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18/27

逃走者と出会うが、何食わぬ顔で見送ってあげた

 朝日が完全に昇り、朝食の準備が終わると3番が起こしてくれた。

「ご主人様、料理ができましたので起きて下さい」

「わかった。作ってくれてありがとうな」

「いえいえ、これくらいは当たり前です」


 俺が起きようとすると身体がやけに重いのを感じた。

 なんだ?

 目をあけて見ると、リリとララが俺に抱き着いて寝ている。


 普通の奴隷商だったら間違いなく怒られているだろうが、子供たちには伸びのび育って欲しい。

 この子たちもきっと寂しい思いをしてきたのだろう。


「リリ、ララ起きろ。朝食ができたらしいぞ」

「うーん。もう少し寝るです」

「ご主人さまぁ。まだ眠いです」


 昼間のしっかりとした姿とのギャップがあり、眠そうな二人の姿がやけに可愛く見える。

 だけど、ここでは心を鬼にするしかない。


「ほら、さっさと……まぁ仕方がないか。しつけは俺たちの家に帰ってからにするか」


 急にドラゴンたちの姿を思い出す。少しくらい甘やかしてあげてもいいだろう。

「二人の食事は起きたら馬車の中で食べさせてあげよう」


「起きるよララ」

「うーん。わかったリリ」

「偉いな、二人とも」


 二人とも寝ぼけまなこで朝食の席につく。

 朝食はパンとスープに近くでとれた生野草、それに目玉焼きだった。

 旅の途中にしてはかなりしっかりと作られていた。


「すごいな、よく朝からこれだけ作れたな」

「ご主人様、昨日は申し訳ありませんでした。すっかり夜中寝てしまいまして」

「私も、普段は寝起きがいいのですが……申し訳ありません」

「いやいいよ。俺も楽しかったから」


 二人とも俺に謝ってくれたが、俺は俺で貴重な経験をした夜だった。


 俺たちが朝食を食べていると、奥に行ったグループも起きて来た。

 特にこちらのグループとも何もなく一晩過ごせて良かった。

 気を付けないと、たまにもめ事が起こったりすることがある。


「おはようございます」

「あぁおはよう。君たちは今から朝食?」


「いえ、私たちは……」

 俺たちの朝食を見たせいか、ぐぎゅるると盛大にお腹を鳴らしている。


 見たところ旅に慣れていないのか、もしくはよほど慌てて出てきたのか旅の準備をほとんどしていないようだ。


 あまりに荷物が軽装すぎる。新しいタイプのマジックボックスでも持っているのだろうか?

 関わらないのが一番だが……こういう時に顔を突っ込みたくなるのは悪い癖だ。


「もしよければ、少しですが余った朝食を食べますか?」

「えっ……」

 こんな申し出を言われると思っていなかったのだろう。

 一瞬5人組が固まる。


「もちろん、先を急いでいるなら無理にとは言わないけど」

「あっ……ぜひ少しでも頂けるとありがたいです」


「えっ先を急がないとダメよ……」

「お嬢様、少しでもお腹に入れておかないと山を越えられませんよ」


 俺の知っている限り、昨日の夜も特に食事をしていたようには見えなかった。

 どこから来た逃亡者なのか予想ができれば、この先の街なので情報を売ることもできる。


「さぁ、こっちの暖かいところでどうぞ」

「ありがとうございます」


 五人組は三人が女性で二人が男だった。

 男の方は……冒険者を装っているが、使っている道具などは冒険者ではなく騎士のように見える。どこかのお嬢様か……。


 もう一人の男が持っている武器は……ん? 

 あれは魔剣だ! 少なくとも冒険者が持てるようなものではない。

 ぜひ、手に入るなら3番のために欲しい。


 せっかくだから、交渉してみるだけ交渉してみるか。


 女性三人の方のうち、一人は従者だろう。

 常に特定の女性を気にかけている。


 もう一人は女性の騎士で、残りの一人がこのメンバーの中核の人物だ。


「どちらからきたんですか?」

「スタファンの街からです」

「それはとても遠くから大変ですね。ご旅行ですか?」

「そんなところです」


 スタファンはここから徒歩で三日ほどかかる。

 それをこの軽装備で来たのは、なにか理由がありそうだ。

 旅行なんてはずは絶対にない。


 受け答えはすべて女騎士一人がしている。

 できる限りこちらの情報をださないように警戒しているのか。

 スタファンの街はマリュス公爵領だったはずだ。


 最近、マリュス公爵が自分の娘に殺されたという噂が流れていたが……。

 その娘が……? いやまだ、確定的なことは言えない。


「さぁどうぞ。3番、5番、食事をあげてくれ」

「ふんっ……人を人とも思わない、奴隷商からの施しなんか受けないわ。山へ急ぎましょう」

「お嬢様っ!」


「だって奴隷商なんてどれもクソみたいな奴しかいないじゃない」

「お前、ご主人様のご好意を!」

「やめとけ3番。申し訳ありません。余計なお世話でしたね」

 食事を渡そうとしていた3番は、器を片付け始めた。


「奴隷商にめぐみを受けるくらいなら死んだ方がマシだわ」

「お嬢様! そんなことばかり言っているから……本当に申し訳ありません」


「いいですよ。人それぞれ信念はあるでしょうか。せめてお嬢様以外はスープだけでも飲んで行ってください。奴隷商からではなく、旅の安全を願う旅人同士の交流としてです。それにこれから山の方へいくなら水分はとっておかないと途中で歩けなくなりますよ」


「わかった。お嬢様は飲まなくても俺たちだけでも頂こう」

 そう言ったのは一番年齢を重ねた男だった。

 もし本当に山の方へ行くならしっかり食事をとっておかないと、間違いなくへばるだろう。


「3番、そこのお嬢様以外にスープを配ってやれ」

「わかりました」

 3番はなぜこんな奴らに配るのかわからないと不満顔だが、俺が興味を持ってしまったんだから仕方がない。


「さぁ、温かいうちにどうぞ。そう言えばスタファンの街はマリュス公爵領でしたよね? 公爵様が実の娘さんに殺されて亡くなられたとかで……本当にお気の毒です。かなり大変だったんじゃないですか?」


「あっ……あぁ……こっちの方まで情報が回っているのか?」

「みんな知ってますよ。特に俺たちが来たパルムでは、賞金稼ぎが、逃亡している公爵令嬢を捕まえて奴隷商に売ろうと躍起になって街中を探しています。俺たちは今からでかけなきゃいけないので、残念ながら探すのに参加できませんけどね」

 

「まぁでも公爵令嬢が逃げるなら、きっともう逃げていますよね」

「そうですね。なんでも公爵令嬢の護衛の一人が派手な剣を持っているって話ですよ。あっ……ちょうどお兄さんの持っている剣のような特徴を言ってましたね」


「そんな情報も?」

「はい、公爵令嬢様の近衛騎士の方がたいそう珍しい剣の使い手らしくて。見たことはないのでわからないですけど、お兄さんの持っているような赤い鞘が特徴らしいですよ」


「まぁ、赤い剣なんてどこにもありますからね」

「そうですね。ただ、もし向かっている山がパルムを超えた先の山なら、街を通る時に疑われる可能性ありますけど、良ければ剣を交換しましょうか? あそこは金に困っている奴が沢山いますからね。問答無用で襲ってきますからね」


「いや……」

「ヘリベルト、交換してもらったらどうだ?」


 先ほどの男が魔剣を持っている若い騎士にそう勧める。

 多分……この男はマリュス領で有名の優騎士って子だろう。


 ものすごく強いって話だが、優しくてお嬢様には絶対服従って話だ。

 お嬢様直属の部下で、命令とあれば命をとして戦うらしい。

 魔剣を持っていて、敵には容赦しないって話だったはずだ。


「これは……ものすごく大切な剣なので……」

「別に俺らとしてはどっちでもいいですよ。ただの余計なお節介ですから」


 ここまでだいぶ過酷な旅をしてきたのだろう。

 優騎士に向けられる、まわりからの視線が痛い。

 あと一押しで魔剣が手に入りそうな気がする。


「ヘリベルト、交換なんかする必要はないわ。もしそんな因縁をつけてくる奴がいたら切り殺しなさい」

「ずいぶん過激なお嬢様だな」


 目的達成まであと少しかと思ったところで、お嬢様が口をだし、一気に流れは変わってしまった。残念だ。どうせ彼らが奴隷として売られるなら手に入れておきたかったが、もう無理だろう。

 

 残念ながら彼らではパルムの街を通過することはできない。

 余計なお節介をしてやってもいいが……残念ながらお嬢様がきっと俺の言葉には耳を貸さないからな。伝えるだけ無駄だろう。


「食事が終わればすぐにでるわよ。こんなところでゆっくりしていられない」

「わかりました」

「パルムではお気をつけてくださいね。あそこは油断ならない土地ですから」


 残念ながら魔剣を手にれることはできなかったが、まぁできる範囲で忠告はしてやった。

 あとは彼らの頑張りしたいだろう。

 俺たちは俺たちの目的を果たしに行かなければならない。


 俺は0番に魔法の鳥を飛ばしておく。

 一応念のためだ。もしかしたら面白いことになるかもしれない。

お嬢様「なんなのアイツ! 私にも飲ませるのが普通でしょ」


ゴル逆恨みをもらう。


★★★★★

お近くの書店で手に入らない場合はお取り寄せをお願いします。

少しでも書店さんの売り上げにつながることを祈ってます。

挿絵(By みてみん)

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