5番の実家にたどり着いたがそこには豪邸が建てられていた。
翌日、俺は何か胸騒ぎがして起きた。
なにか胸の上を圧迫している。
なんだ……?
はぁ、それぞれ別のベットで寝たはずのリリとララが俺の胸の上で寝ていた。
まだ子供だから誰かと一緒に寝たいのはわかるが……。
まだ辺りは暗く、起きるには少し早い。
もう一度寝よう。
そう思ったが横のベッドで寝ていたはずの3番の姿が見えなかった。
耳をすますと外から剣を振る音が聞こえてくる。
まだ早いというのに熱心な奴だ。
今日も移動だからな。俺も少し運動してくるか。
リリとララをそのままベットに残し、俺も外にでた。
まだ少しひんやりとした空気が肌を刺激して気持ちいい。
「ご主人様おはようございます」
「おはよう。早いんだな」
「えぇ昨日の話しを聞いてご主人様に危険がないように、少し身体を動かしておこうかと思いまして」
「さすが3番だな。一つ聞いてもいいか?」
「なんですか? 改まって」
「もし5番を親の元に返したいって言ったらどうする?」
3番は振っていた剣を降ろし、少し考える。
「私は……5番が望んでも賛成はしません」
「なぜだ?」
「どんな理由があっても、一度裏切った人間はまた裏切ると思うからです。例えば5番の実家が裕福になっていたとしても、また困った時に売られる可能性があります。次……ご主人様のような主人に会える可能性はありません。私たちは本当に最後のギリギリの状況で生き延びたのです。それはご主人様が想像している以上に感謝をしているんですよ」
「そうなのか。できれば家族一緒がいいと思ってしまうけどな」
「逆に妹を買い取るとかならいいと思いますよ」
「それができればいいけどな」
「まぁ、生意気なことを言わせて頂きましたが、私はご主人様が選んだ道であれば全肯定します」
「今否定してたじゃないか」
「今のは客観的に見た時にはって話ですよ。ご主人様が選ぶ道なら、私たちはどの道を選んでも幸せになる道があると思っています。だって、普通一人の奴隷のためにこんなことしませんからね」
「そうか……だよな……」
「えぇ、ご主人様ははっきり言って異常なくらいです。でもそこが好きですよ」
「ありがとう」
奴隷に落ちた時点で這い上がることは難しく、物のように扱われているこの現状を変えることはできない。俺がやっていることはただの自己満足だというのもわかっている。
だけど、どうしても願ってしまうのだ。
俺に関わった人すべてが幸せになって欲しいと。
俺たちはしっかりと朝食をとり、その日の昼過ぎ、ついにブラーシュ村に着いた。
事前に聞いていた通りかなり活気のある村になっていた。
昨晩泊まった村よりも人通りは多く、宿屋の主人が言っていたような怪しい人間が多い印象はなかった。
「ここが5番の出身の村か?」
「いえ……は……い。そうだと思うんですが、この2年で変わりすぎてしまっていて」
5番は感極まって目から大粒の涙をこぼしているが、まだ目的の半分も達成していない。
ここからが本当の勝負だ。
「家はどこなんだ?」
「こっちです」
俺たちは村の入り口にあったキャレッジ置き場で竜騎とキャレッジを預け、徒歩で5番の家まで向かう。
5番の家は村でも少し外れの方にあるということだった。
村の中を通って行くと、独特の甘い匂いがする。
なにかの花の蜜のような匂いだ。
嗅いでいるとすごく気分が楽しくなっていく。この香り大丈夫か?
5番がいきなり走り出した。
俺たちもそのあとを追いかける。
リリとララの方を大丈夫かと気に掛けるたが、二人は俺をさっさと追い越していった。
この中では俺が一番体力がなかった。
5番はこの村の中で一番大きな屋敷の家の前で足を止めた。
こんな村……と言ってはいけないが、その屋敷は村には似つかわないほど、豪華で大きかった。
決して子供を奴隷として売らなければいけないような家には見えない。
「ここが5番の家なのか?」
「はい。でもこんな大きな家ではありませんでした。もう引っ越したのか……それとも……」
「とりあえず、声をかけてみよう」
その時、家の中からメイドの恰好をした一人の女性がでてきた。
「なにか御用でしょうか?」
そのメイドは俺の方をまっすぐ見つめ質問をしてきた。
「あっ……その……昔ここに住んでいたグラハムさんがどこにいらっしゃるのか知りませんでしょうか?」
5番が質問をすると、キリッと睨みつけた
「奴隷の分際で……身分をわきまえなさい」
メイドは5番とは会話をするつもりがないらしい。
本当にめんどくさい。
「ここに住んでいたグラハムさんを……」
「私になんのようかな?」
そこにでてきたのは、白髪のすっとした紳士だった。
子供を売り払うような男性には見えなかった。
どこかの貴族だと言われても信じてしまっただろう。
「初めまして、私はパルムの街で奴隷商をしているゴルと申します。私の奴隷であるこの5番の技量が素晴らしく、まだ同じ村で奴隷が買えるならと思いわざわざやってきた次第であります」
「もしかして……アグネスなのか?」
「はい……お父さん……」
「よく無事に戻った。どうぞゴルさんも家の中に」
「ありがとうございます」
メイドは何とも言えない表情で俺たちを見つめている。
まさか、今邪見にした奴隷がこの家の子供だとは思わなかっただろう。