「娘が申し訳ありません。おい、彼らを客室に案内してあげてくれ。夕食の時にまたお呼びさせて頂きますね」

「はい」

 メイドの一人が俺たちを客室に案内してくれた。

 部屋の中はとても豪華だ。

 今の俺では手に届かないようなものばかりだった。


 この2年間でどれだけの財をなせばこれだけ変われるのだろうか。


「ご主人様、今回は連れてきてくださってありがとうございました。私が想像していた家族とは2年間で変わってしまったようです」

「辛かったな。泣きたい時には泣いてもいいんだぞ」

 5番をそっと抱きしめてやる。


 本当だったら、妹や家族と感動的な再会を期待していたはずだった。

 でも、奴隷に売られた子などというのは、もう家族にとってはいらない子だったというこだろう。


 物で溢れた部屋がやけに寒々く感じる。

 どれだけ物で溢れようと、埋まらない心の寂しさを埋めることはできない。

 静かに泣き続ける5番の嗚咽だけが部屋の中に響き続けた。

挿絵(By みてみん)

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